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西部劇 サイレントの西部劇

<制作年順>
大列車強盗(1903)、 鄙より都会へ(1917)、 誉れの名手(1918)、 アイアンホース(1924)、 エルダーブッシュ峡谷の戦い(1924)、  曠原の志士(1925)、 古今無双の強者(1926)、 3悪人(1926)、 夢想の楽園(1926)

大列車強盗 The Great Train Robbery
1903年アメリカ サイレント・白黒 12分
監督・脚本:エドウィン・S・ポーター
出演:ギルバート・M・アンダーソン、A・C・エイバディ、マリー・マーレイ、ジョージ・バーンズ
本格的なプロットを持った最初の映画で、映画史上記念碑的な作品とされる。
制作当時においては、西部劇が時代劇というよりはむしろ現代劇であったということにまず感動を覚える。
今となっては、銃声、馬のひづめの音、騎兵隊のラッパ、ガラスの割れる音、カウボーイが歩くたびにガチャガチャとなる拍車の音など、音なしの西部劇など考えら れないのであるが、サイレント西部劇がトーキー作品に勝って確実に効果を引き出しているものがひとつあると私は思う。砂塵である。
初めてこの作品を見た時、もうもうと際限なく舞い上がる砂塵に驚いた。男たちが馬で去った後、いつまでたっても静まることのない砂けむりが、西部の土地が どれほど乾燥していてほこりっぽいのかを強烈に物語っていたのだった。(2004.6)


鄙より都会へ Bucking Broadway
1917年 アメリカ サイレント 白黒 52分
出演:ハリー・ケリー、モリー・マローン

シネマヴェーラ渋谷の「二十一世紀のジョン・フォード PartV」で見る。
都会からきた男にのぼせて駆け落ちしてしまった婚約者を追って、カウボーイのハリーがニューヨークに乗り込む話と聞いて見に行く。てっきりハリーが馬でニューヨークの市街を闊歩するシーンが見られると思ったのだが、ハリーは汽車でニューヨークへ。市街で馬を駆るのはハリーの仲間のカウボーイ集団で、豪快。ラストのニューヨークでのホテルでの乱闘もむちゃくちゃである。通常フォードの西部劇に見られる、ケンカを始めた二人がいて、そのとばっちりで誰かにものが当たって、さらにほかの男が殴り倒されて、といった、大乱闘にいたるプロセスがなく、ただ、延々と乱闘しているのだった。(2023.4)

誉れの名手 Straight shooting
1918年アメリカ サイレント・白黒 95分
監督:ジョン・フォード
出演:ハリー・ケリー、フート・ギブソン、モリー・マローン、デューク・リー、ヴェスター・ペッグ
スクリーンで見た唯一の、ジュニアじゃない大御所ハリー・ケリー主演の西部劇。
木のうろから顔を出す登場シーンが、妙に印象的だった。(2004.6)


アイアン・ホース The Iron Horse
1924年アメリカ サイレント・白黒 115分
監督:ジョン・フォード
出演:ジョージ・オブライエン、マッジ・ベラミー、J・ファレル・マクドナルド
アメリカ大陸横断鉄道が建設されていく様子を、若い恋人同士の再会を絡めて描いた作品。
様々な犠牲のうえに立った事業であるが、この作品では歴史的な偉業として讃えられている。
東から敷かれてきたユニオン・パシフィックと西から敷かれてきたセントラル・パシフィックの線路がついに連結される瞬間、最後の金の釘が打ち込まれる。電 信で報じられるそのときの擬音が字幕で「DONE!」と出たのが印象に残る。(2004.6)


エルダーブッシュ峡谷の戦い The Battle of Elderbush Gulch
1924年 アメリカ サイレント・白黒 29分(2巻物) 
監督:D・W・グリフィス
出演:メイ・マーシュ、リリアン・ギッシュ、ロバート・ハーロン
映画の父D・W・グリフィスの西部劇。
孤児となった二人の幼い姉妹が、牧場で働く叔父を頼って西部にやってくる。
せま苦しい駅馬車に揺られての旅や可愛がっていた子犬のインディアンからの奪還などわくわくする場面が続くが、なんといっても見せ場は、インディアン襲撃 シーン。
追いつめられ小屋の中で応戦する牧場の人たちと小屋の外から襲いかかってくるインディアン、救援にかけつける騎兵隊のショットが、交互に映し出されて緊迫 感が高まる。グリフィス得意の「最後の救出」でもって否が応にも盛りあがる。
いよいよこれまでというところでリリアン・ギッシュの頭上に伸びてくる銃口、それが騎兵隊のラッパの音で(字幕だけど)ぱっと引っ込められる場面があるの だが、ここでジョン・フォード監督の「駅馬車」を思い出した。南部貴族出の賭博師が騎兵隊将校夫 人に銃口を向けたところで、騎兵隊のラッパの音が鳴り響く、というシーンと重なるのだ。(2004.6)


曠原の志士 Tumbleweed
1925年 アメリカ 78分
監督:キング・バゴット
出演:ドン・カーヴァー(ウィリアム・S・ハート)、モリー・ラシター(バーバラ・ベッドフォード)、ケンタッキー・ローズ(ルシアン・リトルフィールド)、ノル・ラシター(J・ゴードン・ラッセル)、ビル(リチャード・R・ニール)

渋谷のアップリンクで、柳下美恵さんのピアノ演奏付きで見る。
ウィリアム・S・ハートが動いているところを初めて見る。最後の出演作らしいが、70歳のS・ハートが、若い美女と恋に落ちる、西部の男を好演している。
ランドラッシュのシーンが迫力満点。柳下さんの力強いピアノ演奏と合っていた。
ランドラッシュに出遅れたS・ハートが、幌馬車や馬をゴボウ抜きで馬を駆るシーンの疾走感がものすごい。
タイトル原題のタンブルウィードは、西部劇の背景に欠かせない、ネナシカズラのこと。突然現れては「おれたちゃ根なし草の風来坊〜」みたいな歌を歌う謎の3人組も楽しい。(2017.4)

古今無双の強者 The Great K & A Train Robbery
1926年 アメリカ 63分 白黒 サイレント
監督:ルイス・サイラ―
出演:トム・ゴードン(探偵。トム・ミックス)、マッジ・カレン(令嬢。ドロシー・ドゥワン)、ユージン・カレン(K&A鉄道会社社長。ウィリアム・ウォーリング)、バートン・ホルト(秘書。カール・ミラー)、デラックス・ハリー(風来坊。ハリー・グリップ)、ビル・トルフィ(強盗団ボス。エドワード・ピール)
渋谷シネマヴェーラで「ウエスターンズ!」という西部劇特集をやってくれた。初めて、それも劇場で、動くトム・ミックスを見た。
列車強盗を企む一味を、鉄道会社に雇われた探偵トム・ゴードンが阻止する。
鉄道会社内部に強盗と内通している者がいると知ったトムは、正体を隠し、無法者を装って、社長のユージンらの前に姿を現す。
ユージンの娘マッジは、無法者だと思いつつ、トムに惹かれる。
トムに協力するのは、軍でトムの部下だったハリー。風来坊だが、トムには忠実である。
トムは、冒頭、崖から宙づりの状態で登場する。強盗団を見張るためらしいが、この登場の仕方はユニークだ。ロープの先端は崖下にいる愛馬に繋がっていて、するするとロープをたぐって降下し、馬の背にとんと乗るあたりは、曲芸を見ているようである。
馬から列車に飛び移り、走行する車両の屋根の上でのアクションなど、この時期から列車活劇の要素は揃っていたようだ。
トムを追って、列車と並走し、どこまでもついてくる馬がいじらしく、かわいいと思った。
線路と平行に川が流れている。馬で先まわりするトムを、ハリーがトロッコで追いかける。追いついたところで、川を挟み、手旗信号で、トンネル出口での強盗団の襲撃を伝えるシーンがよかった。
ヒーローの活躍を、銃だけでなく、馬とロープでも見せるところが新鮮だった。(2013.5)

3悪人 Three Bad Men
1926年アメリカ サイレント・白黒 95分
監督:ジョン・フォード
出演:ジョージ・オブライエン、オリヴ・ボーデン、J・ファレル・マクドナルド、トム・サンチ、フランク・キャンボー
指名手配中の三人のならず者が、幌馬車隊の若い女に助けを求められる。三人は彼女とその恋人のために一肌ぬ ぐことにしたが、悪人との対決はやがて壮絶な戦いになっていく。J・ファレル・マクドナルドらが、憎めない西部の男たちを好演。(2004.6)

夢想の楽園 The Winning of Barbara Worth
1926年 アメリカ 89分 モノクロ サイレント
監督:ヘンリー・キング
出演:ウィラード・ホルムズ(東部の技師。ロバート・コールマン)、バーバラ・ワース(ヴィルマ・パンキー)、エイブ・リー(ゲーリー・クーパー)、ジェファーソン・ワース(バーバラの養父。チャールズ・レイン)、ヘンリー・リー(エイブの父。ポール・マカリスター)、J・グリーンフィールド(東部の実業家。E・J・ラトクリフ)、テックス・ジョー(クライド・クック)、パット・ムーニー(アーウィン・コネリー)、リトル・ローズバッド(強盗。ビル・パトン)
ゲーリー・クーパーのデビュー作となる、西部開拓劇。
横浜のジャック&ベティで、柳下美恵さんのピアノ演奏付きで見る。
(柳下さんの伴奏付きでサイレント映画を見るのは、これで3回目となるが、なかなかいいものである。こういう機会がなければサイレント映画を劇場で見ようという気にはあまりならなかったと思うので、ありがたい。)
不毛の砂漠の地に、コロラド川の水を引いて肥沃な土地にしようという夢を持つジェファーソン・ワースとヘンリー・リー。
ワースの養女バーバラとリーの息子エイブは幼馴染で、エイブはバーバラのことを想っている。
が、ワースの長年の夢をかなえるべく、東部から実業家のグリーンフィールドとその養子で技師のウィラード・ホルムズがやってくると、バーバラはホルムズと恋に落ちる。
工事は成功し、キングストンの町は潤うが、金の亡者のグリーンフィールドは補強工事を拒み、ワースとリーは町を出て、高台に新しい町をつくる。それが気に入らないグリーンフィールドは、給料を運ぶエイブらを強盗に襲わせたり、誹謗中傷を流させたりしてワースの邪魔をする。
やがてコロラド川の増水により補強工事を怠ったダムが決壊し、キングストンの町は大洪水に見舞われる。
舞台は西部だが、ずっと土地の開拓の話なので、岩場の撃ち合いシーンでようやく西部劇らしいアクションが見られてよかった。
特撮と馬や馬車の暴走を組み合わせたクライマックスの洪水のシーンのスペクタクルがすごかった。川の氾濫は模型を使ったのだそうだが、押し寄せてくる水と、高台に避難しようと逃げる人々の様子が交互に描かれ、見事に合わさっていた。馬や馬車で疾走する人々の様子は鬼気迫るものがあり、力強いピアノ演奏が盛り上げてくれた。
若いゲーリー・クーパーは、男前で、馬を駆る姿がとてもステキだったが、ヒーローのロバート・コールマン(コールマン髭のコールマンである)と、ヒロインを取り合って敗れる役回りだった。
テックスとパットの二人が、コメディリリーフとして笑わせてくれるのが楽しかった。(2017.5)

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