みちのわくわくページ

○ 映画(2017年)

<LOCO

<見た順(降順、LOCO DDは先頭)>
LOCO DD 日本全国どこでもアイドル、 
オリエント急行殺人事件、 リメンバー・ミー、 美女と野獣、 ベイビー・ドライバー、 キングコング 髑髏島の巨神、 バッド・ジーニアス、 アウトレイジ最終章、 グレイテスト・ショーマン、 名探偵コナン・から紅の恋歌(ラブレター)、 孤狼の血、 帝一の國、 ブレードランナー2049、 霊的ボリシェヴィキ、 ドリーム、 散歩する侵略者、 蠱毒 ミートボールマシン、 ローガン、 22年目の告白−私が殺人犯です−、 ある決闘 セントヘレナの掟、 スプリット、 いぬむこいり、 グレートウォール、 ローグワン/スター・ウォーズ・ストーリー、 なりゆきな魂、 マグニフィセント・セブン、

LOCO DD 日本全国どこでもアイドル
2017年 日本 ライブシネマ 113分
インディーズの3人の監督が、3組のロコドル(ローカルアイドル)を起用し、ドラマとドキュメンタリを織り交ぜて撮った(drama&documentでDD)3つの短編からなるオムニバス映画。
製作の島田がネットからピックアップした候補者の中から、それぞれの監督が撮ってみたいロコドルに直接交渉し、実現の運びとなった。3人3様の演出や構成が楽しめる。
(製作に関わっていたので、感想が書きづらくて書かずにいたのだが、そろそろDVDも出そうだし、書いておこうと思った。)(2019.4)

第1話 Last DAYS〜君といた場所〜
監督:田中要次
出演:オトメ☆コーポレーション(久保田光、比留川千絵、藤本美帆、荒井奈緒)、林田麻里、ひとみちゃん
ドラマ「ヒーロー」に出てくる「あるよ」のマスターなど、俳優として大いに活躍している田中要次が監督として選んだのは、故郷長野のアイドルユニット「オトメ☆コーポレーション」。が、撮影に入ってから、ユニットの解散が決定。タイムスリップ&UFOネタの愉快なSFものにするつもりだったドラマ部分は破綻し、ラストコンサートの様子がメインとなる。監督とリーダーの久保田光のデートっぽいインタビュー部分がなかなかいい。ラストの、消えていくアイドルについてのナレーションも、SMAP解散の記憶がまだ新しく、木村拓哉主演のドラマで常連を演じる田中が語ることで、しみじみ感がアップしている。
第2話 ファンタスティック・ライム
監督:大工原正樹
出演:FantaRhyme(Ayu、Saya)、松下仁、青木佳文
独特の手法で評価が高い大工原監督が選んだのは、福岡の元気な実力派の二人組アユとサヤが踊って歌うファンタスティックライム。どこまでがドキュメンタリでどこからがドラマなのか、ドラマとドキュメンタリの境があいまいで、両者が入り混じっているところに、得も言われぬ魅力がある、不思議な映画だ。彼女らに絡む二人のおじさんもなかなかいい味を出している。
第3話 富士消失
監督:島田元
出演:3776(井出ちよの)、大村波彦、山田雄三
他の2作がドラマとドキュメントがないまぜになったつくりであるのに対し、本作は、ドキュメント部分とドラマ部分にくっきりと分かれる。
3776はユニット名だが、撮影当時、メンバーは井出ちよの一人しかいなかったので、実質は3776=井出ちよのだった。ドキュメンタリーでは、しつこいまでに井出を追い、彼女がすきな観客にはたまらないだろう。ドラマ部分は西部劇ファンタジー。富士山麓の荒野を舞台に、なぜかインディアン少女となった井出が、仇である「山泥棒」を追うガンマンと出会い、彼の復讐につきあう。監督の目論見通りインディアンのコスチュームがよく似合う井出と大村波彦演じるガンマンは、なかなかおもしろい感じの二人連れとなった。大村は、日本のガンプレイの第一人者トルネード吉田の手ほどきを受けたガンプレイを見せてくれる。

オリエント急行殺人事件  Murder on the Orient Express
2017年 アメリカ 114分
監督:ケネス・ブラナー
原作:アガサ・クリスティ「オリエント急行殺人事件」
出演:エルキュール・ポアロ(ケネス・ブラナー)、ブーク(鉄道会社の重役。トム・ベイトマン)、ピエール・ミシェル(車掌。マーワン・ケンザリ)、
ピラール・エストラバドス(宣教師。ペネロペ・クルス)、ゲアハルト・ハードマン(教授。ウィレム・デフォー)、ドラゴミノロフ侯爵夫人(ジュディ・デンチ)、ヘクター・マックイーン(ラチェットの秘書。ジョシュ・ギャッド)、エドワード・ヘンリー・マスターマン(ラチェットの執事。デレク・ジャコビ)、アーバスノット(黒人の医師。レスリー・オドム・ジュニア)、キャロライン・ハバート(未亡人。ミシェル・ファイファー)、メアリ・デブナム(家庭教師。デイジー・リドリー)、ヒルデガルデ・シュミット(ドラゴミノフ侯爵夫人のメイド。オリヴィア・コールマン)、エレナ・アンドレニ伯爵夫人(ルーシー・ボイントン)、ルドルフ・アンドレニ伯爵(セルゲイ・ポルーニン)、ビニアミノ・マルケス(自動車のセールスマン。マヌエル・ガルシア=ルルフォ)

エドワード・ラチェット(アメリカの富豪。被害者。ジョニー・デップ)
テレビ録画を見る。
冒頭、エルサレムでちょっとした事件を解決したポアロは、次の事件に呼ばれてオリエント急行でヨーロッパに向かうが、その車中で殺人事件が発生し、旅の途中でも探偵をやるはめになるという筋書き。
原作は有名すぎて犯人を知っている人も少なくないはず。ポアロがいかにして謎を解くかが、みどころで、乗客たちの被害者との関わりが少しずつ明らかになっていく過程がおもしろい。
雪で立ち往生した列車の造形が美しく、被害者のいやなやつをジョニー・デップが演じているのも一興である。(2020.11)


リメンバー・ミー Coco
2017年 アメリカ 105分
監督:リー・アンクリッチ、 エイドリアン・モリーナ
声の出演:ミゲル・リヴェラ(アンソニー・ゴンザレス/石橋陽彩(ひいろ))、ヘクター(ガエル・ガルシア・ベルナル/藤木直人)、エルネスト・デラクルス(ベンジャミン・プラット/橋本さとし)、ママ・イメルダ(ココのママ、ミゲルのひいひいおばあちゃん。アラナ・ユーバック/松雪泰子)、ママ・ココ(ミゲルの曾祖母。アナ・オフェリア・ムルギア/大方斐紗子)、エレナ(ミゲルの祖母。レニー・ヴィクター/磯辺万沙子)、エンリケ・リヴェラ(ミゲルのパパ。ハイメ・カミル)、ルイサ・リヴェラ(ミゲルのママ。ソフィア・エズピノーサ/恒松あゆみ)フリーダ・カーロ(画家。ナタリア・コルドバ=バックリー/渡辺直美)、ダンテ(犬)、パピータ(ジャガー型の聖獣アレブリヘ)
メキシコの伝統行事「死者の日」のお祭りの日に起こる、死者と生者の交流を描く物語。
代々靴屋を営む家の子ミゲルは、ミュージシャンを夢見るギター少年だが、彼の家では音楽が禁止されていた。彼の曾祖夫はミュージシャンになるため曾祖母を捨てて家を出て行ったので、一族はミュージシャンを憎んでいたのだ。しかし、ミゲルは、古い写真から曾祖母を捨てた曽祖父が伝説のミュージシャン、エルネスト・デラクルスだと確信する。
「死者の国」に迷い込んだミゲルは、そこで知り合った骸骨のヘクターの助けを借りて、死者の国でも人気スターとなっているデラクルスに会うため、パーティの出場権を賭けた音楽コンクールに参加するのだった。
@祭壇に写真を飾られた死者は「死者の日」に「この世」である地上に降りていくことができる、Aこの世の人間が誰一人思い出さなくなった「死者」は、「死者の国」からも消え、完全に消滅してしまう、B死者の国に紛れ込んだ生者は日暮れまでに元の世界に戻らなければ永遠に戻れない、という三つの約束事をフルに活用した、極彩色のミュージカル・ファンタジー。
古い写真の、折って隠されていた部分からミゲルの父のギターが判明し、最後に破かれた部分をココおばあさんが大事に持っていたことによって父の顔が明かされる。見事な展開である。(2020.3)


美女と野獣 Beauty and the Beast
2017年 アメリカ 130分
監督:ビル・コンドン
出演:ベル(エマ・ワトソン)、野獣(ダン・スティーヴンス)、モーリス(ケヴィン・クライン)、ガストン(ルーク・エヴァンス)、ル・フウ(ジョシュ・ギャッド)、
ルミエール(燭台。ユアン・マクレガー)、コグスワース(時計。イアン・マッケラン)、ポット夫人(ティーポット。エマ・トンプソン)、チップ(ティーカップ。ネイサン・マック)、プリュメット(はたき。ググ・ンバータ=ロー)、カデンツァ(チェンバロ。スタンリー・トゥッチ)、マダム・ド・ガルドローブ(タンス。オードラ・マクドナルド)、アガット(ハティ・モラハン)
録画を見る。時間の都合上、何回かに分けてみたので、前の方の細部を忘れてしまった。
ディズニーアニメの実写版。アニメ版はだいぶ前に見たが、ほぼ印象は同じである。
燭台、時計、ポット、カップ、たんすなどにされてしまった召使たちが、実写の方が器物に高級感があると思った。ベルは、アニメの方が大人っぽかったように思える。
ゴージャスな画面を楽しんだ。(2020.1)


ベイビー・ドライバー BABY DRIVER
2017年 アメリカ 113分
監督:エドガー・ライト
出演:ベイビー/マイルス(アンセル・エルゴート)、デボラ(リリー・ジェームズ)、ジョセフ(CJ・ジョーンズ)、ドク(ケヴィン・スぺイシー)、バッツ(ジェイミー・フォックス)、バディ(ジョン・ハム)、ダーリン(エイサ・ゴンサレス)、グリフ(ジョン・バーンサル)、バリスタ(ミカー・ハワード)、エディ(フリー)、ベイビーの母(スカイ・フェレイラ)

録画で見る。公開中に見たかったが逃した作品である。
老いた養父とともに暮らす青年ベイビーは、卓越した運転の腕を買われ、「逃がし屋」として犯罪者ドクに雇われている。ベイビーは、幼いころの事故で両親を失い、聴覚障害を患っている。ベイビーはドクに借金を返済し、犯罪から足を洗うつもりで堅気の仕事を始めたが、彼のことが気に入っているドクは、再び彼を犯罪に引き込んでいく。
ベイビーは常にアイポッドで音楽を聴いているが、作戦会議で説明された段取りはしっかり頭に入っている。アクションは、彼が聞く曲に合わせてリズミカルに展開する。サングラスとアイポッドを装着したまま、華麗なハンドルさばきで激しく車を駆るベイビーは、クールである。
とにかくスタイリッシュでオシャレだ。しかし、オシャレなのに、オシャレなものにありがちな、うすっぺらさととか押しつけがましさとかが感じられず、私でもとてもおもしろく見られるのが不思議だ。
ドクは、犯罪の計画を立て、その都度メンバーを集めて決行、という方法を取っている。バディとダーリンの犯罪者カップル、二度目の強盗から加わるこわもてのバッツなど、犯行グループの面々もなかなかユニークである。ベイビーに、好きな女ができたと知ったとたん、それまで冷酷非情なボスだと思われたドクが、急に父親のような情けを示すのが、意外で新鮮だった。(2019.11)

キングコング 髑髏島の巨神 KONG: SKULL ISLAND
2017年 アメリカ 117分
監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ
脚本:ダン・ギルロイ、マックス・ボレンスタイン
出演:ジェームズ・コンラッド(元SAS大尉。トム・ヒドルストン)、プレストン・パッカード大佐(米陸軍ヘリコプター部隊スカイデビルズ指揮官。サミュエル・L・ジャクソン)、ビル・ランダ(モナークMONARCHの地質学者。ジョン・グッドマン)、ヒューストン・ブルックス(地質学者。コーリー・ホーキンズ)、メイソン・ウィーバー(カメラマン。ブリー・ラーソン)、サン(生物学者。ジン・ティエン)、ヴィクター・ニーブス(衛星ランドサット現地調査団責任者。ジョン・オーティス)、ギブソン(ランドサット衛星調査員。マーク・エヴァン・ジャクソン)、ジャック・チャップマン少佐(トビー・ケベル)、コール大尉(シェー・ウィガム)、ミルズ兵曹長(ジェイソン・ミッチェル)、スリフコ兵曹長(トーマス・マン)、レルス上等兵(ユージン・コルデロ)、ハンク・マーロウ中尉(米軍パイロット。ジョン・C・ライリー)グンペイ・イカリ(MIYAVI)、イーウィス族、アル・ウィリス上院議員(リチャード・ジェンキンス)

コング、スカル・クローラー(巨大トカゲ)、バンブー・スパイダー(巨大蜘蛛)、スケル・バッファロー(巨大水牛)、リバー・デビル(巨大たこ)、サイコ・バルチャー(翼竜)、スポア・マンティス(巨大昆虫)
「キング・オブ・モンスター ゴジラ」公開前に、テレビ放映を見る。
1944年、太平洋戦争時、戦闘中にとある島に墜落した米軍パイロットと日本軍パイロット。激しく戦う二人の前に巨大なゴリラが姿を現す。
というオープニングから、タイトルクレジットを経て、一気に30年後のベトナム戦争終結時の1973年へ。国の特別研究機関モナークの科学者ランダとブルックスはウィリス上院議員から禁断の孤島髑髏島での調査の承認をとりつける。元特殊部隊のコンラッドをリーダーに、モナークの学者たちと戦場カメラマンのウィーバーとNASAの衛星調査員らからなる調査団が、パッカード大佐率いる軍の護衛を伴って島を目指す。一行は常に島を取り巻く激しい嵐を抜けて髑髏島に到着する。地質の研究のため(実は巨大生物をおびき寄せるため)、ヘリ部隊スカイデビルズによる爆撃を開始するや否やキングコングが姿を現し、暴れまくってヘリ部隊を叩きのめす。
映画はここまで一気呵成に進み、最初からぐいぐい引っ張られる。
調査隊は、ヘリを大破され、仲間を殺され、仲間とはぐれ、惨憺たる目に遭い、到着してすぐ撤退を余儀なくされる。彼らは、島に棲む巨大生物の出現に怯え、攻撃をかわしながら、迎えがやってくる北の岬を目指す。途中、太平洋戦争中に不時着し、先住民イーウィス族とともに30年間島で暮らしてきた米軍中尉マーロウと会う。マーロウは、コングは島の守り神であること、真の敵は地下にいる大型トカゲのスカル・クローラーであることを調査団に話して聞かす。が、部下の復讐に燃えるパッカード大佐は、コング退治に執着するのだった。
最初から最後まで、見せ場続きの勢いに乗った映画だ。
主役のはずのコンラッドはかなり控えめ、女性カメラマンのウィーバーの方が目立つが彼女もさほど大活躍というわけではない。意地になりどんどん孤立していくパッカード大佐がサミュエル・L・ジャクソンが演じていることもあって際立つが、調査隊内の面々はいずれも横並びという感じで、それぞれに好感が持て、いざこざもわかりやすくストレートに描かれてじゃまくさくない。
なにより主役はコング、敵はトカゲ、それで見ていて飽きない、モンスター映画の王道だ。(2019.5)


バッド・ジーニアス CHALARD GAMES GOENG / BAD GENIUS
2017年 タイ 130分
監督:ナタウット・プーンピリヤ
出演:リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)、バンク(チャーノン・サンティナトーンクン)、グレース(イッサヤー・ホースワン)、パット(ティーラドン・スパパンピンヨー)、リンの父(タネート・ワラークンヌクロ)
話題になった、タイの高校生カンニング・クライム映画。ギンレイホールでやっと見る。
カンニングシーンのはらはらどきどきのサスペンスは大変見応えがあった。ピアノを弾く手の動きを使ったカンニング方法は斬新だった。
アメリカの大学の受験資格が得られるSTICという統一試験の会場の監督官が、まるで警察が情報機関の捜査官のように、会場から逃れるリンを執拗に追い続けてくるのが、すごかった。
リンは、クールできりっとしていてよかった。高校内の貧困層と富裕層の格差ということでは「花より男子」と同じシチュエーションなのだが、こっちはずっとシビアだ。自分のことしか考えない高校生ばかり出てきて、真面目な男子奨学生パットもダークサイドに落ちてしまう。善人はリンの父親のしがない教師のみというのが切ない。(2019.3)

アウトレイジ 最終章
2017年 日本 ワーナー=オフィス北野 104分
監督・脚本:北野武
出演:大友(ビートたけし)、市川(大森南朋)、
花田(花菱会直参幹部。ピエール瀧)、西野(花菱会若頭。西田敏行)、野村(花菱会会長。大杉漣)、中田(花菱会若頭補佐。塩見三省)、森島(花菱会若頭補佐。岸辺一徳)、丸山(花田の手下のチンピラ。原田泰造)、
白山(山王会会長。名高達夫)、五味(山王会若頭。光石研)、
吉岡(木村組組長。池内博之)
李(白竜)、張(金田時男)、崔(津田寛治)
繁田(警視庁組織犯罪対策課刑事。松重豊)、平山(警視庁組織犯罪対策課刑事。中村育二)
ケーブルテレビの放映を録画して見た。
韓国人の大物フィクサー張の庇護下に入った大友は、韓国の済州島にいた。
そこに観光にきていた花菱会の幹部花田がトラブルを起こして張の手下を殺してしまい、日本に逃げ帰る。
日本の花菱会では、証券マン上がりの新会長野村が幅をきかせていたが、古参の若頭西田はそれが気に入らず、野村も西田の存在を煙たく思っていた。花田と張のいざこざが日本に持ち込まれてくると、野村は西田の部下の若頭補佐中田に、兄貴分の西田を裏切り、張一味のしわざと見せかけて西田を襲撃するようけしかける。が、中田は西田に野村の策略をばらし、西田は自分の死を偽装する。
花菱会の内紛と張のグループとの対立が入り乱れ、一触即発の事態になっていく。そんな中、大友は、子分の市川を連れて帰国し、張への恩義に報いようと暴走する。
自分の欲得だけ考えてその場しのぎの襲撃を繰り返すうちに、どんどん事態が悪化していくという、いつもの展開。肩をいからしていきがっていた強面の男たちがあたふたし出すのが見どころといえば見どころである。
今回は、記念パーティに大友と市川がマシンガンを持って殴り込みという派手な銃撃シーンが見られる。(2019.2)
関連作品:「アウトレイジ」(2010)、「アウトレイジ ビヨンド」(2012)

グレイテスト・ショーマン THE GREATEST SHOWMAN
2017年 アメリカ 104分
監督:マイケル・グレイシー
製作総指揮:ジェームズ・マンゴールド他
出演:P・T・バーナム(ヒュー・ジャックマン)、チャリティ・バーナム(ミシェル・ウィリアムズ)、キャロライン・バーナム(オースティン・ジョンソン)、ヘレン・バーナム(キャメロン・シェリー)、フィリップ・カーライル(ザック・エフロン)、ジェニー・リンド(レベッカ・ファーガソン)、アン・ウィーラー(空中ブランコ乗り。ゼンデイヤ)、レティ・ルッツ(髭女。キアラ・セトル)、W・D・ウィーラー(アンの兄。ヤーヤ・アブドゥル=マティーンニ)、親指トム将軍(サム・ハンフリー)、ヴィクトリア女王(ゲイル・ランキン)
DVDで見る。
冒頭の音楽のイントロがずっと耳につく。
前代未聞のショーの興行で人気を呈したショーマン、P・T・バーナムの物語。
19世紀半ばのアメリカ、貧しい少年だったバーナムは、幼馴染のお金持ちの令嬢チャリティと恋に落ちる。チャリティは家を捨ててバーナムと結婚する。バーナムは博物館を開館するが、客はほとんど来ない。生きているものでないとだめだと思い立った彼は、親指トム将軍、髭女、太った男、イレズミ男、犬少年と言った異形の者を集めて、盛大なショーを立ち上げる。
バーナムとショーの出演者たちとのやりとりはそんなにはじっくり描かれず、問題が起こってもすぐ解決するので、ショーマンの一代記というよりは、カラフルなショーを楽しむための映画である。(2018.8)

孤狼の血
2017年 日本 東映 126分
監督:白石和彌
原作:柚月裕子「孤狼の血
出演:<広島県警呉原東署>大上章吾(刑事二課主任・巡査部長。役所広司)、日岡秀一(巡査。松坂桃李)、毛利克志(所長・警視正。瀧川英次)、友竹啓二(係長・警部補。矢島健一)、土井秀雄(主任・巡査部長。田口トモロヲ)、有原巡査(沖原一生)、菊地巡査(さいねい龍二)、<広島県警>嵯峨大輔(監察官・警視。滝藤賢一)、岩本恒夫(調本部長・警視長。井上肇)、
<広島仁正会系・五十子(いらこ)会>五十子正平(会長。石橋蓮司)、吉原圭輔(舎弟。中山俊)、金村安則(幹部。故人。黒石高大)、<同・加古村組>加古村猛(組長。嶋田久作)、野崎康介(若頭。竹野内豊)、吉田滋(構成員。音尾琢真)、苗代広行(構成員(関取)。勝矢)、<全日本祖国救済同盟>瀧井銀次(代表。ピエール瀧)、瀧井洋子(銀次の妻。町田マリー)、<呉原金融>上早稲二郎(経理係。駿河太郎)、上早稲潤子(上早稲の妹。MEGUMI)、<養豚業者>善田新輔(九十九一)、善田大輝(岩永ジョーイ)
<尾谷(おだに)組>、尾谷憲次(組長(服役中)。伊吹吾郎)、一之瀬守孝(若頭。江口洋介)、備前芳樹(構成員。野中隆光)、永川恭二(構成員。中村倫也)、柳田タカシ(構成員。田中偉登)、賽本友保(構成員。ウダタカキ)、
<他>高木里佳子(「クラブ梨子」のママ。真木よう子)、岡田桃子(薬局店員。阿部純子)、高坂隆文(記者。中村獅童)


★ネタばれあり!★

映画「仁義なき戦い」シリーズを彷彿とさせる架空の暴力団の抗争を描いた警察小説の映画化。
概ね好評と聞くが、反応は人さまざまだと思う。こういう映画を見たことがない若い人たちは、えげつないシーンに顔をそむけるかもしれないし、初めて見る男たちの気張り合いに高揚するかもしれない、「仁義なき戦い」にしびれた世代には、よくぞ今こういう映画を撮ってくれたという人と、しょぜん昭和の時代は描けない、無理がある、という人がいるのではないかと思う。わたしは、3番目に当たるが、つい、それだけにいろいろ書いてしまった。偉そうだったら申し訳ないけど、それだけ盛り上がったということです。
冒頭、戦後の広島の暴力団の抗争の経過が、新聞記事やスチール写真とともにナレーションで説明され、構成員による抗争の場面が手持ちカメラで撮られているのは、いかにも「仁義なき戦い」で、飛び交う広島弁もなつかしく、やたら気張る男たちのやりとりも下ネタ会話も久しぶりだ。が、昭和を再現して「仁義なき戦い」を正面切ってやろうという無謀さはなく、よく言えば謙虚、逆に言えば及び腰ということになるか。いま、ヤクザ映画を撮るとしたらということをいろいろと考え巡らせて作ったようには思えた。
原作小説の死体の描写には凄惨なものがあったが、映画でも腐乱した人の首や水死体の顔を画面にはっきり映し出す。原作にはない、養豚場での拷問や、吉田の真珠のくだりなども、なかなかえぐい場面ではある。汚いものをちゃんと見せねばということなのか、しかし、どうも、いいとこの子が無理して下ネタをしゃべっているような感じがしてしまう。「クラブ梨子」のママ里佳子の若い愛人となったタカシや、鉄砲玉となって敵方に殴り込む尾谷組の若い衆の永川など、平成のきれいな顔の男子の中から、少しでも昭和のチンピラ面に近い顔の役者を選んだようにも思えて、そこは好感を持った。
原作でもそうだが、加古村組対尾谷組の対立の構図はわかりやすく、刑事である大上が仲介役となってなんとか抗争を食い止めようと奔走する。大上が両陣営とつながりがあるだけで、本家「仁義なき戦い」のように敵味方の筋が入り乱れてぐちゃぐちゃになることはない。どっちがどっち側の人間か顔を覚える前に話が進むので混乱するが、話の展開自体はストレートである。
原作小説の方が映画「仁義なき戦い」シリーズとか「県警対組織暴力」に近い感じがする。瀧井(映画と違って右翼団体ではなくふつうのヤクザである)と大上は友だちだったし、一ノ瀬とももっと親密だったように思うが、映画では、ヤクザたちは大上にとって「駒」に過ぎないということになっている。
ヤクザの抗争のごちゃごちゃした内幕を暴くというよりも、めちゃくちゃやりよる悪徳ベテラン刑事と彼に振り回される新米刑事のバディものとなっていて、それでよかったと思う。原作では最後に明かされる日岡の秘密の任務は、映画では早々に明かされるが、それによって日岡の視点がはっきりして大上との関係性もわかりやすくなる。
ただし、実は大上が日置の日誌を見つけていて、添削していて、しかも最後に「ようやったのう。ほめちゃる。」と書き込んでいるというのは、私には、説明過多で甘すぎる蛇足に見えた。確かにわかりやすくて感動的だが、ここまでハードルを下げてしまっては、観客のものを見る目が損なわれてしまうのではと老婆心ながら心配になる。ハードで渋めの大上と日置の互いへの思いが台無しだ。大上が日置に「綱渡り」の話をし、日置がライターを見つけることで二人の交情は充分描かれていると私は思う。せっかく頑張って昭和の男たちの戦いを描いたのに、ここへ来て平成のやさしさが出てしまった感がある。
日置が大上のライターをつけたところで終わるラストカットはよかった。(2018.6)
関連映画:「孤狼の血 LEVEL2」(2021)

帝一の國
2017年 日本 公開東宝 118分
監督:永井聡
原作:古屋兎丸「帝一の國」
出演:赤場帝一(菅田将暉)、榊原光明(志尊淳)、東郷菊馬(野村周平)、大鷹弾(竹内涼真)、氷室ローランド(間宮祥太朗)、駒光彦(鈴木勝大)、森園億人(千葉雄大)、白鳥美美子(永野芽郁)、赤場譲介(吉田鋼太郎)、堂山圭吾(生徒会長。木村了)
娘たち(20代)がそろって面白かったと言っていたので、テレビ放映で見る。
超エリート男子校である海帝高校を舞台に、生徒会長の座を狙って生徒間で繰り広げられる壮絶な政治闘争を、大仰に、コミカルに、熱く描いて人気のマンガの実写化。かつて一世を風靡した男の野望劇画「野望の王国」の平成高校生ギャグ版といったような一面を持つとも思える。
全編を貫く暑苦しさ騒々しさに、見ていてめんどくさくなる人もいるかもしれないが、菅田将暉の勢いのよさを初め男の子たちがみんな元気で、話もとにかく可笑しいので、私は楽しく見た。こだわりなく、映画で「マンガをやる」という姿勢が潔い。
帝一と美美子の糸電話のシーンは何度も出てくるので、ただ糸電話で話すというだけでなく、せっかくの糸電話なのでもうちょっと情趣が感じられると、メリハリが聞いて味わい深くなったのではないかと思った。(2018.4)


ブレードランナー2049  BLADE RUNNER 2049
2017年 アメリカ 163分
監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
出演:K(ライアン・ゴズリング)、リック・デッカード(ハリソン・フォード)、ジョイ(アナ・デ。アルマス)、マリエット(マッケンジー・デイヴィス)、ラヴ(ウォレス社勤務のレプリカント。シルヴィア・フークス)、アナ・ステリン(記憶デザイナー。カルラ・ユーリ)、ジョシ警部補/マダム(Kの上司。ロビン・ライト)、サッパー(農夫・旧型レプリカントの逃亡者。デイヴ・バウティスタ)、ニアンダー・ウォレス(ジャレッド・レトー)、フレイザ(レプリカント解放同盟リーダー。ヒアム・アッバス)、ガフ(エドワード・ジェームズ・オルモス)、レイチェル(ショーン・ヤング)
35年ぶりの続編は、設定としては30年後の世界である。
主人公は、新型レプリカントのK。Kは記号で、名前はない。彼は、旧式のレプリカントを狩るブレードランナーで、LAPD(ロサンジェルス市警)の警官である。
彼が解任した(射殺した)レプリカントのサッパーの住まいから女性レプリカント(実はレイチェル)の遺骨がみつかり、彼女が妊娠・出産していたことが判明する。
本来生殖能力のないはずのレプリカントの子どもの存在は世の秩序を乱すとして、Kの上司のジョシ警部補は子どもをみつけて抹殺するようKに命じる。一方、レプリカント不足からその生殖を考えるレプリカント製造元ウォレス社の代表ウォレスは、研究のため、子どもを見つけてつれてくるよう、会社幹部の女性レプリカント、ラヴに命じる。
レプリカントは成人の状態で作られるため、子どものころの記憶は記憶デザイナーによって作られた物が移植されているのだが、Kは、子どもを捜すうち、自分の子ども時代の記憶が作り物ではなく、本当にあったできごとだったことを知る。自分がレイチェルの産んだ子どもだと思った彼は、父であるデッカードに会いに行く。デッカードは、放射能濃度が高く無人と化したラスベガスのカジノで隠遁生活を送っていた。
ネオンサインが映える、雨の止まないロサンジェルスの街の風景や、女レプリカントであるラヴの非情さと戦闘能力の高さなどが前作を思わせる。老人となったガフ(役者さんも同じ)が出てきて折り紙を見せるのもなつかしかった。
前作でデッカードはレプリカントのレイチェルと恋に落ちるが、Kは、AI搭載のフォノグラムの美女ジョイが恋人である。Kを愛するジョイは、まるでドラマに出てくる幽霊のように、生身の女性の身体に同化して、Kと交わりたいという望みを叶える。彼女とKとのやりとりは十代の恋人同士のようにぎこちなくて切ない。
設定が込み入っていて、映画を見ただけではよくわからない。前作を見ていないとわかりにくいし、検索して確認しないとあいまいなことも多い。さらに検索してもわからないことがあって困る。例えば、木でできた馬の玩具の記憶はだれがなんのためにKに植え付けたのか、結局はっきり示されない。いろいろわからない部分があるのはハードボイルドにはよくあることなのだが、この場合はなんだかまあいいやと思えず、釈然としない感じが残った。
殺伐とした世界を主人公の男が物憂げに行く様子は、前作の雰囲気が引き継がれているように感じられてよかったが、進み具合はゆっくりだ。自分の出自を求めてさまようKに共感できるかどうか。ゴズリングは悪くなかったが、当事者になってしまっているので、どうにもウェットだ。わたしは、前作は、主人公が傍観者として、関わった者たちの生きざまを目にしてやりきれない思いに浸るというチャンドラー的ハードボイルドの哀感が味わえるところがよかったので、そういう意味ではちょっと違った。コアなファンの間では、デッカードがレプリカントであるという説があるらしいが、わたしは、だから、デッカードはレプリカントでなくていいと思う方である。(2017.11)
前作:ブレードランナー(1987)

霊的ボリシェヴィキ
2017年 日本 製作:映画美学校 72分
監督・脚本:高橋洋
タイトル原作(言葉の提唱者):武田崇元(神道霊学研究家)
撮影:山田達也
録音・霊的効果音:臼井勝
音楽:長蔦寛幸
出演:由紀子(韓英恵/幼少期:本間菜穂)、安藤(由紀子の婚約者。巴山祐樹)、宮路(霊媒師。長宗我部陽子)、浅野(研究者。高城公祐)、片岡(助手。近藤笑菜)、長尾(老婦人。南谷朝子)、三田(元刑務官。伊藤洋三郎)、由紀子の母(河野知美)
公開に先駆け、試写会で見せていただきました。
高橋洋監督最新作は「霊的ボリシェヴィキ」というのだ、と聞いたときは「まさに!」と思った。しかも原作者(提唱者)が他にいるというのだから、映画のタイトルとしては実にゴージャスである。
とはいいながら、わたしは「霊的」についても「ボリシェヴィキ」についてもよく知らないのだった。大学時代に学生運動に打ち込んでいた年上の知人にこの映画について、「そういえば今年はロシア革命からちょうど100年なんだよね。それと何か関係あるの?」「で、映画はどのへんがボリシェヴィキなの?」とぐいぐい質問されたのだが、、わたしはどう答えていいかわからず、しどろもどろに「レーニンとスターリンの写真が飾ってありました」とか「みんなでロシア語の歌を歌ってました」とか答えるのがやっとだった。あとから考えると、登場人物らが霊的な「革命」を起こそうとする一団ってことなんかと漠然と思ったりしたのだが。
前作「旧支配者のキャロル」は、終始陰惨な空気の中に仰々しさが渦巻いていて、その迫力がすごかったのだが、今回はそれに比べるとだいぶ洗練されたつくりに思えた。
倉庫のような場所に、人の死に居合わせたことのある男女がゲストとして呼ばれる。幼いころ神隠しにあったという由紀子とその婚約者安藤、老婦人の長尾、元刑務官の三田の4人で、呼んだのは霊とかそういう研究をしているらしい学者っぽい男浅野、そして霊媒師の宮路(監督が好む、険しい顔つきをした足の悪い中高年の女性である)も同席している。なんの経過もなく、のっけからいきなり謎の会合というのは、たいへん潔い。
部屋にはたくさんの集音マイクが設置され、浅野の助手の片岡(若い女性)が彼らの話も含めそこに生じる音を録音し記録する。試写会で配られた資料には「強すぎる霊気により一切のデジタル機器が通用しないこの場所で、静かにアナログのテープが回り始める。」とあるが、映画の中ではそうした説明はないので何も知らずに映画に臨むと、なぜか旧式な録音機材で録音しているなあ、その方が何かものものしくてかっこいいからかなあ、監督の趣味かなあ、などと思いながら観ることになる。
冒頭の三田の死刑囚の話にはぐいぐいと引き込まれる。コティングレー妖精事件を引き合いに出すあたりも程よく気持ちがざわつく。写真が偽物だったことは説明されるが、その事実を超えてあの写真には不思議な吸引力があると、あれを目にした者なら大概そう感じるのではないか。霊気が高まっていることを示すのに、よくある星とか波とかが書かれたESPカードを使わずトランプを用いたのはエレガントだ。
全員が話し終わってそうして何が起こるのか、どきどき感が高まる中、霊媒師の宮路が「あの世」について発言するにあたって、状況は混乱を増していく。
映画「恐怖」のときも感じたが、見えないものを見せないことで、観る者の中にただならぬ恐怖を呼び込もうという姿勢は、揺るがないと思った。呼び込もうとしているのは桁外れのもの、映像は一方的に観るものだけでなく、映像の中の者も観る側に働きかけてくるというのは、高橋洋によって繰り返し示されてきたイメージだ。彼によればこれはライブ型エンターテインメント、霊体験を「楽しむ」、畏れ知らずの映画ということなのだろうか。 (2017.10)

ドリーム HIDDEN FIGURES
2016年 アメリカ27分
監督:セオドア・メルフィ
出演:キャサリン・G・ジョンソン(タラジ・P・ヘンソン)、ドロシー・ヴォーン(オクタヴィア・スペンサー)、メアリ―・ジャクソン(ジャネール・モネイ)、アル・ハリソン本部長(ケヴィン・コスナー)、ヴィヴィアン・ミッチェル(キルステン・ダンスト)、ポール・スタフォード(ジム・パーソンズ)、ジム・ジョソン大佐(マハーシャラ・アリ)、レヴィ・ジャクソン(オルディス・ホッジ)、ジョン・グレン(グレン・パウエル)、ルース(キンバリー・クイン)、カール・ゼリンスキーZielinski(オレク・クルパ)
1960年初頭。冷戦下にあるアメリカとソ連は宇宙開発で競い合っていた。ソ連がガガーリンを乗せた初の有人宇宙飛行を達成、遅れをとったNASAの開発陣営にとって有人宇宙飛行の成功は急務となった。
NASAのラングレー研究所の西計算グループに所属する3人の黒人女性たち、天才的な計算能力を持つキャサリン、グループのまとめ役のドロシー、黒人女性初のNASAの技師を目指すメアリーが、人種差別と女性差別という二重の差別を受けながらも、卓越した理系の能力と機転のよさで、道を切り開いていく。
人種差別を扱っているとはいえ、宇宙開発という夢のある目標を掲げて、ソフトで軽快な描き方をしているので、楽しく小気味よく見られる。口当たりがよすぎるくらいだ。ちかごろ「スカッとジャパン」というテレビ番組があって人気らしいのだが、私はあれは好きではない。「スカッと」を得るためにわざわざ周囲を貶めているようでたいへん志が低く思えてしまうのだ。この映画も後半は「スカッと」の連打であるが、にもかかわらず、わかっちゃいるにも関わらず、やったね!と気持ちよく思わされてしまうのだった。
計算能力が買われて白人しかいない宇宙特別研究本部に配属になったキャサリンは、「非白人用トイレ」のある別棟まで片道800mの道のりを毎日その都度往復しなければならない。計算書類のファイルを抱え、ハイヒールで小走りにトイレへ向かう彼女の様子が何度も繰り返し示される。(それもちょっとコミカルに描かれているのだが、これはちょっとやりすぎな気がした。なんでずっとハイヒールなのか、走らなきゃならないことはわかっているんだからスニーカーとかヒールの低い靴とかに変えればいいのに、と見ていていらっとしないでもなかった。それともハイヒールは大事なステイタスだったりするのか。)
しかしそんな彼女の苦労も知らず、ハリソン本部長は仕事場を抜け出してさぼってばかりいると彼女をなじり、なじられたキャサリンはついに堪忍袋の緒を切らす。
仕事一筋、有人飛行達成のために必要な優秀な人材なら人種差別などしていられない、とハンマーで「白人用トイレ」の看板をぶっこわすハリソンはやはりわかっちゃいるけど、よい役どころ。このたいへんな儲け役を渋くさりげなくこなすとはおそらく名のある俳優に違いないと思っていたら、ケビン・コスナーだった。さすがだ。
映画の内容は、1983年の有名映画「ライトスタッフ」につながる。エド・ハリスが演じた宇宙飛行士ジョン・グレンを演じるのはこちらではグレン・パウエル。渋かったエド・ハリスのグレンとはちょっと違って、終始さわやかで偏見を持たないナイスガイとして描かれている。NASAの職員が飛行機で降り立った宇宙飛行士たちを歓迎するシーン、グレンは、歓迎隊の列の一番端にひっそりと並ぶキャサリンたちの前にもやってきて気さくに声をかける。周囲の白人たちも驚くし、声をかけられたキャサリンたちも驚く。しかし、グレンはいたって無邪気だ。(この感じ、どこかで見たことがあると思っていろいろ記憶をたどると、ジョン・フォードの西部劇「駅馬車」の中継所のシーン、駅馬車の乗客から人間扱いされずにいた娼婦のダラスに無邪気なリンゴ・キッドのジョン・ウェインが声をかけるところに思い至ったのだった。)また、グレンは、いよいよロケット打上げというときにトラブルが発生した際、コクピットの中からハリソンに「あの女性(girl)にチェックさせろ。彼女が計算してOKと言ったら、僕は飛ぶ。」と要請する。こうしたグレンの言動にも、わかっちゃいるけど、スカッとしてしまうのだった。
ただ、彼ら白人男性の脇役に比べて、2人の黒人男性脇役、キャサリンの恋人となるジムとメアリーの夫レヴィは、男前だけどただ出てくるだけでどんな人なのかあまりちゃんと描かれておらず、魅力が感じられなかったのが残念だった。それって不公平(差別とまではいわないが)なんじゃないかと思ったりもした。(2017.10)

散歩する侵略者
2017年 日本 公開松竹=日活129分
監督:黒沢清
原作:前川知大「散歩する侵略者」(劇団イキウメの舞台劇)
出演:加瀬鳴海(長澤まさみ)、加瀬真治(松田龍平)、天野(高杉真宙)、立花あきら(恒松祐里)、桜井(長谷川博己)、明日美(前田敦子)、丸尾(満島真之介)、車田刑事(児島一哉)、鈴木社長(光石研)、品川(笹野高史)、牧師(東出昌大)、医者(小泉今日子)
★ネタバレあります!★
「蠱毒 ミートボールマシン」(下記参照)の後で見たこともあり、なんて知的で落ち着いた宇宙人地球侵略ものなんだろうと思った。
「僕は実は地球を侵略しにきた宇宙人なんだ」という言葉を不意に隣にいる人に言われたら。という絶望的に目新しくないネタを、まっとうに、淡々と、低予算でやっていて、それでもって、おもしろい。
偵察のため派遣された「彼ら」は3人いる。それぞれ女子高校生あきらと青年天野と会社員真治の身体を乗っ取っている。真治の妻鳴海は、行方不明だった夫を迎え入れるが、その豹変ぶりに戸惑う。
彼らは簡単に地球人を殺せるのだが、とりあえず地球人を知るため概念を盗む。盗まれた地球人の頭からはその概念が抜け落ちてしまう。真治は会社を辞め、近所を散歩しながら人々の概念を盗んで回る。「家族」を盗まれた鳴海の妹明日美はいささか険しい表情となるが、「自由」を盗まれた主婦はおだやかな表情となり、「所有」を盗まれた引きこもりの青年は生き生きとし、「仕事」を盗まれた中小企業の社長は喜々として楽しそうである。
ジャーナリストの桜井は、自分は宇宙人だという天野を当然最初は全く信じなかったが、やがてそれが本当であると認め、「ガイド」として彼と行動を共にし、あきらと合流する。鳴海と真治は、厚労省の官僚だと名乗る男笹野が率いるチームから追われ、桜井と天野とあきらは逃げる二人を探す。この地球人のガイドと宇宙人の混合チーム2組の様子が交互に描かれ、やがて彼らは出会う。警戒する鳴海に桜井が「ガイド」という言葉を告げるだけで鳴海が状況を理解するのは極めて効率的だったが、そのあとは、あきら・天野と真治がごく短い間向き合っただけで別れ、で、また会ってでもまたすぐ別れ、といったもたもたした展開となる。あんなに優位そうだったあきらと天野が倒れ、桜井は天野から地球襲撃のための情報の発信という無茶な任務を託される。それからの彼の中身は天野なのか、桜井本人なのか。宇宙人が、特に天野があまりにその辺の青年然としているせいか、この一連の成り行きには、なんとも奇妙で独特の味わいが漂っている。こういうのをオフビートというのか、でも、軽すぎるでなく、重すぎもせず、バランスがすごく微妙だ。
ラスト、宇宙人の侵略が始まる中、鳴海の心は夫への「愛」でいっぱいになり、「愛」を盗んだ「真治」はあまりの衝撃によろけ、しばらくして鳴海の中身は空洞となる。
結局愛が世界を救うというこれまた死ぬほどありがちな話なのだが、それも至ってそっけなく、さらりと描いていて、ハードボイルドだ。(2018.9)

蠱毒 ミートボールマシン
2017年 日本  100分
監督:西村喜廣 出演:野田勇次(田中要次)、三田カヲル(百合沙)、マミ(鳥居みゆき。ぼったくりバーの女。)、田ノ上(川瀬陽太。取り立て会社の社長)、長谷(村杉蝉之介。古本屋店長。)、酒井(三元雅芸。バイク野郎)、警官隊(島津健太郎、山中アラタ、屋敷紘子、栄島智、)、白線女(しいなえいひ)、CMの宇宙人(斉藤工)
宇宙人地球侵略ものバイオレンス・スプラッタ・どたばたコメディSFという感じか。 「蠱毒」とは、古代中国において行われた虫を使った呪術らしい。ウィキペディアによると、蛇、百足、蛙、ゲジゲジなど複数の生き物を器にいれて共食いをさせ、生き残ったものが神霊となり、その毒を恨む相手に飲ませると死に至るという。 本作では、宇宙人によってある町の一部がフラスコ状の空間に閉じ込められ、中にいた人間は謎の寄生生物にとりつかれて次々に内蔵っぽいデザインと色をした異形の戦闘マシン(「ネクロボーグ」というらしい)と化し、殺し合いを始める。首や腕や内臓が飛び、血の雨が降りまくる。 田中要次演じる野田勇次は借金の取り立て屋だが、気がやさしすぎて仕事ができず、社長に怒鳴られてばかりの日々を過ごしていた。そんな彼もネクロボーグと化すのだが、取り立て対象者の一人である美女カヲルに心惹かれていた彼は人としての魂を失うことなく、カヲルの救出に向かうのだった。 前半は勇次の切ない日常と宇宙人たちによって進められる侵略の様子が描かれ、後半は、ネクロボーグたちによる殺戮とカヲルを追う勇次の戦いが、騒々しく漫然と続く。 映画の中盤、ネクロボーグ化し始めた人々に勇次も観客も戸惑うが、物陰からネクロボーグの戦いの様子を見た勇次が、「怪物同士で殺し合うのか」とか「得意な道具を殺しの武器に使えるのか」とかいろいろ説明してくれるので助かった。 勇次はだんだんヒーローらしくなっていき、演じる田中の容貌もあってシュワルツェネッガーっぽく、かっこいいカットがあった。 ネクロボーグに立ち向かう武道家警官チームがなかなかよかった。(2017.9)
関連映画:「MEATBALL MACHINE -ミートボールマシン-」(2005年。監督:山口雄大・山本淳一、主演:高橋一生) 「ミートボールマシン」(1999年。監督:山本淳一、出演:渡辺稔久)

LOGAN/ローガン LOGAN
2017年 アメリカ 138分
監督:ジェームズ・マンゴールド
出演:ローガン/ウルヴァリン/X-24/ジェームズ・ハウレット(ヒュー・ジャックマン)、チャールズ・エグゼビア/プロフェッサーX(パトリック・スチュワート)、ローラ(ダフネ・キーン)、ドナルド・ピアース(ボイド・ホルブルック)、ドクター・ザンダー・ライス(リチャード・E・グラント)、キャリバン(スティーヴン・マーチャント)、ガブリエラ(エリザベス・ロドリゲス)、ウィル・マンソン(エリック・ラ・サール)、キャスリン・マンソン(エリゼ・ニール)、ネイト・マンソン(クインシー・ファウ) 

★ネタバレあります!!★
「X−MEN」シリーズの人気キャラクター、ウルヴァリンの最後の戦いを描く。
2029年、ウルヴァリンことローガンは、リムジンの運転手をして糊口をしのぎながら、90歳を超えて要介護状態にあるチャールズ(プロフェッサーX)の面倒を見ていた。太陽光を浴びると死んでしまう体質のミュータント、キャリバンも加え、3人で荒野に立つ廃倉庫でひっそりと暮らしていた。不死身のローガンも、アダマンチウム合金の爪の付け根が膿み始めるなど、老いてかつての治癒力が低下しつつあった。
そんな彼らの前に、ウルヴァリンと同様の能力を持つミュータントの少女ローラが現れる。彼女は、政府の極秘計画によって殺人兵器として人口受精で生み出されたミュータントの子どもたちの1人だったが、失敗作として抹殺されるところを逃れてきたのだった。
ローガンは、武装集団に追われる彼女を助け、チャールズも連れて、アメリカ大陸縦断の旅に出る。散り散りに逃げた子どもたちは、ノースダコタのある場所を目指していたのだった。赤茶けた中西部の荒野を舞台に3人の逃避行が描かれる。
西部劇の名作「シェーン」から多くの引用がなされている。登場人物たちがテレビで古い映画を見ることはよくあり、ワンシーンがぱっと映されて、後からあれは「○○(映画のタイトル)」だとマニアたちの間で話題になったりするものだが、本作の「シェーン」の引用は、これでもかというくらいの大サービスである。流れ者のガンマンシェーンは、開拓民のスターレット一家に身を寄せるが、その仲間の一人で元南軍のトーリーが殺し屋ウィルソンに打ち殺されるシーン、トーリーの葬式のシーン、クライマックスのシェーンとウィルソンの決闘シーン、そして決闘の後シェーンが少年ジョーイと別れの言葉を交わすシーンが、安モーテルの一室のテレビであるにも関わらず、大画面のきれいな映像でたっぷりと映し出される。
それらのシーンにじっと見入るローラ。施設で育って外の世界を知らないローラは、おそらくこの時、初めて埋葬と追悼を知ったのである。
彼ら3人が途上で出会って一宿一飯の世話になるマシスン一家が、スターレット一家とおなじ家族構成である。彼らは牧場を経営しているが、水の供給をめぐって地元の実業家から嫌がらせを受けているという状況まで、「シェーン」ぽい。が、「シェーン」と違って、彼らはむごい最後を迎えることになる。
「人を殺したものは後には戻れない、それはずっと自分について回る」といったシェーンの言葉は、ローラがローガンと交わした言葉と重なる。それがあるがゆえに、ローラがラストに暗唱するシェーンのセリフは、追悼の言葉であるとともに彼女自身への言葉でもある。
かつての万能ぶりを失いつつ戦うローガン、味わいのある高齢者となったミスターX、クールな少女ローラ、3人が3様によかった。(2017.7)
<ローガンとシェーンの言葉>
●ローガンとローラ

Laura: I've hurt people too.
Logan: You're gonna have to learn how to live with that.
Laura: They were bad people.
Logan: All the same...
(ローラ:わたしも人を傷つけた。
ローガン:おまえはそれを背負って生きるすべを身につけなければならない。
ローラ:みんな悪い人たちだった。
ローガン:同じことだ。)
●シェーンとジョーイ
Shane: A man has to be what he is, Joey. Can't break the mould. I tried it and it didn't work for me.
Joey: We want you, Shane.
Shane: Joey, there's no living with... with a killing. There's no going back from one. Right or wrong, it's a brand. A brand sticks. There's no going back. Now you run on home to your mother, and tell her... tell her everything's all right. And there aren't any more guns in the valley.
(シェーン:人は変えられないんだ、ジョーイ。型は破れない。やってみようとしたが、だめだった。
ジョーイ:行かないで、シェーン。
シェーン:ジョーイ、人を殺す者にまっとうな暮らしはできない。戻る道はない。正しかろうが、間違っていようが、それは烙印となって、ついて回るんだ。家に帰っておかあさんに、もう大丈夫だと伝えてくれ。この谷から銃はなくなったと。)

関連作品:「X−MEN2」(2003)、「ウルヴァリン:SAMURAI」(2013)
シリーズ作品一覧(上記以外は見てません)
ウルヴァリン:X-MEN ZERO(2009) 第1作
ウルヴァリン:SAMURAI(2013) 第2作
LOGAN/ローガン(2017) 第3作
X-メン(2000) オリジナル・シリーズ第1作
X-MEN2(2003) オリジナル・シリーズ第2作
X-MEN:ファイナル ディシジョン(2006) オリジナル・シリーズ第3作
X-MEN:ファースト・ジェネレーション(2011) シリーズ第1弾
X-MEN:フューチャー&パスト(2014) シリーズ第2弾
X-MEN:フューチャー&パスト ローグ・エディション(2014) シリーズ第2弾・別バージョン
X-MEN:アポカリプス(2016)

22年目の告白−私が殺人犯です−
2017年 日本 公開ワーナー 117分
監督:入江悠
出演:曽根崎雅人(殺人犯。藤原竜也)、牧村航(刑事。伊藤英明)、岸美晴(書店員。夏帆)、橘大祐(やくざ。岩城滉一)、戸田丈(橘組構成員。早乙女太一)、山縣明寛(医師。岩松了)、滝幸宏(牧村の上司。平田満)、牧村里香(牧村の妹。石崎杏奈)、小野寺拓巳(里香の恋人。野村周平)、春日部信司(刑事。竜星涼)、川北未南子(編集者。松本まりか)、仙堂俊雄(中村トオル)
★ちょっとネタバレあります!★
1995年、東京で5件の連続殺人事件が発生。被害者とその近親者を拘束し、被害者が絞殺される様子を近親者に目撃させるという残虐な犯行に世間は騒然とした。被害者と目撃者は、定食屋の主人と妻、会社員と妻(二人の娘が美晴)、ホステスとヤクザ(橘)、医師夫人と医師(山縣)、事件担当の刑事(滝)とその部下の刑事(牧村)だった。
それから22年後、時効を廃止する法案ができるが、この事件はその法案が施行される前に時効となるため、新法は適用されず時効が成立、それを盾に犯人が名乗りを上げる。曽根崎雅人と称するその男は事件の全貌を記した著書を出版する。当時事件を担当し上司を殺された牧村はじめ、被害者の遺族たちのやりきれない思いをよそに、曽根崎はそのイケいけてる容貌もあって女性ファンもでき、巷を騒がせる。サイン会にファンが殺到し、その会場で橘の組の構成員戸田が曽根崎を襲撃しようとしたのを牧村らが制止する。正義派ニュースキャスターの仙堂は、曽根崎と牧村を生放送のスタジオに呼ぶ。が、そこには二人の他にもゲストがいた。それは、真犯人しか撮れないはずの動画を投稿してきた男だった。
過去に起こった陰惨な事件のスピーディな説明と22年後の新展開が煽情的に描かれて、前半はぐいぐいと引っぱられるように見てしまう。藤原竜也のふてぶてしいイケメン犯人ぶりは、やっぱりこうかと思いつつも安定して楽しめる。中村トオルの登場により後半の展開がなんとなく予想できてしまい、別荘での真相解明の段になると、いささか緊張感が薄れてしまったように感じた。
5人の被害者といいながら4人の被害者の遺族しか出てこず、最初の定食屋の主人とその遺族にはほとんど触れないので見ている間中それがひっかかって、後から5人目の遺族が出てくるのかと勘繰ったりもしたのだが、これは単に出てこないだけだった。(2017.7)

スプリット SPLIT
2017年 アメリカ 117分
監督・脚本:M・ナイト・シャマラン
出演:ケビン/バリー/デニス/パトリシア/ヘドウィグ/ビースト?/他(ジェームズ・マカヴォイ)、ケイシー(アニヤ・テイラー=ジョイ)、クレア(ヘイリー・ルー・リチャードソン)、マルシア(ジェシカ・スーラ)、ドクター・カレン・フィッチャー(ベティ・バックリー)、デヴィッド・ダン(ブルース・ウィリス)、ジャイ(フーターズ好きの男。シャマラン)
シャマラン監督が、DID(解離性同一性障害)の男を犯人に据えた女子高生誘拐・監禁事件を描く。
3人の女子高校生が見知らぬ男に誘拐され、窓のない部屋に監禁される。犯人が多重人格者であることはすぐ明かされる。女子高校生たちは脱出を試み、男のかかりつけのドクターは面会に来た男の様子がいつもと違うことに気づく。
映画は、男の住まいとドクターの事務所兼住居のほぼ二つの建物内部のみを舞台として、進行していく。男の住まいは、コンクリートむき出しで、長い廊下に沿って部屋がたくさん並んでいて、窓がない、ちょっと不可思議な建物である。建物の外景はずっと示されず、いきなり拉致されてきた女子高生らと同様、見る側も閉塞感が高まる。もうひとつの場所、一人暮らしの老女であるドクター・フレッチャーの家は、マンションの高層階にある。らせん階段が何度も映し出される。
主な登場人物は、犯人の男と女子高生3人とドクターの5人だけ、でも男の中にはいくつもの人格があって彼らが入れ替わり立ち代わり登場する。男はケヴィンという名だが、3人を誘拐したのは潔癖症で用意周到なデニス、ドクターと面会するのは服飾関係の仕事をしていて物腰柔らかなバリーである。ほかにデニスと仲のいい女性のパトリシアと、9歳の少年ヘドウィグなどがいる。バリーからデニスに変わるマカヴォイの顔の演技(顔芸と言っては軽すぎるか)はかなりおもしろい。そしてドクターも知らない24番目の人格ビーストが誕生する。女子高生3人はビーストの生贄として拉致されてきたのだとパトリシアは言う。
浅はかではあるが、前向きに脱出を試みるクレアとそれに協力しようとするマルシア、しかしケイシーはあまり動こうとしない。ケイシーは普段から一人でいてみんなに打ち解けない娘なのだが、合間合間に彼女の過去が挿入される。狩猟好きの父に連れられて狩りにいった記憶。ケイシーは銃が扱えるという前振りにとどまらず、不穏な雰囲気の叔父が登場し、父親の死後彼に引き取られた彼女が虐待を受けてきた厳しい現実が示されていく。
映画には、デニス「たち」による犯罪の進行と同時に、母の虐待に耐えるために自分の中に多くの人格を誕生させたケヴィンと、すべてを諦め受け入れていた生活から逃れようとするケイシーの、二人のドラマが盛り込まれている。「シビル」「24人のビリー・ミリガン」などを読んだことがあり、多重人格について多少記憶が残っていたので、完璧を求める母の虐待からケヴィンを守るため、なんでもそつなくこなすデニスはケヴィンが3歳の時に生まれたという話が、わりとすっと頭に入ってきた。みんなのまとめ役のバリーが立場を侵食されていき、それをドクターも察するのだがすでに手遅れだったという展開である。
ビーストとはなんなのか、実在するのか、という謎が彼が正体を現すことで明かされるが、それにより、物語は複雑な精神世界の話から一気にサスペンス・ホラー・アクションの様相を呈してくる。迫ってくるビーストに対し、ケイシーはショットガンを向ける。
救助され、パトカーで待つケイシーに、叔父が迎えに来たと女性警官が告げに来る。家に帰ればまたひどい境遇が待っている。ケイシーは、呼びに来た警官をじっと見る。この警官が女性であることが大事で、今まですべてをあきらめていたケイシーが、未来を切り開こうとしているのではないかということが暗示される。
格調の高さと俗っぽさの混じりあいを絶妙と感じるか、唖然とするか。シャマラン監督による低予算映画ならではの味わいが、個人的にかなりツボである。
ラストは次回作告知のおまけつきで、意外な人が顔を見せるが、「アンブレイカブル」を見ていないのでピンと来なかった。(2017.6)
関連映画:「アンブレイカブル」(2000年)、「ミスター・ガラス」(2018年)

いぬむこいり
2017年 日本 製作:ドッグシュガー 公開:太秦 4時間(245分)
監督:片島一貴
主題歌:「カオス」勝手にしやがれ
出演:二宮梓(有森也実)、アキラ(武藤昭平)、奥本健吉(柄本明)、沢村芳雄(石橋蓮司)、堅(笠井薫明)、鈴木海老蔵市長(ベンガル)、レイコ(江口のりこ)、ユリナ(尚文)、翔太(山根和馬)、花子(韓英恵)、米兵(パスカル・クロード)、ナマゴン(PANTA)、卑弥呼(緑魔子)
4時間の長尺である。私は、理想的な映画の尺は100分以内と常々思っているので、2時間半超える映画は内容にかかわらず腰が引けるのだが、監督の片島さんは、大学時代のシネ研の先輩、Facebookで、「いぬむこいり」ページの更新お知らせを目にするたびに、「俺がこれだけ気合入れて撮ったんだから、おまえの4時間を俺にくれよ!」と、昔と変わらぬ口調で言われているような気がして、見に行ったのだった。
先に見た知人からは、あまり長さを感じなかったよという感想を耳にしていたのだが、やっぱり4時間は長かった。でも、最近は、主にマンガを原作とする映画において1つの作品を2つに分けて作る傾向がみられ、中でも「進撃の巨人」など1本分の内容を無理に2本に分けているようでなんだかなあと思っていたのだが、それに比べればこれだけのものを1本として一気に見てくれという姿勢は潔いと思った。
冴えない中年女性の自分探しの旅に、革命と戦争が絡んだ、犬婿伝説ファンタジーである。
4章構成で、1章「悪意とお告げ×東京」、2章「ゲバラとレノン×沖之大島」、3章「犬男×無人島」、4章「戦争×伊藻礼(イモレ)島」というタイトルがついている。
東京の小学校教師の梓は、唐突に神のお告げを受け、宝物を求めて沖之大島の近くにあるというイモレ島を目指す。が、沖之大島で詐欺師のアキラに持ち物を盗まれ、奥本という老人が営む三線屋に住み込みで働くこととなる。その後、島を牛耳る悪徳市長を倒そうとする革命グループのリーダー沢村(奥村とは旧知である)に押されて市長選に立候補する羽目になりと、話はヘンテコな方向に進んでいく。お告げが梓に示したイモレ島では、ナマ族とキョラ族が70年もの間戦争を続けていて、沢村はそのナマ族に武器を売って活動資金を稼いでいるのだった。彼の取引を横取りしようとするレイコとユリナの小悪党カップルが登場し、さらに沢村率いる革命集団、沢村の息子の堅とバンド仲間、市長のバカ息子とその取り巻き、梓の支援ボランティア、市長の支持者らなど、たくさんの人々が顔を出すが、結局梓は選挙に負け、沢村は選挙法違反の罪で逮捕されて拷問され、奥本は抗議の焼身自殺を図るという割と凄惨な展開となる。後半に入り、梓は、危険を承知でアキラとともに船でイモレ島を目指すが、嵐に遭って遭難、無人島に漂着する。彼女は島に1人でいた青年翔太と暮らし始めるが、翔太はナマ族の王子であり、実は犬男だった。普段は菜食主義でおだやかな性格の翔太だが、犬男に変身すると獰猛な肉食動物(食欲的にも性欲的にも)と化すのだった。そこに翔太の許嫁の花子が現れて三角関係になったり、オスプレイが不時着して瀕死のアメリカ兵を助けたりとまたまたヘンテコな展開があるが、結局やっぱり梓は一人でイモレ島を目指す。イモレ島にたどり着いた彼女はナマ族の王ナマゴンの保護を受け、アキラと再会する。激しい戦闘が続く中、梓はお告げの宝物を求めて、アキラとともに犬神が祀られる島の聖地を目指す。そのとき彼女のお腹には翔太の子どもが宿っていたのだった。
雑多な話やイメージが入り乱れての4時間である。あれはなんだったのかと突っ込むとキリがないし、理論的な解釈は苦手なので、目に入ったものをそのまま見て楽しんだ。
鹿児島県の指宿市を主としたロケ地の風景が美しい。特に無人島の廃墟がとてもよい。
登場人物が海に落ちたり、イモレ島でのシーンではひっきりなしに雨が降っていたり、とにかく後半は人がよくびしょぬれになる、そこに作り手側の並々ならぬパワーを感じた。
話はずっと梓を追っているのだが、彼女に絡むアキラ役の武藤昭平が魅力的だった。特にラストは、愛する女を守ろうとして守り切れない男の切なさがひしひしと伝わってきて、とてもよかった。それは「たとえば檸檬」の伊原剛志にも(言ってしまえば片嶋さんが学生時代に撮った8ミリの自主製作映画などでも)感じられたものだ。(「アジアの純真」を始め他の作品はあまり見ていないのでわからないのだが。)
アキラは、前半は、軽薄だけど憎めないペテン師として登場し、梓の夫を自称したいかがわしさ丸出しの選挙支援要員となるが、後半は、キョラ族に捕虜として捕らえられ脱走して、ナマ族の兵士となる。梓との関係では、似非夫からやがて本当の夫らしくなり、最後は血のつながらない異形の子の父親となっていく未来を思わせて映画は終わる。このアキラの身の上の変遷を見るのはおもしろく、そしてそれは4時間という長丁場を経ないと味わえなかったのではないかと思う。(2016.5)


グレートウォール  長城 THE GREAT WALL
2016年 中国/アメリカ 103分
監督:チャン・イーモウ
出演:ウィリアム(マット・デイモン)、トバール(ペドロ・パスカル)、バラード(ウィレム・デフォー)
リン・メイ隊長/将軍(ジン・ティエン)、ワン軍師(アンディ・ラウ)、ポン・ヨン(ルハン)、シャオ将軍(チャン・ハンユー)、ウー隊長(エディ・ポン)、チェン隊長(ケニー・リン)、ドン隊長(ホアン・シュアン)、皇帝(ワン・ジュンカイ)
★ねたばれあります!★
万里の長城という雄大な建造物を題材に、豪快にでっちあげられた、ファンタジー・歴史アクション。昨年、中国を訪れ、長城の上を実際に歩いてその雄大な景色に大いに感じ入ったので、長城目的で見に行った。
西欧の傭兵ウィリアムとトバールは、中国にあると言われる黒色火薬を手に入れて一儲けしようと部隊を組んで旅をするが、中国との国境近くで馬賊の襲撃に遭ったうえに、謎の怪物に襲われ、二人だけになってしまう。二人は、国境に築かれた巨大な壁(長城)の砦に駐留している禁軍に捕らえられる。禁軍は皇帝直属の軍で、彼らは60年に一度やってきて国を食い荒らす恐ろしい怪物(トウテツという)の大群の襲撃に備えているのだった。ウィリアムらを襲った怪物がそれであり、一人で怪物を倒したウィリアムは戦士として一目置かれることになる。(後でそれは磁石の影響もあったことが明かされるが。)
時代は、解説では宋朝(960年〜1279年)とある。ウィリアムは黒色火薬を求めて中国に来ているのでまだ火薬が西欧に広まっていない時代であり、また彼はフランク王国(481年〜987年)で戦ったことがあると言っていることから、10世後半くらいかと推測される。武器は剣と弓と投石器である。
チャン・イーモウ監督は、「HERO英雄」などで極彩色の衣装が宙を舞う活劇を見せてくれたが、本作でもそれぞれの役目によって色分けされた部隊が登場する。これらの部隊は否が応でも黒澤明監督の「乱」における風林火山の軍隊を思い出させるが、公式HPのニュースによれば、この軍隊のデザインや色は中国の歴史伝統に基づいているという。「強さと工学知識を兼ね備えた猛虎軍団“虎軍”」は黄、「鷲のごとく鋭い矢を放つ射手隊 “?軍”」は赤、「歩兵と騎兵の混合部隊で機動力自慢の“鹿軍”」は紫、接近戦を得意とする五軍中最強の“熊軍”」は黒、そして、「鶴のように舞い華麗に敵を駆逐する“鶴軍”」は青である。
この鶴軍の兵士は全員女性であり、長城の天辺からバンジージャンプのようにロープを腰に巻いて飛び降り、地上にいる怪物たちを撃退する。「進撃の巨人」の「立体機動」を思い出させる戦法であるが(「壁」で怪物の侵入を防ぐというのも「進撃の巨人」ぽい)、飛び降りた彼女らが腰に付けた「輪」だけが血痕とともに引き揚げられ、砦の隅に積み重ねられていくのをウィリアムが目撃する場面などはなんとも悲壮である。
軍を指揮する将軍があっさり死んで、そのあとを若くて美人のリン隊長が継ぐ。リンとウィリアムの間に好感と信頼は生まれるが、恋愛の描写はごく薄めである。ウィリアムと相棒のトバールの連係プレイは見ていて楽しく、トバールは後半はあまり活躍せず、ウィリアムを置いていったりもするが、でも、この二人の相棒ぶりはなかなかよい。若い兵士ポン・ヨンとウィリアムの心の通い合いなどもよい。アンディ・ラウは、実践的で頭のよい軍師役で、アクションは見せないが、怪物が磁石に弱いことを発見し、磁石を翳して立ち回るところなど味わい深い。ウィリアム・デフォーはあまりいいとこがなくてちょっと気の毒な役回りであった。
鶴軍の「立体機動」的攻撃法の他にも、城壁の上の太鼓を一斉に叩いて怪物の襲来を報せたり、都までの移動にまだ不完全で危険なランタン(熱気球のようなもの。その前に将軍の葬式で小型のランタンがたくさん空を舞う様を見せている)を使ったり、怪物がなぜ60年周期で来てまたなぜ磁石に弱いのかは不明のままだったり、そもそも万里の長城が怪物を迎え撃つために造られたものであるということになっていたり、割とむちゃなとこはいろいろあるし見る人によっては突っ込みどころ満載かもしれないが、細かいことは置いといて、力強くカラフルな映像を楽しめばよいと思う。
ただひとつ私にとっての難点は、せっかくの長城がトンネルを掘られてあっさり通り抜けられてしまい、最後の決戦は都が舞台となったことだ。捕らえた怪物に黒色火薬をつけて女王のところに向かわせ、その爆弾を塔の上から(この塔がまたきれい)射るといった展開はよかったが、できれば長城で豪快にクライマックスを迎えてほしかったと思う。(2017.5)

なりゆきな魂、
2017年日本 配給:ワイズ出版(株) 107分
監督・脚本:瀬々敬久
原作:つげ忠男著 「成り行き」「夜桜修羅」「懐かしのメロディ」(『成り行き』所収)、「音」(『つげ忠男のシュールレアリズム』所収)
出演:京成サブ(三浦誠己)、サブの女(町田マリー)、少年(花村。佐藤優太郎)
花村(柄本明)、仙田(足立正生)、有希(山田真歩)、城ケ崎(後藤剛範)、仙田の妻(石川真希)
忠男(佐野史郎)、高野(柳俊太郎)、あつ子(中田絢千)、忠男の妻(ほたる)
國元夏海(OL。國元なつき)、阿部幸治(会社員。関 幸治)、阿部の妻(阿部栞奈)、蟹瀬瑠菜(バレリーナ。蟹瀬令奈)、安野恭太(夫。安野恭太)、安野玉緒(妻。吉村玉緒)、安野嘉世(娘。坂上嘉世)、亀岡園子(母。亀岡園子)、亀岡萌由(娘。島津萌由)、小林寧子(母。小林寧子)、小林愛美(娘。葵來沙)、木口健(愛美の婚約者。木口健太)、ウエダ(高校生。植田靖比呂)、クドウ(高校生。工藤優太)、ミヤウチ(高校生。宮内勇輝)、バス会社社員(大門嵩)、バス運転手(最初に生き残る方。増田健一)、バス運転手(あとで生き残る方。管勇毅)、小田哲也(小田哲也)、真菜美(小田の同棲相手。廣川真菜美)
次女が中学生の時のPTAでいっしょに広報委員をやった小林さんが俳優になって、バス事故の遺族の一人小林寧子役で出ているというので、ユーロスペースに見に行く。
ユーロスペースに見に行く。
つげ義春の弟つげ忠男の漫画4話に、映画オリジナルのバス事故の遺族の話を加えた、複数話同時進行のつくりの映画。さらにバス事故の遺族の話は、ちがう設定で同じ時間軸の話が繰り返される(事故で死んだ人が違っていたり、同じ人がバスに乗り遅れたり間に合ったりなど)。パラレルワールドというよりも、タイトルを考えれば人の運命は「なりゆき」次第で違ってくる、ということなのかと思う。
冒頭は、戦争直後のバラックで、サブという男が、アメリカ兵に喧嘩を売る話。その殴り合いの様子を見ている少年は、次の話に登場する老人花村のようである。
「なりゆき」は、釣りにでかけた二人の友人同士の老人が、男女の諍いを目撃して、暴力をふるう男から女を助けようとして、棒での殴り合いの末に殺人を犯してしまう話。
「夜桜修羅」は、満開の桜の木の下で出会った男女が、いい感じのやりとりから次第に険悪になってくんずほぐれつの壮絶な取っ組み合いになっていき、居合わせた初老の老人(つげ忠男らしい)が最初は止めようとするのだが、やがてただじっと眺めるだけになるという話。宣伝チラシやポスターの、顔を両手で覆いながらも指の隙間からこちらを覗いている男が、このときの忠男である。
これにバス事故で家族や友人や恋人を亡くした遺族の人たちと生き残った人たちの話が混じる。彼らは、会合場所で、それぞれ事故のことや今どんな心境かを語る。最初のバージョンではみんな近しい人を喪った悲しみを訴えるが、2つ目のバージョンでは、毒のある本音を暴露しだす。
金属バットや棒で人を殴るにぶい音や外れてキン、カンと物にあたる金属的な音など、こういうシーンや音をしばらくぶりに見聞きしたように思う。痛いんだけど、なんだか可笑しい。実際、暴力や殺人のシーンで、客席からは「いたっ!」「なに、どゆうこと?」といった声とともに笑いもけっこう起きていたし、それ以外でも、バス事故関連の最初のバージョンで、どっかの公民館の稽古場みたいなところで若い美女二人がいきなりバレエを踊りだすのも可笑しかった。
この稽古場の板の床がぼわぼわしていてステップを踏むたびにきしむのがなんとも言えず、裸の忠男とその妻が目の前にずらずらっと並べられた料理をひたすら貪るシーンでも、カラフルな料理がよく見るとカニ以外はそんなにゴージャスなものじゃなくてナポリタン(に見えた)や餃子を佐野史郎がむしゃむしゃ食べる様子を見ても全然うまそうじゃない。チープな感じはずっと漂っているし、流血や殺しの場面はけっこう出てくるのだが、画面は悪趣味でも貧弱でもなく、抑制が利いていると思った。シュールなんかなと思うと、バス事故関係者の人たちの生き方や人間関係についてのお悩み暴露みたいな話になったりするが、とっちらかっているようでいて、そうでもない、最後は柄本明が冒頭のシーンを思うような感じできちんと締めて終わった。不条理劇はいろいろ解釈する人もいるだろうが、私はあまりできないので、目に入ってくるものをとりあえずそのまま受け入れて見ていくしかなく、結果、後味は悪くなかった。感想の書きにくい、不思議なテイストの映画だった。
推測:2017年2月8日のユーロスペースで役者さんたちの舞台挨拶があった。この映画は、「なりゆき」と「魂」に分かれており、このときの役者さんたちは「魂」班の人たちだそうで、4年前に撮った映像のアフレコを最近やったと言っていた。4年前というと、もしかしたら2012年4月に関越道で起こった悲惨なバス事故に触発されての「魂」班の話、そこに「なりゆき」部分が加わって、「なりゆきな魂、」となったのかなと思った。(2017.2)

映画ページ扉に戻る

トップページへ戻る