みちのわくわくページ

○ 映画(〜2000年) あ行

<あいうえお順>
アラバマ物語(1962)、 ある日どこかで(1980)、 アルマゲドン(1998)、 赤い波止場(1958)、 暗黒街の顔役・十一人のギャング(1963)、 生きる(1952)、  黄線地帯(イエロー・ライン)(1960)、 ウィリーが凱旋するとき(1950)、 ウエストワールド(1973)、 宇宙大戦争(1969)、 裏窓(1955)、 エド・ウッド(1994)、 江戸の悪太郎(1959)、 男はつらいよ・フーテンの虎(1970)、 女売り出します(1972年)、 婦系図(1942年)、女賭博師尼寺開帳(1968)

アラバマ物語 TO KILL A MOCKINGBIRD
1962年 アメリカ 白黒 129分
監督:ロバート・マリガン
製作:アラン・J・パクラ
原作:ハーパー・リー「ものまね鳥を殺すには」
脚本:ホートン・フート
音楽:エルマー・バーンスタイン
出演:アティカス(グレゴリー・ペック)、スカウト(メアリー・バダム)、ジェム(フィリップ・アルフォード)、ディル(少年。ジョン・メグナ)、トム・ロビンソン(被告の黒人青年。ブロック・ピータース)、ユーエル(ジェームズ・アンダーソン)、保安官(フランク・オバートン)、テイラー判事(ポール・フィックス)、ブー(ロバート・デュバル)
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タイトルからなんとなく「小鹿物語」のような、自然の中でくらす一家の話を想像していたのだが、ちがった。人種差別が根強いアメリカ南部の田舎町で弁護士をする父親と幼い兄妹の交流と、裁判の様子を描いた社会派家族ドラマという感じだった。
弁護士のアティカスは、婦女暴行の罪で訴えられた黒人青年トム・ロビンソンの冤罪を晴らそうとするが、町の人たちは、事の真偽よりも黒人に対する偏見の方を重要視するのだった。
グレゴリー・ペックは、敏腕弁護士であり穏やかで頼りになる父親であるアティカスを好演。その子どもたち、兄のジェムも、おてんばな妹のスカウトも、休みのあいだだけ近所の親戚の家に滞在するディルという少年もみんなそれぞれ元気で個性があってよかった。子どもたちが、父親を「おとうさん」と呼ばず、「アティカス」と名前で呼ぶのがアメリカっぽいと思った。
アティカスが、狂犬を撃つところが、唯一のペックのアクションシーンと言えるが、射撃の腕はいいのに、メガネが邪魔してもたもたするのがおもしろかった。
ハロウィンの夜、ジャムとスカウトの兄妹が何者かに襲われるが、スカウトはハロウィンの仮装でハムの着ぐるみを着ていて、思うように身動きができない。ジェムが襲われているのに影と音だけでしかわからないスカウトの顔のアップによって、彼女の恐怖を映し出すところがよかった。
若いロバート・デュバルが、近所に住む謎の知的障碍者ブーを演じている。噂が噂を呼んで子どもたちから怪物のように思われ恐れられていたが、実は気のいい男だった。(2020.4)

アルマゲドン ARMAGEDDON
1998年 アメリカ 150分
監督:マイケル・ベイ
主題歌: エアロスミス “I Don't Want To Miss A Thing
出演:ハリー・スタンバー(ブルース・ウィリス)、A・J・フロスト(ベン・アフレック)、グレイス・スタンバー(リヴ・タイラー)、チック(ウィル・パットン)、ロックハウンド(スティーヴ・ブシェミ)、アンドロポフ(ロシアの宇宙飛行士。ピーター・ストーメア)、キムジー将軍(アメリカ空軍総司令官。キース・デヴィッド)、シャープ大佐(機長。ウィリアム・フィクトナー)、ベアー(黒人。バイカー。マイケル・クラーク・ダンカン)、オスカー(テキサス男。オーウェン・ウィルソン)、ダン・トゥルーマン(NASA指揮官。ビリー・ボブ・ソーントン)、クラーク(NASA幹部。クリス・エリス)、クインシー(宇宙物理学者。ジェイソン・アイザックス)、マックス(でぶ。ケン・ハドソン・キャンベル)、ワッツ(副操縦士。ジェシカ・スティーン)、大統領(スタンリー・アンダーソン)
ナレーション:チャールトン・ヘストン
録画を見た。
小惑星が地球に接近。衝突すれば地球は破滅する。小惑星の地中深く核爆弾を設置し爆破する計画が立てられる。
世界を救うため、宇宙の専門家と石油掘削の専門家による混合プロジェクトチームが結成され、小惑星に向かう。
人集め、訓練、決行というお馴染みの手順を踏み、カジュアルなプロたちが、一見畑違いの大仕事に挑むという、堂々たるアメリカ娯楽アクションである。(2012.5)


生きる Ikiru
1952年 日本 東宝 白黒 143分
監督:黒澤沢明
脚本:黒澤明、橋本忍、小国英雄
出演:渡辺勘治(志村喬)、渡辺光男(金子信雄)、渡辺一枝(関京子)、渡辺喜一(小堀誠)、渡辺たつ(浦部粂子)、家政婦・林(南美江)、小田切とよ(小田切みき)、大野(藤原釜足)、齋藤(山田巳之助)、坂井(田中春男)、小原(左卜全)、野口(千秋実)、木村(日守新一)、助役(中村伸郎)、市会議員(阿部九州男)、医師(清水将夫)、医師の助手(木村功)、患者(渡辺篤)、小説家(伊藤雄之助)、バーのマダム(丹阿弥谷津子)、やくざの親分(宮口精二)、ヤクザ(加東大介)、陳情の主婦たち(三好栄子、本間文子、菅井きん)

今見とかないと、一生見ないような気がして、DVDで見る。
市役所でハンコを押すだけの日々を送っていた市民課長の渡辺勘治は、胃癌で余命いくばくもないことを知る。
ショックを受けた彼は、飲み屋で会った小説家に連れられて夜の歓楽街で遊んだ翌朝、通勤途中に、市民課の部下である若い女性職員とよと出くわす。二人は仕事をさぼってデートをする。
同居する息子の光男とその妻一枝は勘治に若い愛人ができたと勘違いし、勘治は癌のことを光男に伝えそこなう。
若くはつらつとしたとよに惹かれ、勘治は彼女とプラトニックなデートを重ねるが、役所仕事に嫌気がさしていたとよは市役所を辞め、おもちゃ工場で働くようになり、勘治とのデートをめんどうに思い始める。工場でおもちゃをつくるとよは、「課長さんもなにか作ってみたらどう?」と言う。その一言で、勘治は、市役所勤めでなにが作れるか考えめぐらし、地域の主婦らから陳情があった下水溜まりの土地を埋め立て、公園を作ることを決心する。
前半は、この、目前の死を知って絶望し、とよと会うことに救いを求めた勘治が、生きた証に公園を作ろうと決意するまでを描く。
後半は、いきなり勘治の葬式で始まる。しんみりとする光男ら家族の前で、葬式に集まった市役所仲間は、口々に勘治が突然人が変わったようになり、公園建設に奔走した様子を語る。彼が自らの死期を知っていたのかどうかが問題となり、彼らはそれぞれの立場から、生前の勘治の言動を回想する。
下水溜まりの埋め立てと公園建設は、担当部署が多岐にわたり、それぞれの課が他の課に回そうとする。勘治は、口下手で、「つまり、その‥‥」としか言わない。文を最後までどころか、内容のあることを何も言わない。息子の光男に対しても、せっかくやっと癌のことを言おうと決心したのに、光男に愛人のことを批難され、それは誤解だとも言えず、癌のことも言えずじまいになってしまう。人を説得することなどとことん苦手そうな勘治は、役所の各部署でひたすら粘って担当者を陥落させるという戦法に出る。いや、戦法というより執念である。
大きな目に分厚い唇、志村喬が鬼気迫る表情のどアップで攻めてくる。すごい迫力だった。(2021.8)

ウィリーが凱旋するとき When Willie Comes Marching Home
1950年 アメリカ 白黒 82分
監督:ジョン・フォード
出演:ウィリアム・ビル・クラッグス(ダン・デイリー)、ハーマン・クラッグス(ウィリアム・デマレスト)、マージョリー(コリーン・タウンゼント)、チャーリー(ジミー・ライドン)、イボンヌ(コリンヌ・カルヴェ)

シネマヴェーラ渋谷の「二十一世紀のジョン・フォード PartV」で見る。
1941年、日本軍の真珠湾攻撃のニュースを聞き、アメリカの田舎町の青年ウィリーは、出征を決意する。町で最初の志願兵として、町を挙げての出陣式が行われ、彼は恋人マージョリーに別れを告げて入隊する。訓練を終え狙撃手としての技能を身に着け、いざ戦場へと意気込んだが、配属先は意外にも故郷の田舎町近くにある軍の基地だった。ウィリーは訓練生の教官の任務に就かされ、いつまでたっても戦線に出られない。家族やマージョリーも初めは彼との再会を喜んでいたが、やがて彼が実家にいるのは常態となり、町の人々はいつまでたっても出征しない彼を邪魔者扱いするようになる。一方、マージョリーの弟のチャーリーは飛行士として活躍して戦功を挙げ、町の英雄として凱旋する。
軍功を挙げたいのに、何度出撃を志願しても却下されるウィリーだったが、欠員が出たときにすかさずねじ込んで、やっと出撃の機会を得る。しかし、彼が乗った爆撃機は、悪天候のため海に墜落、脱出したウィリーは、パラシュートで降り立った地でフランスのレジスタンスチームに遭遇する。リーダーのイボンヌは、美女で踊り子で優秀な要員だった。彼女は、ナチスの目をくらますために、ウィリーと偽装夫婦となる。彼女は結婚パーティに乗り込んできたナチスの目を躱し、ナチスの新型兵器を映した極秘フィルムをウィリーに託す。ウィリーは、パーティでふるまわれた酒が抜けないまま、イギリスへ渡り、英軍幹部に機密フィルムを渡すことに成功する。行く先々で尋問され、寝かせてもらえないウィリーは、気付けに酒を飲まされて、いつまでたっても寝られず、酒気が抜けない。故郷に戻ったウィリーは地元で脱走兵の嫌疑をかけられるが、実家を訪れた軍幹部からこのたびのフランスでの軍功を称えられ、やっと、望んでいた凱旋を果たすのだった。
望んでも望んでも戦場に行けず、やっと命令が下されたと思ったら、結局戦場で戦うことはなく、フランスの美女と偽装結婚して酔っぱらっているうちに軍功を立てていたという、皮肉のうえに皮肉が重なっていく、戦争喜劇とでもいおうか。愉快でどちらかというと洗練されたおしゃれなドラマである。フォードの骨太の戦争映画、軍人魂を持った男たちの友情、見ごたえのある戦闘シーンなどを期待していくと肩透かしをくらう。後半、どこまで行っても酒がついて回るあたりはフォード映画っぽい。(2023.5)

ウエストワールド  WESTWORLD
1973年 アメリカ 90分
監督・脚本:マイケル・クライトン
出演:ガンマン(ユル・ブリンナー)、ピーター・マーティン(リチャード・ベンジャミン)、ジョン・ブレイン(ジェームズ・ブローリン)、保安官(テリー・ウィルソン)、中世の騎士(客)(ノーマン・バートールド)、女王(ヴィクトリア・ショウ)、ブラックナイト(マイケル・T・マイクラー)、
チーフ・スーパーバイザー(アラン・オッペンハイマー)、技師(スティーヴ・フランケン)

録画で見る。ユル・ブリンナーのロボット・ガンマンで有名な未来遊園地パニックSF。
遊園地のテーマが西部開拓時代だけでなく、ローマ帝国や中世ヨーロッパのテーマパークもあることは知らなかった。機械制御されていた各ワールドのロボットたちが、突然制御不可能となり、パークをおとずれた観客を襲い、殺し始める。
ピーターは、友人のジョンの誘いでウエストワールドを訪れる。西部の世界を楽しんでいたが、ある朝、制御不能になった黒づくめのガンマンロボットがジョンを撃ち殺し、ピーターを執拗に追いまわす。逃げるピーターは、砂漠に逃れ、中世や古代ローマの世界を縦横に逃げ、地下の中枢部に入り込む。焼け焦げて、作り物の皮膚の下の金属部分を晒して骸骨のような姿になりながらもピーターを襲おうとするガンマンロボットや、コントロールルームで制御が効かなくなって焦る科学者たちなど、「ターミネーター」と「ジュラシックパーク」の先駆けのような映画だった。(2021.4)

宇宙大戦争
1959年 日本 東宝 93分 シネマスコープ カラー
監督:本田猪四郎、特技監督:円谷英二、音楽:伊福部昭
出演:勝宮一郎(池部良)、白石江津子(安西郷子)、安達博士(千田是也)、岩村幸一(土屋嘉男)、木暮技師(伊藤久哉)、有明警部(村上冬樹)、リチャードソン博士(レオナルド・スタン)

和光市民文化センターで開催された伊福部昭生誕百年祭の映画祭で見る。
円盤に乗ってやってきた攻撃的な宇宙人ナタールと、地球人との戦いを描く。
地球上の各地で異常現象が発生。強力な力でなんでも吸い上げる空飛ぶ円盤によるもので、乗っているのはナタールと自称する宇宙人だった。彼らが月に前線基地を作ったことを知った地球の人々は、最新の科学技術を駆使した宇宙ロケットを打ち上げ、選りすぐりの一隊を月に送り込む。
月で敵の力をそぎ、時間を稼いだ地球軍は、準備を整え、敵を迎え撃つ。
宇宙の扱いがめちゃくちゃで、つっこみどころがたくさんある。
主演の池部良がやる気無さそうでよかった。
もちろんマーチもよかった。流れるとわくわくした。(2014.4)

裏窓 Rear Window
1955年アメリカ 113分
監督:アルフレッド・ヒッチコック
原作:コーネル・ウールリッチ
出演:ジェームズ・スチュワート、グレース・ケリー、
レイモンド・バー、セルマ・リッター、ウェンデル・コーリィ
久しぶりにビデオで観た。
足を骨折して自宅のアパートの一室で療養中の報道カメラマンが、向かいのアパートに住む住人の異変に気づき、犯罪が行われたのではないかという疑いを抱いていく。
映画は、アパートの一室を巡るカメラが、男の足にはめられた白いギブス、壁に貼られた写真や棚に置かれたカメラ、トロフィなどを次々と見せることで、主人公がどういう人間でどういう状態にあるかをほとんど説明し切ってしまうという、実に手際のよいカットから始まる。
男がひまつぶしに覗き見る向かいのアパートの住人達のさまざまな生活の様子は、軽快で楽し い。
子犬と花壇、結婚指輪、孤独なミス・ロンリーの行動、音楽家の部屋から流れる曲、そしてなんとも頼りないながらも意外な武器として使われるフラッシュなど、細部が小気味よく機能して、話をぐいぐい盛り上げていく。
恋人の危機を目の当たりにしながら何もできない、犯人が迫ってくるのに逃げられない、といった身動きできない男の恐怖がひしひしと伝わってくる。
気ままな独身生活をやめたくない頑固で好奇心旺盛なカメラマンと、大金持ちでファッションモデルですごい美人というゴージャスな恋人は、どう見てもうまく行きそうになくて、主演の2人の関係もちょっとしたサスペンスを生んでいると言えるかもしれない。(2004.1)


エド・ウッド  ED WOOD
1994年 アメリカ 124分
監督:ティム・バートン
出演:エド・ウッド(ジョニー・デップ)、ベラ・ルゴシ(マーティン・ランドー)、ドロレス・フラー(サラ・ジェシカ・バーカー)、キャシー・オハラ(パトリシア・アークエット)、
クリズウェル(予言者。ジェフリー・ジョーンズ)、バニー・ブレッキンリッジ(ゲイ。ビル・マーレイ)、トー・ジョンソン(レスラー。ジョージ・スティール)、ポール・マルコ(マックス・カセラ)、コンラッド・ブルックス(ブレント・ヒンクリー)、ヴァンパイラ(リサ・マリー)、ロレッタ(300ドルの出資者。ジュリエット・ランドー)、ジョージ・ワイス(プロデューサー。マイク・スター)、レベレンド・レモン(大家。聖職者。G・D・スプラドン)、オーソン・ウェルズ(ビンセント・ドノフリオ)

売れない、しようもない映画ばかり撮り続けた実在の映画監督エド・ウッドの映画づくりの日々を描いた映画。
若くて元気なジョニー・デップが、女装趣味のハイな変人エドを愛らしく好演している。
彼と交流する、かつてのドラキュラ・スター、ベラ・ルゴシ役のランドーが哀愁漂う老俳優を好演している。彼の登場のたびに「白鳥の湖」が流れるのは、実際のルゴシの映画で彼のテーマとして使われていたという経緯があるらしい。ドラキュラさながらに棺桶に収まる彼の最後の姿に心打たれる。
「怪物の花嫁」の製作資金確保のため、エドは、女優の妻ドロレスとの約束を反故にして、お金持ちのお嬢さんそうなキャリーの懐を当てにして彼女を主演にしたため、ドロレスは怒り、二人は破局を迎える(結局キャリーからは300ドルしか得られないのだった)。
ドロレスの怒りはごもっともだが、そのあと、エドは生涯の妻となるキャシーと出会う。エドが病院の待合室でアンゴラのセーターを着たキャシーに、素材としてアンゴラがいかによいかについて話しかけるシーン(エドは女物のアンゴラセーターが大好き)や、遊園地で初デートの際に、お化け屋敷で女装趣味のカミングアウトをするところなど、よかった。(2019.10)
<製作の様子が出てくる映画>
「グレンとグレンダ」 性転換した男の話だったが、エドが出演して女装趣味の男の話に。
「怪物の花嫁」 エドが、プロデューサーへの売り込みの最中に、口から出まかせで出たネタを映画化。最初は「原子の花嫁」というタイトルだった。
「プラン9・フロム・アウター・スペース」 ベラが、大ダコと格闘する。セットの水辺でびしょぬれになり、モーターがなくてピクリとも動かない作り物のタコの触手を自ら動かして熱演する老いたベラが哀れを誘う。


男はつらいよ・フーテンの寅
1970年 日本 公開:松竹
監督:森崎東
原作:山田洋次
出演:車寅次郎/寅さん(渥美清)、東竜造(森川信)、東つね(三崎千恵子)、諏訪さくら(賠償千恵子)、諏訪博(前田吟)、たこ社長(太宰久雄)、御前様(笠智衆)、駒子(春川ますみ)、お志津(新珠三千代)、染奴(香山美子)、清太郎(染奴の父。花沢徳衛)、信夫(河原崎健三)、徳爺(左卜全)、冒頭の旅館の女中(悠木千帆)

「男はつらいよ」シリーズ3作目。柴又散策にでかけるにあたって、図書館でDVDを借りて20〜30年ぶりに再見した。
3作目なので、寅さんは若くて元気はつらつとしている、よくこけて、よく口が回る。
久しぶりに故郷の柴又に帰ってきた寅さんにのお見合い話が持ち掛けられる。が、相手は顔見知りの駒子でしかも亭主の浮気でやけになっていたことから、寅さんは仲直りを取り持つ役に回る。ということで縁談はあっけなく流れ、寅さんは再び旅に出る。
旅先の湯の山温泉で、亡き夫の後を継いで旅館を切り盛りする女将お志津に惚れてしまい、旅館に居座って働く。そこに柴又の竜造・つね夫婦が客として泊まりに来たり、芸者の染奴とお志津の弟信夫との駆け落ち騒ぎがあったりする。染奴の中風を患っている老父が元テキ屋であることに気づき、二人きりになったときに、仁義を切るところがよい。お志津には再婚話が持ち上がっていて、そのことをお志津も番頭の徳爺も女中も旅館の誰ひとりとして寅さんに切だせないという、昔懐かしい世話物的な展開の後、結局、寅さんは湯の山を後にするのだった。
大みそかの夜、テレビを見ながら年越しを迎えようとしていた「とらや」の面々は、街頭インタビューに答える寅さんを見る。それまで、画面の端にちらちらと見え隠れしていた寅さんがなんともいい。
ラストは、渡し船の上で若き自衛隊員らしき若者たち始め船客たちに、テキ屋の口上を指南するところで終わる。有名な「けっこうけだらけねこはいだらけ〜」の名調子が笑いを呼ぶ。名ラストシーンのひとつだと思っている。(2016.10)


婦系図(おんなけいず)[総集編]
日本 東宝  1942年  108分  白黒
監督:マキノ正博
脚本:小國英雄
原作:泉鏡花「婦系図」
出演:お蔦(山田五十鈴)、早瀬主税(ちから)(長谷川一夫)、酒井妙子(高峰秀子)、酒井俊蔵(古河緑波)、小芳(三益愛子)、めの惣(山本礼三郎)
池袋文芸坐の山田五十鈴追悼特集で見る。
「婦系図」は、「別れろ切れろは芸者の時にいう言葉」というセリフで有名な新派の芝居だが、原作は泉鏡花の小説。長い話を108分で描いている。
柳橋の芸者お蔦は、5年前に姿を消した思い人の早瀬に再会。当時親を亡くしてぐれていた早瀬は、学者酒井俊造に拾われ、彼の弟子として立派な青年となっていた。二人は酒井に内緒で夫婦となり、ささやかな所帯を持つ。が、やがてそれが酒井にばれる。お蔦を早瀬の伴侶として快く思わない酒井は、早瀬に離縁を命じ、二人は泣く泣く別れる。早瀬は仕事で遠地に赴き、お蔦は髪結をして生計を立てるが、早瀬を思い焦がれるあまり病気になる。お蔦の思いを知った酒井は、二人の仲を認めるが、お蔦の病状は重く、早瀬を思いながら息をひきとるのだった。
有名なセリフは、月夜の下、白梅が咲く湯島境内でのシーンだが、映画にこのセリフは出てこなかったように思う。初めて2人で連れだって外を歩くことにお蔦はうれしくてウキウキしている。早瀬は沈痛な面持ちで別れを切り出すのだった。
時を経て映る同じ場所には、梅の花はなく、風が吹いて葉が舞っている。同じように歩いてくるのは、お蔦とその姉さんの小芳である。
時を経て同じ場所が映るシーンは他にもいくつか見られる。冒頭の祭り、娘だったお蔦が不良少年だった早瀬と別れた白い壁の前、蕎麦屋などである。
山田五十鈴が一途な女房お蔦を演じていじらしい。
しんばし駅で、旅立つ早瀬を見送るシーンが印象的だ。走り出した汽車を追って、お蔦が走る。走るお蔦の顔が、次々と流れるように同じ角度、同じサイズで、切り替わる。
酒井の娘妙子を演じる高峰秀子が元気でかわいい。坂道で立ち止まって振り返るとこなど、マキノの描く若い女の子ならではの茶目っ気ぶりを見せている。
お蔦の身を案じる魚屋のめの惣が、憎めない江戸っ子のおじさんを好演。これもマキノ監督の映画ならではのキャラクターだ。(2012.8)


女賭博師尼寺開帳
1968年 日本 大映 83分
監督:田中重雄
脚本:高岩肇
出演:お銀/銀子(江波杏子)、辰造(お銀の父。大坂志郎)、緋桜の梨江(三条魔子)、川井(ヤクザの親分。北城寿太郎)、久保田(川井の子分。仙波丈太郎)、深見(ヤクザの親分。夏木章)、留吉(流れ者。実はお銀の兄か。川津祐介)、岡崎(組合長→マーケット店長。志村喬)、三宅(下田のヤクザの親分。早川雄三)
秋子(関西の壺振り師。京唄子)、旅館の支配人(鳳啓介)、サブ(萩本欽一)、ケン(坂上二郎)
女賭博師シリーズ第8作。録画で見る。
江波杏子演じる女賭博師銀子のきりっとしたクール・ビューティぶりと、三条魔子演じるライバルの梨江の感情もろ出しでセクシーな尼僧賭博師が、好対照でおもしろい。
また、捕まっても痛い目にあっても、いかさまを止められない、だめ親父辰造を大坂志郎が好演している。この親父がつくったいかさまサイコロが敵の梨江の手に渡り、壺の降り方を見たお銀が、そのサイコロを使っていることを見抜く、という展開はお見事。
流れ者となって、生き別れた兄が、お銀に言う「人様に後ろ指さされないような立派な女賭博師になれ」というセリフがめちゃくちゃで渋い。(2019.7)

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