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 西部劇  映画についての雑文

<西部劇のコメディ>
(※この文章は、1997年発行の「別冊宝島 これで笑え!」に「この西部劇で笑え!」というタイトルで掲載されたもので、ほんの少しだけ加筆してありま す。) 
80年代に衰亡の一途をたどっていた西部劇は90年代に入ってわずかに息を吹き返したが、公開される作品は決して多くはない。
にも関わらず、西部劇のパロ ディは今でもけっこうそのへんに転がっている。テレビをつければ、タモリが荒野のど真ん中でユンケルを売り、SMAPがウェスタン酒場のコントで主婦を笑わせ、「それいけ!アンパンマン」のハンバーガーキッドを観て幼児は西部劇というものがあることをなんとなく知る。
西部劇のスタイルは独特でわかりやすい。テンガロンハットにバンダナ、ガンベルト、拍車のついたブーツを身に着けた男が、天辺の平らな岩をバックに荒野に立てば西部劇。そのわかりやすい男らしさをちょっとおちょくれば、ギャグとして笑い飛ばす格好のネタになる。
黄金時代の本家アメリカでは、キートンにロイド、ローレル&ハーディ、マルクス兄弟、アボット&コステロ、ボブ・ホープ、底抜けコンビ等々、多くのコメ ディアンが西部ものを手掛けていたようだが、そこまで遡らなくても、楽しく笑える西部劇はけっこうある。

まず「サボテン・ブラザース」(1986 年)は、スティーブ・マーティン、チェビー・チェイス、マーチン・ショートといった三人による「荒野の七人」もの。
無声映画の西部劇スター三人組が、メキシコの農民に頼まれて盗賊どもをやっつける。
映画の出演依頼と勘違いしてのこのこ村にやってきた三人。相手が役者でなく本物の盗賊と知った時のチェイスの 半べそ顔はおかしさの極致。

パロディの旗手、メル・ブルックスによる西部劇は「ブレージング・サドル」(1974年)。
映画は「OK牧場の決闘」や「ローハイド」のテーマソングで有名なフランキー・レインの張りのある歌声で必要以上にもっともらしく始まる。
監督はア ホな知事役で登場、ジーン・ワイルダーが飲んだくれの元早打ち野郎を好演している。
ワイルダーは、「フリスコ・キッド」(1979 年)という西部劇にも出ていて、これはロバート・アルドリッチ監督による作品(日本未公開だがビデオは出た)。共演のハリソン・フォードはほとんど西部の ハン・ソロである。

西部劇コメディにはヒロインものも多い。
ジェーン・フォンダ主演の「キャット・バルー」(1965 年)は、彼女が率いる盗賊団の話。コロムビア映画の自由の女神がアニメのジェーンに変わり威勢よく拳銃をぶっ放すのに続いて、ナット・キング・コールが、 町角でキャット・バルーの伝説を弾き語る。この冒頭部分はかなりいい。酔いどれガンマンのリー・マーヴィンが一念発起、黒装束に身を包んで男を見せるのも 楽しい。

実在した西部の女傑カラミティ・ジェーンもコメディに登場する。
「腰抜け二挺拳銃」(1948年)が有名だが、セクシーな姉御肌のカラミティ・ジェー ン・ラッセルと対照的なのが、無邪気でやんちゃなドリス・デイの「カラミティ・ジェーン」(1953年)だ。彼女の歌と踊りがたっぷり楽しめる元気の いい作品だ。

カラミティではないが、やはり早撃ちの女性が登場するのが、「彼女は二挺拳銃」(1950 年)。
ある日時に汽車が町に着かなければならないのに、線路が全部できていない。そこで汽車を町までロバで引いていく旅が始まる。一行を導くのは、アン・ バクスター演じる保安官の娘。東部男ダン・デイリーと元気な機関士ウォルター・ブレナンがこれに加わり、踊り子役の一人で無名時代のマリリン・モンローも 顔を見せる。橋の爆破、インディアンとの戦闘と和解など、西部劇の見せ場が軽快に語られていく。汽車は、駅まであとわずかの地点で止まってしまうのだが、 町長は即座に汽車の後部まで町の境界を広げ、めでたいラストとなるのだった。

コメディアンやヒロインものではなく、れっきとした西部劇スターによる笑える西部劇もある。
「アラスカ魂」(1960 年)は、西部にこの人ありと言われたジョン・ウェインのラブ・コメディ。
アラスカで金鉱を当てたウェインは相棒のためにと酒場のフランス女を自分たちの家 に連れ帰るが、やがて彼自身が彼女に惚れてしまう。相手の女性は一枚も二枚も上手、嫉妬に狂って雄叫びをあげるジョン・ウェインは珍しくて面白い。

そしてクリント・イーストウッド。彼のコミカルな西部劇と言えば、「ブロンコ・ビリー」(1980年)あたりが思い浮かぶかも知れないが、ドン・シーゲル 監督による「真昼の死闘」(1969 年)が捨てがたい。若きイーストウッドが、尼僧姿のシャーリー・マクレーンと旅をする。二人の珍道中は軽妙なテーマ曲とマッチしてほんわかした味わいを出 している。

だが、西部劇コメディの似合うスターと言えばジェームズ・ガーナーを忘れてはならない。
「マーヴェリック」(1994年)のメル・ギブスンとジョディ・フォスターのやり取り はルパン三世と峰不二子ちゃんのようだが、二人に絡む老保安官のガーナーは銭形警部ではない。
そのとぼけたキャラクターは、「夕陽に立つ保安官」(1968 年)であり、「地平線から来た男」(1971 年)である。バート・ケネディ監督によるこの二大傑作西部劇コメディで、ガーナーは大いに人を笑わせ、映画の中の台詞のように「幸せをふりまきながら進む のだ」った。

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