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<タイトルあいうえお順>
隠し砦の三悪人(1958)  十三人の刺客(1963)  関の弥太っぺ(1963)  椿三十郎(1962) 幕末太陽傳(1957) 反逆児(1961)

隠し砦の三悪人
1958年東宝 139分
監督:黒澤明
出演:真壁六郎太(三船敏郎)、雪姫(上原美佐)、太平(千秋実)、又七(藤原釜足)、田所兵衛(藤田進)、長倉和泉(志村喬)、老女(三好栄子)、百姓 娘(樋口年子)
松潤主演の新作を見るに当たってDVDで見直した。
最初に見たのは20年くらい前のことなので、だいぶ忘れている。が、タイトルと中身のギャップが最後まで気になっていまいちよさがわからなかった記憶がある。
三悪人というタイトルから、「気のいい三人のならず者が、美しいお姫様の難儀を見かね、彼女を助けるために身体を張る」といった話だとばかり思いこんでしまった。(ジョン・フォードのサイレント映画「3悪人」あたりの印象が多分にあったのだと思う。)
映画が始まったら、三悪人ではないことに戸惑い、六郎太の立派な武者ぶりに対し、あくまで道化の二人の百姓がおもしろいというよりはむしろあわれに思えて、あまり楽しめなかった。
が、今回は、最初から姫と侍と愉快な二人組の話だと思って見たせいか、楽しかった。
秋月、山名、早川の三国が並ぶ戦国時代。山名との戦いに敗れた秋月家の武将六郎太は、世継ぎである雪姫を連れ、早川領への脱出を図っていた。一方、農民出の敗残兵、太平と又七は、野営しようとした山林で黄金が仕込まれた木の枝を見つける。それは、秋月家が隠した黄金200貫の一部だった。六郎太は、黄金を運ばせるため太平と又七を一行に引き入れる。
太平と又七のぼやきと言い合いを今回は楽しんだ。二人は、姫や六郎太に対していいところを見せることが全くない。どんなにだめなやつでも、今の映画だったらどこか一箇所くらいいいところを見せてしまうものだが、それがない。この徹底振りは潔いといえば潔いのかもしれない。
上原美佐の雪姫もよかった。男子が産まれなかったことを嘆いた父親により、男のように育てられたというベルばらのオスカルのような生い立ちを持つ姫が、ただのお転婆なわがまま娘でなく、一国を背負う主の資質を持った人間として描かれているのがうれしい。ちょっときつめのメイクも吠えるような発声も役に合っている。六郎太との戦いに敗れて人が変わったように落ち込んだ兵衛を一括するところなど痛快だ。
が、かっこいいのは、やはり三船だ。六郎太は、山賊のような出で立ちをしているが、実は滅法腕の立つ武将。普段は怖い顔なのに、大声で笑うと笑顔が素敵だ。馬上での斬り合いに続き、敵方の陣営に入って敵将田所兵衛と槍で1対1の決闘をする場面は、見応えがある。(2008.8)

このひと言(No.35):「裏切り御免!」
関連作品:「隠し砦の三悪人 THE LAST PRINCESS」(2008年)

十三人の刺客
1963年 日本 東映 白黒125分
監督:工藤栄一
音楽:伊福部昭
出演:島田新左衛門(片岡千恵蔵)、島田新六郎(里見浩太郎)、倉永左平太(嵐寛十郎)、平山九十郎(西村晃)、三橋軍太夫(阿部九州男)、樋口源内(加 賀邦男)、堀井弥八(汐路章)、日置八十吉(春日俊二)、大竹茂助(片岡栄二郎)、石塚利平(和崎俊哉)、佐原平蔵(水島道太郎)、小倉庄次郎(沢村精四 郎)、木賀小弥太(山城新伍)
鬼頭半兵衛(内田良平)、浅川十太夫(原田甲子郎)、松平左兵衛督斉韶(まつだいらさひょうえのかみなりつぐ。菅貫太郎)、
土井大炊頭利位(どいおおいのかみよしつら。丹波哲郎)、おえん(丘さとみ)、牧野靭負(月形龍之介)、牧野千世(三島ゆり子)、牧野妥女(河原崎長一郎)、三州屋徳兵衛(木曽落合 宿総代、水野浩)、加代(藤純子)
東映時代劇まつりで見た。最初の方は、江戸時代の役職名や侍言葉の敬語がぼんぼん出てきて、交わされる会話の意味がよく分からなかったのだが、非道な殿様がいてその振る舞いに困り果てた家老が、幕閣の邸の前で切腹をして上訴した、ということらしいと分かってくる。
弘化元年(1844年)、明石藩家老間宮が、藩主松平斉韶の悪行を訴え、老中土井利位邸前で自決した。これにより土井は松平斉韶の暴君ぶりを知るが、将軍徳川家慶の弟である斉韶を処罰するわけにもいかなかった。が、将軍が斉韶を老中に抜擢するに及び、土井は危機感を募らせ、旗本 島田新 左衛門に斉韶の暗殺を命じる。新左衛門は、13人の刺客を集め、参勤交代で江戸から国元に向かう斉韶ら一行の襲撃を企てる。
7人とか11人とかタイトルに数字が出るとどうしても数えてしまうが、13人は多すぎて一度見ただけでは全員を把握できなかった。目立ったのは、嵐寛演じ る新左衛門の片腕のような倉永、西村晃演じる凄みのある痩せた浪人平山、里見浩太郎演じる新左衛門の甥っ子で男前の新六郎。新六郎は、放蕩三昧で芸妓に養 われて暮らしていたが、新左衛門の心意気に打たれ刺客に加わるのである。それと、200両と引き替えに刺客を引き受ける水島道太郎の佐原、決戦地落合宿で最後に加わる若者小弥太(山城新伍が若い!) といったところか。倉永が連れてきた一派はあまり顔と名が一致しないうちに終わってしまった。
菅貫太郎の悪い殿様ぶりがなかなかよいが、最悪の主君と知りながらも殿を守ろうと孤軍奮闘する家臣鬼頭半兵衛を演じる内田良平の終始険しい表情がよい。
斉韶に、最愛の息子と嫁を死に追いやられ、新左衛門の画策に一役買う、尾張藩の老侍牧野靭負を演じる月形龍之介も渋かった。
先手を打って、行く手を遮り、斉韶の性格から一行が取るルートを予想して、新左衛門は、落合宿という小さな宿場を町ごと買い取って、一行を待ち伏せる。
クライマックスの13対53の襲撃シーンは、とにかく長い。刺客たちは、斉韶ら一行を路地に追い込み、取り囲んで、高いところから矢を射り、槍で突き、地 面に降りては刀を振り回して斬りつける。実は、彼らは敵も味方もほとんどが人を実際に斬ったことのない太 平の世の侍であるため、斬り合いはめくらめっぽうな感じである。人が入り乱れて誰が誰かよくわからず、逃げているのがどっち側なのかもわからなくなり、誰がいつ死んだのかもわかりにくい。が、平山の死だけは、強 烈に印象に残る。体型や渋さから「七人の侍」の宮口精二を引き合いに出してしまうが、かなり対照的な死に様である。
そんな乱戦が延々と続き、最後は新左衛門と半兵衛の対決。新左衛門は、武士の「一分」を口にする。
延々と続き、ぶつっと終わる。ハードボイルドだっ た。暗殺の密命から、人数集め、地図を用いた作戦会議、襲撃の準備といった筋立ても、銀行強盗を計画・実行するギャング映画などを思わせる。(2009.1)

関連作品:「十三人の刺客」(2010年)

関の弥太っぺ
1963年 東映 89分
監督 山下耕作
原作 長谷川伸
出演 中村錦之助、十朱幸代、木村功、大阪志郎、安部徹
生き別れになった妹を探して旅を続ける弥太郎は、瀕死の男から幼い娘おさよを託される。妹のために貯めた50両を添えて町の旅館におさよを預け、名前も告げずに立ち去る弥太郎。やっと探し当てた遊郭で妹の死を知り悲嘆にくれる。彼は金で雇われて人を斬る稼業に堕ちていく。十年後、再びおさよのいる宿場町を訪れるが……。
中村錦之助が、殺し屋に身をやつしながらも人情に厚い股旅を演じる。おさよとの再会の場面、弥太郎の言葉にはっとするおさよ。泣け泣けといわんばかりの展開にあっさり号泣してしまうのだった。
はねっかえりの木村功、今回はけっこう理にかなって主人公を襲う敵役の安部徹など脇役陣もきびきびとしていていい。
「十年後」の字幕の後、土砂降りの雨の中、決闘の相手を待つ安部徹一家の面々のアップがどどーんと入る。「〜年後」という字幕や決闘待ちシーンなどを観たのはずいぶん久しぶりだが、こういうものはいつ観てもわくわくする。(2003.7 ビデオで)


椿三十郎
1962年 東宝 98分
監督:黒澤明
出演:椿三十郎(三船敏郎)、室戸半兵衛(仲代達矢)、菊井大目付(清水将夫)、木村(小林桂樹)、井坂伊織(加山雄三)、保川(田中邦衛)、黒藤(志 村喬)、竹林国許用人(藤原釜足)、陸田城代家老(伊藤雄之助)、陸田城代家老奥方(入江たか子)、千鳥(団令子)
織田裕二主演、森田芳光監督によるリメイク公開に先だって、オリジナルを初めて見た。
情熱はあるけど若すぎて軽率な若侍たちに、物の道理をよく知っていて剣の腕もピカ一の素浪人が手を貸すという話。悪徳大目付をやっつけて良いもんの城代家老を救うということで話は終始一貫していてわかりやすい。
三船敏郎が、とにかく腕のたつ男を演じて気持ちがよい。9人の若侍たち(若大将と青大将が肩を並べて青二才を演じているのが興味深い)は、最初から最後まで一把ひとからげ扱いで、それぞれの個性とか成長とかに細かい配慮などほとんど見られない。
椿の花が印象的。花を流す合図というのがなんとも風流だ。
おだやかな性格の城代家老奥方や、押入を自由に出入りする敵方の捕虜の侍など、とぼけたユーモアも効いている。
それでもって、今更いうまでもないことだが、最後の室戸との対決は圧巻。このシーンについては、事前に何も聞かず何も見ないで臨むのがいい。 (2007.11)

関連作品:「椿三十郎」(2007年)

幕末太陽傳
1957年 日本 日活 110分 (2011年デジタルリマスター版)
監督:川島雄三
出演:居残り佐平次(フランキー堺)、おそめ(左幸子)、こはる(南田洋子)、高杉晋作(石原裕次郎)、おひさ(芦川いづみ)、相模屋楼主伝兵衛(金子信雄)、お辰(山岡久乃)、徳三郎(梅野泰靖)、番頭善八(織田政雄)、若衆喜助(岡田真澄)、若衆かね次(高原駿雄)、やり手おくま(菅井きん)、大工長兵衛(植村謙二郎)、気病みの新公(西村晃)、貸本屋金造(小沢昭一)、鬼島又兵衛(河野秋武)、志道聞多(二谷英明)、久坂玄瑞(小林旭)、伊藤春輔(関弘美)、大和弥八郎(武藤章生)、白井小助(徳高渓介)、有吉熊次郎(秋津礼二)、長嶺内藤太(宮部昭夫)、杢兵衛大尽(市村俊幸)
日活100周年を記念してデジタルリマスター版を劇場公開したので、久しぶりに見た。
古典落語「居残り佐平次」をベースに、幕末の品川宿にある遊郭を舞台に描かれる人間模様。
胸の病気を患っている佐平次は、海の近くの品川が養生に適しているということで、品川の遊郭相模屋で無一文のまま遊びまくって、その払いを返すため居残って働くことに。
相模屋には、売れっ子の遊女のこはると、以前売れっ子で今はちょっと落ち目のおそめがいて、なにかと反目している。こはるは、言い寄ってくる多数のなじみ客を巧みにさばき、みんなに結婚の約束をした証文を渡している。一方、おそめはなじみの客もなかなか来なくなり、いっそ死のうと、手頃な心中相手として、貸本屋の金造に目をつける。
婿養子の相模屋の主人伝兵衛とその妻のお辰は金儲けにいそしんでいて、大工の長兵衛の借金のカタに女中として奉公にきている娘のおひさに客を取らせようともくろんでいるが、バカ息子の徳三郎はおひさに惚れていて、それをなんとか阻止しようとする。
またある一室には、高杉晋作を始め長州藩の若い志士たちがたまっていて、尊王攘夷のための物騒な計画を練っている。つい先日亡くなった二谷英明が、志道聞太役で出演。熱血の志士という彼にしては珍しい役どころで、何かにつけてはいきがって石原裕次郎にまあまあとなだめられ、目立っていた。小林旭が、久坂玄瑞の役で登場。こちらは冷静で切れる若侍という感じだった。
相模屋店内で展開されるこうした事情が、佐平次が彼らの間をいったりきたりすることで、手際良く軽快に描かれていく。
建物の廊下をするすると移動する佐平次の動きとしゃべりは、見ていて実に愉快で楽しい。が、ひょうひょうとした佐平次の軽やかさに対して、彼が抱える病は、不気味な暗雲のように、じわじわと影を落とす。
その彼が適当にあしらえない相手が最後に出てくる。実直な東北訛りの杢兵衛大尽だ。他のやつならたやすく煙にまけそうなのに、この親父だけは勝手が違う。東北出身の監督の作品で、東北出身の愚直な男が抜け目のない江戸の男を諭してどなりつける。日活からの東北賛美のメッセージのように思ったのは私の深読みだろうか。(2012.1)

このひと言(N0.51):「三千世界の鴉を殺し主と朝寝がしてみたい」

反逆児

1961年 日本(東映) 110分 
監督・脚本:伊藤大輔
原作:大佛次郎
音楽:伊福部昭
出演:徳川三郎信康(中村錦之介)、築山殿(杉村春子)、徳姫(岩崎加根子)、しの(桜町浩子)、おはつ(北沢典子)、四郎兵衛(進藤英太郎)、服部半蔵 (東千代之介)、徳川家康(佐野周二)、織田信長(月形龍之介)、羽柴秀吉(原健策)
Tジョイの東映時代劇まつりで見た。
戦国時代、徳川家康と今川一族の母の間に生まれた岡崎三郎信康の悲劇を描く歴史時代劇。
織田信長に付いた家康は、信長の娘徳姫を息子信康の嫁に迎え、敵方となった今川家の血を引く妻築山殿を避けるようになっていた。信康は、対立する立場になった父と母の間で苦悩する。やがて、敵方と通じて信長を討とうとした築山殿の謀略が暴かれ、かねてより信康の才覚に脅威を覚えていた信長は、母だけでなく息子信康ともども死罪を言い渡すのだった。
中村錦之介が悲劇の若殿を好演している。前半にある勝利の舞を信長らの前で舞ってみせるシーンは圧巻。城中の板張りの広い部屋で錦之介が躍動感あふれる見事な踊りを披露し、その動きに合わせてカメラもおもしろいように動く、動く。
後半は、どんどん話が進んで、信康は破滅に追い込まれていく。信長と夫を鬼のように憎み、謀略を企てるだけでなく、わら人形で信長と夫と嫁を呪い殺そうとする一方、息子信康にすがる狂気の母を杉村春子が怪演。彼女とどろどろの嫁姑関係を持つ徳姫の岩崎加根子も浅はかで嫉妬深い嫌な女の役に徹している。
自分が手をつけた平民の女しのを容赦なく切り捨てたり、母と通じた敵方の密使を馬で引きずり回したりと、信康も殿ならではの、人を人と思わない残酷な一面を見せる。
徳川家を守り野望を果たすか、息子の命を守るか、悩んだあげくに家康は息子を見殺しにする決意をするのだが、その様子も丁寧に描かれていて、心が痛む。
家康が信康に死を言い渡す使いに選んだのは、信康と兄弟同様に育った服部半蔵ら若き家来たち。彼らの苦悩もまたひしひしと伝わってくる。信康切腹のシーンで、介錯に戸惑う彼らの様子が割と長々と描かれる。気持ちはわかるが、信康を早く楽にしてやってくれと、見ている方も思わず拳を握りしめてしまう。ラスト、柱に刻んだ信康の文字が彼の無念を物語る。(2009.9)

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