みちのわくわくページ

○ 映画(2017年)

<見た順(降順)>
ドリーム、 散歩する侵略者、 蠱毒 ミートボールマシン、 ローガン、 22年目の告白−私が殺人犯です−、 ある決闘 セントヘレナの掟、 スプリット、 いぬむこいり、 グレートウォール、 ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー、 なりゆきな魂、 マグニフィセント・セブン

ドリーム HIDDEN FIGURES
2016年 アメリカ27分
監督:セオドア・メルフィ
出演:キャサリン・G・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)、ドロシー・ヴォーン(オクタヴィア・スペンサー)、メアリ―・ジャクソン(ジャネール・モネイ)、アル・ハリソン本部長(ケヴィン・コスナー)、ヴィヴィアン・ミッチェル(キルステン・ダンスト)、ポール・スタフォード(ジム・パーソンズ)、ジム・ジョソン大佐(マハーシャラ・アリ)、レヴィ・ジャクソン(オルディス・ホッジ)、ジョン・グレン(グレン・パウエル)、ルース(キンバリー・クイン)、カール・ゼリンスキーZielinski(オレク・クルパ)
1960年初頭。冷戦下にあるアメリカとソ連は宇宙開発で競い合っていた。ソ連がガガーリンを乗せた初の有人宇宙飛行を達成、遅れをとったNASAの開発陣営にとって有人宇宙飛行の成功は急務となった。
NASAのラングレー研究所の西計算グループに所属する3人の黒人女性たち、天才的な計算能力を持つキャサリン、グループのまとめ役のドロシー、黒人女性初のNASAの技師を目指すメアリーが、人種差別と女性差別という二重の差別を受けながらも、卓越した理系の能力と機転のよさで、道を切り開いていく。
人種差別を扱っているとはいえ、宇宙開発という夢のある目標を掲げて、ソフトで軽快な描き方をしているので、楽しく小気味よく見られる。口当たりがよすぎるくらいだ。ちかごろ「スカッとジャパン」というテレビ番組があって人気らしいのだが、私はあれは好きではない。「スカッと」を得るためにわざわざ周囲を貶めているようでたいへん志が低く思えてしまうのだ。この映画も後半は「スカッと」の連打であるが、にもかかわらず、わかっちゃいるにも関わらず、やったね!と気持ちよく思わされてしまうのだった。
計算能力が買われて白人しかいない宇宙特別研究本部に配属になったキャサリンは、「非白人用トイレ」のある別棟まで片道800mの道のりを毎日その都度往復しなければならない。計算書類のファイルを抱え、ハイヒールで小走りにトイレへ向かう彼女の様子が何度も繰り返し示される。(それもちょっとコミカルに描かれているのだが、これはちょっとやりすぎな気がした。なんでずっとハイヒールなのか、走らなきゃならないことはわかっているんだからスニーカーとかヒールの低い靴とかに変えればいいのに、と見ていていらっとしないでもなかった。それともハイヒールは大事なステイタスだったりするのか。)
しかしそんな彼女の苦労も知らず、ハリソン本部長は仕事場を抜け出してさぼってばかりいると彼女をなじり、なじられたキャサリンはついに堪忍袋の緒を切らす。
仕事一筋、有人飛行達成のために必要な優秀な人材なら人種差別などしていられない、とハンマーで「白人用トイレ」の看板をぶっこわすハリソンはやはりわかっちゃいるけど、よい役どころ。このたいへんな儲け役を渋くさりげなくこなすとはおそらく名のある俳優に違いないと思っていたら、ケビン・コスナーだった。さすがだ。
映画の内容は、1983年の有名映画「ライトスタッフ」につながる。エド・ハリスが演じた宇宙飛行士ジョン・グレンを演じるのはこちらではグレン・パウエル。渋かったエド・ハリスのグレンとはちょっと違って、終始さわやかで偏見を持たないナイスガイとして描かれている。NASAの職員が飛行機で降り立った宇宙飛行士たちを歓迎するシーン、グレンは、歓迎隊の列の一番端にひっそりと並ぶキャサリンたちの前にもやってきて気さくに声をかける。周囲の白人たちも驚くし、声をかけられたキャサリンたちも驚く。しかし、グレンはいたって無邪気だ。(この感じ、どこかで見たことがあると思っていろいろ記憶をたどると、ジョン・フォードの西部劇「駅馬車」の中継所のシーン、駅馬車の乗客から人間扱いされずにいた娼婦のダラスに無邪気なリンゴ・キッドのジョン・ウェインが声をかけるところに思い至ったのだった。)また、グレンは、いよいよロケット打上げというときにトラブルが発生した際、コクピットの中からハリソンに「あの女性(girl)にチェックさせろ。彼女が計算してOKと言ったら、僕は飛ぶ。」と要請する。こうしたグレンの言動にも、わかっちゃいるけど、スカッとしてしまうのだった。
ただ、彼ら白人男性の脇役に比べて、2人の黒人男性脇役、キャサリンの恋人となるジムとメアリーの夫レヴィは、男前だけどただ出てくるだけでどんな人なのかあまりちゃんと描かれておらず、魅力が感じられなかったのが残念だった。それって不公平(差別とまではいわないが)なんじゃないかと思ったりもした。(2017.10)

散歩する侵略者
2017年 日本 公開松竹=日活129分
監督:黒沢清
原作:前川知大「散歩する侵略者」(劇団イキウメの舞台劇)
出演:加瀬鳴海(長澤まさみ)、加瀬真治(松田龍平)、天野(高杉真宙)、立花あきら(恒松祐里)、桜井(長谷川博己)、明日美(前田敦子)、丸尾(満島真之介)、車田刑事(児島一哉)、鈴木社長(光石研)、品川(笹野高史)、牧師(東出昌大)、医者(小泉今日子)
★ネタバレあります!★
「蠱毒 ミートボールマシン」(下記参照)の後で見たこともあり、なんて知的で落ち着いた宇宙人地球侵略ものなんだろうと思った。
「僕は実は地球を侵略しにきた宇宙人なんだ」という言葉を不意に隣にいる人に言われたら。という絶望的に目新しくないネタを、まっとうに、淡々と、低予算でやっていて、それでもって、おもしろい。
偵察のため派遣された「彼ら」は3人いる。それぞれ女子高校生あきらと青年天野と会社員真治の身体を乗っ取っている。真治の妻鳴海は、行方不明だった夫を迎え入れるが、その豹変ぶりに戸惑う。
彼らは簡単に地球人を殺せるのだが、とりあえず地球人を知るため概念を盗む。盗まれた地球人の頭からはその概念が抜け落ちてしまう。真治は会社を辞め、近所を散歩しながら人々の概念を盗んで回る。「家族」を盗まれた鳴海の妹明日美はいささか険しい表情となるが、「自由」を盗まれた主婦はおだやかな表情となり、「所有」を盗まれた引きこもりの青年は生き生きとし、「仕事」を盗まれた中小企業の社長は喜々として楽しそうである。
ジャーナリストの桜井は、自分は宇宙人だという天野を当然最初は全く信じなかったが、やがてそれが本当であると認め、「ガイド」として彼と行動を共にし、あきらと合流する。鳴海と真治は、厚労省の官僚だと名乗る男笹野が率いるチームから追われ、桜井と天野とあきらは逃げる二人を探す。この地球人のガイドと宇宙人の混合チーム2組の様子が交互に描かれ、やがて彼らは出会う。警戒する鳴海に桜井が「ガイド」という言葉を告げるだけで鳴海が状況を理解するのは極めて効率的だったが、そのあとは、あきら・天野と真治がごく短い間向き合っただけで別れ、で、また会ってでもまたすぐ別れ、といったもたもたした展開となる。あんなに優位そうだったあきらと天野が倒れ、桜井は天野から地球襲撃のための情報の発信という無茶な任務を託される。それからの彼の中身は天野なのか、桜井本人なのか。宇宙人が、特に天野があまりにその辺の青年然としているせいか、この一連の成り行きには、なんとも奇妙で独特の味わいが漂っている。こういうのをオフビートというのか、でも、軽すぎるでなく、重すぎもせず、バランスがすごく微妙だ。
ラスト、宇宙人の侵略が始まる中、鳴海の心は夫への「愛」でいっぱいになり、「愛」を盗んだ「真治」はあまりの衝撃によろけ、しばらくして鳴海の中身は空洞となる。
結局愛が世界を救うというこれまた死ぬほどありがちな話なのだが、それも至ってそっけなく、さらりと描いていて、ハードボイルドだ。(2018.9)

蠱毒 ミートボールマシン
2017年 日本  100分
監督:西村喜廣 出演:野田勇次(田中要次)、三田カヲル(百合沙)、マミ(鳥居みゆき。ぼったくりバーの女。)、田ノ上(川瀬陽太。取り立て会社の社長)、長谷(村杉蝉之介。古本屋店長。)、酒井(三元雅芸。バイク野郎)、警官隊(島津健太郎、山中アラタ、屋敷紘子、栄島智、)、白線女(しいなえいひ)、CMの宇宙人(斉藤工)
宇宙人地球侵略ものバイオレンス・スプラッタ・どたばたコメディSFという感じか。 「蠱毒」とは、古代中国において行われた虫を使った呪術らしい。ウィキペディアによると、蛇、百足、蛙、ゲジゲジなど複数の生き物を器にいれて共食いをさせ、生き残ったものが神霊となり、その毒を恨む相手に飲ませると死に至るという。 本作では、宇宙人によってある町の一部がフラスコ状の空間に閉じ込められ、中にいた人間は謎の寄生生物にとりつかれて次々に内蔵っぽいデザインと色をした異形の戦闘マシン(「ネクロボーグ」というらしい)と化し、殺し合いを始める。首や腕や内臓が飛び、血の雨が降りまくる。 田中要次演じる野田勇次は借金の取り立て屋だが、気がやさしすぎて仕事ができず、社長に怒鳴られてばかりの日々を過ごしていた。そんな彼もネクロボーグと化すのだが、取り立て対象者の一人である美女カヲルに心惹かれていた彼は人としての魂を失うことなく、カヲルの救出に向かうのだった。 前半は勇次の切ない日常と宇宙人たちによって進められる侵略の様子が描かれ、後半は、ネクロボーグたちによる殺戮とカヲルを追う勇次の戦いが、騒々しく漫然と続く。 映画の中盤、ネクロボーグ化し始めた人々に勇次も観客も戸惑うが、物陰からネクロボーグの戦いの様子を見た勇次が、「怪物同士で殺し合うのか」とか「得意な道具を殺しの武器に使えるのか」とかいろいろ説明してくれるので助かった。 勇次はだんだんヒーローらしくなっていき、演じる田中の容貌もあってシュワルツェネッガーっぽく、かっこいいカットがあった。 ネクロボーグに立ち向かう武道家警官チームがなかなかよかった。(2017.9)
関連映画:「MEATBALL MACHINE -ミートボールマシン-」(2005年。監督:山口雄大・山本淳一、主演:高橋一生) 「ミートボールマシン」(1999年。監督:山本淳一、出演:渡辺稔久)

LOGAN/ローガン LOGAN
2017年 アメリカ 138分
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ローガン/ウルヴァリン/X-24/ジェームズ・ハウレット(ヒュー・ジャックマン)、チャールズ・エグゼビア/プロフェッサーX(パトリック・スチュワート)、ローラ(ダフネ・キーン)、ドナルド・ピアース(ボイド・ホルブルック)、ドクター・ザンダー・ライス(リチャード・E・グラント)、キャリバン(スティーヴン・マーチャント)、ガブリエラ(エリザベス・ロドリゲス)、ウィル・マンソン(エリック・ラ・サール)、キャスリン・マンソン(エリゼ・ニール)、ネイト・マンソン(クインシー・ファウ) 

★ネタバレあります!!★
「X−MEN」シリーズの人気キャラクター、ウルヴァリンの最後の戦いを描く。
2029年、ウルヴァリンことローガンは、リムジンの運転手をして糊口をしのぎながら、90歳を超えて要介護状態にあるチャールズ(プロフェッサーX)の面倒を見ていた。太陽光を浴びると死んでしまう体質のミュータント、キャリバンも加え、3人で荒野に立つ廃倉庫でひっそりと暮らしていた。不死身のローガンも、アダマンチウム合金の爪の付け根が膿み始めるなど、老いてかつての治癒力が低下しつつあった。
そんな彼らの前に、ウルヴァリンと同様の能力を持つミュータントの少女ローラが現れる。彼女は、政府の極秘計画によって殺人兵器として人口受精で生み出されたミュータントの子どもたちの1人だったが、失敗作として抹殺されるところを逃れてきたのだった。
ローガンは、武装集団に追われる彼女を助け、チャールズも連れて、アメリカ大陸縦断の旅に出る。散り散りに逃げた子どもたちは、ノースダコタのある場所を目指していたのだった。赤茶けた中西部の荒野を舞台に3人の逃避行が描かれる。
西部劇の名作「シェーン」から多くの引用がなされている。登場人物たちがテレビで古い映画を見ることはよくあり、ワンシーンがぱっと映されて、後からあれは「○○(映画のタイトル)」だとマニアたちの間で話題になったりするものだが、本作の「シェーン」の引用は、これでもかというくらいの大サービスである。流れ者のガンマンシェーンは、開拓民のスターレット一家に身を寄せるが、その仲間の一人で元南軍のトーリーが殺し屋ウィルソンに打ち殺されるシーン、トーリーの葬式のシーン、クライマックスのシェーンとウィルソンの決闘シーン、そして決闘の後シェーンが少年ジョーイと別れの言葉を交わすシーンが、安モーテルの一室のテレビであるにも関わらず、大画面のきれいな映像でたっぷりと映し出される。
それらのシーンにじっと見入るローラ。施設で育って外の世界を知らないローラは、おそらくこの時、初めて埋葬と追悼を知ったのである。
彼ら3人が途上で出会って一宿一飯の世話になるマシスン一家が、スターレット一家とおなじ家族構成である。彼らは牧場を経営しているが、水の供給をめぐって地元の実業家から嫌がらせを受けているという状況まで、「シェーン」ぽい。が、「シェーン」と違って、彼らはむごい最後を迎えることになる。
「人を殺したものは後には戻れない、それはずっと自分について回る」といったシェーンの言葉は、ローラがローガンと交わした言葉と重なる。それがあるがゆえに、ローラがラストに暗唱するシェーンのセリフは、追悼の言葉であるとともに彼女自身への言葉でもある。
かつての万能ぶりを失いつつ戦うローガン、味わいのある高齢者となったミスターX、クールな少女ローラ、3人が3様によかった。(2017.7)
<ローガンとシェーンの言葉>
●ローガンとローラ

Laura: I've hurt people too.
Logan: You're gonna have to learn how to live with that.
Laura: They were bad people.
Logan: All the same...
(ローラ:わたしも人を傷つけた。
ローガン:おまえはそれを背負って生きるすべを身につけなければならない。
ローラ:みんな悪い人たちだった。
ローガン:同じことだ。)
●シェーンとジョーイ
Shane: A man has to be what he is, Joey. Can't break the mould. I tried it and it didn't work for me.
Joey: We want you, Shane.
Shane: Joey, there's no living with... with a killing. There's no going back from one. Right or wrong, it's a brand. A brand sticks. There's no going back. Now you run on home to your mother, and tell her... tell her everything's all right. And there aren't any more guns in the valley.
(シェーン:人は変えられないんだ、ジョーイ。型は破れない。やってみようとしたが、だめだった。
ジョーイ:行かないで、シェーン。
シェーン:ジョーイ、人を殺す者にまっとうな暮らしはできない。戻る道はない。正しかろうが、間違っていようが、それは烙印となって、ついて回るんだ。家に帰っておかあさんに、もう大丈夫だと伝えてくれ。この谷から銃はなくなったと。)

関連作品:「X−MEN2」(2003)、「ウルヴァリン:SAMURAI」(2013)
シリーズ作品一覧(上記以外は見てません)
ウルヴァリン:X-MEN ZERO(2009) 第1作
ウルヴァリン:SAMURAI(2013) 第2作
LOGAN/ローガン(2017) 第3作
X-メン(2000) オリジナル・シリーズ第1作
X-MEN2(2003) オリジナル・シリーズ第2作
X-MEN:ファイナル ディシジョン(2006) オリジナル・シリーズ第3作
X-MEN:ファースト・ジェネレーション(2011) シリーズ第1弾
X-MEN:フューチャー&パスト(2014) シリーズ第2弾
X-MEN:フューチャー&パスト ローグ・エディション(2014) シリーズ第2弾・別バージョン
X-MEN:アポカリプス(2016)

22年目の告白−私が殺人犯です−
2017年 日本 公開ワーナー 117分
監督:入江悠
出演:曽根崎雅人(殺人犯。藤原竜也)、牧村航(刑事。伊藤英明)、岸美晴(書店員。夏帆)、橘大祐(やくざ。岩城滉一)、戸田丈(橘組構成員。早乙女太一)、山縣明寛(医師。岩松了)、滝幸宏(牧村の上司。平田満)、牧村里香(牧村の妹。石崎杏奈)、小野寺拓巳(里香の恋人。野村周平)、春日部信司(刑事。竜星涼)、川北未南子(編集者。松本まりか)、仙堂俊雄(中村トオル)
★ちょっとネタバレあります!★
1995年、東京で5件の連続殺人事件が発生。被害者とその近親者を拘束し、被害者が絞殺される様子を近親者に目撃させるという残虐な犯行に世間は騒然とした。被害者と目撃者は、定食屋の主人と妻、会社員と妻(二人の娘が美晴)、ホステスとヤクザ(橘)、医師夫人と医師(山縣)、事件担当の刑事(滝)とその部下の刑事(牧村)だった。
それから22年後、時効を廃止する法案ができるが、この事件はその法案が施行される前に時効となるため、新法は適用されず時効が成立、それを盾に犯人が名乗りを上げる。曽根崎雅人と称するその男は事件の全貌を記した著書を出版する。当時事件を担当し上司を殺された牧村はじめ、被害者の遺族たちのやりきれない思いをよそに、曽根崎はそのイケいけてる容貌もあって女性ファンもでき、巷を騒がせる。サイン会にファンが殺到し、その会場で橘の組の構成員戸田が曽根崎を襲撃しようとしたのを牧村らが制止する。正義派ニュースキャスターの仙堂は、曽根崎と牧村を生放送のスタジオに呼ぶ。が、そこには二人の他にもゲストがいた。それは、真犯人しか撮れないはずの動画を投稿してきた男だった。
過去に起こった陰惨な事件のスピーディな説明と22年後の新展開が煽情的に描かれて、前半はぐいぐいと引っぱられるように見てしまう。藤原竜也のふてぶてしいイケメン犯人ぶりは、やっぱりこうかと思いつつも安定して楽しめる。中村トオルの登場により後半の展開がなんとなく予想できてしまい、別荘での真相解明の段になると、いささか緊張感が薄れてしまったように感じた。
5人の被害者といいながら4人の被害者の遺族しか出てこず、最初の定食屋の主人とその遺族にはほとんど触れないので見ている間中それがひっかかって、後から5人目の遺族が出てくるのかと勘繰ったりもしたのだが、これは単に出てこないだけだった。(2017.7)

スプリット SPLIT
2017年 アメリカ 117分
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:ケビン/バリー/デニス/パトリシア/ヘドウィグ/ビースト?/他(ジェームズ・マカヴォイ)、ケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)、クレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)、マルシア(ジェシカ・スーラ)、ドクター・カレン・フィッチャー(ベティ・バックリー)、デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)、ジャイ(フーターズ好きの男。シャマラン)
シャマラン監督が、DID(解離性同一性障害)の男を犯人に据えた女子高生誘拐・監禁事件を描く。
3人の女子高校生が見知らぬ男に誘拐され、窓のない部屋に監禁される。犯人が多重人格者であることはすぐ明かされる。女子高校生たちは脱出を試み、男のかかりつけのドクターは面会に来た男の様子がいつもと違うことに気づく。
映画は、男の住まいとドクターの事務所兼住居のほぼ二つの建物内部のみを舞台として、進行していく。男の住まいは、コンクリートむき出しで、長い廊下に沿って部屋がたくさん並んでいて、窓がない、ちょっと不可思議な建物である。建物の外景はずっと示されず、いきなり拉致されてきた女子高生らと同様、見る側も閉塞感が高まる。もうひとつの場所、一人暮らしの老女であるドクター・フレッチャーの家は、マンションの高層階にある。らせん階段が何度も映し出される。
主な登場人物は、犯人の男と女子高生3人とドクターの5人だけ、でも男の中にはいくつもの人格があって彼らが入れ替わり立ち代わり登場する。男はケヴィンという名だが、3人を誘拐したのは潔癖症で用意周到なデニス、ドクターと面会するのは服飾関係の仕事をしていて物腰柔らかなバリーである。ほかにデニスと仲のいい女性のパトリシアと、9歳の少年ヘドウィグなどがいる。バリーからデニスに変わるマカヴォイの顔の演技(顔芸と言っては軽すぎるか)はかなりおもしろい。そしてドクターも知らない24番目の人格ビーストが誕生する。女子高生3人はビーストの生贄として拉致されてきたのだとパトリシアは言う。
浅はかではあるが、前向きに脱出を試みるクレアとそれに協力しようとするマルシア、しかしケイシーはあまり動こうとしない。ケイシーは普段から一人でいてみんなに打ち解けない娘なのだが、合間合間に彼女の過去が挿入される。狩猟好きの父に連れられて狩りにいった記憶。ケイシーは銃が扱えるという前振りにとどまらず、不穏な雰囲気の叔父が登場し、父親の死後彼に引き取られた彼女が虐待を受けてきた厳しい現実が示されていく。
映画には、デニス「たち」による犯罪の進行と同時に、母の虐待に耐えるために自分の中に多くの人格を誕生させたケヴィンと、すべてを諦め受け入れていた生活から逃れようとするケイシーの、二人のドラマが盛り込まれている。「シビル」「24人のビリー・ミリガン」などを読んだことがあり、多重人格について多少記憶が残っていたので、完璧を求める母の虐待からケヴィンを守るため、なんでもそつなくこなすデニスはケヴィンが3歳の時に生まれたという話が、わりとすっと頭に入ってきた。みんなのまとめ役のバリーが立場を侵食されていき、それをドクターも察するのだがすでに手遅れだったという展開である。
ビーストとはなんなのか、実在するのか、という謎が彼が正体を現すことで明かされるが、それにより、物語は複雑な精神世界の話から一気にサスペンス・ホラー・アクションの様相を呈してくる。迫ってくるビーストに対し、ケイシーはショットガンを向ける。
救助され、パトカーで待つケイシーに、叔父が迎えに来たと女性警官が告げに来る。家に帰ればまたひどい境遇が待っている。ケイシーは、呼びに来た警官をじっと見る。この警官が女性であることが大事で、今まですべてをあきらめていたケイシーが、未来を切り開こうとしているのではないかということが暗示される。
格調の高さと俗っぽさの混じりあいを絶妙と感じるか、唖然とするか。シャマラン監督による低予算映画ならではの味わいが、個人的にかなりツボである。
ラストは次回作告知のおまけつきで、意外な人が顔を見せるが、「アンブレイカブル」を見ていないのでピンと来なかった。(2017.6)

いぬむこいり
2017年 日本 製作:ドッグシュガー 公開:太秦 4時間(245分)
監督:片島一貴
主題歌:「カオス」勝手にしやがれ
出演:二宮梓(有森也実)、アキラ(武藤昭平)、奥本健吉(柄本明)、沢村芳雄(石橋蓮司)、堅(笠井薫明)、鈴木海老蔵市長(ベンガル)、レイコ(江口のりこ)、ユリナ(尚文)、翔太(山根和馬)、花子(韓英恵)、米兵(パスカル・クロード)、ナマゴン(PANTA)、卑弥呼(緑魔子)
4時間の長尺である。私は、理想的な映画の尺は100分以内と常々思っているので、2時間半超える映画は内容にかかわらず腰が引けるのだが、監督の片島さんは、大学時代のシネ研の先輩、Facebookで、「いぬむこいり」ページの更新お知らせを目にするたびに、「俺がこれだけ気合入れて撮ったんだから、おまえの4時間を俺にくれよ!」と、昔と変わらぬ口調で言われているような気がして、見に行ったのだった。
先に見た知人からは、あまり長さを感じなかったよという感想を耳にしていたのだが、やっぱり4時間は長かった。でも、最近は、主にマンガを原作とする映画において1つの作品を2つに分けて作る傾向がみられ、中でも「進撃の巨人」など1本分の内容を無理に2本に分けているようでなんだかなあと思っていたのだが、それに比べればこれだけのものを1本として一気に見てくれという姿勢は潔いと思った。
冴えない中年女性の自分探しの旅に、革命と戦争が絡んだ、犬婿伝説ファンタジーである。
4章構成で、1章「悪意とお告げ×東京」、2章「ゲバラとレノン×沖之大島」、3章「犬男×無人島」、4章「戦争×伊藻礼(イモレ)島」というタイトルがついている。
東京の小学校教師の梓は、唐突に神のお告げを受け、宝物を求めて沖之大島の近くにあるというイモレ島を目指す。が、沖之大島で詐欺師のアキラに持ち物を盗まれ、奥本という老人が営む三線屋に住み込みで働くこととなる。その後、島を牛耳る悪徳市長を倒そうとする革命グループのリーダー沢村(奥村とは旧知である)に押されて市長選に立候補する羽目になりと、話はヘンテコな方向に進んでいく。お告げが梓に示したイモレ島では、ナマ族とキョラ族が70年もの間戦争を続けていて、沢村はそのナマ族に武器を売って活動資金を稼いでいるのだった。彼の取引を横取りしようとするレイコとユリナの小悪党カップルが登場し、さらに沢村率いる革命集団、沢村の息子の堅とバンド仲間、市長のバカ息子とその取り巻き、梓の支援ボランティア、市長の支持者らなど、たくさんの人々が顔を出すが、結局梓は選挙に負け、沢村は選挙法違反の罪で逮捕されて拷問され、奥本は抗議の焼身自殺を図るという割と凄惨な展開となる。後半に入り、梓は、危険を承知でアキラとともに船でイモレ島を目指すが、嵐に遭って遭難、無人島に漂着する。彼女は島に1人でいた青年翔太と暮らし始めるが、翔太はナマ族の王子であり、実は犬男だった。普段は菜食主義でおだやかな性格の翔太だが、犬男に変身すると獰猛な肉食動物(食欲的にも性欲的にも)と化すのだった。そこに翔太の許嫁の花子が現れて三角関係になったり、オスプレイが不時着して瀕死のアメリカ兵を助けたりとまたまたヘンテコな展開があるが、結局やっぱり梓は一人でイモレ島を目指す。イモレ島にたどり着いた彼女はナマ族の王ナマゴンの保護を受け、アキラと再会する。激しい戦闘が続く中、梓はお告げの宝物を求めて、アキラとともに犬神が祀られる島の聖地を目指す。そのとき彼女のお腹には翔太の子どもが宿っていたのだった。
雑多な話やイメージが入り乱れての4時間である。あれはなんだったのかと突っ込むとキリがないし、理論的な解釈は苦手なので、目に入ったものをそのまま見て楽しんだ。
鹿児島県の指宿市を主としたロケ地の風景が美しい。特に無人島の廃墟がとてもよい。
登場人物が海に落ちたり、イモレ島でのシーンではひっきりなしに雨が降っていたり、とにかく後半は人がよくびしょぬれになる、そこに作り手側の並々ならぬパワーを感じた。
話はずっと梓を追っているのだが、彼女に絡むアキラ役の武藤昭平が魅力的だった。特にラストは、愛する女を守ろうとして守り切れない男の切なさがひしひしと伝わってきて、とてもよかった。それは「たとえば檸檬」の伊原剛志にも(言ってしまえば片嶋さんが学生時代に撮った8ミリの自主製作映画などでも)感じられたものだ。(「アジアの純真」を始め他の作品はあまり見ていないのでわからないのだが。)
アキラは、前半は、軽薄だけど憎めないペテン師として登場し、梓の夫を自称したいかがわしさ丸出しの選挙支援要員となるが、後半は、キョラ族に捕虜として捕らえられ脱走して、ナマ族の兵士となる。梓との関係では、似非夫からやがて本当の夫らしくなり、最後は血のつながらない異形の子の父親となっていく未来を思わせて映画は終わる。このアキラの身の上の変遷を見るのはおもしろく、そしてそれは4時間という長丁場を経ないと味わえなかったのではないかと思う。(2016.5)


グレートウォール  長城 THE GREAT WALL
2016年 中国/アメリカ 103分
監督:チャン・イーモウ
出演:ウィリアム(マット・デイモン)、トバール(ペドロ・パスカル)、バラード(ウィレム・デフォー)
リン・メイ隊長/将軍(ジン・ティエン)、ワン軍師(アンディ・ラウ)、ポン・ヨン(ルハン)、シャオ将軍(チャン・ハンユー)、ウー隊長(エディ・ポン)、チェン隊長(ケニー・リン)、ドン隊長(ホアン・シュアン)、皇帝(ワン・ジュンカイ)
★ねたばれあります!★
万里の長城という雄大な建造物を題材に、豪快にでっちあげられた、ファンタジー・歴史アクション。昨年、中国を訪れ、長城の上を実際に歩いてその雄大な景色に大いに感じ入ったので、長城目的で見に行った。
西欧の傭兵ウィリアムとトバールは、中国にあると言われる黒色火薬を手に入れて一儲けしようと部隊を組んで旅をするが、中国との国境近くで馬賊の襲撃に遭ったうえに、謎の怪物に襲われ、二人だけになってしまう。二人は、国境に築かれた巨大な壁(長城)の砦に駐留している禁軍に捕らえられる。禁軍は皇帝直属の軍で、彼らは60年に一度やってきて国を食い荒らす恐ろしい怪物(トウテツという)の大群の襲撃に備えているのだった。ウィリアムらを襲った怪物がそれであり、一人で怪物を倒したウィリアムは戦士として一目置かれることになる。(後でそれは磁石の影響もあったことが明かされるが。)
時代は、解説では宋朝(960年〜1279年)とある。ウィリアムは黒色火薬を求めて中国に来ているのでまだ火薬が西欧に広まっていない時代であり、また彼はフランク王国(481年〜987年)で戦ったことがあると言っていることから、10世後半くらいかと推測される。武器は剣と弓と投石器である。
チャン・イーモウ監督は、「HERO英雄」などで極彩色の衣装が宙を舞う活劇を見せてくれたが、本作でもそれぞれの役目によって色分けされた部隊が登場する。これらの部隊は否が応でも黒澤明監督の「乱」における風林火山の軍隊を思い出させるが、公式HPのニュースによれば、この軍隊のデザインや色は中国の歴史伝統に基づいているという。「強さと工学知識を兼ね備えた猛虎軍団“虎軍”」は黄、「鷲のごとく鋭い矢を放つ射手隊 “?軍”」は赤、「歩兵と騎兵の混合部隊で機動力自慢の“鹿軍”」は紫、接近戦を得意とする五軍中最強の“熊軍”」は黒、そして、「鶴のように舞い華麗に敵を駆逐する“鶴軍”」は青である。
この鶴軍の兵士は全員女性であり、長城の天辺からバンジージャンプのようにロープを腰に巻いて飛び降り、地上にいる怪物たちを撃退する。「進撃の巨人」の「立体機動」を思い出させる戦法であるが(「壁」で怪物の侵入を防ぐというのも「進撃の巨人」ぽい)、飛び降りた彼女らが腰に付けた「輪」だけが血痕とともに引き揚げられ、砦の隅に積み重ねられていくのをウィリアムが目撃する場面などはなんとも悲壮である。
軍を指揮する将軍があっさり死んで、そのあとを若くて美人のリン隊長が継ぐ。リンとウィリアムの間に好感と信頼は生まれるが、恋愛の描写はごく薄めである。ウィリアムと相棒のトバールの連係プレイは見ていて楽しく、トバールは後半はあまり活躍せず、ウィリアムを置いていったりもするが、でも、この二人の相棒ぶりはなかなかよい。若い兵士ポン・ヨンとウィリアムの心の通い合いなどもよい。アンディ・ラウは、実践的で頭のよい軍師役で、アクションは見せないが、怪物が磁石に弱いことを発見し、磁石を翳して立ち回るところなど味わい深い。ウィリアム・デフォーはあまりいいとこがなくてちょっと気の毒な役回りであった。
鶴軍の「立体機動」的攻撃法の他にも、城壁の上の太鼓を一斉に叩いて怪物の襲来を報せたり、都までの移動にまだ不完全で危険なランタン(熱気球のようなもの。その前に将軍の葬式で小型のランタンがたくさん空を舞う様を見せている)を使ったり、怪物がなぜ60年周期で来てまたなぜ磁石に弱いのかは不明のままだったり、そもそも万里の長城が怪物を迎え撃つために造られたものであるということになっていたり、割とむちゃなとこはいろいろあるし見る人によっては突っ込みどころ満載かもしれないが、細かいことは置いといて、力強くカラフルな映像を楽しめばよいと思う。
ただひとつ私にとっての難点は、せっかくの長城がトンネルを掘られてあっさり通り抜けられてしまい、最後の決戦は都が舞台となったことだ。捕らえた怪物に黒色火薬をつけて女王のところに向かわせ、その爆弾を塔の上から(この塔がまたきれい)射るといった展開はよかったが、できれば長城で豪快にクライマックスを迎えてほしかったと思う。(2017.5)

なりゆきな魂、
2017年日本 配給:ワイズ出版(株) 107分
監督・脚本:瀬々敬久
原作:つげ忠男著 「成り行き」「夜桜修羅」「懐かしのメロディ」(『成り行き』所収)、「音」(『つげ忠男のシュールレアリズム』所収)
出演:京成サブ(三浦誠己)、サブの女(町田マリー)、少年(花村。佐藤優太郎)
花村(柄本明)、仙田(足立正生)、有希(山田真歩)、城ケ崎(後藤剛範)、仙田の妻(石川真希)
忠男(佐野史郎)、高野(柳俊太郎)、あつ子(中田絢千)、忠男の妻(ほたる)
國元夏海(OL。國元なつき)、阿部幸治(会社員。関 幸治)、阿部の妻(阿部栞奈)、蟹瀬瑠菜(バレリーナ。蟹瀬令奈)、安野恭太(夫。安野恭太)、安野玉緒(妻。吉村玉緒)、安野嘉世(娘。坂上嘉世)、亀岡園子(母。亀岡園子)、亀岡萌由(娘。島津萌由)、小林寧子(母。小林寧子)、小林愛美(娘。葵來沙)、木口健(愛美の婚約者。木口健太)、ウエダ(高校生。植田靖比呂)、クドウ(高校生。工藤優太)、ミヤウチ(高校生。宮内勇輝)、バス会社社員(大門嵩)、バス運転手(最初に生き残る方。増田健一)、バス運転手(あとで生き残る方。管勇毅)、小田哲也(小田哲也)、真菜美(小田の同棲相手。廣川真菜美)
次女が中学生の時のPTAでいっしょに広報委員をやった小林さんが俳優になって、バス事故の遺族の一人小林寧子役で出ているというので、ユーロスペースに見に行く。
ユーロスペースに見に行く。
つげ義春の弟つげ忠男の漫画4話に、映画オリジナルのバス事故の遺族の話を加えた、複数話同時進行のつくりの映画。さらにバス事故の遺族の話は、ちがう設定で同じ時間軸の話が繰り返される(事故で死んだ人が違っていたり、同じ人がバスに乗り遅れたり間に合ったりなど)。パラレルワールドというよりも、タイトルを考えれば人の運命は「なりゆき」次第で違ってくる、ということなのかと思う。
冒頭は、戦争直後のバラックで、サブという男が、アメリカ兵に喧嘩を売る話。その殴り合いの様子を見ている少年は、次の話に登場する老人花村のようである。
「なりゆき」は、釣りにでかけた二人の友人同士の老人が、男女の諍いを目撃して、暴力をふるう男から女を助けようとして、棒での殴り合いの末に殺人を犯してしまう話。
「夜桜修羅」は、満開の桜の木の下で出会った男女が、いい感じのやりとりから次第に険悪になってくんずほぐれつの壮絶な取っ組み合いになっていき、居合わせた初老の老人(つげ忠男らしい)が最初は止めようとするのだが、やがてただじっと眺めるだけになるという話。宣伝チラシやポスターの、顔を両手で覆いながらも指の隙間からこちらを覗いている男が、このときの忠男である。
これにバス事故で家族や友人や恋人を亡くした遺族の人たちと生き残った人たちの話が混じる。彼らは、会合場所で、それぞれ事故のことや今どんな心境かを語る。最初のバージョンではみんな近しい人を喪った悲しみを訴えるが、2つ目のバージョンでは、毒のある本音を暴露しだす。
金属バットや棒で人を殴るにぶい音や外れてキン、カンと物にあたる金属的な音など、こういうシーンや音をしばらくぶりに見聞きしたように思う。痛いんだけど、なんだか可笑しい。実際、暴力や殺人のシーンで、客席からは「いたっ!」「なに、どゆうこと?」といった声とともに笑いもけっこう起きていたし、それ以外でも、バス事故関連の最初のバージョンで、どっかの公民館の稽古場みたいなところで若い美女二人がいきなりバレエを踊りだすのも可笑しかった。
この稽古場の板の床がぼわぼわしていてステップを踏むたびにきしむのがなんとも言えず、裸の忠男とその妻が目の前にずらずらっと並べられた料理をひたすら貪るシーンでも、カラフルな料理がよく見るとカニ以外はそんなにゴージャスなものじゃなくてナポリタン(に見えた)や餃子を佐野史郎がむしゃむしゃ食べる様子を見ても全然うまそうじゃない。チープな感じはずっと漂っているし、流血や殺しの場面はけっこう出てくるのだが、画面は悪趣味でも貧弱でもなく、抑制が利いていると思った。シュールなんかなと思うと、バス事故関係者の人たちの生き方や人間関係についてのお悩み暴露みたいな話になったりするが、とっちらかっているようでいて、そうでもない、最後は柄本明が冒頭のシーンを思うような感じできちんと締めて終わった。不条理劇はいろいろ解釈する人もいるだろうが、私はあまりできないので、目に入ってくるものをとりあえずそのまま受け入れて見ていくしかなく、結果、後味は悪くなかった。感想の書きにくい、不思議なテイストの映画だった。
推測:2017年2月8日のユーロスペースで役者さんたちの舞台挨拶があった。この映画は、「なりゆき」と「魂」に分かれており、このときの役者さんたちは「魂」班の人たちだそうで、4年前に撮った映像のアフレコを最近やったと言っていた。4年前というと、もしかしたら2012年4月に関越道で起こった悲惨なバス事故に触発されての「魂」班の話、そこに「なりゆき」部分が加わって、「なりゆきな魂、」となったのかなと思った。(2017.2)

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