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西部劇

<2020年代の西部劇>制作年降順
1883 シーズン1<配信・ドラマ>(2021・2)、 イエローストーン シーズン1〜3<配信・ドラマ>(2018〜)、
オールド・ヘンリー(2021)、 ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野(2021)、 この茫漠たる荒野で(2020)、 ミークス・カットオフ(2020)

1883 1883
U-Next配信  シーズン1:2021年〜2022年
脚本:テイラー・シェリダン
監督:テイラー・シェリダン、クリスティーナ・アレクサンドラ・ヴォロス、ベン・リチャードソン
出演:ジェームズ・ダットン(ティム・マックグロー)、マーガレット・ダットン(フェイス・ヒル)、エルサ・ダットン(イザベル・メイ。ナレーションも)、ジョン・ダットン(オーディ・リック)
シェイ・ブレナン(サム・エリオット)、トーマス(黒人。ラモニカ・ギャレット)
ヨセフ(ドイツ人移民グループの通訳。マーク・リスマン)、リザ(ヨセフの妻。アンナ・フィアモラ)、ノエミ(ロマの女性。グラティエラ・ブランクシ)、
イニス(カウボーイ。エリック・ネルセン)、ウェイド(カウボーイ。ジェームズ・ランドリー・ヘバート)、クッキー(料理人。ジェームズ・ジョーダン)、コルトン(カウボーイ。ノア・ル・グロー)
チャールズ・グッドナイト(盗賊を追う男。ブレナンの知り合い。テイラー・シェリダン)
サム(コマンチの青年。マーティン・センズメアー )、
ドラマ「イエローストーン」の牧場創設者、初代ダットンの話。
1883年、元南軍大尉のジェームズ・ダットンは、妻のマーガレットと、娘のエルサ(18歳)、息子のジョン(4歳)とともに、開拓民として、新天地オレゴンを目指していた。
一家は、元北軍大尉でピンカートン探偵社の探偵(といっても雇われボディガードのような仕事)であるシェイ・ブレナンとその仲間トマス(ブレナンの元部下のようだ)が護衛を務めるドイツ移民の幌馬車隊に加わって旅に出る。ドイツ移民らは、馬に乗れず、通訳のヨセフしか英語をしゃべれない。水泳を禁じられていたため、川を渡る際にも泳げないという状態であった。
一行の旅は困難を極める。無法者たちの襲撃に遭い、毒蛇に噛まれ、河を渡る際に溺れ荷物を流され、竜巻で馬車を破壊され、誤解からインディアンの襲撃を受けるなどして、多くの者が命を落とし、はるばる故郷から運んで来た荷物の多くを失う。
ドレスを着た18歳の少女エルサは、持ち前の奔放さと乗馬好きから、スカートを脱いでズボンをはき、カウボーイとなって荒野を駆けめぐる。恋仲になったカウボーイを亡くし悲嘆にくれるも、コマンチの青年との間に新たな恋が芽生える。雄大な荒野を駆ける、エルサのはつらつとした騎馬姿は心地よく、当作品の魅力となっている。
が、幌馬車隊の旅はあまりにも過酷で見ていて気が滅入るのだった。
ラスト、ダットン一家は、ある事情からオレゴンに行くのをやめ、モンタナ州のパラダイスヴァレーに居を構える決心をするのだが、その事情がまた悲しいのであった。
インディアンの扱いが独特である。凶悪で攻撃的な原住民とか、白人に迫害された気の毒な少数民族とか、これまでの映画やドラマにありがちな目線を離れ、同じ土地に生きる者として関わらざるを得ない相手といった感じで登場する。彼らの土地を通過する際に水の使用料を払い、悲惨な戦いに至るにも経緯があるという具合だ。コマンチの青年サムは性格が男前すぎだろうという気もするし、エルサとの恋をダットンやマーガレットが割とあっさり受け入れるのも当時の親としてどうかと思ったが、斬新ではあった。
ラスト、パラダイスヴァレーは7世代後にクロウ族に変換するという条件が提示される。李鴻章の100年後の香港返還を条件にした条約締結を思い出すが、これは「イエローストーン」のジョン・ダットン(ケヴィン・コスナー)に伝わっているのだろうか。
今回見たのは「1883」のシーズン1の10話、まだシーズン2,3と続くらしい。さらにハリソン・フォード主演で「1923」があり、「イエローストーン」もまだ続いている。長すぎてとてもじゃないが、全部終える自信がないのだった。(2023.5)
※「イエローストーン」シーズン4の第1話、第8話に、「1883」から10年後(1983か)の様子が描かれているシーンが登場しているらしい。(2023.6)

以下、各話のあらすじを書く。
★最後まで筋が書いてあるので見ていない人は注意してください。★

1話 1883(67分) 1883
監督:テイラー・シェリダン
出演:クレア・ダットン(ダウン・オリヴィエリ)、メアリー・アベル・ダットン(エマ・マルドフ)、
冒頭は、1883年、グレートプレーンズ。幌馬車隊がインディアンに襲われている場面。女性のナレーション(エルサ)が、西部の過酷さを語る。倒れているエルサが起き上がると、周囲には移民やインディアンの死体が転がっている。馬に乗ったインディアンが近づき、エルサと言葉を交わす。エルサは死体から抜き取った拳銃でインディアンを撃つ。
場面代わって。元北軍大尉のブレナンは、天然痘で最愛の妻を亡くす。彼は、かつての部下(?)トーマスとともに、ピンカートン探偵社の探偵となり、新天地オレゴンを目指すドイツ移民の幌馬車隊の旅の護衛を引き受けるため、テキサス州フォートワースへ向かう。町へ向かう途中、ブレナンとトーマスは、ジェームズ・ダットンが無法者の襲撃を受ける場面に出くわす。ダットンが一人で複数の敵を相手に見事に撃退する様子を目撃する。
ダットンは、フォートワースで家族を待っていた。汽車に乗って、妻のマーガレット、娘のエルサ、息子のジョン、妹のクレアとその娘メアリー・アベルがやってくる。躾に厳しいクレアは、奔放な姪のエルサが気に入らず、なにかにつけ辛辣な小言を言う。
一方、ブレナンとトーマスが護衛を引き受けた幌馬車隊は、ドイツから来た貧しい移民たちで、西部で生きるすべを何もしらない集団だった。英語もしゃべれず、通訳のヨセフを介してなんとかコミュニケーションが取れるというありさま。ブレナンは、ダットンの腕を買い、幌馬車隊との合流を申し出る。ダットンはそれを承諾し、一行のオレゴンを目指す旅が始まる。

2話 意地と別れ(59分) Behind Us, a Cliff
監督:テイラー・シェリダン
出演:ジム・コートライト(実在した保安官。ビリー・ボブ・ソーントン)、ジョージ・ミード(北軍の准将。トム・ハンクス)
冒頭、1862年、南北戦争アイティータムの戦い後の様子が映し出される。ジェームズ・ダットンは、戦いに敗れた南軍の大尉として戦場で呆然自失の状態にある。北軍のミード准将がやってきてダットンの肩を叩く。
場面は1883年のテキサスにもどって。ダットンとブレナンは、町に牛を買いに行くが、値段が高すぎるので、野生の牛を集めることにする。ダットンは、ウェイドとイニス、二人のカウボーイを雇い、二人とエルサを連れて牛集めに出かける。
ダットンとブレナンらが留守のときに、キャンプに無法者のクライド・バーカーとその仲間がやってきて水を飲ませてくれという。クレアは石を投げて追い払うが、パーカーたちは戻ってきて、キャンプを襲う。銃撃により幌馬車隊の人々が倒れる。クレアの娘アベルも撃ち殺されてしまう。
キャンプに戻ったダットンとブレナンは、バーカー一味を追ってフォートワースへ。保安官のコートライトが、酒場ホワイトエレファントにいるバーカーらを見つける。コートライトは銃を抜こうとした彼らを早撃ちでもってことごとく撃ち殺す。
キャンプをたたみ、幌馬車隊は出発する。クレアはアベルの墓から動かない。ダットンが声をかけても、5人いた子どもを次々と亡くし、最後に残ったアベルまで失った彼女は絶望して自殺を図る。ダットンは彼女を埋葬し、一行は出発する。

3話 のりこえるべきもの (44分)  River
監督:クリスティーナ・アレクサンドラ・ヴォロス
出演:ノエミ(ロマの女性。グラティエラ・ブランクシ)、リザ(ヨセフの妻。アンナ・フィアモラ)
幌馬車隊の旅は過酷なものとなる。馬車の事故や獣や毒蛇の被害で死者が後をたたない。
行く手に大きな川が流れていて、一行は東へ大きく迂回して船で渡るか、危険な西への道を取るかの選択を迫られる。東への経路を取ると冬になってしまうが、厳しい冬を迎える前に旅を終えるべきという思いは、ダットンもブレナンも同じだった。
旅の途中で夫を亡くし、幼い息子二人を抱えているロマ(ジプシーのようなものらしい)の女性ノエミを不憫に思い、ブレナンとトマスはなにかと世話を焼いてやる。彼女から生活道具を盗んだ男たちを、ブレナンは隊から追放する。
ダットンは幼い息子ジョンを連れてシカ狩りに行き、狩りのやり方とともに、動物の命を奪うことの意味を教える。
二人のカウボーイと、マーガレットとエルサは牛を集めに行く。エルサは、馬を駆って牛を追うマーガレットを見て、今まで知らなかった母の一面を見る。エルサとカウボーイのイニスは恋の駆け引きのような会話を繰り返し、お互い惹かれつつある。
一行は、西へ向かうことを選択する。

4話 命の分かれ目(55分) The Crossing
監督:クリスティーナ・アレキサンドラ・ヴォロス
エルサはスカートをドイツ移民の主婦がつくったズボンと交換し、ズボンをはく。馬に乗るのに便利だが、ズボンをはく女性は奇異な目で見られる。
エルサはイニスとキスをし、ふたりは恋人同士となる。
一行の行く手をブラゾス川が阻む。ダットンは、みんなが川を渡る手助けをするため、家族を連れて夜の間に向こう岸に渡る。翌朝、川は深く、水の量が増えている。ブレナンは、移民たちに荷物を減らすよう命じる。痛恨の思いで、ピアノを置いていく音楽家など、移民たちはブレナンの非情な命令にいやいやながら従う。
牛を渡すのは最後となるため、エルサとカウボーイたちは一番後に川を渡る。エルサは、移民が捨てたピアノを見つける。イニスにせがまれてピアノを弾く。物悲しい曲だ。楽しい曲を弾けよというイニスに対し、暗い曲しか練習しなかったという。
渡河は困難を極める。馬車が倒れたり、落ちて溺れ死ぬ人もいる。渡り終えたあと、家族を亡くし悲嘆にくれる移民たちの姿がそこかしこにある。

5話 毒と自由と(56分) The Fangs of Freedom
監督:クリスティーナ・アレクサンドラ・ヴォロス
ブラゾス川を渡った際に、食料を積んだ馬車が流されてしまう。わずかな食料を盗んだ男たちが、ブレナンに追放される。ブレナンに言われ、ヨセフが幌馬車隊のリーダーとなる。
マーガレットとエルサは裸で水浴をする。エルサはイニスとの恋に夢中。そんな娘にマーガレットは、性教育を施す。
亡くなったり追放されたりして、幌馬車隊の人数は1週間で半減する。
エルサはイニスと一夜をともにする。ダットンは、エルサとイニスの仲を許す。
ウェイドは、6頭の馬の足跡を発見する。丘の向こうにたき火の煙が見える。6人の男たちが一行を狙っている。幌馬車隊は、彼らの襲撃を受ける。イニスが撃たれて死んでしまう。
エルサは、捕らえられた犯人を撃ち殺す。

6話 悪魔との根競べ(51分) Boring the Devil
監督:ベン・リチャードソン
出演:クッキー(料理人。ジェームズ・ジョーダン)、コルトン(ノア・ル・グロー)、キャロル(リタ・ウィルソン)
一行は、レッド川沿いに進んでテキサス州とオクラホマ州の境、ドーンズ渡し場にやってくる。
イニスの死で悲嘆にくれるエルサ。妻を亡くした経験を持つブレナンが彼女を慰める。「アパッチの言葉に、愛し合うことは魂を交換することだというのがある。相手の死は自分の一部を失くすことだから痛い。でも、彼の魂の一部は君の中にある。」と。エルサに、妻を亡くしなぜ生きているの?と聞かれ、ブレナンは「海へ行く。」と答える。「死んだ妻の悲願だったから、自分が行って妻に海を見せてやる。」と。
幌馬車隊の人々は渡し場で物資を調達する。トマスは、クッキーというベテランの料理人を雇う。ダットンは、カウボーイのコルトンを新たに雇う。マーガレットは、雑貨店主のキャロルと酒を飲んで酔っ払う。トーマスは、ノエミにフランス製のきれいな手鏡をプレゼントし、二人は一夜をともにする。
一行は、レッド川を渡って、インディアンの土地に入る。

7話 黄色い髪の稲妻 (53分) Lightning Yellow Hair
監督:クリスティーナ・アレクサンドラ・ヴォロス
出演:サム(マーティン・センズメアー )、チャールズ・グッドナイト(盗賊を追う男。実在した牧場主。テイラー・シェルダン)
旅を続ける幌馬車隊とダットン一家。コマンチの若者二人が姿を現す。ブレナンは、水を使う代金を払い、二人を夕食に招待する。牛を一頭つぶし、クッキーは料理の腕をふるう。
コマンチの若者サムは、エルサの馬ライトニングをほめる。エルサとサムは馬のレースをして、エルサが勝つ。サムは、ライトニング(稲妻)は君だという。「黄色い髪の稲妻」とエルサを呼ぶ。エルサは、ブロンドの髪を切ってサムに渡す。サムは、ナイフをエルサに献上する。サムは、エルサの髪で馬の細工物をつくって置いていく。
クッキーがいなくなる。嵐が来るのでさっさと避難していたのだ。嵐とともに竜巻もやってくる。
竜巻が一行を襲う。死者は出なかったが、馬車が飛ばされ、多くの者が持っていたものを失くす。ノエミの馬車も壊れる。トマスにもらった鏡も割れてしまう。竜巻のどさくさでエルサとサムはキスをする。
ダットンらは、散らばった牛や馬を集める。クッキーが戻ってくる。
低地に集まっていた牛を、13人の盗賊が盗もうとしていた。ダットン、ブレナンらと銃撃戦となる。エルサは盗賊3人に追われる。サムと相棒が駆けつけて3人を殺す。盗賊を追っていた男、グッドナイトが登場。ブレナンの知り合いだった彼は、助けに回る。
エルサを心配してやってきたマーガレットは、馬をよこせと銃を向ける盗賊を撃ち殺す。

8話 嘆きという名の降伏(55分) The Weep of Surrender
監督:ベン・リチャードソン
ダットンとカウボーイたちは、散らばった馬を集める。
サムは自分の部族のキャンプにエルサらを連れていく。エルサは、ズボンが破けてしまい自分で繕ったが、インディアンの女性に黄色いチャップスを作ってもらう。
幌馬車を失い、一行の移動速度は大幅に落ちる。冬前にオレゴンに着ける可能性は低い。一行は、オレゴンを目指すか、コロラド州のデンバーへ目的地を変えるか選択を迫られる。ブレナンの強硬なやり方に反感を抱いていたせいか、移民たちはダットンを信頼しているとブレナンはダットンに言う。彼らを導くのは君だと。彼らは、オレゴンを目指す決断をする。
エルサは、サムとの結婚を決意するが、オレゴンまでは幌馬車隊や家族といっしょに行き、それから戻ってくるとサムに約束をする。エルサは、サムにもらったカラフルで露出の多い部族衣装の上衣を着る。
馬車をなくした移民たちは慣れない馬に乗る。トマスは、ノエミに乗馬のアドバイスをする。馬の頭ではなく、進む方向を見るのだと(わたしが乗馬体験をしたとき、コーチに同じことを言われた)。ヨセフの妻、リズも馬に慣れてくる。

9話 蒼天の雲(56分) Racing Clouds
監督:ベン・リチャードソン
出演:ラコタ族の男たち(トカラ・ブラック・エルク、グレイ・ウルフ・ヘレーラ)
リザの乗る馬が毒蛇を踏み、リザは落馬して重傷を負う。リザに駆け寄ったヨセフは足を毒蛇にかまれる。
ブレナン、トマス、ダットンは、馬泥棒に襲撃されたラコタ族のキャンプをみつける。そこでは女性と子どもたちが惨殺されていた。足跡をつけてしまったブレナンらは、自分たちの幌馬車隊が犯人だと思われ、ラコタ族に復讐されることになると考える。
ダットンはマーガレットに事情を話しキャンプで待つように言い、自分たち3人は無実を証明するため、馬泥棒たちを追う。3人は、ワイオミング牧場主協会のものだという男たちにでくわすが、彼らこそが馬泥棒で、3人は彼ら全員を皆殺しにする。
料理人のクッキーは、キャンプで待つのは危険だと言って、砦に向かう。一行は、彼について行く。マーガレットは、砦に行くのにエルサが露出の多いインディアンの服を着ているのはまずいと言って、ワンピースドレスに着替えさせる。一行は、復讐に燃えるラコタ族の男たちに出くわし、激しい襲撃を受ける。クッキーは殺される。エルサは襲撃者を減らすため、おとりになって馬を駆る。ラコタ族の戦士が数騎追ってきて、エルサは矢で射られ、落馬する。追手に殺されそうになるところで、サムに教わった部族語を発す。英語がわかるラコタ族の男に自分はコマンチのサムの妻だといい、話をして誤解を解く。ラコタのリーダーは、襲撃隊を率いて去っていく。
コルトンは、頭皮をはがれ、矢を身体につきたてたまま半狂乱になって死にかけている移民の女を憐れに思って撃ち殺す。
馬泥棒をやっつけたブレナンら3人は、キャンプに帰る途中、襲撃から引き揚げてきたラコタ族の男たちと出くわす。ダットンが単騎、彼らに近づき、リーダーと話す。馬泥棒をやっつけたこと、死体のある場所を伝え、エルサのことを聞く。リーダーはエルサを勇者だといい、戦いを仕掛けずに去る。
移民の女性を射殺したことに落ちこむコルトンに、ブレナンは、ここでは自分の判断がすべてだ、自分の判断を受け入れろという。
エルサは矢を抜いて治療をうけるが、容態はよくない。ダットンは、マーガレットと話をする。エルサは助からない、それを受け入れなければならない、彼女が自分で選んだ場所に埋葬し、そこをダットン家の安住の地にしようと言う。

10話 旅路の果て(65分) This Is Not Your Heaven
監督:ベン・リチャードソン
出演:スポッテド・イーグル(クロウ族の長老。グラハム・グリーン)
牛がいなくなってカウボーイはお役ごめんとなり、ウェイドとコルトンは新しい仕事を求めて旅立つ。蛇にかまれたヨセフと落馬したリズ、そしてエルサの容態はよくならず、治療のため、一行は近くの砦に向かう。一行は砦に着いたが、そこに医者はいず、砦の所有者は馬泥棒のボスだった。一行は砦を出て、モンタナを目指す。蛇に噛まれたヨセフの足は壊疽を起こし、ブレナンらは彼の足を切断する。リサは、回復せず、死んでしまう。
どうみても具合が悪いのに、ダットンはエルサに調子がよさそうだといい、馬に乗っていいと言う。父の態度から、エルサは自分は死ぬのだと察する。
一行はクロウ族に出会う。エルサは身を清めてもらう。長老は、ダットンに、娘は助からないといい、安住の地として、パラダイスヴァレーの場所を教える。(このとき、7世代後には土地を返還するよう要請し、ダットンはそれを承諾する。)馬で2日、馬車で7日の距離にあるその土地へ、ダットンとエルサは先に馬で向かう。ヴァレーに着いた二人は草原の木の根元に座る。エルサはダットンに抱きかかえられたまま、自分をここに埋葬してくれと言って息を引き取る。ダットンはそこを安住の地と決め、そこに築いた牧場はのちのイエローストーン牧場となるのだ。
1年後、片足を失ったヨセフは、オレゴンで土地を得て家を建てる。トマスとノエミもオレゴンで新生活を始める。ブレナンは、死んだ妻が見たがっていた海へ行き、海岸に腰を下ろして75歳の生涯を終えるのだった。


イエロー・ストーン YELLOWSTONE
2018年〜  アメリカ  配信 ドラマ
企画:テイラー・シェリダン、ジョン・リンソン
製作総指揮:テイラー・シェリダン、ジョン・リンソン、アート・リンソン、ケヴィン・コスナー
出演:ジョン・ダットン(イエローストーン牧場主。ケヴィン・コスナー)、ケイシー・ダットン(三男。ルーク・グライムス)、ベス・ダットン(長女。投資銀行勤務。ケリー・ライリー)、ジェイミー・ダットン(次男。弁護士。新司法長官に立候補する。ウェス・ベントリー)、リー・ダットン(長兄。一話で死亡。デイヴ・アナブル)、モニカ(インディアン。ケイシーの妻。教師。ケルシー・アスビル)、テイト(ケイシーとモニカの息子。プレッケン・メリル)、フェリックス・ロング(モニカの祖父。ルディ・ラモス)、ロバート・ロング(モニカの兄。1話で死去。ジェレミア・ビツイ)
リップ(カウボーイ頭。コール・ハウザー)、ジミー(新米カウボーイ。ジェファーソン・ホワイト)、ロイド・ピアス(ベテランカウボーイ。フォリー・J・スミス)、コルビー(カウボーイ。黒人。デニム・リチャーズ)、ライアン(イアン・ボーエン)、ウォーカー(ギターを持ったカウボーイ。ベテランだがイエローストーンでは新参者。ライアン・ビンガム)、エイブリー(カウガール。タナヤ・ビーティ)
ライネル・ベリー(モンタナ州知事)、マイク・スチュワート(司法長官。ティモシー・カーハート)、トーマス・レインウォーター(部族政府首長。ギル・バーミンガム)、ダン・ジェンキンス(開発業者。ダニー・ヒューストン)、
<シーズン2から>マルコム・ベック(不動産開発業者。ニール・マクドノー)、カウボーイ(スティーヴン・ウィリアムズ)、キャシディ・リード(ケリー・ローバッハ)
<シーズン3から>
ロアーク(ヘッジファンド・マネージャー。ジョシュ・ホロウェイ)、エリス・スティール(マーケット・エクイティーズのマネージャー。ジョン・エメット・トレイシー)、ティーター(ジェニファー・ランドん)、ミア

WOWOWにて放映。シーズン1・2は放映終了(オンデマンド配信あり)。3を放映中。
モンタナ州イエローストーン国立公園に隣接するイエローストーン牧場。
ジョン・ダットンは、代々続く広大な牧場の経営者であるとともに地元の権力者でもある。家畜協会の代表を務め、州知事のベリーとも懇意にしている。
開発業者によって近接する土地が新たに買収され、イエローストーン牧場は、イエローストーン国立公園、ブロークンロック先住民居留地、宅地造成予定地に囲まれることとなった。部族政府の首長トーマス・レインウォーターは、白人に奪われた先祖の土地を取り戻そうとし、開発業者のジェンキンスはモンタナに新しいマンションやカジノを造成する計画を進めようとし、ダットンと対立する。
ドラマは、この三者の三つ巴の戦いとともに、ダットン家内部の複雑な家族関係を描いていく。兄弟中で最も危うさを感じさせるケイシーとその妻モニカと幼い息子テイトの行く末が気にかかるところだ。
これまでのアメリカ映画だったら、おそらくレインウォーターやモニカらインディアンとそれに寄り添う白人男性ケイシーが主役となり、牧場と町を牛耳るジョン・ダットンは対立する巨悪の大ボスといった役どころとなるだろうか。ところが、ここではその大ボスが主役である。レインウォーターは、インディアンのリーダーだが、虐げられた被害者ではなく、メキシコで育ったインテリで、祖先の地に戻ってきた政治家として大いなる野心を見せる男である。父を嫌っていたケイシーは、結局牧場に戻り、ジョンは父親らしい面も見せる。一概にだれがいい奴でだれが悪い奴とは言えない、複雑で重厚な人間たちの群像劇となっている。
ドラマでは、敵味方警察関係なく誰もがやたらと人を殺す。製作総指揮のシェリダンが監督した映画「ウインド・リバー」を見れば、アメリカの法制度の下、先住民居留地とその周辺地域がどれだけ法律に守られていない場所かよくわかるが、登場人物たちは現代なのに西部開拓時代のような無法ぶりを見せる。警察や行政も絡んで画策に加担し、事実を隠して首尾よく形を整えることがまかり通っている。ここでこの人(たち)がこの人(たち)を殺すのか!?と唖然とし、暗澹たる気持ちになることもしばしばである。シーズン2では、ベック兄弟を相手に血で血を洗う壮絶な殺し合いが展開する。
一方、雄大なモンタナの大自然を背景に、どこまでも広がる牧場での現代のカウボーイたちの仕事ぶりや生活が丁寧に描かれているのは興味深い。少年テイトの存在が、救いとなっていて、ジョン・ダットンが孫をかわいがるおじいちゃんとしての一面を見せる場面にもほっとする。

◆シーズン1(ドラマの内容を書いています)
ダットン家の長男リーは、カウボーイとして牧場の維持管理をしているが、経営者としての自覚はいまひとつ、牛を巡るいざこざから先住民のロバート(モニカの兄)に殺されてしまう。
次男のジェイミーは、弁護士で父の役に立とうと頑張っているが、今一つジョンから認められず、次期司法長官選挙に出馬して、ジョンと対立することとなる。
長女のベスは、少女時代、落馬事故で母を亡くしたことがトラウマになっている。牧場を出て都会で投資ビジネスに辣腕を振るっていたが、父の手助けをするためイエローストーンに戻ってくる。
三男のケイシーは、父を嫌い、特殊部隊の兵士として戦地に赴いていたが、帰国して先住民のモニカと結婚し、息子のテイトとブロークンロック居留地で暮らしていた。が、居留地とイエローストーン牧場との間の争いから妻子と別れ、牧場に戻ってジョンの後を継ぐ決心をする。
牧場は何人ものカウボーイを雇っている。カウボーイ頭のリップは、少年のころジョン・ダットンに拾われ、彼を慕い、時として非道な彼のやり方を受け入れ、牧場で生きてきた。Yの字をあしらったイエローストーン牧場の烙印は、牛だけでなく、カウボーイたちにも押されている。烙印のあるカウボーイは、臨時雇いのよそ者カウボーイとは一線を画し、牧場に守られるとともにそこから抜け出すことは難しくなっている。(烙印は、カウボーイだけでなく、ジョンの息子たちにも押されていることが、のちに明かされる。)

◆シーズン2,3
新たな敵ベック兄弟が登場、情け容赦ない攻撃にダットンが反撃する(シーズン2)、ジェンキンスに代わって遠大な開発計画を打ち出す大手開発業者が介入、イエローストン牧場は存亡の危機に立たされる(シーズン3)といった展開となっていく。状況が変わるにつれ、ジョン・ダットンとレインウォーターとの関係も変化していくのがおもしろい。(2022.5)

<シーズン1>
1.夜明け、2.口封じ、3.弔いの日、4.カウボーイの掟、5.重い絆、6.刻まれた記憶、7.敵か味方か、8.綻び、9.決別
<シーズン2>
1.遠雷、2.新たな始まり、3.無法者、4.悪魔の取引、5.命知らず、6.血の代償、7.オオカミの襲来、8.荒野の誓い、9.敵討ち、10.父から子へ
<シーズン3>
1.宿命の大地、2.大いなる野望、3.駆け引き、4.侵入者、5.罪なき死、6.絶望の果て、7.解かれた封印、8.殺すか殺されるか、9.悪より冷酷に、10.帝国の終わり


オールド・ヘンリー Old Henry
2021年 アメリカ 99分
監督・脚本:ポッツィ。ポンチローリ
出演:ヘンリー(ティム・ブレイク・ネルソン)、カレー(スコット・ヘイズ)、ワイアット(ギャビン・ルイス)、アル(トレイス・アドキンズ)、ケッチャム(スティーヴン・ドーフ)、デューガン(リチャード・スペイトJR)、スティルウェル(マックス・アルシニエガArciniega)、ブラニガン(ブラッド・カーター)

1906年、オクラホマ。初老の男ヘンリーは、10代の息子ワイアットと二人で細々と牧場を営んでいる。ちょっと離れたところには、叔父(ワイアットの母の弟か)のアルがいて、ときどき手伝いにくる。ある日、ヘンリーは、荒野でけがをして倒れている男カレーを見つけ、家に連れ帰る。彼は、無法者ケッチャム一味の一員だった。彼を追って、一味がやってくる。
無法者たちを迎え撃つため、ヘンリーは長いあいだしまっておいた銃を手にする。
こどものころ、カレーは、西部の名高い無法者ビー・ザ・キッドを見かけ、その見事な銃さばきを目撃していた。ヘンリーの正体は、実はそのビリ。彼は、圧倒的に不利な条件下、ケッチャム一味の男たちを次々に倒していくのだった。
これもまた渋く暗く物静かで、あまり華のない今風の西部劇だ。少年ワイアットが生き残るのがせめてもの希望か。(2023.1)

ハーダー・ゼイ・フォール 報復の荒野  Harder They Fall
2021年 アメリカ Netflix 138分
監督:ジェイムズ・サミュエル
出演・ナット・ラブ(ジョナサン・メジャース)、ステージコーチ・メアリー/メアリー・フィールズ(ザジー・ビーツ)、ビル・ピケット(エディ・ガテギ)、ジム・ベックワース(RJ・サイラー)、カフィ(ダニエル・デッドワイラー)、バス・リーブス保安官(デルロイ・リンド)、
ルーファス・バック(イドリス・エルバ)、トゥルーディ・スミス(レジーナ・キング)、チェロキー・ビル(ラキース・スタンフィールド)
ワイリー・エスコー(保安官兼町長。デオン・コール)
Netflix配信前の映画館での上映で見る。
出演者が黒人ばかりの西部劇である。予告編を見ると、ラップ音楽バックに、無法者が非情に銃を撃ちまくる場面が立て続けに映るので、スタイリッシュなPVみたいな映画かという印象を持ったのだが、映画館で西部劇を見られる機会なので、上映最終日に見に行く。
まっとうな復讐ものウエスタンだった。家族を殺された男がナット・ラブと名乗るギャングのボスとなる。ギャングはいったん解散するが、収監されていた仇敵のルーファス・バックが出獄したことを知って復讐を決意、仲間も再び集まってきて、ギャング対ギャングの対決となる。
敵味方それぞれの一味の面々がよい。ナット・ラブ演じるジョナサン・メジャースは特にかっこいいいわけではなくそのへんにいる気のいいおじさんのような風貌だがそれで無法者というのが逆にいいかも、やり手の女店主で元カノのメアリ、ライフル使いでクールなビル・ピケット、早撃ち自慢の陽気な若者ジム、小柄な若者だけど敏捷で銃にも喧嘩にも強いカフィ(実は・・・)、ナットのことをよく知っているベテラン保安官のリーブスなど。対するルーファス・バック団は、ルーファスもかっこいいが、その片腕の女トゥルーディがてきぱきしていて気に入った。チェロキー・ビルは早撃ちで知られるガンマン、陽気なジムとは対照的に陰気で冷酷だ。
映画に出てくるのはほぼ黒人で、店や町も黒人ばかりである。護送列車からのルーファスの脱走(釈放)シーンには警備の騎兵隊員たちが、ナット・ラブの一味が大金を得るため襲う白人の銀行内には白人がたくさん出てくるが、みんな端役扱いだ。この銀行強盗は、カフィが活躍、痛快なシーンとなっている。
最後はギャング対ギャングの激しい銃撃戦が展開。ナットとルーファスの対決はこう来たかという感じでなかなか衝撃的だ。
音楽のことは本当によくわからないので説明できないのだが、ラップはほとんど聞かれず、どちらかというとレゲエっぽい感じの曲がかかったり、あきらかに黒人音楽かかりまくりではあると思うのだが、違和感がなかった。
ちょっとマカロニ風味ではあるが、重厚感があり、かといって暗くなりすぎず、よかったと思う。

タイトルは、ジミー・クリフの有名な唄「ハーダー・ゼイ・カム」の一節から来ているものと思われる。
Harader they come, harder they fall, one and all
(奴らがひどいことをすればするほど、奴らはひどい死に方をする、そろいもそろって、と言ったような意味だったと思う。

映画の冒頭、「物語はフィクションだが、人物は実在した」と字幕が出る。日本では、ビリー・ザ・キッドや、ジェシー・ジェームズほど有名ではないが、アメリカでは知られている人物が揃っているようだ。ただし、有名人を集めてみたという感じで、字幕の示す通り、物語自体は事実無根のようだ。西部劇仲間が教えてくれたので、受け売りで記す。(goghさん、ありがとうございます。)
ナット・ラブ:有名な黒人のカウボーイ。ルーファス・ギャングとのつながりは見られず。
ルーファス・バック:実在のギャング。一味は、黒人とインディアンの混成ギャングだったらしい。
チェロキー・ビル:母親がチェロキー族と黒人の混血のため、インディアン・アウトローとして知られる。フォートスミスで絞首刑になった。
メアリー・フィールズ(ステージコーチ・メアリー):黒人女性初の郵便配達人。
ビル・ピケット:黒人のカウボーイでロディオパフォーマー。ワイルド・ウエスト・ショーや無声映画にも出演していたそうだ。
ジム・ベックワース:19世紀初めの黒人のマウンテンマン。ルーファス・ギャングと時代的に重ならず。


この茫漠たる荒野で NEWS OF THE WORLD
2020年 アメリカ NetfliX配信(2021年) 119分
監督:ポール・グリーングラス
原作:ポーレット・ジャイルズ“NEWS OF THE WORLD”
出演:ジェファーソン・K・キッド大尉(トム・ハンクス)、ジョハンナ・リオンバーガー/シカダ(ヘレナ・ゼンゲル)、サイモン・ブードリン(レイ・マッキノン)、ドリス・ブードリン(メア・ウィニンガム)、ガネット夫人(エリザベス・マーヴェル)、アルメイ(マイケル・アンジェロ・コヴイーノ)、ファーリー氏(トーマス・フランシス・マーフィ)、ジョン・キャリー(フレッド・ヘッキンジャー)、ウィルヘルム・リオンバーガー(ニール・サンディランズ)、アンナ・リオンバーガー(ウィンサム・ブラウン)


Netflix配信によるトム・ハンクス主演の西部劇。
文芸作品のようなやけにきどった邦題がついているが、原題は「世界のニュース」で、これも西部劇らしくはない。舞台は、1870年のテキサス。ジェファーソン・K・キッド大尉は、元南軍の退役軍人で、新聞の記事の読み聞かせをしながら西部の町を巡って生計をたてている。原題は、「世界のニュースをお届けします」という、彼の口上からきている。
ある日、彼は旅の途中でジョハンナという10歳の少女と出会う。彼女は、幼いころカイオワ族に家族を殺され、自分は連れ去られて6年間彼らとともに暮らしていた。が、騎兵隊の討伐により、今度はカイオワの家族を殺され、再び孤児となったのだ。
彼女はドイツ移民の子で、叔父夫婦がテキサス南部のカストロヴィルにいると知ったキッドは、人手不足でなかなか来ない騎兵隊の担当者に代わって、彼女をそこまで送り届ける決心をする。
テキサス州北部のウィチタフォールズから、ダラスを経て、南部のサンアントニオ近くのカストロヴィルまでの馬車の道のりは長い。ジョハンナは、「シカダ」と名乗りカイオワ語しかしゃべれず、英語を解さない。ドイツ語にはちょっと反応するが、4歳までの記憶はほぼ失くしているようである。キッドは、サンアントニオに家があり、妻が待っているはずなのだが、なにか訳ありで帰ろうとしない。馬車の旅を続けながら、二人は、お互いの言葉を教え合い、少しずつ心を通い合わせていく。
西部劇だが、活劇というよりは旅の映画だ。南北戦争終結から数年後、南部の人たちは苦しい生活を強いられている。キッドは同じところを巡回しているようで、町の人たちは彼がくると声をかけ、読み聞かせの場所に集まってきて、キッドが語る知らない町のできごとに耳を傾けるのをささやかな楽しみにしている。情報が行き届かない時代ならではのなごやかさが感じられる。
キッドとジョハンナは旅先で様々な人々に出会う。南部の町を管理する元北軍の騎兵隊員たち、カイオワ語を喋れるホテルの女主人(ガネット夫人)、南軍くずれの悪党(アルメイ)、バファロー狩りで成功し小さな町を牛耳る男(ファーリー氏)、彼の支配から逃れて新天地を目指す若者(ジョン・キャリー)など。
アクションシーンはそう多くないのだが、岩場での銃撃戦は見応えがあった。ヨハンナを狙うアルメイとその仲間の男たちが、二人の行く手を阻み撃ち合いになる。キッドは友人から借りた拳銃のほかには鳥撃ち銃しか持っていない。ヨハンナがとっさの機転で、ニュースの読み聞かせで集めたダイム(十セント硬貨)を持ってきて、それを何枚も重ねて弾薬のカートリッジに詰めて撃つのが興味深かった。白昼の、岩場での銃撃戦はやはりいい。
しかし敵は人だけでなく、西部の自然は過酷で、二人は急斜面で馬車が暴走して荷物も馬も失くし、砂漠をさまよっているところで砂嵐に見舞われる。嵐の荒野の中に現れたインディアンの一行はまるで幻のようだったが、彼らはカイオワ語で話しかけるヨハンナに一頭の馬をくれるのだった。
伯父の住む町が近づいてきたあたりで、ヨハンナはカイオワにさらわれる前に住んでいた家を見つける。6年前の惨劇の跡は風化している。黒ずんだ血痕が残る空き家の室内に見入るヨハンナと彼女を見守るキッド。言葉や回想シーンなどによる説明は何もなく、ただ風が吹いている感じがなんとも悲しい。
物静かで、しぶい色調の画面、淡々と進む物語に重量感のある銃声という、最近の西部劇にみられがちな要素が盛り込まれている。つらいことの多い話だが、西部の風景と主演の二人がいいので、そんなに暗くならずにしみじみしながら見ることができた。

以下、ジョハンナの叔父夫婦に会ってからのあらすじである。

農夫の叔父夫婦は、苦しい生活のせいか、妹(ヨハンナの母)とあまり仲がよくなかったせいか、ヨハンナと再会してもあまりうれしそうではなく、ただ労働力が増えたことを喜ぶ。物語が好きだから本を買ってやってくれというキッドに、そんなもの役に立たないという。
不安を残しつつ、肉親の元で暮らすのが一番いいだろうと、彼はヨハンナを叔父夫婦に託して、サンアントニオに帰る。そこで、彼の妻はすでにコレラで亡くなっていることがわかる。彼は、戦争で多くの命を奪った裁きで妻が死んだのだと言うが、町に住む古い友人は、そんな彼の言葉を否定し、彼を慰める。
ヨハンナは、叔父夫婦とうまくやって行けずにいた。キッドは彼女を迎えに行く。叔父夫婦もほっとした様子でヨハンナを手放す。キッドとヨハンナはいっしょにニュースの読み聞かせの旅を続けるのだった。(2021.2)


ミークス・カットオフ  MEEK'S CUTOFF
2020年 アメリカ 103分
監督:ケリー・ライカート
出演:エミリー・テセロ(ミシェル・ウィリアムズ)、スティーブン・ミーク(ブルース・グリーンウッド)、ソロモン・テセロ(ウィル・パットン)、ミリー・ゲイトリー(ゾーイ・カザン)、トーマス・ゲイトレー(ポール・ダノ)、グローリー・ホワイト(シャーリー・ヘンダーソン)、ウィリアム・ホワイト(ニール・ハフ)、ジミー・ホワイト(トミー・ネルソン)、インディアンカイユース(ロッド・ロンドー)

周辺の西部劇ファンからは不評な作品だが、いや、それなりに見ごたえはあるだろうと思って、早稲田松竹のケリー・ライカート特集で見た。
1845年、オレゴン。新天地を求めて西部へ向かう3家族の旅の様子を描く。
広大な西部の荒野、幌馬車、馬、銃、開拓者たち、西部の案内を務めるスカウト、はぐれインディアン、と西部劇の要素がたくさんあるので西部劇なんだろうが、岩場の銃撃戦も、無法者たちの仲間割れも、インディアンの襲撃も、酒場の殴り合いも、1対1の決闘も、縛り首も、保安官と保安官事務所と牢屋に拘留される無法者や酔っ払いも、馬の疾走も、スタンピードも、ガンマンと淑女との恋も、ない。
西部を目指す、テセロ夫妻、ゲイトリー夫妻、ホワイト家の3組の家族は、ひたすら黙々と砂漠を進み続ける。案内人のミークは馬に乗り、男たちは幌馬車を駆るが、馬車は荷物でいっぱいで、乗れない女たちは長いスカートのすそを引きずって、ひたすら歩く。
タイトルのカットオフは近道の意味。どうやら、彼らは幌馬車隊にいたが、近道を知っているというミークの言葉を信じて隊とは別行動をとったらしい。が、2週間で着くと言われた目的地に5週間経っても着けないでいる。ミークが道に迷ったのでは、あるいは近道なんかないのでは、という疑惑が彼らの中に芽生えているが、ミークは意に返さない様子である。やがて、水が尽きそうになるが、水場も見つからない。
そんな中、カイユート族のはぐれインディアンに遭遇する。狂暴な種族だから殺そうという男たちをテセロ夫人のエミリーが止める。インディアンなら地理に詳しく、水場も知っているはずということで、彼に案内をしてもらおうとするが、まったく言葉が通じない。
通常の西部劇であれば、案内人はインディアンの言葉は多少わかっていて通訳の役目も果たすのだが、ミークはちんぷんかんぷんでここでも役に立たない。インディアンはけっこう長々としゃべるし、祈りの言葉のような唄も唄うが、だれも意味がわからない。エミリーは、インディアンに近づき、貸しを作るためだと言って、ほころびていた彼の靴を修繕してやるが、修繕し終わった状態の靴は画面には出てこない。いろいろと説明不足な映画で、それが悪いということではなく、一貫して登場人物たちが求める答えや結果はあいまいなままだ。だが、直した靴を履くインディアンの足元くらいは見たかった気がする。
この映画は、女から見た西部劇、男たちがヒーローを気取ってドンパチやってる間、女たちは黙々と退屈で過酷な日々の暮らしを営んできた、ということを伝えているのだ、といったことが劇場の解説文に書いてあった。そういう意味で歴史的な1作だと。
そう言われたら、西部開拓時代の女たちがどのような思いでどのようなことをしていたか、リアルなものを見てみたいと思ったし、物静かな開拓民家族のやりとりも見ていたかったし、夕陽に映える幌馬車隊、広がる荒野、馬と幌馬車の列を写す超ロングショットなど美しい画面にも惹かれたが、、にも関わらず、頭では思っても、身体がついていかなかった。見ていたいのに、静かすぎて退屈過ぎて夜のシーンが暗すぎて、何度も寝てしまった。(2022.1)


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