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○ 映画(2021年)

<見た順(降順)> カンフースタントマン、 ザ・ファブル 殺さない殺し屋、 イエロー・ストーン<TVドラマ>、 パワー・オブ・ザ・ドッグ、ウエスト・サイド・ストーリー、 クライ・マッチョ、 レイジング・ファイア、 ラストナイト・イン・ソーホー、 DUNE/デューン 砂の惑星、 ハーダー・ゼイ・フォール、 最後の決闘裁判、 嘘つきジャンヌ・ダルク、 ベイビーわるきゅーれ、 モンタナの目撃者、 シャン・チー テン・リングスの伝説、 孤狼の血 LEVEL2、 キャラクター、 Mr.ノーバディ、 

カンフースタントマン 龍虎武師  KUNGFU STUNTMEN
2021年 香港・中国 92分
監督:ウェイ・ジェン・ツー
出演:サモ・ハン、ユエン・ウーピン、ドニー・イェン、ユン・ワー、チン・カーロッ、ブルース・リャン、マース、ツイ・ハーク、アンドリュー・ラウ、エリック・ツァン、トン・ワイ、ウー・スー・ユエン ほか
香港カンフーアクション映画の歴史を、スタントマンの視点から語るドキュメンタリー。
有名無名取り交ぜて映画でカンフーアクションに関わった男たちが、次々に登場して、香港アクション映画の黄金時代がスタントマンにとっていかに危険なものだったかを語る。
1930年代、日本軍の侵攻によって本土を追われた京劇の演者たちが香港に逃れ、京劇の学校をつくった。1960年代には4つの学校ができ、多くの子どもたちがそこで厳しい授業を受け体技を身に着けたが、肝心の京劇が衰退してしまって仕事がなく、そこで彼らはカンフー映画のスタントマンになっていったという。そうした過去の経緯も興味深い。
タイトルの「武師」はスタントマンの意。南派洪家拳の流れを組む武術系からラウ・カーウィンの劉家班、香港にあった4つの京劇学校の出身者による京劇系からは、ユエン・ウーピンの袁家班、さらにその系列のドニー・イエンの甄家班、サモ・ハンの洪家班その系列のチン・カーロンの銭家班、ジャッキー・チェンの成家班がつくられ、これら複数の班(チーム)がせめぎあい、文字通り命がけのスタントに挑んでいた。「死んだものもいたし、半身不随になった者もいた」とさらっと語る彼らは、その時代を生き抜いた男たちだ。
「ドラゴン危機一髪」「ドラゴン怒りの鉄拳」「ドランクモンキー酔拳」「プロジェクトA」「ファースト・ミッション」「霊幻道士」「ポリス・ストーリー/香港国際警察」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」シリーズ、などなど、挿入される映画のシーンを見ると、映画館で見たときの高揚感が蘇ってくる。8人が爆発と同時にガラスを突き破ってビルの窓から落ちるシーン(「ファースト・ミッション」)など、撮影のいきさつを知ったあとでも見せてくれるので改めてすごさが伝わる。一方、マース(「プロジェクトA」の有名な時計台落下シーンをジャッキーの前に試しに落ちたスタントマン、俳優、アクション監督)が、ゴールデンハーベストの跡地を案内する場面は郷愁が漂っていてじんとしてしまった。
パンフレットは、厚くていい紙を使っているが、小ぶりで千円。ちょっと迷ったけど買ってよかった。映画を見ただけでは覚えきれない出演者たちが25人、顔写真と名前(漢字とカタカナと英語表記あり)と簡単なプロフィールつきで紹介されていて、香港映画スタントマンの班の系図や、劇中登場する映画の一覧もある。さらに、ドニー・イエンの班に所属している日本人のスタントマン谷垣健治(「るろうに剣心」シリーズのアクション監督)のインタビューと同門の下村勇二と大内貴仁の対談も載っている。興味のある者にとっては、なかなか希少な資料となっているのではないだろうか。(2023.1)

ザ・ファブル 殺さない殺し屋
2021年 日本 公開松竹 131分
監督:江口カン
原作:南勝久「ザ・ファブル」
出演:佐藤明/ファブル(岡田准一)、佐藤ヨウコ(木村文乃)、清水ミサキ(山本美月)、田高田(佐藤二朗)、貝沼(好井まさお)、
宇津帆(堤真一)、鈴木(安藤政信)、佐羽ヒナコ(平手友梨奈)、井崎(黒瀬純)
海老原(安田顕)、クロ/黒塩(井之脇海)、ボス(佐藤浩市)、ジャッカル富岡(宮川大輔)
原作マンガでは、最初の小島の話と、最後の山岡の話の間にあるウツボ一味の話の映画化。前後の話に比べて小粒ではあるが、個人的には好きなエピソードだ。そこそこの悪党のウツボと、車いすの気丈な少女ヒナコ、そしてけっこうな歳なのに整形してイケメンの殺し屋鈴木の3人組がよく、映画でそれぞれを演じた役者もいい。(安藤の鈴木も悪くはないが、年相応にしか見えないので、整形して実年齢よりもかなり若く見えるという原作の設定を活かすなら、もうちょと若い人が演ってもいいかなとも思ったが。)
冒頭の駐車場のシーンからアクション全開、現役のファブルは原作とちがって、落下する車の中に見つけたヒナコを身を挺して救うヒーローぶりを見せる。漫画でもわくわくした鈴木とヨウコのダイニングキッチンでの対決に加えて、マンションの足場でのアクション、クライマックスの森の中での対決と、見せ場満載である。貝沼がミサキに執着していて、ミサキが好意を示す佐藤をねたんでいたことなどがあまり描かれていないので貝沼のだめさがいまひとつ伝わらず。人と人とのやりとりのおもしろいところはほぼ原作にある通り、アクションはやけに派手になっていた。(2022.6)
関連作品:「ザ・ファブル」(2019)


パワー・オブ・ザ・ドッグ The Power of the Dog
2021年 アメリカ / イギリス / ニュージーランド / カナダ / オーストラリア  127分
監督:ジェーン・カンピオン
原作:トーマス・サヴェージ「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
出演:フィル・バーバンク(ベネディクト・カンバーバッチ)、ジョージ・バーバンク(ジェシー・プレモンス)、ローズ・ゴードン(キルステン・ダンスト)、ピーター・ゴードン(コディ・スミット=マクフィー)
1925年のモンタナの牧場が舞台。
フィルとジョージは、兄弟で牧場を経営している。フィルは見るからに粗野でマッチョなカウボーイ野郎だが、弟のジョージは物静かで温和な男である。ジョージは、食堂で働いてた寡婦のローザと結婚し、妻として牧場に迎える。彼女には、先夫との間にピーターという息子がいる。ひょろっとしていかにもへなちょこそうなインテリ青年で、最初に食堂で会ったときから、フィルはピーターをバカにしてからかい、ローズにも敵意むき出しである。
映画の宣伝文から、アメリカの牧場を舞台にした、兄、弟、弟の妻が繰り広げる男女の愛憎渦巻く濃厚な人間ドラマかと思ったのだが、違っていた。ピーターという青年が大きな役割を果たし、まさかのブロークバックマウンテンからの実は恐ろしい子という展開である。
最初はジョージ、その次は結婚して牧場へやってきたローズ、そしてピーターとフィルへと主観が転々と変るのはおもしろいと思った。
が、造花や杭やロープを使った、私でもわかる露骨なセックスの隠喩(というのか?)や、絵に描いたように飲んだくれていくローズや、しつこくしつこくブロンコのスカーフと戯れるフィルや、ピーターとフィルがたばこをこれもしつこく交互に吸いあうシーンなど、思わせぶりとあざとさが目立って、どうにも好きになれない作風だった。
主要4人の俳優はそれぞれ悪くないと思ったが、世間的に高評価なのは、マッチョをネガティブい描いているところとか性的なマイノリティを扱っているところなどが時代に即しているのだろうか。また、マッチョそうに見えて実は○○でインテリで繊細なフィルという人物の持つギャップが女性に受けるのだろうか。
せっかく牧場を舞台にしているのに、フィルとジョージ以外のカウボーイはその他大勢の端役で、広大な牧場でのカウボーイの働きがあまり描かれていないのも残念だった。
牧場から望む山の遠景はよかったが、蛇行する道を車が牧場に向かう俯瞰ショットはそぐわないと思った。アメリカ西部の牧場では視点は地上にある方がいいとわたしは思っている。(2022.3)


ウエスト・サイド・ストーリー  WEST SIDE STORY
2021年 アメリカ 157分
監督:スティーヴン・スピルバーグ
出演:マリア(レイチェル・ゼグラー)、トニー(アンセル・エルゴート)、リフ(マイク・フェイスト)、ベルナルド(デヴィッド・アルヴァレス)、アニータ(アリアナ・デボーズ)、チノ(ジョシュ・アンドレス・リベラ)、エニボディス(アイリス・メナス)、バレンティーナ(リタ・モレノ)、クラプキ巡査(ブライアン・ダーシー・ジェームズ)、シュランク警部補(コリー・ストール)
★すじをバラしてます!★

往年の有名ミュージカル映画を、なんで今頃スピルバーグがリメイクするんだといぶかっていたのだが、旧作への敬意を存分に示しつつ、腹を据えて丁寧に作り込んだ良作だと思った。
1961年版は十代のころテレビで見た。広告のビジュアルのかっこよさにうきうきして楽しみにしていたら、両親が口を揃えて、そんなにおもしろくないよと言ったのだが、そんなわけあるまいと思って見始めて、冒頭の、ジーパンにシャツという普段着のアメリカの不良少年たちが突然路上で踊り出すシーンにすっかり惹きつけられてしまったのだが、その後の悲劇的展開を全く知らなかったので、物語半分くらいで、ラス・タンブリンとジョージ・チャキリスという主役級の二人があいついで死んでしまって愕然とし、その後いくらナタリー・ウッドががんばってもリチャード・ベイマーはちょっと押しが弱く、ガレージの「クール」のシーンはよかったのだが、二人のリーダーの死のショックが尾を引いて、興奮は尻つぼみに終わった記憶がある。予め、これは「ロミオとジュリエット」なんだと聞いていれば、もう少し、冷静に見られたかもしれない。
それでも、テレビで1回だけ見たにしては、私としてはだいぶ内容を覚えていた。You Tubeなどでちょこちょこ見直すと、ペンキ缶とか旧作で使われていた小道具が今回のリメイクでも生かされている。少年たちがなじんでいる雑貨店を経営するのは、白人男性と結婚したプエルトリコ人のバレンティーナで、61年作でアニタを演じたリタ・モレノが好演しているのがとてもいい。
人種差別とかジェンダーとか貧困の問題を今風に扱っていて、旧作ではおてんば娘だった子(正直覚えていない)が、本作で登場するトランスジェンダーのエニボディズに入れ替わっているらしい。トニーやリフやベルナルドは悪くはないが、男たちはそれぞれの集団を構成する者として描かれていて(それが悪いということではない)、個人として際立っているのはアニタとマリアの2人の女であるように見えた。
唄と踊りについては、冒頭のジェット団とシャーク団の登場シーン、女たちが闊歩する「アメリカ・アメリカ」、非常階段とベランダの柵がもどかしいマリアとトニーの「トゥナイト」など、こちらのバージョンも楽しく見て聞いた。
旧作で俯瞰でとらえられたウエストサイドの街並みはすでになく、がれきが積まれた空地の上をクレーンのショベルが動き回る、オープニングとエンディングもよかった。(2022.2)
関連作:「ウエスト・サイド物語」(1961年)監督:ロバート・ワイズ。出演:ナタリー・ウッド、リチャード・ベイマー、ラス・タンブリン、ジョージ・チャキリス、リタ・モレノ

クライ・マッチョ CRY MACHO
2021年 アメリカ  104分
監督:クリント・イーストウッド
出演:マイク・マイロ(クリント・イーストウッド)、ラフォ(エドゥアルド・ミネット)、マルタ(ナタリアン・トラヴェン)、ハワード・ポルク(ラフォの父。マイクの元雇い主。ドワイト・ヨーカム)、レタ(ラフォの母。フェルナンダ・ウレホラ)、アウレリオ(レタの使用人。追手。オラシオ・ガルシア=ロハス)、マッチョ(雄鶏)
元ロデオスターの年老いた男とメキシコの少年が国境目指して旅をする映画。
現代劇だが、西部の荒野、メキシコとアメリカの国境、牧場、馬、と西部劇の要素満載である。
さらに、車好きに聞くところによると、マイクが乗る車がいろいろ変わるのも楽しいらしい。最初はシボレーのピックアップトラック。マイクが、メキシコに向かう旅に出て、牧場の馬の群れと並走する車はシボレー・サバーバンで、ラフォといっしょになってからは、フォード、ベンツと乗り換えるそうで、その車の選択がかなり渋いらしい。けど、車のことはよくわからないので、そのおもしろさは味わえなかった。
妻子に先立たれ、仕事も引退して一人暮らしをしていたマイクは、元雇い主のポルクから、メキシコで元妻のレタと暮らす息子ラフォを引き取りたいから連れてきてほしいと頼まれる。豪邸で放蕩三昧の暮らしをするレタの元を逃れ、ラフォは雄鶏マッチョを相棒に闘鶏をしてストリートで暮らしていた。
ラフォはかなりたやすくマイクとアメリカの父のところに行くことを承諾するが、国境を目指す二人は、親権を持つレタの手下の追手や、誘拐ということで警察に追われる身となる。
追われる身なのに、途中、メキシコの町でレストランを営む美人の未亡人マルタと知り合い、都合よく牧場主に馬の調教を頼まれ、空き家の教会をねぐらにして、しばらくそこに留まることに。マルタの孫娘たちと楽しく過ごし、ラフォはその中の年長の娘と仲良くなり、マイクとマルタもお互いに惹かれ合う。
旅を再開した道中、必ずしも父性愛からだけでない父の目論見を知ってマイクとラフォが諍いになったところへ、追手のアウレリオが登場。味方どうしが対立し不穏な空気になったところに共通の敵のインディアンが現れる、西部劇の作劇を思い出す。アウレリオはラテン系のイケメンで仕事をしているだけなのに、ひどい目にあってばかりで気の毒だ。
ラスト、金持ちのポークが自らラフォを迎えに来て、国境の向こう側で車に寄りかかって待っているのがいい。マイクに名残り惜しさを抱きつつ、父の待つアメリカに踏み出すラフォ。マイクはマルタのところに戻る気満々なのだった。
銃撃も激しい格闘もないが、荒野を風が吹き抜けるような開放感が、西部劇のそれを思い出させる。
馬もよいが、マッチョという名の雄鶏がだいぶよく、タイトルロールだけのことはあるtじょ思った。(2022.1)

レイジング・ファイア 怒火 RAGING FIRE
2021年 香港 126分
監督:ベニー・チャン
アクション監督:ドニー・イェン
スタント・コーディネーター:谷垣健治
出演:ボン警部(ドニー・イェン)、ンゴウ(ニコラス・ツェー)、
チン、ニン、ウォン、マンクワイ、
イウ警部(レイ・ルイ)、フォック(銀行の会長)、副総監、チョン警部の妻(チン・ラン)

現代の香港を舞台にしたハードなポリス・アクション。
実直な腕利き刑事と、上層部の裏切りによって犯罪者となり復讐に燃える元若手警官らとの戦いを描く。
香港警察のボン警部(サイトではチョンとなっているが、字幕ではボンとなっていた)は、長年追い続けてきた凶悪犯ウォンとベトナムの売人との麻薬取引の情報を得て、ついに一味を一網打尽にする計画を立てる。が、直前になってボンのチームだけが出動を禁じられる。
現場には、ボン警部の友人イエ警部率いる警官隊が乗り込むが、正体不明の武装集団が乱入し、居合わせた者たちを誰彼構わず殺傷し、麻薬を強奪して去る。イエ警部も犠牲になってしまう。ボン警部は、警察上層部の息子が起こした暴力沙汰を見逃せという上からの命令に背いたことで直前に任務から外されたのだが、そのため命拾いしたのだった。
襲撃者は、ンゴウとその仲間からなる元警官5人組だった。ンゴウは将来有望な若手で、ボン警部は部下として目をかけていた。ある日、大手銀行の会長フォック氏が誘拐され、犯人の一人を追うンゴウら6名の若手警官チームは、フォック氏の監禁場所を聞き出すため、犯人に暴行を加え、自白後に死なせてしまう。彼らは命令をした副総監の保護を得られず、フォック氏からもやりすぎだと言われ、嘘をつけないボン警部の証言によって、殺人の罪で収監され警察も馘になる。仲間の一人は自殺し、残った5人は出所後凶悪な犯罪者集団となり、警察とフォック氏への復讐をもくろむ。
激しい銃撃戦や、香港の街中でのスピード感に満ちたド派手なカーアクション、あの手この手の格闘シーンと、アクション映画の見せ場満載で、久々に血沸き肉躍る思いを味わう。
ドニー・イェンはこれまで浮世離れした役でしか見たことがなく、「イップ・マン」では詠春拳の達人で黒いチャンパオ(丈の長い中国服)を、「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」ではチアルートというジェダ寺院の盲目の守護者で僧侶っぽい服を着ていたので、普通のスーツ姿が新鮮だった。イップ・マンは、チャンパオの袖をまくって白い裏地が袖口に見えたら本気で戦う気になっているとわかったのだが、ボン警部は、上着を脱いで白いシャツの上に防弾チョッキの姿になったとき(なかなか似合う)が闘うときである。
ンゴウ役のニコラス・ツェーは初めて見たが、危険なイケメンを演じてかなり人気が出そうな感じである。
それまでのアクションも楽しめたが、最後のボンとンゴウの一騎打ちは、ナイフでの戦いから、長い棒を振り回しての戦い、そしてそこらにある大道具を倒したりよけたりと大暴れする二人が見られて見応えたっぷりだった。
本編は2人の戦いが終わったところで後日談もなくぶちっと終わるのが香港映画らしくていいのだが、その後クレジットでは、これが遺作となったベニー・チャン監督の姿とともに撮影現場の写真が次々と映しだされ、監督作を見るのは初めてにも関わらず、じんときてしまうのだった。(2022.1)


ラストナイト・イン・ソーホー LAST NIGHT IN SOHO
2021年 アメリカ  118分
監督・原案・脚本:エドガー・ライト
出演:エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)、サンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)、ジャック(マット・スミス)、銀髪の男(テレンス・スタンプ)、ジョン(マイケル・アジャオ)、ミス・コリンズ(ダイアナ・リグ)、ジョカスタ(シノーヴ・カールセン)
ファッションデザイナーになるため田舎からロンドンに出てきた少女と、60年前にやはり夢を抱いてロンドンにやってきた少女が時を超えて同調し、次第に過去の犯罪が明らかになっていくサスペンスホラー。ダークファンタジーと呼ぶのが今風かもしれない。
田舎で祖母と暮らすエロイーズは、特殊な能力を持っていて、子どものころ自殺した母の姿を見ることができる。
彼女はロンドンのデザイン学校に合格し、あこがれのデザイナーになるため、上京する。しかし、寮の派手な女子たちになじめず、寮を出て、コリンズという老婦人が所有するソーホーの古い家の屋根裏部屋を間借りする。
屋根裏部屋で眠るようになってから、夜ごとエロイーズは夢の中で60年代に同じ部屋に住んでいた女性サンディとなって、彼女の体験をたどることになる。歌手志望だったサンディは、大きなナイトクラブに乗り込んで自分を売り込み、マネージャーのジャックの気を引いて他の店でのデビューを勝ち取る。が、その店は風俗店で、ジャックはサンディに客を取らせるようになるのだった。夢と希望に満ちてはつらつとしていたサンディは、だんだんと自堕落になっていく。
祖母と暮らしていたせいか、エロイーズは60年代に憧れ、当時のファッションや音楽が好きである。夢の中でサンディが着ていたピンクのワンピースのデザイン画を描いて授業で教師に褒められるが、いじめっ子のジョカスタらはそれが気に入らない。クラスメイトのジョンは、当初からエロイーズのことを気にかけていて、何かと近寄ってくる。
そうしたデザイン学校での日常の一方、毎晩夢で見るサンディの物語は日を追うごとに悲惨になっていき、ついにサンディはベッドの中でジャックに刃を向けられる。エロイーズは、過去の殺人事件を夢で見たうえに、サンディを金で買った顔のないスーツ姿の男たちの亡霊に悩まされる。やがて追い詰められた彼女は、意外な真相を知ることに。
夢を抱いてロンドンにやってきた少女が都会のパワーに圧倒されていくという点は、エロイーズとサンディに共通するが、二人はだいぶ対照的だ。きらびやかな60年代のロンドンの街を舞台に華やかなサンディにシンクロした地味なエロイーズの鏡を使った描写が見事。がんがん鳴り響く音楽は通にはこたえられないらしいが、私には少々過剰に感じられた。
ベイビードライバー」の監督ということで、同作と同様、行き届いた映画づくりの妙を感じたが、勝手なもので、行き届きすぎてもっと野放図なところがあってもいいのではと思わなくもなかった。
テレンス・スタンプが謎の銀髪の男役で顔を見せるが、ちょっともったいない使われ方だった。(2022.12)


DUNE/デューン 砂の惑星 DUNE PART ONE
2020年 アメリカ 155分
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作:「デューン 砂の惑星」フランク・ハーバート
出演:
ポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)、ジェシカ(レベッカ・ファーガソン)、レト・アトレイデス侯爵(オスカー・アイザック)、ガイウス・ヘレネ・モヒアム(ベネ・ゲセリットの教母。シャーロット・ランプリング)、ダンカン・アイダホ(ジェイソン・モモア)、ガーニイ・ハレック(ジョシュ・ブローリン)、ユエ医師(チャン・チェン)
ハルコンネン男爵(ステラン・スカルスガルド)、ラッバーン(ハルコンネンの甥。デイヴ・バウティスタ)
スティルガー(フレメンのリーダー。ハビエル・バルデム)、チャニ(ゼンデイヤ)、ジャミス(バブス・オルサンモクン)

原作は読んだことがなく、デヴィッド・リンチ監督による映画も見ていないので、なんの予備知識もなく見た。専門用語がいろいろ出てきて戸惑う。香料、フレメン、砂虫(サンドワーム)などは比較的すぐわかるが、「ベネ・ゲセリット」(特殊能力を持つ女性による秘密結社らしい)、「クウィサッツ・ハデラック」(ベネ・ゲセリットが育て配下に置くことを望む万能の能力者のことらしい)などは検索しないとわからない。
宇宙帝国の皇帝が宇宙に君臨している、西暦1万なん年かの遠い未来の話。
惑星アラキスは、人間が暮らすには過酷な条件の星だった。星全体に砂漠が広がっているため、日中の地上は灼熱の地獄となり、しかも砂の中には砂虫(サンドアーム)と呼ばれる巨大な生物が生息していて人を襲う。しかし、アラキスは、帝国になくてはならない物質「香料」(原語はspice。麻薬のような成分も含まれるらしい)の希少な産地であるため、発掘精製をするための施設を置き、管理者を派遣していた。また、アラキスには、フレメンと呼ばれる先住民族がいて地下に町を作って暮らしていた。レト・アトレイデス侯爵は、前任者ハルコンネン男爵に替わり、アラキスでの任務を命じられる。レトは、ジェシカ(正室ではないらしい)と息子のポール、及び配下の者たちを伴ってアラキスに赴き、フレメンと友好関係を築きながら、香料の発掘作業を進めていこうとする。
が、ハルコンネンの陰謀により、レトは命を落とし、ジェシカとポールは砂漠に逃れてフレメンと合流し、起死回生を誓うのだった。というところで、「つづく」となる。
ジェシカは、「ベネ・ゲセリット」という秘密組織に属し、声で人を操る特殊能力を持つ。幼いころから彼女に「訓練」されてきたポールには、予知夢を見ることで未来を知る能力が芽生えつつある。彼の夢の中に何度も出てくる女性は、フレメンのチャニという女性で、映画の最後の方でやっとポールは彼女に出会う。
主役のシャラメのイケメンぶりが話題をさらっていて確かに悪くはないが、私としては、彼が兄のように慕う兵士ダンカンがよかった。ポールを守る姿は弁慶のようであり、戦いぶりは三国志に登場する豪傑のようであった。本作だけで姿を消してしまうのがとても残念である。
妻を人質に取られ不本意ながら主人のレトに毒を盛る医師ユエもなかなかよかった。彼の画策により瀕死のレトはハルコンネンを巻き込んで自爆するが、ハルコンネンはしぶといのだった。(彼が反重力装置で宙に浮くのは肥満のあまり自分の体重を支えられないためだと検索して説明を読めばわかるのだが、映画だけ見てもよくわからない。)
しかし、この映画の主役はなんといっても砂漠だろう。茶系色のみの単調な画面が続き、灼熱の中、ざらざらとした砂粒が身体にこびりついてくる感じが伝わってきてなんとも息苦しいが、紋様のついた砂漠が画面いっぱいに広がる荒漠たる風景に圧倒される。砂虫が襲ってくる場面も迫力がある。
トンボのようなヘリコプターもどきの羽ばたき機はナウシカに出てくる飛行機械を思わせ、砂虫は、「トレマーズ」(1989)のグラボイスのようであるが、いずれも原作小説(1965)の方が先なのだろう。砂虫は、「風の谷のナウシカ」(1984)のオームのようでもあるという感想も聞くが、しかし、形状的には「ゲゲゲの鬼太郎」に出てきて、水木しげるの「妖怪事典」にも載っている野づちを思わせ、これは日本古来の妖怪なのだった。(2021.11)

最後の決闘裁判  THE LAST DUEL
2021年 アメリカ 153分
監督:リドリー・スコット
脚本:ベン・アフレック、マット・デイモン、ニコール・ホロフセナー
原作:エリック・ジャイガー「決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル」
出演:ジャン・ド・カルージュ(マット・デイモン)、ジャック・ル・グリ(アダム・ドライバー)、マルグリット(ジョディ・カマ―)、アランソン伯爵ピエール2世(ベン・アフレック)、シャルル6世(アレックス・ロウザー)、ニコル・ド・カルージュ(ジャンの母。ハリエット・ウォルター)、クリスピン(マートン・ソーカス)、ロバート・ティボヴィーユ卿(マルグリットの父。ナサニエル・パーカー)

中世のフランスが舞台。騎士たちの男の戦いの映画かと思ったら、どうやら「羅生門」らしいと聞いて、それなら、男女の愛憎が入り混じった愛欲の人間ドラマなのかと思ったら、性犯罪を巡る現代的な女性目線の映画だった。
暗い映画だよと見た人から聞いていたので覚悟して見たのだが、手ごたえは充分だった。鎧兜をまとっての決闘シーンは迫力があり、中世の衣装や城の内外など、重厚な画面を楽しめた。
騎士カルージュの妻マルグリットが、従騎士ル・グリに強姦されたと夫に告げ、夫は国王に訴えて裁判が行われる。しかし、裁判では決着がつかず、男二人が決闘することになるという話。
ジャン・ド・カルージュは、生まれは高貴で強くて勇敢な騎士だが、芸術や文学には疎く、女性の扱いに慣れていない武骨な男だ。一方、従騎士ジャック・ル・グリは、貧しい境遇からのし上がってきた男、聖職者を目指していたためラテン語を解し、芸術や文学に詳しく、男前で女性にもてる。一帯の領主である伯爵ピエールは、田舎者のジャンを嫌い、スマートで洗練されたジャックがお気に入りである。戦闘でジャンはジャックの命を救い、二人は友人同士だったが、ピエールがジャックを厚遇し、ジャンのものになるはずだった土地を与え、ジャンが父の死後受け継ぐはずだったカルージュ家の役職にジャックを任命する。そうしたことが重なり、事件が起こる前から二人の男の間には亀裂が生じていた。
映画では、まずジャンの視点から、ついでジャックの視点から、最後にマルグリットの視点から、事件前後のそれぞれの事情と事件の場面(ここは当事者の二人によるもの)が描かれ、後半は、裁判と決闘のシーンとなる。
愛する妻の名誉を守るため卑怯な仇敵と戦う騎士というクラシックな男気の映画を期待すると違うし、三人の男女が違うことを言い張って真実は藪の中に、というのとも違う。
「羅生門」では、3人の言うことが明らかに食い違っていて、幽霊も嘘をつくのかと驚いたものだ。だが、この映画では問題となる一件について、夫のジャンはその場にいないし、当事者の二人の言うことは大筋では矛盾していない。ジャックが襲ってきたとき、ジャック目線では、マルグリットは助けを求めて人の名(使用人はいないはずなので侍女の名ではないと思うのだが誰の名だったか未確認)を1回だけ呼ぶが、マルグリット目線では何度も叫ぶ。マルグリットがジャンに告白したとき、ジャン目線ではすぐマルグリットを抱きしめるが、マルグリット目線ではジャンはそうはしない。ほかにもあったと思うが、共通場面については、語る側が無意識にせよ意識しているにせよ自分や相手の言動のちょっとした部分に違いがあると言った感じである。
決闘で優勢になったジャンは、ジャックに真実を告げるよう迫るが、ジャックはあれは強姦ではないと言い張る。それは、嘘というよりはそう信じ切っているようにも見える。ジャンは、そういうことはわからないからマルグリットに対しての疑惑は消えない。男たちについて言えば、負けた方は悲惨だが、勝った側も晴れ晴れとはならない。決闘に勝ったのに喜べないヒーローというのは珍しい。磔を免れ、息子(ジャックの子である可能性大である)を育てて長生きしたマルグリットが結果的に勝者ということになるのだろうか。
女性は絶頂に達しないと妊娠しない、姦淫では妊娠しない、決闘に勝った方が真実を言っていると神が判断したとするなど、中世の理不尽な価値観に驚くが、性犯罪やセクハラ問題における男女の意見の食い違いは今も変わらずと思うと、男女間の深い溝をいまさらながら目の当たりにするような気がした。

嘘つきジャンヌ・ダルク 第一部・第二部・第三部   コロナ下で映画をつくる vol.2
2021年 日本 58分(3部合計)  YouTube公開
製作:映画美学校 フィクションコース高等科第23期コラボレーション作品
監督(第三部)・監修(第一部・第二部):高橋洋
出演:ジャンヌ・ダルク(太田恵里佳)、カトリーヌ(小林未歩)、シャルル/レイモン/コーション司教(巴山祐樹)、イザボー・ド・バヴィエール(浅田麻衣)
●第一部 羊飼いの娘 21分
監督:福井秀策
脚本:高橋洋
演出:雉子波佑、倉谷真由
●第二部 乙女の剣で死ね 17分
監督:倉谷真由
脚本:倉谷真由 高橋洋
演出:内藤悟 根岸摩耶
●第三部 神さまはひとりぼっち 20分
監督:高橋洋
脚本:高橋洋、福井秀策、倉谷真由
演出:福井秀策 倉谷真由

ジャンヌ・ダルクについては、全く詳しくないのだが、その名を聞くと痛々しいものを感じてしまう。小学校か中学校の授業で初めて彼女のことを知った時、なんてかっこいい!と思った。17歳の田舎の無名の少女が、戦士となって兵を率いて敵軍を倒し、国を救う。そんなドラマチックなできごとが実際に起こったことに大きな感銘を受けたものだ。しかし、その後、彼女が火刑に処されたと知って気持ちはずんと沈んだ。そして、今は、火刑になっただけでも悲惨なのに、死んだ後も、処女や巫女に強い関心を抱く古今東西の作家、評論家、学者たちのいいように論じられ、描かれてきたのだろうと思うと、痛ましさを感じざるを得ないのだ。で、このたびは「嘘つき」呼ばわりである。
公開前の予告編を見ても、PRメッセージを見ても、個人的な好みからするとあまり見る気が起きない類の映画だったが(あくまでも好みの問題です、娯楽アクションメインで見ている身からの)、独自の世界でなかなかおもしろかった。
「コロナ下で映画をつくる vol.2」というシリーズ名が映画の内容を補足している。コロナ下で撮ったから、ロケもできないし、人もたくさん出せない中で、いろいろ考えたんだなと見ている人は思うので、このヘンテコな世界を受け入れやすくなるのではないだろうか。
映画美学校内のバルコニーや廊下や階段を舞台に使い、壁面映写を駆使して、時にスタッフも巻き込みながら、音で盛り上げ、独自の世界を描く戦法である。
冒頭、木々の向こうに草原が広がる田舎の風景をバックに羊飼いの娘のかっこうをしたジャンヌが謳いながら歩いているカットは昔懐かしいスクリーンプロセスによる撮影、画面が引いて壁に田舎の風景が映写された室内の様子が全面に示されると一気に小劇場のお芝居風(見たことないけどゲキ×シネ風か)になり、ジャンヌの友人カトリーヌが登場して床に映された草原の上に横たわるとプロジェクション・マッピンといった感じになる。
以後、映画はこうした手法を繰り出して展開する。鉄製のバルコニーを利用した群衆シーンや、ジャンヌの白い服に炎を映し出す火刑のシーンなどなど、できうる限りのアイデアと技術を駆使して、奇妙だが見応えのある画面を作り上げていたと思う。
しかし、個人的にもっとも好きなのは、ジャンヌが馬を駆るカットだった。アップで身体をそれらしく揺らして馬の蹄の音を入れれば、騎乗の人となる。映画らしいカットだと思った。
ジャンヌとカトリーヌのコンビがいい感じだった。「20世紀少年 第2章 最後の希望」の平愛梨と木南晴夏をちょっと思い出した。(2021.10)

ベイビーわるきゅーれ
2021年 日本 渋谷プロダクション 95分
監督・脚本:阪元裕吾
アクション監督:園村健介
出演:杉本ちさと(高石あかり)、深川まひろ(伊澤彩織)、渡部(三元雅芸)、浜岡ひまり(秋谷百音)、浜岡一平(本宮泰風)、浜岡かずき(うえきサトシ)、姫子(福島雪菜)

★映画の内容について書いています★

ちさととまひろは、十代の女の子二人組の殺し屋。二人は、高校を卒業後、同居して、本業とは別にアルバイトをして普通の社会人としての素養を身に着けるよう「会社」から指令を受ける。
人殺しに精を出す傍ら、慣れないバイトに四苦八苦する二人。銃の扱いがうまく、陽気なちさとと、格闘技に長け、口下手でコミュ障のまひろの二人の対照がよく、血しぶきが飛び散る荒仕事をこなす一方で、面接やバイトでいやな目に遭い、ささいなことで喧嘩をして気まずくなったりとごくありがちな青春を送る日々が描かれる。
殺し屋とふつうの生活というギャップのおかしさは、そう目新しいものではない。最近では「ファブル」があるし、「モンタナの目撃者」(本ページ後述)の殺し屋二人組もそういうところがあった。ビジネスとして成立している死体処理屋は「パルプフィクション」で最初に見たと思う。ここでは、殺し屋が若い女の子である点がポイントとなっているのだろう。
が、女の子好きにはおもしろいのだろうが、ちょっと飽きてくる。ちさとが高い声できゃあきゃあ言うと何言ってるかわからないし、まひろが口の中でぼそぼそいうぼやきも聞き取りにくい。メイド喫茶もいまさらという気がする。
とにかくアクションシーンがよい。少女がプロの殺し屋という設定のアクション映画と聞くと、この娘は強いのだという設定に頼った、形だけの割としょぼいアクションを見せられるのではという予感をぬぐえないのだが(いや、映画はそれはそれでいいと思うのであるが)、これはそれを裏切ってくれたと思う。
ちさとの銃さばき、特にメイド喫茶での瞬殺はかっこよかった。が、なんといってもまひろの格闘シーンがいい(まひろ役の伊澤彩織はスタントウーマンだそうだ)。いくら女の子が強い設定でも、ちょいと肘鉄かましたり、片足でちょこっと蹴っただけで大の男が吹っ飛ぶか?といった違和感がない。壁に背をつけて両足で蹴れば、男が吹っ飛んでもそうかもと思える。抱え込まれると小柄な身体を使ってするりと抜け出し、組み伏せられると相手から奪ったナイフでガシガシ刺しまくる。冒頭とラストと2つのシーンで男たち相手の立ち回りをたっぷり見せてくれる。さんざん戦った後で、「疲れた」とだるそうにぼやく。痛快だ。(2021.10)

シャン・チー テン・リングスの伝説 SHANG-CHI AND THE LEGEND OF THE TEN RINGS
2021年 アメリカ 132分
監督:デスティン・ダニエル・クレットン
出演:シャン・チー(シム・リウ)、ケイティ(オークワフィナ)、シャーリン(シャン・チーの妹。メンガー・チャン)、イン・リー(シャン・チーの母。ファラ・チェン)、イン・ナン(シャン・チーの叔母。ミシェル・ヨー)、シュー・ウェンウー(シャン・チーの父。トニー・レオン)
レーザー・フィスト(フロリアン・ムンテアヌ)、デス・ディーラー(白塗りの刺客。アンディ・リー)、グアン・ボー(ター・ロー村の老人。弓の使い手。ユン・ワー)、トレバー・スラッタリー(ベン・キングズレー)、モーリス(ター・ロー村の顔のない犬のような生物)、クレヴ(バスの乗客。ザック・チェリー)
ウォン(ベネディクト・ウォン)、アボミネーション(ティム・ロス)、ブルース・バナー/ハルク(マーク・ラファロ)、キャロル・ダンヴァース/キャプテン・マーベル(ブリー・ラーソン)

マーベル・シネマティック・ユニバース第25作で、中華ヒーロー、シャン・チーが登場。マーベルのカラフルで派手なSF仕様とカンフー・アクションが融合して豪快なバトル・アクションとなっている。
青年シャン・チーは、友人のケイティとともに、サンフランシスコでホテルの駐車係をして暮らしていた。が、彼にはケイティの知らない過去があった。彼の父ウェンウーは、伝説の腕輪テン・リングスを操る「世界一危険な男」で、犯罪組織「テン・リングス」を率いていた。シャン・チーは幼いころに母を亡くしてから、厳しい訓練によって武術を教え込まれたが、初めて殺人の仕事を命じられた際に父の元から逃れ、身を隠していたのだ。
ある日、彼は、バスの中で母の形見のペンダントを狙う謎の黒革ジャケットの男(レザー・フィスト)らに襲われる。それを機に、彼は封印していた力を呼び覚まし、悪の首領となった父と対決する。
この、サンフランシスコの街を走るバスの中での格闘シーンが迫力満点。バス車内でのシャン・チーとレザー・フィスト一味との派手な乱闘とケイティの無謀運転が重なってめちゃくちゃになっていく。乗客のオタクっぽい男がその様子をスマホで撮影し、動画がネットに流されて、シャン・チーが「バス・ボーイ」として一躍有名になるのも楽しい。
彼は、ケイティとともに、疎遠になっていた妹シャーリンの住むマカオに向かう。シャーリンは、独力で武術を習得し、ナイトクラブ「ゴールデン・ダガー」を経営していた。ここにも父の組織の一味がやってきて、シャン・チーとケイティ、シャーリンを襲う。高層ビルの外に組んだ鉄骨でのアクションもまた見ものである。
後半は、シャン・チーの母の故郷ター・ロー村が舞台となる。そこは「聖なる守護者」に守られた不思議な村だった。叔母のイン・ナンに会ったシャン・チーは、彼女から古い武術を教わる。イン・ナンは、シャン・チーが構える拳を開いて掌(ジャン)の手型に変える。円運動を駆使するその拳法は、太極拳っぽく見える。
最後は、村の戦士と「テン・リングス」軍団との戦い、シャン・チーとウェンウーの宿命の親子の対決とともに、村の守護者の龍とウェンウーを惑わす魔物も出てきて特撮怪獣バトルの様相も呈す。
ウェンリーを演じるトニー・レオン、母役のファラ・チェン、伯母のミシェル・ヨーら、主役の親世代の人たちが熟成している感じでよい。彼らにくらべると、主演のシャン・チーとケイティはさほど美男美女とは言えないと思うのだが、好感度が持ててギャグが上滑りしている感じも含めていい味を出している。
場面のところどころにマーベルでお馴染みの顔が出てくるらしい。ファンにはピンとくるのだろうが、あまり詳しくないのでよくわからなかったが、ラストに出てくる男女はブルース・バナーとキャロル・ダンヴァースというらしい(後で検索して知った)。
エンディングは二段構えになっているので、最後まで席を立たないように。(2021.9)

モンタナの目撃者 THOSE WHO WISH ME DEAD
2012年 アメリカ 100分
監督:テイラー・シェリダン
出演:ハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)、コナー(フィン・リトル)、イーサン(ジョン・バーンサル)、アリソン(メディナ・センコア)、オーウェン(ジェイク・ウェバー)
ジャック(エイダン・ギレン)、パトリック(ニコラス・ホルト)、アーサー(タイラー・ペリー)

悪事の証拠を持っているため組織から命を狙われている男が、殺される直前に証拠の品を息子の少年に託す。悪事に加担した大物たちは、証拠隠滅のため少年にも殺し屋を差し向ける。逃げる少年に、見ず知らずの女性が救いの手を差し伸べる。
この筋立ては「グロリア」という映画を思い出させるが、「グロリア」では舞台は大都会ニューヨーク、ヒロインは悪の組織のボスの元愛人だったのに対し、こちらでは舞台はモンタナ、ヒロインは森林消防隊のリーダーである。それで物語はだいぶ趣を変える。
山の斜面に広がる針葉樹林、その中にポツンと立つ火の見やぐらの塔、山の中を流れる川など雄大な景観が楽しめるが、追手の殺し屋だけでなく、雷と山火事という大自然の脅威が主人公たちを襲う。
森林消防隊員のハンナは、かつて山火事で風向きを読み違い、3人の若者を死なせてしまったことで心に傷を負っていた。ある日、彼女は、山の中をさまよう少年コナーと出会う。突然父を殺され自分も殺し屋に追われる身となったコナーは、誰かに縋りたいと思う一方、人を信じることに恐怖を抱いている。それに対し、ハンナが「私は信用していい人間だ」と言い切るのがいい。
殺し屋二人組の登場シーン、「仕事」を終えた二人がガスの配管修理でもしてきたようにビジネスライクに話す様子はなかなかよく、ボスの小男のジャックとちょっと男前で長身のパトリックの取り合わせが絶妙だ。
フロリダに住むコナーの父親が頼ろうとしたのは、モンタナで警官をしている義弟のイーサンである。イーサンはハンナの元彼であり、妻のアリソンは子供を身ごもっている。殺し屋二人は、家に一人でいたアリソンを襲う。アリソンはひどい目にあわされてしまうのだろうと思ったら突然反撃に出るので驚く。彼女は思わぬ活躍をしてみせる。
主役のハンナを演じるアンジェリーナはさすがの存在感だが、登場する人たちがそれぞれよい感じだ。山火事の迫力ある画面も見られ、わくわくどきどきしながら楽しめる。(2021.9)

孤狼の血 LEVEL2
2021年 日本 東映 139分
監督:白石和彌
原作:柚月裕子「孤狼の血」シリーズ
出演:日岡秀一(呉原東署刑事。松坂桃李)、近田幸太(チンタ。村上虹郎)、近田真緒(西田七瀬)、
(※以下、映画を見ただけではわからないので、公式サイトの人物相関図で確認した。)
<広島仁正会>
綿船陽三(仁正会会長。吉田鋼太郎)、溝口明(仁正会理事長。宇梶剛志)、五十子環(五十子会先代の妻。かたせ梨乃)、角谷洋二(五十子会二代目会長。寺島進)、
上林成浩(上林組組長。鈴木亮平)、佐伯昌利(同舎弟頭。毎熊克哉)、吉田滋(企業舎弟パールエンタープライズ社長。音尾琢真)、
<尾谷組>
天木幸男(組長代行。渋川清彦)、橘雄馬(若頭。齊藤工)、花田優(早乙女太一)、
<広島県警>
嵯峨大輔(県警本部管理官。滝藤賢一)、瀬島孝之(警部補。中村梅雀)、瀬島百合子(瀬島の妻。宮崎美子)、中神悟(警部補。三宅弘城)、友竹啓二(呉原東署刑事二課警部補。矢島健一)
<一般人>
高坂隆文(記者。中村獅童)、神原千晶(ピアノ講師。筧美和子)、神原憲一(看守。青柳翔)

平成3年(1991年)の広島。
呉原東署の刑事日岡は、大上亡き後、広島仁正会系の五十子会と尾谷組との間で手打ちをさせ、両者の抗争を終わらせた。彼は、なりふり構わずヤクザたちの間を立ち回り、危うい均衡を維持していた。
そんな中、五十子会構成員の上林が刑期を終えて出所する。先代会長の故五十子正平に恩義のある上林は彼の仇討ちに乗り出し、尾谷組を攻撃するとともに、抗争をしかけた黒幕を突き止めようとする。上林は、恨みをはらすためには、堅気も敵も味方も関係なく、片っ端から暴力を振るい、比類なき残虐さを見せる。
日岡は、恋人の真緒の弟チンタを上林組にスパイとして送り込み、上林の尾谷組襲撃についての情報を得ようとするが、何者かが上林に警察の動きを流し、逆に日岡が上林に狙われる。
警察上層部は、保身のため日岡を罠にはめようとしていた。
対立する二つの暴力団と県警本部と一匹狼の日岡の思惑と暴力が入り乱れて事態は紛糾していく。
「十三人の刺客」(2010年版の方)や前作「孤狼の血」でも感じたのだが、こいつはこんなにひどい奴なんだということを示すためにはどんなひどいことをさせればいいかと考えたあげく、極悪非道の行為がインフレを起こし、どうも空回っているような気がする。上林の残虐行為についても、えげつなさと不快感は存分に感じるが、なんか上滑りしてる感がぬぐえない。
個人的には血まみれのサイコ殺人より、威嚇し合う男(雄)の気迫の勝負が見たかったという思いがある。
たとえば北大路欣也(犬のお父さんではなく若いころの)がサングラスを外しながらゆっくりを顔を上げる。千葉真一がどっかと足を大きく開いて座って股間をぼりぼりと掻く。北野武がぼそぼそと毒づきながら手下の後頭部を小突く(痛くないが、やられた方の屈辱感はでかい)。人の目を抉り取らずとも、相手を威圧することはできる。ちょっとした所作に現われるぞくぞくするような危ない男たちの凄みが、あまり感じられなかったのが残念だ。これは役者のせいというよりも、作り手が健全ゆえに壊れた人間を描くのが難しいのかもしれないし、今の世の中、悪人をあまりかっこよく描いてはいけないのかもしれない。
とはいえ、松坂桃李も鈴木亮平も気張っていた。チンタの村上虹郎もよかったが、この子(チンタ)がいずれどうなるかはすぐ予想がついてしまって切ない。公安の出で日岡の相棒となる瀬川役の中村梅雀もテレビドラマ「特捜ナイン」に続いての人を食ったような警部補がよかったが、それだけにあのオチはちょっとどうかという気がしないでもない。ひげ面の齊藤工の若頭もよかった。気弱な男のイメージが強い滝藤賢一も思いっきりわめいて暴れていた。
なんだかんだいって、普段お茶の間で見る比較的穏やかな役回りの男優陣が、暴力的になって口汚く怒鳴り散らす姿を見るのは楽しい。年に一回くらいは、スクリーンならではのこういう雄姿を見たいものだ。
関連映画:「孤狼の血」(2017)

キャラクター
2021年 日本 公開東宝 125分
監督:永井聡
原案:長崎尚志
出演:山城圭吾(菅田将暉)、川瀬夏美(高畑充希)、真壁孝太(中村獅童)、清田俊介(小栗旬)、大村誠(中尾明慶)、両角(Fukase)、辺見敦(松田洋治))
漫画家志望の青年山城は、画力はあるが悪役の造形ができずにくすぶっていたが、たまたま一家殺人事件の現場で犯人に遭遇、犯人を目撃したことを秘密にしたまま犯人をモデルにしたマンガを描き、一躍売れっ子となる。が、やがてマンガに描かれた通りの一家殺人事件が連続して起こり、犯人の両角は山城に接触してくる。
マンガや小説にかかれた犯罪が実際に起こるというネタは特に新しいものではないと思うが、作者が犯人を現場で目撃したり、犯人がマンガを読んで「共犯関係」を楽しんだり、4人家族にこだわったりなど、いろいろとひねりがきかせてあって、サスペンスとして見ごたえがある。何度も登場する一家四人惨殺現場の光景は陰惨だ。
山城を演じる菅田将暉は、今回は終始ひげをはやした見た目冴えない青年で謝ってばかりの受けの演技に徹しているが、ラスト近く一瞬見せる狂気の表情はさすが。彼と両角との格闘も見せ場として盛り上がる。両角も、もう一人の殺人者辺見もそれぞれに壊れた感じが出ていて不気味だ。
が、何といっても、小栗旬と中村獅童が演じる二人の刑事がよかった(二人とも好きな役者さんだ)。小栗旬の清田(せいだ)刑事は、元暴走族なんていう設定は特に要らないと思うのだが、地味ながら人情味のある刑事で、相棒(先輩)の真壁はいやなやつっぽいことを言うけど実はそうでもない感じがよく出ていた。彼が、山城の描いた清田の似顔絵を見るところではじんときてしまった。(2021.7)

Mr.ノーバディ  NOBODY
2021年 アメリカ 92分
監督:イリヤ・ナイシュラー
出演:ハッチ・マンセル(ボブ・オデンカーク)、ベッカ・マンセル(ハッチの妻。コニー・ニールセン)、ブレイク・マンセル(ハッチの息子。ゲイジ・マンロー)、アビー・マンセル(ハッチの娘。ペイスリー・カドラス)、デヴィッド・マンセル(ハッチの父。クリストファー・ロイド)、ハリー・マンセル(ハッチの弟。RZA)、エディ・ウィリアムズ(工場主。ベッカの父。マイケル・アイアンサイド)、チャーリー・ウィリアムズ(ベッカの弟。ビリー・マクレラン)、理髪師(コリン・サーモン)、ユリアン(アレクセイ・セレブリャコフ)、パヴェル(アラヤ・メンゲシャ)
★映画の内容やあらすじを書いています! 設定とか知らずにこれから見たい人は注意!★
地味なおじさんが切れて大暴れする映画と聞いて見に行く。(似たようなタイトルの映画、マカロニ・ウエスタンは「ミスター・ノーボディ」(1974)、カンフー・コメディは「Mr.ノーボディ」(1979)である。)
職場の工場と家を往復する毎日を過ごす中年の男ハッチ・マンセル。月曜から金曜まで代わり映えのない一週間が細切れに紹介される。毎週ゴミ出しが間に合わず、妻のベッカにまた出せなかったのねとなじられ、ティーンエイジャーの息子ブレイクからはバカにされ無視される日々。幼い娘のアビーは、まだなにかにつけて寄ってきてくれるが、この子もいずれパパを嫌うようになるんだろうなということが容易に想像できて、見ている方も切ない気分になる。
ある夜、素人の若いカップル強盗がマンセル家に侵入する。ハッチは、ゴルフクラブを手にするが(ゴルフのことはよくわからないが殴られて痛そうなドライバーじゃなくてパター(というもの?)だったと思う)、強盗に迫られて家にあったわずかばかりの現金と腕時計を渡す。ブレイクが果敢に男の強盗にとびつき、その隙に女の強盗を殴り倒す機会を得るが、結局手は出さず、警察がやってきて、強盗には逃げられ、ブレイクの父に対する評価はさらに下がる。
ところが、強盗がアビーが大事にしていた猫のブレスレットも盗っていったらしいと知るや、ハッチはぶちきれる。ハッチは、強盗の女の腕にあった刺青の図柄から彼らの家を見つけ出し、殴り込む。その帰りに居合わせた地下鉄の不埒な若者たちにもぶちきれて1対6の大乱闘を繰り広げて相手全員瀕死の状態に陥らせる。ところが、その中の一人がロシアン・マフィアのボス、ユリアンの弟だったからさあ大変!というお話。
ハッチは実はとんでもない経歴の持ち主である。ついに堪忍袋の緒が切れたとはいえ、いくらなんでもただのおじさんにこんなことはできないだろうという、至ってまっとうな判断からこうなったのだろうが、能ある鷹は爪を隠しまくっていたのだ。軍隊では会計係だったということで、「本物の」兵士だったベッカの弟チャーリーにバカにされていたが、この「会計係」こそ恐ろしい任務を負ったエージェントなのだった。
96時間」では、元CIA秘密工作員のリーアム・ニーソンが娘を誘拐されて奮起したが、こちらのきっかけは娘の猫のブレスレット、小さい女の子が好きなファンシーグッズだ。ユリアンに家族ともども自宅で襲撃されてさらに怒り爆発、戦いはどんどんエスカレートして壮絶さを増し、めちゃくちゃになっていく。敵役のユリアンのいかれぶりもいい。
ハッチの怒り(覚醒)のきっかけは家族絡みだが、よくある「愛する人を守るため」という言い訳などどうでもいいようなめちゃくちゃさは豪快で壮快である。
老人ホームにいてテレビで西部劇ばかり見ていた老父(クリストファー・ロイドが楽し気に演じている)と、平凡な生活を続けているハッチを常々気にかけていた弟も実はその道の人たちで、かれらも正義というより身内のために手を貸す。
ハッチが身の上話を始めると話途中で相手が死んでしまったり(2回ある)、高飛車な態度の隣人が自慢していた車を盗んだり、老父がいつも西部劇を見ていることも銃声面で役に立ったり、ベッカの父である社主(演じるのは「スキャナーズ」のアイアンサイド)にかねてより買い取りたいと持ち掛けていたが金額で折り合いがつかないでいた会社を隠し持っていた金塊で買い取って、工場をユリアンとの最終決戦の場としたりなど、細部で筋が通って気が利いているところがいろいろ見られる。
あれだけのことをしておきながら、ラストはあっさり妻と新しい家探しをしている能天気さもまたよしという感じだ。(2021.6)

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