みちのわくわくページ

○ 外国映画(2008・9年)

<見た順(降順)>
ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女(スウェーデンほか)、 ダークナイト、 サブウェイ123 激突、 96時間、 グラン・トリノ、 スラムドッグ$ミリオネア、  レッド・クリフ PartU 未来への最終決戦、 レッド・クリフ PartT、 チェンジリング、 インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国、 イーグル・アイ、 ハプニング、  魔法にかけられて、 ノーカントリー、 ジャンパー、 スウィニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女 MAN SOM HANTAR KVINNON
2009年 スウェーデン/デンマーク/ドイツ 153分
監督:ニースル・アルデン・オプレブ
原作:「ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女」スティーグ・ラーソン著(2005年)
出演:ミカエル・ブルムクヴィスト(ミカエル・ニクヴィスト)、リスベット(ノオミ・ラパス) ヘンリック・ヴァンゲル(スヴェン=ベルティル・タウベ)、ハリエット・ヴァンゲル(ジュリア・スポーレ(少女時代)/エヴァ・フレーリング)、マルティン・ヴァンゲル(ペーター・ハーバー)、ディルク・フルーデ弁護士(イングヴァル・ヒルドヴァル)、グスタフ・モレル警部(ビヨルン・グラナート)、ニルス・ビュルマン弁護士(ペーター・アンデション)、プレイグ(トマス・ケーラー)
ウェーデンの人気ミステリ小説3部作の第1作を映画化。ハリウッドのリメイク作品公開にあたり、原作を読んだ上で、以前知人にいただいたビデオで見た。
失意にある中年の経済ジャーナリストと、背中に龍の刺青を彫った若い女性調査員が、ノールランド地方の孤島で40年前に起こった財閥の美少女失踪事件の謎を追う。

★以下ネタばれあり!!
経済誌「ミレニアム」の記者ミカエルは、大物実業家ヴェンネルストレムの不正を暴こうとして逆に彼の罠にはまり、名誉毀損で有罪となり三ヶ月の禁固刑という実刑判決を受ける。
彼は、大企業グループの前会長ヘンリック・ヴァンゲルから、甥ゴートフリートの娘ハリエットの調査を依頼される。40年前、16歳だったハリエットは、一族の住む島が橋の事故により密室状態にあった中で、忽然と姿を消した。ヘンリックは、彼女は何者かに殺されたという考えのもとに、40年間捜査を続けてきたのだった。ミカエルは、島に滞在して、調査を始める。
それと並行して、セキュリティ会社で非常勤の調査員として働くリスベット・サランデルの様子が描かれる。彼女は、身体のあちこちに刺青を入れてピアスをつけ、革ジャンを着てバイクを乗り回す。パソコンを自在に使うハッカーでもあるが、調査員としての腕は抜群、過去に何らかの事件を起こし、後見人制度によって後見人をつけられている。
二人はやがて出会い、ともに調査をすることになる。
この筋書きは、原作とほぼ同じ。古い写真とハリエットが書き記した謎の番号から連続殺人犯に近づいていく過程も、解き明かされるハリエットの真相も、同様である。
が、やはり写真の件りは、映像で見たほうがおもしろい。連写した白黒写真がぱらぱらと動いてパレードの日に何かをみつけたハリエットの表情が変わっていく様子に、ぞくぞくする。
以下、原作と映画の違いについて、いくつか抜き出してみる。
・ハリエットが残した言葉が電話番号でなく、聖書のものであることに気づくのは、原作では変な宗教に走っているミカエルの娘だが、映画ではリスベット。とってつけたようにミカエルを訪ねてきた娘よりも、並はずれた記憶力を持つリスベットがこれに気づくという方が説得力はあるように感じた。
・リスベットとミカエルが出会うきっかけは、原作ではヘンリックの弁護士フルーデを通してミカエルがリスベットの存在を知り、調査員としての腕を評価して協力を求めることになっているが、映画では、リズベットは調査後もミカエルのことが気になってちょくちょく彼のパソコンに侵入していて、やがてハリエットが書き残した番号と聖書の関係に気づき、ミカエルのパソコンにメールを送ってヒントを与えるというもの。このメールを送る際、リスベットがためらった末にマウスをクリックして、やっちゃったぜという顔をするのがいい。
・映画では、ミカエルが、幼いころに一度会ったハリエットの若く美しい姿を何度となく思い出すが、原作ではハリエットに会った当時のミカエルは幼すぎて彼女のことを覚えていない。
・原作にあるミカエルの多彩な女性関係、「ミレニアム」の共同経営者であり編集長であるエリカとの夫公認の愛人関係や、ヘーデビー島でのヴァンゲル一族の一人セシルとの濃厚な関係は映画では一切描かれず、ミカエルは、リスベットとのみ関係を持つ。
・ハリエットの捜査に当たったモレル警部は、原作ではとうの昔に引退しているが、映画では定年を間近に控えてはいるものの、まだ現役。犯人の犯行発覚にあたっては、原作では公にされないが、映画では警察が介入する。
・原作では、リスベットは、何度となく施設にいる母に会いにいくが、映画では、ことが落着したあとに初めて面会に行く。また、原作の1作目では示されなかった、リスベットが少女時代に起こした事件が映画では示される。
・三ヶ月の禁固刑という実刑判決を受けたミカエルが収監されるのが、原作では調査の最中の中途半端な時期だが、映画では、ハリエット失踪事件が落着した後に収監され、出所後にヴェンネルストレム退治となる。
ということで、映画の方が、原作よりもだいぶメリハリのある作りとなっている。(原作のとりとめのない感じはそれはそれで好きではあるが。)
リスベット役のノオミ・ラパスは、原作の印象よりも骨太で大人っぽい感じがしたが、ぽかんとした表情などがよくて、これはこれでよいのかと思った。背中の龍の刺青が見えるのは一瞬で、あまりはっきり映し出されない。(2012.2)

関連作品:「ドラゴン・タトゥーの女」(2012年アメリカ)

サブウェイ123 激突 The Taking of  Pelham 1 2 3
2009年 アメリカ 105分
監督:トニー・スコット
原作:ジョン・ゴーティ
出演:ガーバー(デンゼル・ワシントン)、ライダー(ジョン・トラボルタ)、カモネッティ警部補(ジョン・タトゥーロ)、ジョンソン(ガーバーの上司/マ イケル・リスポリ)、ニューヨーク市長(ジェームズ・ガンドルフィーニ)、レイモス(ルイス・ガスマン)、ジオ(アレックス・カルズフスキー)
1974年の「サブウェイ・パニック」を再映画化。
ニューヨークの地下鉄をハイジャックした犯人一味と、彼らの交渉役となった地下鉄会社職員との駆け引きを描く。
ニューヨークの地下鉄会社指令室。勤務中のガーバーは、ペラム駅1時23分発の車両が線路上で緊急停車したのを発見、同車からの無線に応答する。同車は、ライダーと名乗る男が率いる一味にハイジャックされ、運転手と乗客が人質にとられていた。ライダーは、市長に身代金を支払うよう命じる。現場に駆けつけた市警のカモネッティ警部がガーバーに替わると、ライダーは怒って人質を射殺し、ガーバーに戻すよう要求してくる。
ガーバーは、素人とは思えない冷静さと臨機応変な対応力でライダーとの交渉を続けていく。トラボルタは、悪役をやるときのトラボルタのよさをいかんなく発揮。対するワシントンは、押し出しがよすぎて、この人に任せとけば大丈夫と思ってしまうので、いかんせん、あんまりはらはらしない。ガーバーは、実は管理職についていたのだが、収賄疑惑で降格され、現場で指令係をしていたのだった。それもあって、一介の地下鉄会社職員がとんでもない立場に追い込まれて、さあ大変!という感じではないのだ。
が、疑惑を内部監査によって調査されている最中のガーバーに、ライダーが告白を迫るシーンは、緊迫する。真実を言わなければ人質を殺すと脅すライダーによって、ガーバーは、無理矢理告白せ ざるを得ない状況に追い込まれていくのである。(ガーバーが実際に収賄に関わっていたか否かは曖昧なままだ。これを明確に示した方が観客は迷わなくてすむと思うのだが。)
ザッシュと止まる画面、めまぐるしく動くカメラは、この監督の常で、個人的にはいつまでたってもなじめない。しかし、やはりワシントンとトラボルタのやりとりは見応えがあるので、そうした居心地の悪さを忘れさせてくれる。
ライダー以外の一味のメンバーや乗客など、脇役はあまり目立たないが、最初はいやな奴にみえたカモネッティ警部と、本気で市政に取り組んでいるんだかなんだかよくわからなかった市長が、事件に関わるうちにだんだんといい面を見せてくるのはよかった。
身代金輸送を急ぐあまり大事故を起こすパトカーの暴走ぶりが、脇の部分でやけにすごい。 (2009.9)

関連作品:「サブウェイ・パニック」(1974年、アメリカ。監督:ジョセフ・サージャント、出演;ウォルター・マッソー、ロバート・ショウ)
このひと言(No.43)「いいか、奴の話に乗るな。それが奴のねらいだからだ。奴が 君の気分を害し、君がかっとなれば、向こうが優位になる。分かるか?」

96時間 Taken
2009年 フランス 93分
監督:ピエール・モレル
製作:リュック・ベッソン
脚本:リュック・ベッソン、ロバート・マーク・ケイメン
出演:ブライアン・ミルズ(リーアム・ニーソン)、キム(マギー・グレイス)、
サム(リーランド・オーサー)、ケイシー(ジョン・グライス)、バーニー(デヴィッド・ウォーショフスキー)、シーラ(ホリー・ヴァランス)、レノーア (ファムケ・ヤンセン)、スチュアート(ザンダー・バークレイ)、アマンダ(ケイティ・キャシディ)、ジャン=クロード(オリヴィエ・ラブルダン)、バト リス・サンクレア(ジェラール・ワトキンス)、ピーター(ニコラス・ジロー)、マルコ(Arben Bajraktaraj 発音不明)
元CIA秘密工作員が、娘を連れ去った人身売買組織を追ってパリの町を縦横無尽に疾走する痛快アク ション。
CIAを辞め、カリフォルニアで一人で暮らすブライアンは、17才の娘キムをなにかと気にかけていた。キムは、別れた妻レノーアとその再婚相手である実業家のスチュアートと暮らしていて、ブライアンは陰ながらキムを見守るという立場にあった。
ある日、友人と二人でパリ旅行に出かけたキムが、滞在先のホテルで何者かに誘拐される。
事件は、パリのホテルの部屋でブライアンがキムと携帯電話で通話している最中に起こる。犯人が部屋に侵入し、連れ去られるまでの一部始終をブライアンは受話器越しに耳にする。彼は、とっさに状況を判断し、録音機器をセットし、助けを求めて泣き叫ぶ最愛の娘に向かって、「これからお前は誘拐される。観察して伝えろ。」などと冷静に指示を与える。ブライアンは、ただちにパリに飛び、CIA工作員として身につけた特殊技能を駆使して犯人たちを追い始めるのだが、 事件発生からブライアンが現場を訪れて検証をするまでの展開は、実にタイトにスピーディに描かれ、その迫力に圧倒される。
ブライアンが、とにかく強い。犯人を見つけ出す手だて、犯人のところに乗り込む手だてに抜かりはなく、格闘技と射撃の腕もたしかである。たったひとりで、 アルバニア人の人身売買組織を打ち砕き、闇のオークションを仕切る影の大物までたどりついてしまう。
いまやフランス政府の高級官僚となっているかつての仲間ジャン=クロードに無茶をするなと言われて、「必要とあればエッフェル塔だって破壊してやる。」と 豪語するが、「こいつならやりかねん」というより「こいつならきっとやる」と思わせる。悪人たちをひどい目に遭わせるのは当然の報いとして、「え、この人まで?」というような人まで撃っちゃう(かすり傷ではあるが)めちゃくちゃぶり。暴走する人相の悪い親ばかな親父、というリーアム・ニーソンならではの絶 妙な役どころだ。(2009.9)

関連作品:「96時間リベンジ」(2013年)、「96時間レクイエム」(2014)

グラン・トリノ Gran Torino
2008年 アメリカ 117分
監督 クリント・イーストウッド
音楽 カイル・イーストウッド 、マイケル・スティーヴンス
脚本 ニック・シェンク
出演:ウォルト・コワルスキー(クリント・イーストウッド)、タオ・ロー(ビー・ヴァン)、スー・ロー(アーニー・ハー)、ヤノビッチ神父(クリスト ファー・カーリー)、デューク(コリー・ハードリクト)、ミッチ・コワルスキー(ブライアン・ヘイリー)、スティーブ・コワルスキー(ブライアン・ホ ウ)、理髪師マーティン(ジョン・キャロル・リンチ)、スパイダー(ドゥーア・ムーア)
★ネタバレあります!★
長年連れ添った妻に先立たれた老人ウォルトは、二人の息子やその家族とはうまが合わず、住み慣れた家で愛犬とともに孤独な日々を過ごしていた。
ある日、隣に住むアジア系少数民族の少年タオが、ウォルトが大切にしているヴィンテージ・カー、グラン・トリノを盗みに入る。朝鮮戦争帰還兵のウォルトは、ライフルを手にタオを追い払う。タオは、不良の従兄弟スパイダーらにそそのかされていやいやながら盗みに入ったのだった。やがて、スパイダーらともめるタオを成り行き上助けたことから、ウォルトと隣のモン族一家との交流が始まる。ことあるごとに人種差別用語を連発し、神父にも悪態をついていた彼は、物怖じしないタオの姉スーと言葉を交わし、タオに働くことを教えるうち、次第に彼等とうち解けていく。やがて、スパイダーの一団が過激な行動をとるようになり、このまま放っておけないと考えたウォルトは、タオとスーのために、ある決意を胸に単身彼等のすみかに乗り込んでいく。
暴力には暴力をという解決方法を取らなかったイーストウッドに感動したということで、高い評価を得ているようだが、私は、これは、「ミスティック・リバー」(2003年)、「ミリオンダラー・ベイビー」(2004年)、「父親たちの星条旗」「硫黄島からの手紙」(2006年)、「チェンジリング」(2008年)と、このところ立て続けに厳しい人生に向き合う人々の姿をとことんまで突き詰めて描いてきたイーストウッドが、久々に肩の力を抜いて「夢」を描いた作品ではないかと思う。夢とはつまり、「かっこいい死に様を見せる」という老いた男の夢である。
肩の力を抜いたからと言って、手を抜いているわけでは決してない。
ウォルトの毒舌ぶり、頑固親父ぶりは、実に楽しくそして哀愁を誘う。床屋のマーティンとのやりとりなど、日本で言えば江戸っ子の粋な会話という感じなんだろうかと勝手に想像しながら聞くと、英語がよくわからなくてもおかしい。
懺悔を勧める神父が神学校出の若者であるというのもまたよく、彼がたびたび尋ねてくることで、夫に懺悔をさせてくれと頼んでいた亡き妻のウォルトを思う気 持ちも伝わってくるような気がする。ついに懺悔をしに教会に赴いたウォルトが、肝心なことは一切告白しないのもいい。(2009.5)

この一言(No.41): 「この3つを持って行け。WD-40、バイスグリップ、粘着テープ。有能なやつなら大概のことはこれで処理できる。」

スラムドッグ$ミリオネア   Slumdog Millionaire
アメリカ・イギリス 2008年 120分
監督: ダニー・ボイル
原作: ヴィカス・スワラップ 「ぼくと1ルピーの神様」
出演: ジャマール・マリク(デーヴ・パテル/※タナイ・ヘマント・チェダ(少年)/アーユッシュ・マヘーシュ・ケーデカール(幼年))、サリム・マリク(マドゥ ル・ミッタル/※アストシュ・ロボ・ガジワラ/アズルディン・モハメド・イスマイル)、ラティカ(フリーダ・ピント/※タンヴィ・ガネシュ・ロンカール/ ルビーナ・アリ)、プレーム・クマール(アニル・カプー)、警部(イルファン・カーン)、 ママン(アンカール・ヴィカル)、アルヴィンド(※シデシュ・パティール/※チラグ・パーマー)※印は原語表記をローマ字読みでカタカナ表 記したもので正誤は未確認。
★ネタばれあり★
インド南部の都市ムンバイ(以前は英語読みでボンベイ)のスラム街で育った青年ジャマールは、テレビ の人気クイズ番組「ミリオネア」で、数々の質問に正解し、いよいよあと一問で全問正解というところまでこぎつけるが、時間切れとなり、続きは次の回に持ち越しとなる。
しかし、番組司会者のクマールは、いかさまの疑いがあるとして警察に通報する。ジャマールは、逮捕拘留され、拷問を受けるが、ただ答えを知っていたと返答 する。警部は、拷問を止めさせ、ジャマールに詳しい話を聞き始める。
クイズの質問の答えとともに語られていくジャマールのおいたちは壮絶だ。スラム街で母親と兄のサリムと暮らしていた彼は、イスラム教徒への迫害によって母親を失い、兄と二人で放浪する。彼等は、ママンという男の世話になるが、彼は同じような境遇の子どもを大勢引き取り非情な手段で金を稼がせているのだっ た。ママンの手から逃れた彼等は、列車の中で物売りをしたり、観光地でガイドをしたりして生活するが、別れ別れになった少女ラティカを巡って再びママンと 遭遇。サリムはママン一味の追っ手から逃れるため、対立するギャングの仲間となる。
「鎖」というインド映画の主演俳優も、なんとかいう神(失念)が手にしているものも、なんとかいう詩(失念)の作者も、リボルバーの発明者も、百ドル札の 肖像画も、クイズの正解は、すべて、彼がこれまで経験したできごとの中に「たまたま」出てくる。
つまり、クイズの質問はジャマールが人生を語る上での見出しであり、クイズショーはそれを装飾するユニークで豪華なデザインのテンプレートである。こうし た斬新な作劇法に感心するか、奇をてらいすぎと感じるかは、好みの分かれるところだと思う。しかしひとつひとつのエピソードがあまりに強烈で勢いがあるので、作劇法に対する違和感が映画を見る上での差し障りとはならなかった。百ドル札に載っているのはベンジャミン・フランクリンだと知るいきさつなどは、ほんとに悲しい。
主役の三人がいい。回想シーンで描かれる出来事の怒濤の勢いに比べ、終始無表情ともとれる冷静さでクイズの質問や警察の尋問に淡々と応じるジャマールと、 なんやかやひどいことをしながらも結局は弟思いで「兄」の悲哀を漂わせるサリム。そして、ジャマールが一貫して思いを寄せるラティカ。
最後の一問は、デュマの「三銃士」に関する問題。「三銃士は、アトスとポルトス、そしてもう一人は誰?」というもの。幼い頃、サリムと「おれたちがアトス とポルトス、じゃ、ラティカは三番目の騎士だ。」と無邪気に言い合っていたことを思い出し、ジャマールは微笑む。それを見てクマールは苦々しく思い、クイズの観客と映画の観客はほっとする。しかしところがどっこい、なのである。
このあとのライフラインの電話でのやりとりがいい。この電話によって、ジャマールは番組に出た目的をほぼ達成する。質問への回答は彼にとってはおまけのよ うなものでしかなくなっているのだが、やはり最後はこういう展開でないと、ということなのだろう。(ちなみに答えはダルタニヤンではなく、アラミス。デュ マの小説を読んでいなくても、デカプリオが主演した映画「仮面の男」を見たことがあれば(ジェレミー・アイアンズのファンであればなおさら)わかる問題だ。)
クレジット・タイトルのバックに流れるダンス・シーンが楽しい。(2009.4)


レッドクリフ PartU 未来への最終決戦 Red Cliff:PARTU 赤壁 決戦天下
2008年 アメリカ・中国・日本・台湾・韓国  144分
監督:ジョン・ウー
出演:周瑜(トニー・レオン)、孔明(金城武)、曹操(チャン・フォンイー)、孫権(チャン・チェン)、尚香(ヴィッキー・チャオ)、趙雲(フー・ジュ ン)、甘興(中村獅童)、小喬(リン・チーリン)、劉備(ユウ・ヨン)、魯粛(ホウ・ヨン)、関羽(バーサンジャプ)、張飛(ザン・ジンシェン)、     孫叔材(トン・ダーウェイ)、驪姫(ソン・ジア)、黄蓋(チャン・サン)、
華蛇[軍医]、夏侯雋[かこうしゅん]、蒋幹、蔡i、張允
いよいよ三国志最大の見せ場のひとつ、赤壁の戦いである。スクリーンに出た「赤壁 決戦天下」という 字を見て盛り上がる。(個人的には漢字のタイトルの方が絶対かっこいいと思うのだが、「レッドクリフ」とか「未来への〜」とかにした方が人が来るというの なら、それは潔く受け入れようと思う。)
PartTは、さあこれから決戦!というところで終わってしまったが、そのあとも多少の前置きがある。長江の風上に曹操軍、風下には蜀と呉の連合軍が陣取る中、曹操は疫病で死んだ部下の死体を流して敵の陣営にも疫病をはびこらせるという情の欠片もない手を使う。これによって、劉備軍は一時退いてしまうので、今回の彼等の出番は少ない。孔明は一人呉軍の陣営に残るが、目立つのはやはり呉の人々、周瑜を始め、尚香と小喬の二人の女、海賊上がりの武将甘興、そ して若き君主孫権が妹への気遣いや意外な戦いぶりなどなかなかいいところを見せる。
曹操の出番も多く、それはうれしいのだが、「治世の能臣、乱世の奸雄」と言われて大笑いしたという曹操を、監督はどうしたかったのか。梟雄の凄味を見せたくはあるが、でも結局最後は無様に負ける悪者にしないとということなのか。小喬との絡みも含めて、彼の扱いはどうにも中途半端な気がする。
さて、孔明は濃霧を利用して10万本の矢を手に入れる。周瑜は偽の手紙を用いて敵の水軍の専門家である蔡iと張允の排除に成功する。孫権の妹尚香は、敵の陣地に潜入して情報を探る一方で、敵軍兵士叔材との間に無邪気な友情を芽生えさせる。
80万の曹操軍に、わずか5万の呉軍が対抗するには、火攻めしかないということになるが、冬のこの時期、長江に吹くのは西北の風ばかりで、川下の呉軍に とってそれは逆風。東南の風を求めて、「三国志演義」では、孔明は七星壇という祭壇をこしらえさせ祈祷して風を呼ぶという大仰な儀式が描かれる。本作では それはなく、孔明は気象予報士としての技量を発揮して、東南の風を予報する。(ちなみに、三国志演義との違いをあと少し言うと、船と船をつなぐ連環の計 は、蔡iと張允が自ら言いだしたことになっていて、黄蓋の苦肉の策は彼の提案のみに終わっている。)
やがて、西北の風がぴたりと止まり、東南の風が吹く。この風向きが変わる瞬間。軍勢から離れ平原で風を待つ孔明の立ち姿は美しく、風に翻る旗は実に絵にな る。が、それでも、私の期待が大きすぎたのか、思ったほどの恍惚感は得られなかった。「風が変わった!!」という大きな感動がすっと入ってこない。小喬の お茶に誘われて曹操は風が変わる瞬間を見逃すのだが、このお茶の場面が、サスペンスを盛り上げるというよりもどちらかというとじゃまくさい(ていうか小喬うざくない?と思ってしまった)。
前作に引き続き、大味でストレートでわかりやすく、豪勢な画面が楽しめる。クライマックスは劉備軍も駆けつけて、壮絶な戦いを展開する。周瑜と趙雲が並んで戦うところがいい。(2009.4)


レッドクリフ PartT Red Cliff 赤壁
2008年 アメリカ・中国・日本・台湾・韓国  145分
監督:ジョン・ウー
出演:周瑜(トニー・レオン)、孔明(金城武)、曹操(チャン・フォンイー)、孫権(チャン・チェン)、尚香(ヴィッキー・チャオ)、趙雲(フー・ジュ ン)、甘興(中村獅童)、小喬(リン・チーリン)、劉備(ユウ・ヨン)、魯粛(ホウ・ヨン)、関羽(バーサンジャプ)、張飛(ザン・ジンシェン)、     孫叔材(トン・ダーウェイ)、驪姫(ソン・ジア)、黄蓋(チャン・サン)
「三国志」における名場面、赤壁の戦いを映画化。
が、二部作の一作目なので、前哨戦ともいうべき、曹操軍対劉備・孫権軍の陸での戦いがクライマックスで、水軍による本戦は二部に持ち越しとなっている。
「三国志」は、多くの陣営が入り乱れ登場人物がやたら 多いので混乱するかも知れないと危惧していたのだが、冒頭に状況説明があり、武将の名がスーパーで示されるのでだいぶわかりやすい。
西暦208年、中国。強力な軍事力を持つ曹操は、漢王朝の献帝に迫り、対立する蜀と呉の討伐の命を取り付ける。
蜀の劉備は、曹操の軍勢から民を守るため、兵を退いて敗走する。窮地に立った劉備を救うには、呉との同盟が不可欠と見た軍師孔明は、呉に出向いて君主孫権と彼の絶対的信頼を得ている武将周瑜の説得にかかる。
「三国志演義」においては、孔明は、劉備を退け曹操に服従することをよしとする呉の老臣たちを得意の舌鋒で言い負かし、英雄だった亡き父と兄に引け目を持つ若い王孫権の気持ちを煽り立て、彼の片腕である将軍周瑜をへこませる。人の気持ちを思いやることなく、劉備軍に利するためなら使える者は誰でも 使うという合理的で非情な男というイメージがある。つまり、軍師として無敵の能力を発揮するが、決して人好きのする男ではない。
が、金城武演じる孔明は、とにかく人当たりがよい。老臣たちを差し置いて孫権を説得する際もいい人そうだし、さらに馬のお産の手伝いをし、琴を奏して周瑜 と心を通わせる。トニー・レオンが演じる周瑜も、兵を統率する立派な武官として描かれ ていて、「演義」の周瑜のように孔明にしてやられて歯がみするということはない。
趙雲が、劉備の子阿斗を抱いて敵陣を抜ける有名なエピソードが出てくるが、せっかく救出した赤子を劉備が放り投げるというくだりは省かれている。張飛の声がでかいこ とは示されるが、長坂橋での見せ場はない。関羽は、青龍偃月刀(せいりゅうえんげつとう)を敵に投げつけて戦い、張飛は素手で敵兵を倒す。 クライマックスで孔明が採用する八卦の陣は、きれいですごそうだが、どう効果的なのかがいまいちわからない。「演義」では名前しか出てこない周瑜の妻小喬が登場し夫との仲の良さを見せつける。 ということで、大陸的なみもふたもなさは回避され、万人に口当たり良く、見た目に爽快なアクション映画になっている。三国志ファンにとっては、こうした事態を受け入れるか否かで、楽しめるかどうかが決まっ てくるように思う。
私としては、三国志の世界を実写の映像で見る喜びに浸れて何よりであり、いよいよ水軍戦となる二部が楽しみだ。
「レッドクリフ」という邦題はこうした映画の内容をよく表しているのかも知れない。が、それにしても、「赤壁」というこの上なく壮麗な漢名がそのまま邦題 として用いられなかったことは、漢字を使う数少ない国の者として返す返すも残念である。(2008.11)


チェンジリング Changeling
2008年 アメリカ 142分
監督:クリント・イーストウッド
出演:クリスティン・コリンズ(アンジェリーナ・ジョリー)、ウォルター・コリンズ(ガトリン・グリフィス)、グスタヴ・ビリーグレブ牧師(ジョン・マル コヴィッチ)、ジョーンズ警部(ジェフリー・ドノヴァン)、レスター・ヤバラ刑事(マイケル・ケリー)、キャロル・デクスター(エイミー・ライアン)、 ゴードン・ノースコット(ジェイソン・バトラー・ハーナー)、サンフォード・クラーク(エディ・オルダーソン)、デイヴィス警察本部長(コルム・フィオー ル)、アーサー・ハッチンス(デヴォン・コンティ)
行方不明になった9歳の息子を探す母親の物語で、実話が元になっている。
1928年、ロサンジェルス。シングル・マザーのクリスティン・コリンズは、電話会社に勤めながら息子のウォルターを育てている。ある日彼女が休日出勤を終えて帰宅すると、ウォルターがいなくなっていた。警察の捜査も空しくウォルターの行方はわからなかったが、5ヶ月後、彼がイリノイ州で発見されたという 知らせが届く。しかし、クリスティンの元に帰ってきたのは、全く別の見知らぬ少年だった。
自分の子ではないという母親の主張を強引に否定し、ミスを認めないロサンジェルス市警は、間違いはクリスティン側にあると言い張る。警察の横暴さに日頃から異を唱えていたビリーグレブ牧師が、クリスティンに手をさしのべ彼女は戦う決心をするが、警察は彼女を無理矢理精神病院に収監する。
警察の横暴ぶりは容赦なく、嫌な警部、嫌な本部長、嫌な病院院長と、憎々しげな連中が次々と登場する。一方で、連続少年殺人事件が発覚、極悪非道な犯罪に加担させられた少年は驚愕の事実を告白する。
映画は、これらのことを丹念に描いていて、見こたえがある。見る者は、警察や連続殺人犯への憎悪をかきたてられ、少年の悲痛な叫びに心を痛める。
かくして男たちは戦いに夢中だが、しかしクリスティンにとって警察との戦いはあくまでも売られた喧嘩。対警察、対連続殺人犯との対決は必要ではあるが目 的ではなく、彼女にとってのゴールはウォルターの消息以外にはない。最後に晴れやかな表情を見せるクリスティンは、決して勝ったわけではなく、その後も戦い続けるのである。
クリスティンのことは、終始安心して見てしまった。どれだけ酷い目に遭おうと、彼女なら大丈夫だろうという思いがどうしてもぬぐえない。それは、アン ジェリーナ・ジョリーという女優のイメージのせいかも知れない。彼女が強すぎて、この年代の女性の立場の弱さがいまひとつ伝わってこないように思えた。ビリーグレブ役を演じるのマルコビッチには、少々危ういものを感じた。登場シーンでいきなり警察を糾弾している様子はいささか異様に見えた。殺人事件の捜査をするヤバラ刑事(田中要二に似ている。役回りとしてもボバっぽい。)もそうである。彼が上司の言葉に従って捜査 をやめてしまうのか、サンフォード少年の言葉を信じて刑事魂を見せるのかについては、ちょっとしたサスペンスがあった。こうした危うさをヒロインに対して も感じられれば、もっとはらはらしながら見られたのではないかと思う。
アカデミー賞に「ある夜の出来事」が選ばれて喜ぶクリスティンは、かわいらしかった。(2009.3)

このひと言(No.40):「私がこの戦いを始めたわけではありません。でも、決着はつけます。」

イーグル・アイ Eagle Eye
2008年 アメリカ 118分
監督:D・J・カルーソー
出演:ジェリー・ショー(シャイア・ラブーフ)、レイチェル・ホロマン(ミシェル・モナハン)、サム、ゾーイ・ペレス(ロザリオ・ドーソン)、トーマス・ モーガンFBI捜査官(ビリー・ボブ・ソーントン)、カリスター国防長官(マイケル・チクリス)、イーサン・ショー、アリア
コピーショップで働くジェリーは、事故で急逝した双子の兄イーサンの葬儀に出る。その直後、残高ゼロ だった預金口座に大金が振り込まれ、アパートには大量の武器が送られてくる。戸惑っているうちに、ジェリーはFBIに逮捕・連行され、空軍に勤めていたイーサンにテロリストの容疑がかかっていることを知らされる。携帯電話にかかってきた謎の女の声の指示で彼は脱走を図り、同じように訳が分からないまま子どもを人質にとられて指示に従うことを強制されている女性レイチェルと逃走することに。
ジェリーとレイチェルを「起動」し、道具として使うのは、あらゆる情報を得て、携帯やら信号やら電車やら工作機械やらを自由自在に操る謎の存在。やがて、 “彼女”とイーサンの関わりが明かされる。
優秀な双子の兄に引け目を感じ、家族と離れ、点々と職を変えて暮らしてきた孤独な若者ジェリーが、突然身に覚えのない事件に巻き込まれ、理不尽な状況に追い込まれながらもなんとか危機を切り抜け、最後は大きな仕事をやり遂げる。アメリカ映画の昔ながらの巻き込まれものだが、やはりこの手の映画は見ていて楽 しい。
追ってくるパトカーを次々にクラッシュさせる壮絶なカーチェイス、飛行場の荷物運搬ベルトコンベヤーでの追跡劇など、時間をたっぷり使ったアクション・ シーンが続く。謎の指令を伝えるほかにも携帯電話が様々な機能を駆使して効果的に使われている。
四方を地平線に囲まれた荒野での接触、小型飛行機による襲撃などは、巻き込まれものの金字塔である「北北西に進路をとれ」を、演奏会での爆破による暗殺計画は「知りすぎた男」をと、ヒチコック監督作品を思い出させるが、“彼女”の存在は多分にSF的である。(2008.10)


ハプニング The Happening
アメリカ 2008年 91分
監督:M・ナイト・シャマラン
出演:エリオット(マーク・ウォルバーグ)、アルマ(ズーイー・デシャネル)、ジュリアン(ジョン・レグイザモ)、ジェス(アシュリー・サンチェス)、菜 園主(フランク・コリソン)、その妻(ビクトリア・クラーク)、ジョシュ(スペンサー・ブレスリン)、ジャレド(ロバート・ベイリーJR)、オースター上 等兵(ジェレミー・ストロング)、ジョーンズ夫人(ベティ・バックレー)
シャマラン監督によるSFエコ・ホラー・サスペンス。
ニューヨークのセントラル・パークで、人々が突然立ち止まり、後ろ向きに歩き出し、自らの命を絶つという事件が起こる。やがて、それは怪現象としてアメ リカ合衆国東部の大都市から郊外へと広がっていく。
フィラデルフィアで高校の化学の教師をしているエリオットは、妻のアルマとともに、同僚のジュリアンから預かった彼の娘ジェスを連れて、避難する。が、 乗っていた電車が途中で止まり、通りすがりの菜園主夫妻の車に同乗させてもらう。草木の茂る田舎の道で各方面から逃げてきた人々に出くわした彼等は、どち らへ向かっても安全な場所がないことを知って車を降り、人が少ない場所へと移動を始めるのだった。
本作は、物語の「起承転結」で言えば「結」のない映画、いや、「起」だけの映画かも知れない。謎は提示されるだけで、解決したとは言えないのだ。環境問題 というグローバルでタイムリーなテーマが絡んでいて、朝日新聞にも「高慢な人類への警告」という見出しで監督のインタビューが載っていたのだが(8月1日夕刊)、だから「起」だけでいいのかというとそういう事でもないと思う。予告編が恐そうだから見に行ったのにがっかりした、というBBSやブログで見かける感想は、それはそれでもっともだと思う。「サイン」以降、広げた風呂敷が畳みきれないとか、もったいぶった割には真相がしょぼすぎるなどと評する声もよ く聞く。
が、私は、シャマラン監督作品には、そうしたことをものともしない魅力を感じる。
朝日新聞の記事にあった「ヒチコックの『鳥』が見えない恐怖を描く参考になった」という監督の言葉は興味深い。「見えない恐怖」、つまり画面にあふれる 「不穏な空気」に強く引かれる。私は、このシャマランの映画独特の雰囲気を味わいたくて、映画館に行く。
「サイン」や「ヴィレッジ」にあった「不穏な空気」は、「ハプニング」にもあふれていた。田舎の十字路で立ち往生する人々の周りで揺れる草木。森の木々のざわめきや、草原を吹き渡る風が、とにかく怖い。
私としては、この草木の怖さで充分なのだが、今回は、直接的に恐い場面も随所に見られる。冒頭のセントラル・パークのシーンはショッキングだが、それに続く工事現場のシーンもすごく恐い。人々の凄惨な死に様が、何パター ンも描かれるので辟易してしまう人もいるかも知れないが、じっくり全部見せるでなく、完全に画面から外すでもない見せ方はやはり独特である。かと思うと、 保身のため殺人を犯す人々は、影と声だけでしか出てこなかったりもする。
登場する人々も地味におもしろい。菜園主や若い上等兵、二人の少年、孤独な生活を続けてきた老婦人など、エリオットらが行く先々で出会う人々は、それぞれにユニークだ。が、私が最も印象的に思った人物はエリオットの妻アルマだった。自意識が強くて、人生における自分の選択に迷いを抱いている、悪人ではないのだが、ちょっと扱いづらい若い女性。こうゆう美人て確かにいるよなという感じが実にリアルである。その彼女が少しずつ変わっていく様子も興味深い。
エリオットが授業で講釈していた消えたミツバチの謎や、植物に話しかける菜園主が言うところの「彼等」が放つ「毒素(chemicals)」や、ジュリアンがパニック寸前の女性に出題する膨大な勢いで数が増える数学の問題 や、避難してきた女性の娘が電話の向こうで最後に口にする「微分(calculus)が・・・」という謎の言葉や、田舎の草原の中に立つ全てが作り物のモ デルハウスなど、何かの暗示のような要素があちこちに見られ、いろいろと想像を膨らますことができそうな映画である。(2008.8)


魔法にかけられて Enchanted
2007年 アメリカ 108分
監督:ケヴィン・リマ
音楽:アラン・メンケン
出演:ジゼル(エイミー・アダムス)、エドワード王子(ジェームズ・マースデン)、ナリッサ女王(スーザン・サランドン)、ナサニエル(ティモシー・ス ポール)、ロバート・フィリップ(パトリック・デンプシー)、モーガン・フィリップ(レイチェル・カヴィ)、ナンシー(イディナ・メンゼル)
魔法の国アンダレージアの森で動物とともに暮らす美しい娘ジゼルは、ある日王子エドワードと出会って恋に落ち、結婚を約束する。が、それをよしとしない王子の継母ナリッサ女王は、魔法の力によってジゼルを現実の世界に追いやってしまう。
ニューヨークの街で途方にくれていたジゼルは、たまたま通りがかった弁護士ロバートとその娘モーガンの厚意で二人のマンションに泊めてもらうことに。一目惚れしてデュエットして翌日には結婚というおとぎの国の恋のプロセスを当然とするジゼルは、デートしてお互いをよく知ってから結婚するというロバートの考え方に大きな違和感を覚え る。
カラフルで陽気なアニメの世界から一転、立体的で陰影のある実写の世界にやってきたジゼルが、勝手の違う世界に戸惑いながらも、おとぎの世界のやり方でものごとを運ぼうとして、人々の間に騒動を巻き起こしてゆく様子がひたすら愉快で楽しい。リスのピップの活躍も見逃せない。
はと、ねずみ、ゴキブリなど都会の動物たちはジゼルのもとに集まり、人々はディズニーランドのパレードさながらににこやかに笑って歌い踊る。ニューヨークの街がまんまと彼女の魔法に かかったという感じだが、その一方でジゼルは次第にデートもいいなと思うようになっていく。
やがて、ジゼルを追ってエドワード王子が、そして二人の再会を阻むべき女王の命を受けた家来のナサニエルが、最後にはナリッサ本人がやってきて、これまたおとぎの国の流儀で暴れ始め る。
ジゼルがものすごい美人というわけでなく、ロバートもごく普通な人という感じなのがかえってよく、それと対照的にエキセントリックな二人の脇役、常にさわやかでハイテンションなエドワード王子と、クールなキャリアウーマンに見えて実は情熱的でロマンチックな恋に憧れるロバートの恋人ナンシーもなかなか魅力的だ。(2008.4)


ノーカントリー No Country for Old Men 
2007年アメリカ  122分
製作:スコット・ルーディン、コーエン兄弟
監督・脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
原作:コーマック・マッカーシー「血と暴力の国」
出演: ルウェリン・モス(ジョシュ・ブローリン)、アントン・シガー(ハビエル・バルデム)、エド・トム・ベル保安官(トミー・リー・ジョーンズ)、カーソン・ ウェルズ(ウディ・ハレルソン)、カーラ・ジーン(ケリー・マクドナルド)、ウェンデル(ギャレット・ディラハント)、ロレッタ・ベル(テス・ハー パー)、エリス(バリー・コービン)
第80回アカデミー作品賞他受賞。
1980年代のアメリカ、テキサス。ベトナム帰還兵のモスは、メキシコとの国境近くの荒野で、男たちの死体と放置された車両を発見する。銃撃戦が行われた直後の麻薬取引現場に出くわしたのだ。トラックの中で唯一生き残っていた男も瀕死の状態にあった。モスは、大量の麻薬と現金200万ドルをみつけ、現金を持ち逃げする。
取引関係者に雇われた殺し屋のシガーがモスを追い始め、行く先々で殺人を犯していく。老保安官ベルは、シガーの容赦ない殺人ぶりを知り、モスを保護しようと試みる。
前半は追われるモスの逃亡と必死の反撃の様子が描かれる。発信器の受信音とともに、近づいてくる殺人者、ボンベを用いた珍奇な武器でもってドアの錠をはじき飛ばすのがなんとも怖い。
おかっぱ頭の不気味な殺し屋シガーが話題をさらっているが、これに対抗するモスもなかなかいい。モスがメキシコとの国境近くをうろうろして、通りすがりの若者相手に上着を手に入れるためのやりとりをするシーンがいい。
が、突然、観る者はモスとの絆を断ち切られる。戸惑うか、ああこうくるのねと思うか、さすがコーエン兄弟と思うかは人それぞれだろうが、かなり大胆な省略ではある。
以後、独自の理屈でモスとの「約束」を守ったシガーは、交通規則も守って交通事故に遭う。(今度は、シガーが、通りすがりの少年相手にシャツを買うやりとりをする。)
シガーを追い切れなかった老保安官は、兄弟だか旧友だかを訪ねてひとしきりぼやき、自宅の食卓でも妻相手にぼやく。そして父親が出てきた夢の話をする。
原題の示す通り、老人が安心して暮らせるような国ではなくなってしまっても、年若い者たちはずっとその国で生きていかなければならない。モスとシガーが窮地を脱するため衣類の交渉をはかった相手はいずれも若い。得体の知れない者を相手に交渉をし、利益を得られるなら得るというスタンスをとった彼等は、ベル保安官の夢が暗示したような「親父のあとをついていきさえすれば安心だっ た」時代ではなくなってしまった時代を生きて、今頃は大人になっているはずだ。
寂寞とした荒野、冷酷非道な殺人者、どんどん増えていく死体。暗澹とした気持ちにはなるが、見応えはかなりある。(2008.3)


ジャンパー Jumper
2007年 アメリカ 88分
監督:ダグ・リーマン
原作:スティーヴン・グールド「ジャンパー 跳ぶ少年」(早川書房)
出演:デヴィッド・ライス(ヘイデン・クリステンセン)、グリフィン・オコナー(ジェイミー・ベル)、ミリー・ハリス(レイチェル・ビルソン)、ローラン ド・コックス(サミュエル・L・ジャクソン)、メアリー・ライス(ダイアン・レイン)、ウィリアム・ライス(マイケル・ルーカー)
アメリカ、ミシガン州の田舎町に住む高校生のデヴィッドは、5歳の時に母が失踪して以来、自堕落な父と二人で暮らしていた。ある日、彼は突如としてテレポーテーション(空間瞬間移動)の能力に目覚める。氷の裂け目から湖に落ちておぼれかけた時、一瞬のうちに図書館に移動したのだ。
彼は家を出てニューヨークへ行き、銀行の金庫に跳んで大金を奪う。以後「ジャンパー」としての能力を使って、優雅な生活をして過ごすようになる。ロンドンのビッグベンの時計台からエジプトのスフィンクスの頭上へ。自由自在に世界各地を飛び回る。
やがて、幼い頃から思いを寄せていたミリーと再会し、彼女を念願のローマ旅行に誘う。
しかし、その旅先で、彼は「ジャンパー」抹殺に異様なまでの執念を燃やす謎の組織パラディンの存在を知ることになる。ベテランのハンターであるローランドが、デヴィッドを執拗に追い始める。デヴィッドは、同じ能力を持つ青年グリ フィンに出会い、彼に協力を求めるが、ずっと一人で戦ってきたグリフィンは、デヴィッドの申し出を受けようとしなかった。(グリフィンを演じるのは、「リトルダンサー」で主演の少年を演じたジェイミー・ベル。やさぐれた感じがなかなかよい。)
デヴィッドとグリフィンが口論しながらころころと場所を変えていくところ が、おもしろい。グリフィンは、東京へ跳び、車を盗み、車ごとアメリカのハイウェイに戻ってくる。新宿や渋谷の街並みが出てきて、二人が連れ立って見覚えのある交差点を渡ったり、地下鉄連絡通路を歩いたりしているのを見るのは、なんとなくうれしい。
アクションシーンでは、さらにめまぐるしく空間が入れ替わる。ジャンプした後に残る空間の裂け目を通ってローランドは彼等を追ってくるし、グリフィンはロンドンの二階建てバスごと氷原に突っ込んでくる。激しい格闘をしながらあちこちの空間に跳ぶのだが、あまりに速くてどこがどこだかわからなくなる。わくわくするが目が回る。
重たそうな金属の箱を持ち歩き、電線を巻き付けてジャンパーの動きを封じるバラディンのハンティングの様子は、情け容赦がなくてまがまがしい。彼等がなぜここまでジャンパーたちをつけねらうのかは不明であり、デヴィッドの母メア リーの存在も謎のままだ。しかし、暗い因縁じみたものをにおわせつつも、映画の印象は軽い。
デヴィッドは、その希有な能力を、自分のためにしか使わない。テレビのニュースで、洪水のため中州に取り残されて救援を待つ人々の様子を見ても、なんの反応もみせな い。おまえなら助けにいけるだろっと、突っ込みたくなるが、人助けをしようなどとは全く思い及ばないようである。それはそれで新鮮ではあるが、なんかの事件に絡むとか、アクション映画として盛り上がる筋立てがもうちょっとあってもよかったような気はする。
「ジャンプ」の特殊効果は大画面で見ると楽しいし、やたら長尺映画の多い昨今において1時間半という短さは支持したいところだが、登場人物と彼等の状況を紹介するテレビシリーズの第1回スペシャル版といった感で物足りなさは残る(続編はできるのだろうか)。(2008.3)


スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師
SWEENEY TODD: THE DEMON BARBER OF FLEET STREET
アメリカ 2007年 117分
監督:ティム・バートン
出演:スウィーニー・トッド(ジョニー・デップ)、ミセス・ラベット(ヘレナ・ボナム=カーター)、ターピン判事(アラン・リックマン)、バムフォード (ティモシー・スポール)、ピレリ(サシャ・バロン・コーエン)、トビー(エド・サンダーズ)、アンソニー(ジェイミー・キャンベル・バウアー)、ジョア ンナ(ジェイン・ワイズナー)、物乞いの女(ローラ・ミシェル・ケリー)
ブロードウェイの同名舞台劇を、ティム・バートン監督が映画化。
19世紀のロンドン。理髪師ベンジャミン・パーカーは、美しい妻と生まれたばかりの娘と幸せに暮らしていたが、妻に横恋慕した判事ターピンの罠に落ち、無実の罪で流刑に処される。15年後、脱獄した彼は、スウィーニー・トッドと名を変え、ロンドンに戻ってくる。彼は、再び理髪店を始め、仇の来店を待つのだった。
復讐に燃え、殺人鬼と化した理髪師ジョニー・デップが歌い踊る、血まみれのホラー・ミュージカル。
彼と大家のミセス・ラベットは、フリート街の二階屋で共謀を進める。二階の理髪店、一階のパイ屋、そして地下の厨房で、おどろおどろしいシーンが繰り広げ られる。灰色と赤が目立つ画面は美しいが、息苦しい。
若い船乗りアンソニーが、陰惨な空気を緩和する。ターピン判事の屋敷の二階に閉じこめられている少女ジョアンナを窓越しに見て一目惚れ。彼が街路を歩きながら彼女への思いを歌うシーンは、ミュージカルの王道をいき、とてもロマンティックでなつかしい。
が、彼の恋も、やがて、トッドの復讐につながっていく。
トッドの持つカミソリがいい。ティム・バートン監督の作品に出てくる金物には印象的なものが多い。「バットマン」の装備などはだいぶ大がかりだが、そこまでいかなくても「シザーハンズ」のハサミ(身体の一部だったが)や、「ス リーピー・ホロウ」の騎士の鎧、「チャーリーとチョコレート工場」の歯の矯正器具など、金属の持つ美しさとまがましさが渾然となって、独特の魅力を発している。(2008.1)

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