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○ 外国映画 イップ・マン

イップ・マン 序章、 イップ・マン 葉問、 イップ・マン 継承、 イップ・マン 完結

イップ・マン 序章
2008年 香港/中国 106分
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:サモ・ハン・キンポー
音楽:川井憲次
出演:イップ・マン(葉問 ドニー・イェン)、ウィンシン(張永成 イップマンの妻。リン・ホン)、イップ・チュン(葉準 イップ・マンの息子)、チョウ・チンチュン(周清泉 工場主。サイモン・ヤム)、リー・チウ(李釗 警官・通訳。ラム・カートン)、カム・サンチャウ(金山找 北派武術をやる武館破り。ルイス・ファン)、三浦(日本軍将校。池内博之)、佐藤(渋谷天馬)、コンユウ(周光耀 チョウの息子)、ラム(武痴林 茶館店主。ユンの兄)、ユン(沙膽源 ラムの弟)、リュウ師匠(廖師傅 チェン・チーフイ)

早稲田松竹のイップ・マン3本立てを見る。
3作とも、あの手この手で次から次へとひたすら詠春拳の達人イップ・マンの見事な闘いぶりを見せてくれる映画である。
アクション・シーンは飽きることがない。
イップ・マンは小柄で、美人の奥さんより背が低い。普段は穏やかで茫洋としている。それが、戦いに転じるや気迫に満ちた顔つきになる、そのギャップがたまらない。
1935年の中国広東省仏山市。
イップ・マンは、妻のウィンシンと幼い息子のチュンとともに、大きな屋敷で裕福な暮らしをしていた。仏山は武術のさかんな町として知られ武館が立ち並んでいたが、その中にあってイップ・マンは、詠春拳の達人として町の人たちから師匠と呼ばれ尊敬を集めていた。北部からやってきた武館荒らしのカム一派もイップ・マンの相手ではなかった。
が、日中戦争が勃発すると仏山は日本軍に占領され、イップ・マン一家は屋敷を奪われ、貧しい生活を余儀なくされる。金目のものも売りつくしてしまい、イップ・マンは炭鉱で日雇いの仕事をする。
仏山に駐留している日本軍部隊の将校三浦は、優れた空手家だったため、占拠した道場に武術の心得のある中国人を集めて日本軍兵士と戦わせ、勝ったものには米を与えていた。が、イップ・マンは、米を得るための武闘には加わらなかった
イップ・マンの友人の実業家チョウは、古い工場を買い取り、綿工場を開く。が、カムたちが彼らの製品を運ぶトラックを襲い、嫌がらせをしかけてくる。イップ・マンはチョウに請われて工場で働く人たちに詠春拳を教え、カムたちが再来したときには、彼らを返り討ちにするのだった。
一方、イップ・マンの知人で茶館主人だったラムは、三浦の道場で日本兵3人を相手に戦って殴殺され、また武館主だったリュウ師匠は三浦に敗れたうえ三浦の部下佐藤に銃殺されてしまう。それを知ったイップ・マンは怒りに燃え、10対1の格闘を申し出る。イップ・マンがここで見せる破壊力はものすごい。
イップマンは、大概、パオと呼ばれる詰襟の黒地の中国服を着ている。戦争が始まる前に屋敷でカム・サンチャウが戦いを挑んできたとき、イップ・マンは最初は受けの技で流していたが、攻めに転じるときに腕まくりをした。
日本兵との戦いにおいては、彼は初めから腕まくりをしている。最初から攻撃の姿勢ということで、これは、ラストの三浦との対決においてもそうである。黒地の服に袖の折り返しの部分のみ白い裏地が見えたら、イップ・マンは攻めに出るのだ。
警官から日本軍の通訳になるリー・チウという男が重要な役割を果たす(役者さんはちょっと蟹江敬三風である)。彼は、家族を養うため日本軍の通訳という立場に甘んじていたが、同胞を見殺しにする裏切り者だとイップ・マンに避難されてから、イップ・マンのために動き、一家をかくまう。通訳のくせにちゃんと訳さないのがおもしろい。10人を1人で倒したイップ・マンに三浦は名を尋ねる。イップ・マンは「ただの中国人だ」と答えるが、リーは「彼は葉問です。」と伝えるなど、イップ・マンの攻撃的な言葉をやんわりとした表現に変える。彼はラスト、イップ・マンを助けるため、日本兵を撃ち殺してしまうのだが、そのあとどうなったかわからず、気になる。(2018.9)

イップ・マン 葉問   葉問2 IP MAN2 
2010年 香港 109分
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:サモ・ハン・キンポー
音楽:川井憲次
出演:イップ・マン(ドニー・イェン)、ホン(サモ・ハン・キンポー)、ウォン・レオン(ホァン・シャオミン)、ウィンシン(リン・ホン)、カム・サンチャウ(ルイス・ファン)、ワイケイ(ホンの弟子。デニス・トー)、チョウ・チンチュウ(サイモン・ヤム)、チョウ・コンユウ、(チンチュウの息子。カルヴィン・チェン)、ツイスター(ダーレン・シャラヴィ)、ポー刑事(ケント・チェン)、ウォーレス(イギリス人の警察署長。チャールズ・メイヤー)、李小龍(少年時代のブルース・リー)

早稲田松竹のイップ・マン3本立てで見直す。
1作目の後にみると、チョウやカムとの関わりがわかるので、より楽しめた。
ツイスターとのラストの試合もいいが、やはり私としては、円卓上でのイップ・マンとホンとの対決が最高に盛り上がる。(2018.9)
ブルース・リーの師匠、中国武術詠春拳の達人であるイップ・マンの生涯を描く。
1950年、イップ・マンは、広東省佛山から妻子とともにイギリス統治下の香港に移住してくる。知人の新聞社編集長リャンの好意で部屋を借りて武館(道場)を開く。ウォンを始め若者たちが弟子入りしてくるが、みんな貧乏でレッスン代を満足に払えず、イップ・マン家の家計は苦しかった。
イップ・マンは弟子同士の諍いを通して、香港の武館をしきる洪拳の師範ホンと会う。二人は考え方の違いから対立するが、次第に互いの技量を認め合っていく。やがて、イギリス人の警察署長ウォーレスが主催するボクシングの試合でチャンピオンのツイスターが中国武術を侮辱したことから、ボクシング対カンフーの異種格闘技戦が行われることに。イップ・マンは、中国武術の名誉を守るために、対戦者として名乗りをあげるのだった。
ひさしぶりに香港の本格カンフー映画を見た。無駄がなく、ストイックで、ストレートでカンフー・アクションを心ゆくまで楽しめた。
大きな見せ場は4つ。まずは、市場での大乱闘。ホンの弟子たちに取り囲まれたイップ・マンとウォンが、多勢に無勢の戦いを展開。イップ・マンが大きな簀の子を持ち上げ防御しつつ、振り回して武器にしたり、相手の持つ包丁を取り上げ、両手に持って峰打ちで攻撃しまくるのは痛快。
次は、香港で武館を開くためには、他流派の師範たちと戦って、線香が消えるまで持ちこたえなくてならないという掟があり、それに従ってイップ・マンが他の師範たちと勝負をするシーン。飯店の大きな円卓の上で、1対1の対決が行われる。中でもホンとの対決が圧巻。巨体のホンが飛び乗ると、テーブルが大きく傾ぐ。ぐらぐらとした狭い足場での、達人対達人の対決は見応えが有り余る。
そして、四角い本物のリングでのボクシング対中国武術の勝負。最初の勝負は、ホンとツイスター。ホンの誇りをかけた必死の戦いぶりが泣かせる。最後は、イップ・マンとツイスターの戦い。パワーとスタミナで押してくるツイスターと、技で交わし同時に攻撃を食わせるイップ・マンと、二人の戦い方は対照的である。
物静かで穏やかなイップ・マンをドニー・イェンが好演。サモ・ハン・キンポーは、終始険しい表情で笑顔がないのが少々さびしかったが、巨体を動かしての熱演に感動する。映画の冒頭、「動作導演 洪金寶」というクレジットを見たときもうれしかった。
原題に「葉問2」とあるように、本作はイップ・マンものの第2作目。本編終了後に1作目「葉問序章」の予告編の上映があった。日本軍が攻めてきたときの話らしく、池内博之が空手の達人の日本人将校役で出演、イップ・マンと対決するようである。
本作の劇場動員数が5000人を超えると、未公開の第1作も上映の運びとなるとのお知らせが出た。カンフー映画ファンのみなさま、ぜひ劇場へ行きましょう。(私が見たのは、新宿武蔵野館です。)(2011.1)

このひと言(No.48):「詠春拳では、攻めと守りを同時に行う。」

イップ・マン 継承   葉問3 IP MAN3 
2016年 中国/香港 105分
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:ユエン・ウーピン
音楽:川井憲次
出演:イップ・マン(ドニー・イェン)、ウィンシン(リン・ホン)、イップ・チン(ワン・シィ)、チョン・ティンチ(マックス・チャン)、チョン・フォン(スイ・サン)、チョイ・リク(イップ・マンの弟子。ルイス・チョン)、黄先生(カリーナ・ン)、ポー刑事(ケイト・チェン)、サン(パトリック・タム)、フランク(マイク・タイソン)、刺客(サラット・カアンウイライ)、ティン師匠(レオン・カーヤン)、ブルース・リー(チャン・クォックワン)、新聞記者(ベイビージョン・チョイ)

イップ・マンは、香港で詠春拳の普及に努めていた。
小学生の次男のチンの友だちチョン・フォンの父親チョン・ティンチは貧しい車夫だが、詠春拳のかなりの使い手で、自分の武館を開きたいという望みを抱いていた。
ある日、チンたちが通う小学校が、地上げ屋のサンに狙われる。暴力で学校の土地を奪おうと襲撃してきたサン一味を、イップ・マンと弟子たちが撃退する。それからしばらく、イップ・マンらは夜の見張り番を引き受ける。一方、イップ・マンの妻ウィンシンは体調がおもわしくなく、診察に訪れた病院で癌を宣告される。
サンらは、小学校から子どもたちを攫って、校長を恐喝する。イップ・マンはサン一味のたまり場に乗り込み、子どもを取り戻す。このとき、金のためサンの用心棒を引き受けていたティンチは、イップ・マンに手を貸す。
サンのボスは、香港のデベロッパーで裏ではあくどい稼業を仕切っているフランクだった。フランクは、イップ・マンに刺客を差し向けるが、それも撃退される(せまいエレベーターの中で妻を庇いながら刺客を迎え撃つのがまたかっこいい)。
イップ・マンは単身フランクのオフィスに乗り込み、フランクは1対1の勝負を持ちかける。タイソンとドニーの対決は、二人だけで行われ、地味だが見ごたえがある。
小学校の騒動が落ち着くと、ティンチはサンの用心棒をして得た金で詠春拳の武館を開く。彼の名声は高まり、やがて詠春拳の正統な継承者を決めるため、イップ・マンに対決を挑む。
しかし、イップ・マンは、ティンチの挑戦を無視し、余命いくばくもない妻との時間を最優先する。
妻の死後、イップ・マンは、ティンチの武館を訪れ、二人だけで試合をする。イップ・マンの圧倒的な強さにティンチは敗北を認め、「詠春拳の正統な継承者」であることを謳った看板を自ら叩き割るのだった。
イップ・マンの妻がこのころに亡くなったのは事実らしい。奥さん役のリン・ホイはいつも不満を言うし、夫の達人ぶりをどのように思っているのかよくわからないところもあるのだが、でも、きれいで嫌みがないので、毎回なんか好感を持ってしまう。が、突然の癌の宣告から、不治の病純愛ドラマへの展開には驚いた。詠春拳の正統な継承者を決める大事な試合のときに、妻と社交ダンスに興じるカンフーの達人など、ドニー・イェンならではの役どころだと思った。
ブルース・リーがちょっとだけ顔を見せる。冒頭、イップ・マンに弟子入りしようとして断られ、中盤はダンス好きの青年として登場、拳法での活躍はほとんどない。(2017.9)

イップ・マン 完結  葉問4完結篇 IP MAN 4
2019年 中国・香港   105分
監督:ウィルソン・イップ
アクション監督:ユエン・ウーピン
出演:イップ・マン(ドニー・イェン)、シャオロン/ブルース・リー(チャン・クォックワン)、ハートマン・ウー(イップ・マンの弟子で海兵隊員。ヴァネス・ウー)、チン(ジム・リュー)、ポー刑事(ケント・チェン)、
ワン・ソンホア(中華総会会長。ウー・ユエ)、ルオナン(ワンの娘。ヴァンダ・マーグラフ)、
バートン・ゲッデス(海兵隊軍曹。スコット・アドキンス)、コリン・フレイター(海兵隊教官で空手の有段者。クリス・コリンズ)、ベッキー(グレース・エングレル)

イップ・マン・シリーズ完結編。
1964年。妻に先立たれたイップ・マンは、息子のチンと二人で香港で暮らしていたが、ある日、医者から癌を宣告される。中学生となったチンはなにかと難しい年ごろで、学校で問題を起こし、父に対しても反抗的な態度を取っていた。そこへ、アメリカに渡って道場を開いた弟子のシャオロン(ブルース・リー)からアメリカの武術大会への招待状が届く。チンをアメリカに留学させようと考えたイップ・マンは、息子の学校探しを兼ねて、サンフランシスコに赴く。
サンフランシスコのチャイナタウンに宿を取り、知人の新聞記者の紹介で、中華総会の幹部らに面会したイップ・マンだったが、旧知のロー老師以外、会長のワンや他の老師たちはイップ・マンを歓迎しなかった。彼の弟子であるブルース・リーが、会の掟に反し、西洋人に中国拳法を教えていることが、彼らは気に入らなかったのだ。イップ・マンは武術を広めるのはよいことだと意見を述べるが、やがて彼は、異国に生きる同胞たちが白人から差別され辛い思いをしていることを知るのだった。
今回もイップ・マンは長袍(チャンパオ)に身を包み、普段は穏やかで茫洋としているが、いざ詠春拳を披露する段になると顔つきが変わる。久しぶりに新作で彼のカンフーを堪能した。これが最後なのはさびしい限りである。
今回は、最初の立ち回りは、ブルース・リーと弟子たちによるもので、イップ・マンはなかなか動かない。ブルース・リー役は、「継承」に引き続きクォックワンが好演、今回はしっかり見せ場があり、ヌンチャクの技も披露してくれる。
イップ・マンの最初の見せ場は、白人の悪ガキにいじめをうけていた中国人の女子高校生を助ける、ヒーロー感たっぷりのシーンとなっている。チアガール部で中国系のルオナンがリーダーに選ばれたことが気に入らない白人の娘ベッキーがボーイフレンドたちを使って、彼女を襲わせる。学校の外れで金網に押し付けられ、長い黒髪を切られているところに、息子の留学先探しで学校を訪れていたイップ・マンが通りかかり、悪ガキたちを追い払うという運び。
ルオナンは、ワンの娘だった。二人は、バスでいっしょにチャイナタウンに帰る。ルオナンは、ザンバラ髪をバスの中でハサミを出して切りそろえ、後ろの方を切りそろえてくれるよう、イップ・マンに頼む。なにもここでやらなくてもと思いつつ、イップ・マンがあのしかめ面で女子高校生の髪を切るのがだいぶよかった。ルオナンを演じるマーグラフも感じがよい。
チンの留学には、中華会長であるワンの紹介状が必要だったが、ワンはそれを書くのを拒否していた。ルオナンが口添えするもワンは頑なで、二人は武術で決着をつけることに。かくしてワンの太極拳とイップ・マンの詠春拳の対決となる。ルオナンを助けたとき金網の戸に手を挟まれたせいでイップ・マンは片手を負傷していたが、そのことに気づいたワンは心意気を見せ、以後は片手だけを使った勝負となる。一体どう決着するんだとわくわくどきどきして見ていたら、急に地震が起きて、勝負は仲秋節までお預けとなる。
一方、イップ・マンの弟子で海兵隊員のハートマンは、軍の訓練に中国武術を取り入れてもらおうとがんばるが、空手の達人の軍曹ゲッディスは中国人を嫌い、何かとハートマンに辛く当たり、中国武術をバカにして彼の邪魔をする。
さて、仲秋節では、そのゲッディスにそそのかされた海兵隊の武術教官フレイターが白人空手集団を率いて乗り込んできて、チャイナタウンの老師たちを次々に倒してしまう。イップ・マンが登場して、情勢は一転、フレイターをやっつける。一方、イップ・マンと決着をつけるはずだったワンは、突然訪れた移民局員らに無理やり連行されてしまう。移民局の男は、ベッキーの父で、ベッキーはルオナンの髪を切ったハサミで自分で自分の頬を傷つけてしまったのだが、それをルオナンのせいだと泣いて訴え、親バカ親父が権力にものを言わせたのだった。しかし、そこにゲッデスが割り込んできて、移民局からワンを連れ去る。ワンとゲッデスは武術で勝負するが、ワンが負けてイップ・マンの出番となり、ゲッディスとの壮絶な戦いが繰り広げられる。(ゲッデスも空手家たちも白人の格闘家はかなり強い。それにくらべてチャイナタウンの老師たちがちょっと弱すぎるのが悔しい。イップ・マンは別格、ワンも強かったが、他の老師たちももう少し強くてもいいんじゃないかと思う。) 
ルオナンと知り合うことで思春期の若者の気持ちに触れたイップ・マンは、帰国後、チンを留学させることをやめ、拳法をやりたいという希望を汲んで詠春拳を教えることに決めた。木人で鍛錬する様子をビデオに撮るようにチンに言うところで、余命少ない自分の姿を残しておこうという彼の気持ちが伝わってくる。と思うや、シリーズの数々の場面が映し出されてきて、まんまと泣かされるのだった。
(2020.7)
余談:ワンは太極拳の老師なので、いやがるルオナンに太極拳を教えている。摟膝拗歩(ロオシーアオブー)と野馬分鬃(イエマーフェンゾン)という套路の動作を教えているシーンがでてきて、サークル活動で太極拳を習っている身としてはとても興味深かった。


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