みちのわくわくページ

○ 映画(2022年)

<見た順(降順)> フェイブルマンズ、 エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス、 パーフェクト・ドライバー、 すずめの戸締り、 プレデター ザ・プレイ、 NOPE/ノープ、 ブレット・トレイン、 ザ・ミソジニー、 トップガン マーヴェリック、 名探偵コナン ハロウィンの花嫁、 シン・ウルトラマン、 イエローストーン(TV)、 アウター・レンジ〜領域外〜

フェイブルマンズ  THE FABELMANS
2022年 アメリカ 151分
監督:スティーヴン・スピルバーグ
脚本:スティーヴン・スピルバーグ、トニー・クシュナー
出演:サミー・フェイブルマン(ガブリエル・ラベル)、ミッツィ・フェイブルマン(サミーの母。ミシェル・ウィリアムズ)、バート・フェイブルマン(サミーの父。ボール・ダノ)、レジー・フェイブルマン(サミーの妹。長女。ジュリア・バターズ)、ナタリー・フェイブルマン(次女。キーリー・カーステン)、リサ・フェイブルマン(ソフィア・コペラ)、ハダサー・フェイブルマン(ミッツィの母。ジーニー・バーリン)、ボリス(ミッツィの叔父。ジャド・ハーシュ)、ベニー・ローウィ(セス・ローゲン)、モニカ(クロエ・イースト)、ローガン・ホール(サム・レヒナー)、ジョン・フォード(デヴィッド・リンチ)
スピルバーグの自伝的映画と聞いて見に行くが、スピルバーグの、というよりは、タイトルが示すようにユダヤ人の一家、フェイブルマン家の物語である。サミーは、IT関連の技術者の父とピアニストを目指していた母と3人の妹たちと暮らしている。ある夜、両親に連れられて行った映画「史上最大のショー」(1952)の列車と車の衝突シーンを見たことがきっかけで、サミーは映画の虜となり、友達を集めて8ミリカメラで映画の撮影を始める。できた映画は学校で上映される。アリゾナの砂漠を背景に撮った戦争映画は、周囲の人たちを驚かせる出来栄えだった。が、一家と父の仕事仲間のベニーとでキャンプに行ったときの映像を編集していたサミーは、フィルムに映っていた母とベニーの関係を目にしてしまい、映画づくりをやめてしまう。
悪人ではないのだが奔放で強力な個性を持つ母と、天才肌で仕事一筋ののクールな父に振り回される子どもたち。やがて、父の栄転で一家はカリフォルニアへ引っ越すこととなる。移転先の高校で、サミーはユダヤ人を嫌う男子らのいじめに遭うが、イエス・キリストを愛するモニカというクリスチャンの女の子と仲良くなる。しばらく映画づくりから遠ざかっていたサミーは、モニカから卒業記念イベントの撮影を頼まれ、引き受けるのだった。
フェイブルは、ドイツ語で寓話の意味(殺し屋マンガの「ザ・ファブル」で有名な単語だ)、自伝的映画だけどフィクションだという意味が込められているそうだ。しかし、映画の中で起こる出来事は甘くなく、かといって大げさに悲劇的でもなく、リアルでもやもやとしている。家族讃歌にも、映画讃歌にもなっていないところがいい。
最後にでてくる地平線のエピソードは、かの監督のドキュメンタリーの中のインタビューでスピルバーグが語っていた内容そのままである。インタビューを聞いたとき、なんていい話だと感激したものだ。それを知らずに、いきなり映像で見せられた方がよかったかもしれないが、サミーが部屋に通され、秘書と待たされている辺りで、ひょっとしてあれか?と思いながらわくわくしながら巨匠の登場を待つのもそれはそれで楽しかった。(2023.3)
関連作品:「映画の巨人 ジョン・フォード」(2006年・110分)ピーター・ボグダノビッチ

エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE
2022年 アメリカ 139分
監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
出演:エヴリン・ワン(ミシェル・ヨー)、ウェイモンド・ワン(キー・ホイ・クァン)、ジョイ・ワン/ジョトゥパキ(ステファニー・スー)、ゴンゴン(ジェームズ・ホン)、ディアドラ・ボーベラ(ジェイミー・リー・カーティス)、ベッキー(タリ―・メデル)
タイトルを直訳すると、「なんでもどこでもぜんぶいっしょに」といった意だろうか。
中国移民の主婦エヴリンは、頼りない夫ウェイモンドとコインランドリーを営みながら、老父ゴンゴンの介護をしている。難しい年ごろの娘ジョイに手を焼いていたが、ある日、彼女はボーイフレンドではなくガールフレンドのベッキーを連れてきて、昔気質の父に会わせたいと言い出す。一方、店の経営状況は厳しく、国税局に納税申告に行っても、融通の利かなそうな女性職員(ディアドラ)に書類の不備を指摘されてやり直しを命じられる。そんな生活に疲れきっていたエヴリンだったが、突然、夫のウェイモンドが豹変する。別の宇宙のウェイモンド・アルファが乗り移ったのだ。彼は、巨悪によって危機に直面した宇宙を救ってほしいと、エヴリンに告げ、彼女に世界の命運を託す。
エヴリンは、カンフー・スターとなった宇宙の自分に乗り移り、見事なカンフーの技を駆使して国税局で大立ち回りをしてみせる。予告編ではマルチバースといっているが、つまりは重ね合わせにある多元宇宙に様々なエヴリンがいて、有名なカンフー・スターだったり、歌手だったり、シェフだったりするのだが、中には人間の手の指がソーセージになっているふざけた宇宙とか、生き物が存在しない岩だけの荒涼な宇宙なども出てくる。ウェイモンド・アルファが言う巨悪のボス「ジョブトゥパキ」は、なんと、アルファの宇宙のジョイなのだった。
なんやかんやありながら、物語は、結局、夫と娘との関係修復という超個人的な問題に収束していく。世界を危機から救うはずが、結局は身内のことしか考えてないじゃんというのはアメリカ映画にありがちな展開だが(けなしているわけではない)、これもまたしかり。ウェイモンドと結婚したがためにしがないコインランドリー屋の主婦となってしまったエブリンは、彼の申出に応じなかった自分が成功者となった宇宙を目の当たりにし、自分の選択は間違いだったのかと思う。が、やがて夫のやさしさに気付き・・・というのが夫との関係。娘ジョイとの関係は、母と年頃の娘のちょっと心がかみ合わない問題から、宇宙の存亡をかけたエヴリン対悪の首領ジョブトゥパキという大げさな戦いに発展するが、この対決はベーグルが絡んでどんどん意味不明になっていく。無機物だけの宇宙で二人が岩になっているシーンはなかなかおかしいが、会話をしているのはいただけなかった。どうせわけがわからないのだから、なにも動くものがない世界で観客がしびれを切らすくらいの間、ただ2つの岩を映していればいいのに、とも思った。
暴走する画面についていけるかどうかで映画の評価が分かれるところか。カンフーアクションは見ていて楽しいが、後半になると、正直ちょっと飽きてきてしまった。
ミシェル・ヨーはたいへんよかった。国税局のこわいおばさんが、ジェイミー・リー・カーティスだったのには驚いたが、こういう役を意気揚々と演じている彼女もよかった。(2023.3)

パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女 SPECIAL DELIVERY
2022年 韓国 109分
監督・脚本:パク・デミン
出演:チャン・ウナ(パク・ソダム)、キム・ソウォン(少年。チョン・ヒョンジュン)、チョ・ギョンピル(悪徳刑事。ソン・セビョク)、ペク・カンチョル(ペッカン産業社長。キム・ウィソン)、キム・ドゥシク(ソウォンの父。元野球選手の賭博プローカー。ヨン・ウジン)、ハン・ミヨン(国家情報院係官。ヨム・ヘラン)、アシフ(ペッカン産業従業員。アフリカ系。ハン・ヒョンミン)
予告編をみて、「グロリア」と「ドライブ」「ベイビードライバー」を合わせたような映画かなと思って気になって見に行ったら、思った通りそれらを合わせたような内容の映画だった。
28歳のウナは、わけありの荷物の運搬(特送)を請け負う凄腕ドライバーである。彼女は、ある日、逃走する賭博ブローカー、ドゥシクとその幼い息子ソウォンを運ぶ仕事を引き受けるが、ドゥシクは追手に殺されてしまう。ウナは、金の在りかの鍵を持つソウォンとともに、悪徳刑事ギョンビル一味から追われることに。敵が刑事なので、警察に助けを求められず、ウナは誘拐犯として警察からも追われる身となり、さらに彼女が脱北者であることが判明すると、彼女を知る国家情報院の女性係官ハンらも出動してくる。
行き届いた娯楽アクションだった。カーアクションも派手でいいが、スクラップ工場でのヒロインも敵も血と汗でどろどろになっての戦いも勢いがあった。
ドゥシクが元プロ野球選手であるとか、裏で「特送」を請け負うスクラップ会社(釜山港のすぐ近くにあるという場所の設定もいい)の社長や従業員のアフリカ出の青年がいい味を出していたりとか、狭い狭い路地を走破し、踏切を利用して追手を躱し、ドリフトで縦列駐車を一発で決めるウナに対し、情報院のハンは車庫入れも苦手なへぼ運転者である(自分もへぼなので個人的に好感を持つ)とか、細部もいろいろ気が利いていると思った。ハンがクライマックスの戦いには間に合わず、見せ場がないのはちょっと残念だった。
しかし、サブタイトルはどうにかならないものかと思った。タイトルも「特送」とした方が渋くて内容に合っていると思うが、それではあまり人が見に行く気にならないってことなんだろうなと思った。(2023.2)

すずめの戸締り
2022年 日本 121分
監督:新海誠
声の出演:岩戸鈴芽(原菜乃華)、宗像草太(松村北斗)、岩戸環(深津絵里)、海部千果(花瀬琴音)、二ノ宮ルミ(伊藤沙莉)、芹澤朋也(神木隆之介)、岩戸椿芽(花澤香菜)、宗像羊朗(松本白鸚、ダイジン、サダイジン
日本各地にある廃墟に突然現れる謎の扉。
扉の向こうの「後ろ戸」は「常世」の世界で、扉が開くと「ミミズ」が現れる。ミミズは災害の予兆で、赤黒い雲のように村や町の上空に広がるが、人々の目には見えない。鍵を持つ「閉じ師」の青年が扉を戸締りすることで、ミミズは消え、災害の恐れはなくなる。
九州の宮崎で叔母の環と暮らす高校2年生のすずめは、廃墟で「西の要石」を抜いてしまい、そのせいで扉が次々と開き、ミミズが出現することに。西の要石は、ダイジンと呼ばれる猫に姿を変え、すずめになつき、閉じ師の草太を魔法でイスに変えてしまう。そのイスは、すずめが幼い時、母に作ってもらった誕生日のプレゼントで、脚が一本かけて3本足の不安定な状態になっている。ミミズは何匹もいるわけではなく一匹が日本の地下を這いずっている。逃げるダイジンを追うイスの草太を追うすずめは、行く先々の廃墟に現われる扉を戸締りしてミミズを消すが、すぐまた次の扉が開く。宮崎から愛媛、神戸、東京へとすずめたちの旅は、続いていき、草太は東京でダイジンの代わりに要石になってしまう。
草太を救うために、すずめは東北に向かう。すずめは東北の震災で母を失くしていた。4歳だったすずめは環に引き取られたのだった。家出したすずめを心配してかけつけた環と草太の友人の芹沢(なかなか好感の持てるキャラとなっている)が加わり、3人は芹沢のオープンカーで東北へ向かう。
「どこでもドア」みたいな扉とその向こうに広がる星がきらめく漆黒の宇宙ときらきら光るカギと突如出現する鍵穴がファンタジーすぎるのとこの映画の世界だけで通じる専門用語が次々に出てくることにちょっと引いてしまい、また、まがまがしく広がるミミズともどもそれらのイメージにさほど斬新さが感じられなかった。草太の魂が入るのが手作りの子ども用の木のイスでしかも三本足で走るというのはまったくもって奇抜な着想だとは思うのだが、なぜか「ハウルの動く城」のぴょこぴょこ跳んで進む案山子の動きを思い出してしまう(これに限らず、映画全体を通して「ハウル」に雰囲気が似ている感じがする)。幼いすずめが出会っていたのは実は、という展開も特に意外でもなく、おお、ここでこうくるか?という驚きはなかった。オマージュの部分もあるのだろうが、つまりは出てくるものに対してやけに既視感を抱いてしまうのだった。が、どことなく見慣れたものを最大限に生かして、パワーアップしたビジュアルでもってきっちりと見せきった力量はあっぱれ、という感じの映画だった。
(追記)ビジュアルの秀逸さとともに、言葉へのこだわりも感じられた。「好き」と言われればふっくらし、「きらい」と言われればやつれてしまうダイジンは言葉が他人に与える力を表しているのだろうが、これはわかりやすすぎてあざとい。扉を戸締りする際にすずめが聞く、おはよう、いってきます、いってらっしゃい、という様々な声は、震災の朝にも人々の間で交わされたあいさつで大した意味をなさない言葉のやりとりゆえにそうした日常が立ち切れてしまったという思いを喚起させるものだ。しかし、私の溜飲を下げてくれたのは、それを言っちゃあおしまいよって感じで、すずめを引き取ったことがどれだけ負担だったかという心情を吐露した環があとから「それだけじゃないよ」の一言ですべて収めてしまうくだりで、言っちゃいけない言葉なんて実はないのだよという主張が感じられてよかった。(2023.1)

プレデター ザ・プレイ PREY
2022年 アメリカ 99分 ディズニープラスで配信
監督:ダン・トラクテンバーグ
出演:ナル(アンバー・ミッドサンダー)、タアベ(兄。ダコタ・ビーヴァーズ)、プヒ(けが人。サミュエル・マーティ)、サリー(犬)、プレデター(デーン・ディリエグロ)、
1719年グレートプレーンズ 狩人になりたいインディアン少女とプレデターの対決。主演のミッドサンダーが嫌味なくそこそこ野性的なので好感をもつが、青年インディアンたちは、勇者であろう設定のナルの兄タアベを含め、みんなきゃしゃであまり野性味が感じられないのが残念。 白人が土地を奪いに来る前の話で、インディアンがのびのびと暮らしている様が感慨深いが、皮を得るためだけにバファローを大量殺りくする白人たちはすでに存在しているのだった。(2022.11)

NOPE/ノープ  NOPE
2022年 アメリカ 131分
監督・脚本:ジョーダン・ピール 出演:OJ・ヘイウッド(ダニエル・カルーヤ)、エメラルド・ヘイウッド(キキ・パーマー)、リッキー・ジュープ・パク(テーマパークジューブ・パークのオーナー。スティーヴン・ユアン)、アントレス・ホルスト(映像ディレクター。マイケル・ウィンコット)。エンジェル・トーレス(電気屋の店員。ブランドン・ペレア)、オーティス・ヘイウッド・シニア(キース・デヴィッド)
「トレマーズ」は、アメリカ中西部の田舎町の人々が地中の怪物に襲われる話だったが、こちらは上空に潜む怪物に襲われる話。不穏な空の様子とそれを見上げる人々の不安げな表情がよい。 個人的には、予告編でスカイダンサーというものを初めて目にしたのだが、不気味さはそっちの方がうえだった。(2022.9)

ブレット・トレイン BULLET TRAIN
2022年 アメリカ 126分
監督:デヴィッド・リーチ
原作:伊坂幸太郎「マリアビートル」
出演:てんとう虫/レディバグ(プラッド・ピット)、レモン(ブライアン・タイリー・ヘンリー)、みかん(アーロン・テイラー=ジョンソン)、白い死神/ホワイト・デス(マイケル・シャノン)、プリンス(ジョーイ・キング)、ホワイト・デスの息子(ローガン・レーマン)、木村雄一(アンドリュー・小路)、長老(木村の父。真田広之)、ウルフ(ベニート・A・マルティネス・オカシオ)、ホーネット(ザジー・ビーツ)、車掌(マシ・オカ)、社内販売員(福原かれん)、マリア(ハンドラー。サンドラ・プロック)、モモもん
伊坂幸太郎原作、ブラッド・ピット主演による、超特急列車内殺し屋バトル活劇である。
冒頭の東京のシーンでアメリカ人が撮る日本の街というものを久しぶりに見た。そういえばこんな風に異国情緒漂う感じになるんだったと思ってなつかしかった。
コードネーム「てんとう虫(レディバグ)」のアメリカ人の殺し屋は、ハンドラー(斡旋屋のようなものか)のマリアから回された仕事を引き受ける。それは、東京発京都行きの特急列車に乗り込み、あるブリーフケースを見つけて確保し次の駅で降りるというものだった。
そのブリーフケースには誘拐された人質の身代金が入っていた。人質は、白い死神と呼ばれる暗黒街のボスの息子。息子を救出し彼とブリーフケースを運ぶ仕事を依頼されたレモンとみかんと呼ばれる殺し屋の二人組(ずっしりと太った黒人としゅっとした白人だが双子という設定である)、復讐のため列車に乗り込んだ南米の殺し屋ウルフ、毒薬を武器とする黒人女性の殺し屋ホーネット、謎の女子高生プリンス、幼い息子の命を盾にプリンスに脅されスーツケース争奪戦に巻き込まれる日本人ヤクザの木村、木村の父の長老などが、新幹線もどきの超特急に乗り合わせ、派手なバトルを展開する。
とにかく音も色も騒々しい。派手に殺し合っているのに、乗客乗務員の前では平静を装い、一般人は誰一人として騒ぎに気付かない。最後の停車駅米原からゴールの京都に着くまでが異常に長く、戦っている間に夜が明けて朝になってしまう。というふうにめちゃくちゃなのだが、とにかく勢いがあって楽しい。
てんとう虫とレモン&みかんコンビの3人のやりとりがいい。機関車トーマスおたくのレモンのうんちくや、自分探し野郎的なところのあるてんとう虫の人生話など、言葉の垂れ流しのようなやりとりはタランティーノの映画を思い出させるが、タランティーノほど作り込んでいなくて、無邪気な感じがした。真田広之のしぶい立ち回りが見られたのもうれしかった。(2022.9)

ザ・ミソジニー
2022年 日本 77分
監督・脚本:高橋洋
スタイリングディレクター(衣装):藤崎コウイチ
出演:ナオミ(中原翔子)、ミズキ(河野知美)、大牟田(横井翔二郎)
新宿シネマカリテのシネカリ(カリテ・ファンタスティック・シネマコレクション2022)で、高橋洋監督の新作「ザ・ミソジニー」を見る。
タイトルから、男尊女卑で女性蔑視のいやな野郎が謎の洋館で二人の美女に酷い目に遭わされる痛快ホラー?と思っていくと、全然ちがう。
林に囲まれた洋館を舞台に二人の女と若い男が、なにか霊的なできごとに遭遇するのだが、なにが起こっているのか、見ていてもよくわからない。
俳優で劇作家のナオミ(中原翔子)はとある洋館をひと夏の間だけ借りて住んでいて、執筆中の戯曲の練習をするために、友人の俳優ミズキ(河野知美)を呼び、ミズキはマネージャーである大牟田(横井翔二郎)とともに洋館を訪れる。その戯曲は、殺された母と娘の物語で、ナオミがかつてテレビの特番で見た失踪事件がもとになっていた。そして、実はこの洋館はその母娘が住んでいた家らしいのだった。
というところまでは理解したが、そのあとの展開は、よくわからなくなる。
チラシにもあるが、二人の女優が演じているのが、自分なのか、「役」なのか、それとも降りてきた「霊」なのか混然となっていくのがおもしろいのだと気づくが、それにしてもいまどの状態なのかわからない。
しっかり作られた重厚な画面において、ゴージャスな衣装(年代物の本物の司祭の服などを交えているそうだ)をまとった大人たちが、とにかくなんか霊的な事態にまじめに真っ向から取り組んでいる。なにやっているかわからないのだが、見入ってしまう。
画面に漂う痛快なまでの陰うつさは、高橋洋作品の持つ妙味のひとつだと思っているのだが、今回はそれが全編に渡ってずうっと漂っていて、よかった。
プログラムを見ればわかりますと舞台挨拶で壇上に立った監督が言うので千円のプログラムを買った。内容がびっしり詰まっているプログラムで「STORY」を読めば何が映っていたか、何をやっていたかはわかったが、なんでそうなるのかはよくわからなかった。
何回見てもスッキリわかる感じはしないのだが、とりあえずプログラムを読んだあとでもう一回観に行ければと思う。(2022.8)

トップガン マーヴェリック TOP GUN: MAVERICK
2022年 アメリカ 131分
監督:ジョセフ・コジンスキー
出演:マーヴェリック/ピート・ミッチェル(トム・クルーズ)、
ペニー(ジェニファー・コネリー)、アメリア(リリアナ・レイ)、
サイクロン(ジョン・ハム)、ホンドー(バシール・サラフディン)、ウォーロック(チャールズ・パーネル)、ハンマー(エド・ハリス)、アイスマン/トム・カザンスキー(ヴァル・キルマー)、
ルースター/ブラッドリー・ブラッドショウ(マイルズ・テラー)、フェニックス(モニカ・バルバロ)、ハングマン(グレン・パウエル)、ボブ(ルイス・プルマン)、ペイバック(ジェイ・エリス)、ファンボーイ(ダニー・ラミレス)、コヨーテ(グレッグ・ターザン・デイヴィス)
36年ぶりの続編。
36年経っても昇進も引退もせず、現役でパイロットを続けているマーヴェリックが、エリートパイロット養成所“トップ・ガン”に戻ってくる。某国が地下に造成中の核爆弾施設を完成前に壊滅するという、恐ろしく困難な任務遂行のため、特別教官として若いパイロットたちの訓練を行うこととなったのだ。教え子の中には、昔飛行中に事故で亡くなった相棒グースの息子ルースターがいて、マーヴェリックに対し、反感を抱いている。
教官のサイクロンは、マーヴェリックの考えた作戦は技術的に到底不可能と判断し、彼を外し、違う作戦を取ろうとする。が、その作戦では敵の猛攻を受けることは間違いなく、チーム全員が生きて帰れる可能性はほとんどないため、生徒たちは絶望的な思いに陥る。が、そのとき、勝手に戦闘機で飛び出したマーヴェリックが、訓練用のコースで見事に隘路の低空飛行をしてターゲットを攻撃し、作戦遂行が可能であることを証明してみせる。かくして教官として呼ばれたマーヴェリックは、チームリーダーとしてミッションに参加することになるのだった。
ルースターとチームを組み、命を預け合ってわだかまりが消える。二人してもはや旧式となったF14を飛ばして敵方から逃れるのもいい。
36年ぶりの続編となれば、ヒーローは引退していたところを不本意ながら駆り出され、徐々に昔の腕を取り戻してロートルの意地を見せるというのが通常の展開だろうに、どこまでも現役のマーヴェリックは、演じるトム・クルーズそのものである。なによりそこがすごい。細かいことはおいといて、もやもやとした映画が多い中(それが作品として劣るということではないが)、久しぶりにすかっとする痛快なアメリカ映画を見た。(2022.6)
関連作品:「トップガン」(1986)

シン・ウルトラマン
2022年 日本 公開:東宝 112分
監督:樋口真嗣
総監修:庵野秀明
出演:神永新二(斎藤工)、浅見弘子(長澤まさみ)、滝明久(有岡大貴)、船縁由美(早見あかり)、宗像龍彦(田中哲司)、田村君男(西島秀俊)、防災大臣(岩松了)、総理大臣(嶋田久作)、政府の男(竹野内豊)、メフィラス星人(山本耕史)、ザラブ(声:津田健次郎)

冒頭、目が追い付かないスピードで映像と字幕を矢継ぎ早に繰り出し、日本が怪獣の国になっている状況を駆け足で説明するのは大変よかった。「空想特撮映画」の文字もよかったが、どうして怪獣じゃなくて「禍威獣」、科特隊じゃなくて「禍特対」(禍威獣特設対策室専従班)なんていうへんてこな漢字を使うのかよくわからなかった(著作権の問題とかあるのか)。
ウルトラマンがきれいすぎて違和感があった。立っているだけであまり動かないので、セクシーな彫像という感じで、戦う正義の味方というイメージと違った。
前半は、ウルトラマン世代のノスタルジーを喚起しまくるいろいろな要素を揃えて気合が入っていると感じたが、後半の異星人とのコンタクトという本筋に移ってからは、いまひとつ精彩に欠けたように思う。巨大化するスーツ姿の長澤まさみといかにもだけど宇宙人の山本耕史はよかった。
ゼットンがあんなになっていたのはいいとして、宇宙の誰もみていないところでの戦いは盛り上がらなかった。ウルトラマンがなぜそこまで地球人を好きになったのか、説明が乏しくて説得力がなかった。活劇としてわくわくするような気の利いた展開はなかった。(2022.5)

アウター・レンジ 〜領域外〜 Outer Range
2022年 アマゾン・プライム・ビデオ配信 テレビシリーズ 
出演:ロイヤル・アボット(ジョシュ・ブローリン)、セシリア・アボット(ロイヤルの妻。リリ・テイラー)、ペリー(長男。Tom Pelphrey)、レベッカ(ペリーの妻。失踪中)、レット(次男。ルイス・プルマン)、エイミー(ペリーの娘)、
ウェイン・テラーソン(隣の牧場主。ウィル・パットン)、トレバー(ウェインの長男)、ルーク(ウェインの息子。ショーン・サイポス)、ビリー(ウェインの息子。ノア・リード)
オータム(謎の女詩人。イモージェン・プーツ)、
ジョイ(保安官代理。タマラ・ポデンスキー)
現代のアメリカ、ワイオミングの牧場を舞台にしたSF。
広大な牧場にぽっかりと空いた謎の穴。穴の底は見えず、中は他の次元とつながっているように見える。昔読んだ、星新一の「おーい、出てこい」を否が応にも思いだす。穴に投げ込まれたものは、いつどこに出てくるのかと思ってしまう。(2022.5)

1.穴 The Void  58分
監督:アロンソ・ルイスパラシオス
ロイヤルは、妻セシリアの家が代々経営してきた牧場を引き継いでいる。ある日、彼は牧場の西側の平原にぽっかり空いた穴を発見する。穴に手を入れた彼は、未来のシーンを幻視する。
ロイヤルには、ペリーとレット、二人の息子がいある。ペリーの妻レベッカは失踪中。娘のエイミーは元気に育っている。レットは、ロデオ選手を目指しているが、なかなか芽が出ない。
ある日、自称詩人の若い女性オータムがふらりと牧場にやってきて、キャンプをしたいと申し入れる。ローヤルは許可する。
隣接するテラーソン牧場の三兄弟が、市の書類を見せ、アボットの牧場の西側の土地はテラーソン家のものだから、境界をずらすよう脅してくる。
町の酒場で飲んでいたペリーとレットは、テラーソン三兄弟の一人トレヴァーと喧嘩になり、ペリーはトレバーを殴り殺してしまう。ペリーとレットはトレバーの死体を家に運び、ローヤルに相談する。トレバーの弟たちが兄の行方を追ってやってくるが、ローヤルはペリーの死体を荒野に運び、穴に放る。そこをオータムに見られる。彼女は謎めいた様子で「秘密」をわかちあおうと言いながら、ロイヤルを穴に突き落とす。(2022.5)

2.土地 43分
3.遺体 47分
4.喪失 62分
<2〜4話の話>
穴に落ちたロイヤルが見たのは未来の世界。そこではロイヤルはセシリアに「あなたは2年前に死んだ」と言われる。ふたたび穴におちた彼は現在に戻ってくる。ルークはトレヴァーの失踪を警察に届け出る。ジョイは残されたトレヴァーのバックルにレットの血がついていたことから、レットを疑う。彼女は、次期保安官を目指し、選挙への出馬を表明している。
ウェイン・テラーソンは、アボット牧場の西側の土地をどうにかして手に入れようとしていた。彼はなぜかそこで見つけた石に執着しているのだった。
そんなとき、牧場に隣接する山の中を散策していたエミリーが、トレヴァーの死体を発見する。死後8日経っていたにも関わらず死体は腐敗しておらず、周囲に死体を運び込んだ痕跡は全くなかった。家を出ていたウェインの妻、三兄弟の母が戻ってくる。かなり強烈な女性っぽい彼女は、トレヴァーを殺した犯人を見つけ出さんと、ジョイに圧力をかけるのだった。(2022.6)

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