みちのわくわくページ

○ 日本映画(2006・7年)

<2007年> 狂気の海、 キサラギ、 クローズZERO、 茶々 天涯の貴妃、 椿三十郎、 転々、 どろろ、 魍魎の匣 
<2006年> デスノート the Last name、 デスノート、  フラガール、 ゲド戦記、 花よりもなほ、 THE 有頂天ホテル

狂気の海
2007年 映画美学校 34分
監督・脚本:高橋洋
出演:日本国首相真壁晋太郎(田口トモロヲ)、首相夫人マッチ/富士王朝女王(中原翔子)、リサ・ライス捜査官(長宗我部陽子)、秘書(上馬場健弘)、富 士王朝生き残り(浦井崇)、その妹(宮田亜紀)
「リング」の脚本家として知られる高橋洋が、講師を務める映画美学校の授業の一環で生徒らと作り上げた作品。
主な登場人物は、日本国首相、首相夫人、FBI女捜査官、地下王国の女王の4人、でも首相夫人と女王は二役なので役者は3人、主な場所は、首相官邸内の一室、富士の裾野の原っぱ、地下王国の洞窟、ハワイの家の一室などのみ、そして憎めない特撮を駆使して、日本沈没という一大スペクタクルを34分で描く。

(以下ネタバレしまくっています。念のため。)
憲法九条を改正して日本を「普通」の国にしようとする首相。首相である夫に内緒で核兵器をつくっていた妻。大統領呪殺の謎を解明するため(蠅のうなりとともに)やってきたFBI霊的国防部の女捜査官。そして、地下で呪殺にいそしむ古代王国富士王朝の女王。
首相はどちらかというと女房の過激な発言に戸惑うばかりで、国家の興亡をかけた舌戦は、首相夫人マッチとFBIのライス捜査官のあいだで繰り広げられる。
やがて、ライスは、英語のパスワードを叫んで人工衛星に内蔵された兵器を富士山麓にいる自分にむけて発射させる。首相は妻の誘導で、ワシントンDCへ向けて核ミサイルを発射する。そして、地下では、富士王朝の女王が富士山の噴火を引き起こす。
私が劇場に見に行ったときは、上映後に高橋監督と黒沢清監督のトークがあった。このトークが、多少なりとも映画を解く鍵になってくれた。タイトルクレジットから妙な記号が出てきて戸惑ったが、実はこの映画自体が暗号のようなものだったのだ。
一番のキーワードは「エクソシスト」。だが、他にもいろいろ知っておけばそれだけ映画を見て、ああとうなづける。
冒頭から出てきた妙な記号は、二人の女優、中原翔子と長宗我部陽子の「子」に漢字の「四」に似た同じものが使われていること、また、映画のタイトル「狂気の海(きょうきのうみ)」のふたつ の「き」の部分にともに漢字の「中」に似た記号が使われていることから、どうやら日本語の五十音に対応した表音記号らしいということはわかるのだが、トークを聞かないと、これが「神代文字」であることはわからない。それも、本物の神代文字というものは存在せず、かといって高橋監督のオリジナルでもなく、比較的新しい時代に作られた偽神代文字なのである。
富士王朝という古代王国については、そのような説があるらしい。
呪殺もそういうものが試みられた時代があって、この作品が捧げられた映画「帝都大戦」には、アメリカ大統領呪殺のシーンが出てくるらしい。
浮き輪にも意味がある。といったようなことやなんかだ。トークがもっと続いていたら、もっといろいろなことが解き明かされていたかもしれない。
あちこちにギャグがある。どれもおかしいし笑っていいはずなのだが、なぜか笑いが出てこない。これはどういうことなんだろうと考えたところ、どうやら笑いよりも、あまりに変なものを目の当たりにしていることに対し、映画が終わるまで一貫してあっけにとられていたいという衝動の方が大きかったのではないかと思う。途中差し挟まれるギャグにいちいち笑って、あっけにとられている状態を中断したくなかったということだ。
中でも特にあっけにとられたのは、時空を超えていないことだ。古代王国の人々は、日本の古代王国なのに、いわゆるヤマトなファッション(例えば超古代SF漫画の秀作「イティハーサ」に見られるようなやつです)とは全く無縁の、古代エジプト風の派手なコスチュームをしている。バビロンぽくもあるので、一瞬「イントレランス」を思い出したりもしたのだが、恐らく監督は、古代王朝や神代文字や呪術には興味があっても、SF的な時空の歪みとかには全く興味がないので、あの王朝の人々は何百年だか何千年だか定かではないが、とにかくものすごく長い歳月を地下で生きてこなければならなかったのだ。というわけで、古代日本と現代日本が上と下で同時に壊滅するというスペクタクルが起きる。この「同時」という点がすごいと思った。(2008.7)


キサラギ
2007年 公開ショウゲート 108分
監督:佐藤裕市
原作・脚本:古沢良太
出演:家元(小栗旬)、安男(塚地武雅 ドランクドラゴン)、スネーク(小出恵介)、オダ・ユージ(ユースケ・サンタマリア)、いちご娘(香川照之)、如月ミキ(酒井香奈子)、大磯のイベントの司会者(宍戸錠<特別出演>)
D級アイドル、如月ミキの一周忌のために集まった、 ファンサイトのメンバーの5人の男。発起人は、サイトの運営人で、しがない公務員の家元。参加者は、東北の田舎からはるばるやってきた安男。軽いノリで変わり身の早い雑貨店勤務のスネーク。クールで固いオダ・ユージ。いちご娘は、女の子を装った無職の中年男だ。彼等は、家元のレアなミキ・コレクションの数 々に狂喜したり、ミキのエピソードを語り合ったりして楽しく過ごすが、やがて、オダ・ユージが、彼女の死因についての疑問を口にする。自宅で焼身自殺したということに納得できないでいた彼等は、如月ミキ他殺の可能性について探り、彼女の死の真相を求めて、推理を展開していく。死に至るまでのミキの言動を追ううち、状況も、彼等ひとりひとりの立場も二転三転していく。回想シーンを除けば、場面は5人の男が集まった一室だけ。舞台劇のようなシチュエーションの 中、そこかしこに伏線を散らしながら、話はあっちにころころ、こっちにころころと、転がって行く。やがて、意外で、感動的な真相が導き出される。 (2008.6)

クローズZERO
2007年 日本 130分
監督:三池崇史
原作:「クローズZERO」高橋ヒロシ
出演:
[GPS(源治パーフェクト制覇)]滝谷源治(小栗旬)、牧瀬隆史(高橋務)、田村忠太(鈴之助)、伊崎舜(高岡蒼甫)、
[芹沢軍団]芹沢多摩雄 (山田孝之)・辰川時生(桐谷健太)、戸梶勇次(遠藤要)、筒本将治(上地雄輔)、<途中から>三上学(伊崎右典)、三上豪(伊崎央登)、
[武装戦線]板東秀人(渡辺大)、千田ナオキ(武田航洋)、山崎タツヤ(鈴木信二)、
[海老塚中トリオ]桐島ヒロミ(大東 俊介)、本城俊明(橋爪遼)、杉原誠(小柳友)、
リンダマン/林田恵(深水元基)、
逢沢ルカ(黒木メイサ)、片桐拳(やべきょうすけ)、滝谷英雄(岸谷五朗)、矢崎(遠藤憲一)、黒岩刑事(塩見三省)、マスター牛山(松重豊)
パート2公開に先だってテレビ放映したのを見た。
不良学生の巣窟鈴蘭高校を舞台に、いまだ誰もなしとげたことのない学園制覇を目指して戦いを繰り広げる男子たちを描いた、高校生戦国バトル・アクション。
余計な要素をことごとく排除し、喧嘩のみに焦点を当てているつくりは、コンパクトで小気味良い。群雄割拠する男子高校生たちが、みな元気で個性があって憎めない。それぞれのグループの面々も、孤高の強者も好感を抱くように描かれていて、真の悪役はいないように思える。彼らに絡む大人たちも実はやさしい。
主演の小栗旬は、「ごくせん」出演時からの贔屓なので彼が男っぽい役を好演してくれて嬉しいのだが、山田孝之が演じたあまり力まない怪物芹沢もよい。彼の相棒の時生はもうけ役(白いシャツ姿ってのがまたポイント高いように思う)。
故意なのか撮影スケジュールの都合上なのか、雨のシーンが多い。傘を差して向き合う不良集団という図は、なかなか新鮮だった。
ラストの壮絶な戦闘も雨の中で行われる。時生の手術、矢崎組を裏切った片桐の制裁、ルカが歌うステージが、挿入される。海老塚中トリオ(というらしい)による解説つきとはいえ、GPSの不利さや、武装戦線の介入の効果がいまいち伝わってこなかったのだが、泥だらけ、血だらけになって殴り合う彼らを見ている と、痛そうだけど、わくわくする。(2009.8)

関連映画:クローズZEROU(2009)

茶々 天涯の貴妃(おんな)
2007年 東映 128分
監督:橋本一
脚本:高田宏治
出演:茶々(和央ようか、子役:菅野莉央)、小督[おごう](寺島しのぶ)、豊臣秀吉(渡部篤郎)、徳川家康(中村獅童)、織田信長(松方弘樹)、はつ (富田靖子)、大蔵御局(高島礼子)、北政所(余貴美子)、お市の方(原田美枝子)、きく(メイサツキ)、豊臣秀頼(中林大樹)、千姫(谷村美月)、本田 佐渡守(松重豊)、真田幸村(黄川田将也)、後藤基次(平岳大)、長曽我部盛親(中丸新将)、前田玄以(高橋長英)、大野治長(近藤公園)
織田信長の妹お市の方と浅井長政の間に生まれた三姉妹の長女、茶々姫の生涯を描いた歴史大河ロマン。
茶々は、囚われの身から豊臣秀吉の側室となり、世継ぎとなる秀頼を生み、秀吉亡きあとは、豊臣家を守る。クライマックスは大阪夏の陣。勝ち目のない戦いと知りながら、徳川勢を淀城(大阪城)で待ち受ける。
仇である秀吉の側室となるよう命じられた茶々は、秀吉への殺意を胸に聚楽第を訪れる。その最初の夜、秀吉は、茶々に対する自分の思いを告げ、茶々に城を贈り、「天下とり」について語る。秀吉に対する気持ちが大きく揺らぐとともに、茶々が「天下」を意識する瞬間である。その後、茶々は、秀吉の命で、すでに家庭を持つ妹小督をむりやり徳川家に嫁がせる。その非情さに妹のはつは姉を「鬼」と呼ぶ。姉妹は、豊臣方と徳川方に分かれることになるが、「私とあなたとどちらかが生き残れば、私たち姉妹の勝ち戦」と茶々は言う。
秀吉への思い、わかれわかれになった妹たちへの思い、母としての子への思 い、豊臣家の女主としての思いなど、ヒロインの心情に注目したいところだが、和央ようかの演技からは、そういった彼女の心の動きが読み取れない。立ち姿は美しい。が、私には、和央ようかの茶々はあまり魅力的に見えなかった。
脇役がいい。
茶々の娘時代を演じる菅野莉央は、きりっとしていて、信長に「女帝となるやも知れぬ」と言わせるだけの強さが感じられる。
信長の出番はワンシーンだけだが、久し振りに男っぽくきばった松方弘樹を見た。
寺島しのぶは、末妹という設定にもかかわらず三姉妹の中で一番年上に見えてしまうが、自分の身を顧みず姉や娘を思う小督を好演している。
茶々に仕える侍女大蔵の高島礼子が最後に見せる豊臣家への忠誠ぶりは迫力があるし、秀頼と千姫の若い二人は初々しく好感がもてる。
渡部篤郎の秀吉は、大河ドラマで見る秀吉とはひと味違ってそれなりによかったと思う。
そして中村獅童の家康。気合いが入っていていい。(2007.12)


椿三十郎
2007年 「椿三十郎」制作委員会 119分
監督:森田芳光
原作:山本周五郎「日々平安」
脚本:菊島隆三、小国英雄、黒澤明
出演:椿三十郎(織田裕二)、室戸半兵衛(豊川悦司)、井坂伊織(松山ケンイチ)、寺田(林剛史)、保川(一太郎)、睦田城代家老奥方(中村玉緒)、千鳥 (鈴木杏)、菊井大目付(西岡徳馬)、竹林国許用人(風間杜夫)、黒藤次席家老(小林稔侍)、睦田城代家老(藤田まこと)、木村(佐々木蔵之介)、こいそ (村川絵梨)
1962年の黒澤明監督作品のリメイク。
藩の乗っ取りを企む悪者大目付たち。彼らの罠にはまった城代家老を助けようとする若侍たちに、通りがかりの素浪人が手を貸すという話。脚本は、オリジナルのものをそのまま使用している。
1962年に椿三十郎を演じた三船敏郎の印象は強烈である。織田裕二でリメイクと聞いたときに「え〜っ!」と思ったオリジナル・ファンは少なくないと思われる。実はまだちゃんと見ていなかった私でもそう思った(リメイク公開に先だってやっとオリジナルを見たのだが、うわさに違わずたいへんよいものだった)。が、新作を見終わった今となっては、味方に回りたい気分だ。こっちも楽しんで見て欲しいと思う。
オリジナル版では、若侍たちと椿三十郎の間には、剣の腕はもちろん、人間としての度量に天と地ほどの差があった。
が、織田裕二が演じる椿三十郎には、さほどの距離感は感じられない。頭もいいし人好きのする性格なのでみんなから慕われる身近なあこがれの人という感じで である。
しかし、オリジナルを知らなければ、そうした人が椿三十郎であってなんの問題もない。こっちを最初に見た人は、三船敏郎を見て、そのあまりの老成ぶりに驚 くのではないだろうか。一方、織田裕二が40歳と聞けば「えー、見えな〜い」と反応する人は多いだろう。それはそのまま、昭和37年の40歳と平成19年 の40歳の違いであるようにも思える。(正確に言えば、三船敏郎は当時42歳、織田裕二は今年40歳である。)
と考えれば、捉えられた4人の若侍を救うため、椿三十郎がやむなく行う殺戮も、見方が違ってくる。三船がああいうことはこれまでにも何回となくやってきたように見受けられるのに対し、織田の三十郎はひょっとしてあんなに一度に人を斬るのは初めてかも知れない、実は必死で正直怖かったんじゃないかとも思える。そうすると、若侍たちを平手打ちする時の心情も違ったものに感じられてくる。
風間杜夫、西岡徳馬、小林稔侍の三悪人を始め、脇役もおもしろかった。
伊織を演じた松山ケンイチは、限られた台詞の中で、若侍たちのリーダーらしい存在感を出していたと思う。
押入の中に入っている敵方の家来木村役の佐々木蔵之介も味わい深い。
中村玉緒の城代家老奥方は、もう見る前からはまり役とわかっていたぜという感じだし、鈴木杏が演じる姫は、おっとりしていながらもおきゃんな雰囲気を漂 わせていた。
室戸半兵衛(豊川悦司)は、オリジナル(こっちは仲代達矢)でもそうだが、椿三十郎とのやりとりがいい。ただ、すごく腕が立ちそうなのに、実際に剣の腕をふるうシーンがほとんどないのが残念だ。
それと、今回は椿の花がカラーで見られたのがうれしかった。突入の合図に火を放つという椿三十郎に対し、奥方が「まあ、乱暴な」と異を唱え、娘の千代が「椿の合図」を提案する。オリジナルを見た時、赤い椿と白い椿をカラーで見たかったという思いが強く残った。 今回のリメイクのおかげでその欲求不満ははらされたと言えよう。
で、椿と室戸の最後の対決。「長い沈黙の後に一瞬で決まる勝負」をどう撮るか。北野武監督の「座頭市」 の決闘シーンが、「椿三十郎」(1962年)に敬意を払っているということで高い評価を得ているようだ。もちろん私もあのシーンはかなり好きだが、「椿三十郎」2007年版で同じことはできまい。ならばどうするか。森田監督はあのようにした。最初に少々もちゃもちゃするが、勝負はほぼ一瞬で決まったと言っていい。ただし、かなり変則的なので、何がどうなったかよくわからない。そこでスローモーションで「一瞬」の間に起こったことを再生して説明してみせた。それでもすっきりとはわからない。人を二人立てて、刀を差して、どういう向きで刀を抜いてどういう風に斬りつけたのか。検証してみたくなる。 (2007.12)

ひと言(No.31 )「あなたは、なんだかぎらぎらしすぎですよ。まるで抜き身の刀みたい。」
他の引用:「マヌケな味方の刀は、敵の刀よりあぶねえ。」(椿三十郎)
「赤い椿を合図になんて、きれいでいいわ。」(千代)

関連作品:「椿三十郎」(1962年)

転々
2007年 日本 101分
監督・脚本:三木聡
原作:藤田宜永
出演:竹村文哉(オダギリジョー)、福原愛一郎(三浦友和)、麻紀子(小泉今日子)、ふふみ(吉高由里子)、国松(岩松了)、仙台(ふせえり)、友部(松重豊)、福原の妻(宮田早苗)、鏑木(広田レオナ)、時計屋(津村鷹志)、三日月しずか(麻生久美子)、畳屋(笹野高史)、愛玉子店のおばさん(鷲尾真知子)、同息子(石原良純)、お婆さん(風見章子)、岸部一徳(岸部一徳)
DVDで見た。当時人気だった深夜ドラマ「時効警察」の監督と主演による徒歩映画。
ヤクザな男と冴えない大学生の青年が、東京都内を散歩する。
84万円の借金を返済できないでいた大学生の文也は、取り立て屋の福原から奇妙な提案をされる。吉祥寺から桜田門までの散歩につきあえば、借金をちゃらにし、更に100万円の報酬を出すというのだ。
井の頭公園から2人の散歩が始まる。途上の調布飛行場沿いの道で、福原は、妻を殺したから警視庁に自首をしに行くのだと告げる。福原は、それだけでなく、自分の家では散歩を「タチ」と呼んでいたことなど、歩きながらやたらいろいろしゃべる。
阿佐ヶ谷、新宿を経て散歩を続ける2人は、福原の知り合いである麻紀子の家に立ち寄る。麻紀子の姪のふふみも交えて、4人は家族のようなひと時を過ごす。震災以前のさりげない疑似家族ぶりは押しつけがましくなくていい。ふふみの素っ頓狂さが愉快。
「時効警察」へのオマージュ(「三日月しずか」が登場したり、麻紀子のスナックの名が「時効」だったり)を始めとして、こじゃれた小ネタがいろいろ、福原の妻の無断欠勤を案じる勤務先の上司や同僚のやりとりも「時効警察」っぽい。終始、とぼけた、ゆるい雰囲気が味の映画である。
桜田門に着くと2人の旅は終わる。会話の途中で文也が目を放した隙にいなくなる福原、取り残されて所在なげに佇む文也。ふっとした終わり方がよい。(2013.11)

どろろ
2007年 映画「どろろ」製作委員会 138分
監督:塩田明彦
アクション監督:チン・シウトン
原作:手塚治虫「どろろ」
出演:百鬼丸(妻夫木聡)、どろろ(柴咲コウ)、醍醐景光(中井貴一)、多宝丸(瑛太)、百合(原田美枝子)、お自夜(麻生久美子)、琵琶法師(中村嘉葎 雄)、呪医師寿海(原田芳雄)、鯖目(杉本哲太)、鯖目の奥方(土屋アンナ)、チンピラ(劇団ひとり)
手塚治虫の同名漫画を実写で映画化。原作の舞台設定であった戦国時代を、いつの時代のどことも知れぬ国に置き換え、魔物に奪われた身体の四十八箇所を取り戻すための戦いを続ける美剣士百鬼丸と親の仇を追う男装の女盗賊どろろの旅を描く。
いわゆる冒険伝奇ロマンの様相を呈しながら、物語は、時代劇、異世界ファ ンタジー、ホラー、道中もの、家族の愛憎劇等の要素を含み、数々のモンスターや成仏できない子どもの霊や謎の琵琶法師や死んだ住職やフランケンシュタイン博士ばりの呪医師や半裸の踊り子や忍者や戦国時代の武将が入り乱れる。主人公の百鬼丸も剣士であり人造人間でありサイコメトラーであり王子である。
このごちゃごちゃした世界を、どろろが元気よく飛び跳ねる。柴咲コウは、ワンカットたりとも綺麗な娘姿を見せることなく、汚い姿のままである。にもかかわらず、終始可憐だ。これは彼女の魅力も去ることながら、おそらく女の子をかわいく撮ることに対する監督の熱意の表れ。できれば、男子に対してもその熱意を分けてほしい。妻夫木は男前だから立っているだけで絵にな るのだが、それにしてもぼうっとしすぎじゃないかと思うことが何回となくあった。
妻夫木と柴崎の丁々発止の旅は楽しく、ニュージーランドの広大な空間は気持ちがいい。(2007.2)

ひと言(No.26):「綺麗に見えちまうもんだな。こんな目でも。」

魍魎の匣(もうりょうのはこ)
2007年 制作委員会 133分
監督・脚本:原田正人
原作:京極夏彦「魍魎の匣」
出演:中禅寺秋彦[京極堂](堤真一)、榎木津礼二郎(阿部寛)、関口巽(椎名桔平)、木場修太郎(宮迫博之)、中禅寺敦子(田中麗奈)、柚木陽子[美波 絹子](黒木瞳)、久保竣公(宮藤官九郎)、美馬坂幸四郎(柄本明)、鳥口守彦(マギー)、青木刑事(堀部圭亮)、柚木加菜子(寺島咲)、楠本頼子(谷村 美月)、安和虎吉(荒川良々)、今出川(笹野高史)、寺田兵衛(大森博史)、雨宮(右近健一)、増岡(大沢樹生)、中禅寺千鶴子(清水美砂)、関口雪絵 (篠原涼子)
古書店主にして陰陽師の京極堂こと中禅寺秋彦が奇怪な事件に挑むシリーズの映画化第2弾である。
1952年の日本。少女バラバラ連続殺人事件に、元女優の娘の殺人未遂事件、箱を崇める怪しげな新興宗教、不気味な科学研究所で行われている謎の実験などが絡む。
私立探偵榎木津は、元女優の陽子から、失踪した娘加菜子の捜査を依頼される。加菜子は、友人の頼子と出歩いていたが、夜の駅で何者かによってホームから突き落とされ、瀕死の重傷を負ってしまう。陽子は、治療のため加菜子を美馬坂医学研究所と呼ばれる施設へ移送させる。そこは、巨大な箱の形をしていることから「匣館」と呼ばれる異様な雰囲気の建物だった。
一方、世間では、切断された少女の手足が箱詰めにされて発見されるという連続殺人事件が起こっていた。幻想作家の関口が別名で小説を掲載しているカストリ雑誌「月刊実録犯罪」編集部で、新たに箱詰めの少女の腕が発見される。関口は、編集部の鳥口、及び京極堂の妹敦子とともに事件を追うことに。失踪した少女たちが、新興宗教「深秘御筥教(じんぴおんばこきょう)」の信者リストに載っていることをつきとめた彼らは、教団に乗り込んで真相を究明するため、京極堂に話をもちかける。
加菜子を殺そうとした犯人を追う青木刑事は、謹慎中の先輩木場を呼び出す。木場は、陽子(女優美波絹子)の熱烈な ファンだった。木場が、陽子と初めて会うシーン、あこがれのスターを目の当たりにしたファンの熱い思いを抱えつつ、刑事としてぶっきらぼうに接するところは、なかなかよい。
原作を読んだのはだいぶ前のことで、細かいことはすっかり忘れてしまったの だが、連続殺人事件の犯人は誰かというメインの謎の他に、加菜子をホームから線路に突き落としたのは誰か、重体のはずの加菜子はどのようにして「匣館」か ら運び出されたか、という二つの謎があったように思う。
映画化に際して、謎は最初のひとつに絞られた。あとの二つ、加菜子殺しについてはごく あっさりと処理されて、原作にあった犯人の複雑な思いはあまり詳しく語られないし、匣館からの加菜子の蒸発に至ってはそうした設定自体消えてしまっている。つまり、原作において京極堂が本領を発揮した謎解きが、映画ではふたつ消滅したことになる。
さらに、一つ目のメインの謎についても、最初に犯人を知るのは、榎木津である。彼は、これまでどちらかというとエキセントリックな面が強調されていたように思う。理論立てた推理で犯人を当てる名探偵ではなく、霊感で人の過去を読み犯人を当てる霊感探偵と言う設定はなかなか愉快だと思うのだが、今回の榎木津はかっこいい。
で、京極堂の見せ場は、教団の教祖らをやりこめるシーンと、匣館でのクライ マックスということになった。前者は、いくぶんコミカルに、ステップを踏んでインチキ教祖らに迫る京極堂が見られる。クライマックスでは、京極堂が、かつて軍でいっしょに仕事をしたことのある天才科学者美馬坂教授に迫る。が、ここで目立つのは匣館。京極堂と関口、榎木津と敦子と青木、そして木場らが、それぞれに匣館に侵入し上の階を目指すのだが、匣館は巨大な迷路のようで、彼らは、加菜子や連続殺人犯のもとに、容易にはたどりつけない。
みっしりと中身の詰まった箱。箱という主題は、一貫していると思う。箱に取り憑かれた男、新進の怪奇小説家久保俊公を、意外な配役ながら宮藤官九郎が好演していると思う。
なんだかんだいって仲のよい三人の男たち、京極堂、榎木津、関口が、京極堂の家に集まってべらべらしゃべり合うのが、とてもいい感じで好きだ。
敦子役の田中麗奈はじめ、加奈子と頼子の二人の少女、ちょっとしか出ない京極堂、関口の両夫人など、女たちもいい。(2007.12)

関連作品:「姑獲鳥の夏」 (2005)


デスノート the Last name
2006年 「DEATH NOTE」FILM PARTNERS 140分L
監督:金子修介
原作:「DEATH NOTE」原作:大場つぐみ、漫画:小畑健
出演:夜神月(藤原竜也)、L/竜崎(松山ケンイチ)、弥海砂(戸田恵梨香)、夜神総一郎(鹿賀丈史)、ワタリ(藤村俊二)、高田清美(片瀬那奈)、出目 川(マギー)、西山冴子(上原さくら)、松田刑事(青山草太)、宇生田刑事(中村育二)、相沢刑事(奥田達士)、模木刑事(清水伸)、佐波刑事(小松みゆ き)、夜神粧裕(満島ひかり)、評論家(板尾創路)、リューク(中村獅童)、レム(池端慎之介)
理想の世の中をつくるため「デスノート」を使って凶悪犯を次々に殺していく大学生月(ライト)と、一見引きこもりのオタク風でありながら実は天才的な頭脳を持つ謎の青年Lが対決する完結編。
「チェックメイト」「勝った」とつぶやいてほくそ笑む月(ライト)はいいし、素顔をさらして大学に出向き、とぼけたフリをしながら、しっかり罠を張るLもいい。二人の静かな戦いぶりにわくわくする。
キラでないときの月(ライト)がLと手を組んで捜査を勧めていくという一粒で二度おいしい的な状況のおもしろさと、月(ライト)がキラに戻るときのブラックな盛り上がりが、映画では原作ほど強烈に伝わってこなかったのが残念である。
松山ケンイチのLが場をさらい、月(ライト)役の藤原竜也がちょっとかすんでしまった感じは否めない。
二部構成だった原作を一部に絞り、Lを最後まで出して活躍させた映画独自の展開はそれはそれでおもしろく見た。
戸田恵梨香の海砂は、マンガのイメージとは違う感じがしたけど悪くなかった。高田清美はマンガでの「火口」の役回りも加わってだいぶ印象が違う。捜査官の面々はそれぞれ地味にいい。評論家で板尾創路が顔を見せていたのがうれしかったりする。(2006.12)

関連作品:映画「L change the WorLd」、 小説「ロサンゼルスBB連続殺人事件」(西尾維新)

デスノート
2006年 「DEATH NOTE」FILM PARTNERS 126分
監督:金子修介
原作:「DEATH NOTE」原作:大場つぐみ、漫画:小畑健
出演:夜神月(やがみらいと。藤原竜也)、L/竜崎(松山ケンイチ)、秋野詩織(香椎由宇)、夜神総一郎(鹿賀丈史)、ワタリ(藤村俊二)、南空ナオミ(瀬戸朝香)、レ イ・イワマツ(細川茂樹)、弥海砂(戸田恵梨香)、リューク(中村獅童)
ライト人気コミックの映画化前編。映画を見る前にコミックス全巻を読んだ。
死神が持つ「デスノート」を手にし、悪人を制裁していく大学生夜神月と謎の探偵Lの対決。デスノートに関するルールは原作と同じ。
藤原竜也の夜神月は、娘に言わせれば「顔が丸すぎる」らしいが、独自の月を演じていていいのじゃないかと思う。
Lの松山はほぼ原作のLのイメージどおり。くまのある目やスプーンの持ち方はもちろん、ありそうであまりないかもしれない白いTシャツの適度なだぶだぶ感やちょっとざらついた布の質感まで含めて、研究のあとがうかがえる。
死神のリュークは、CGできれい。翼を大きく広げてとぶところなど実にファンタスティックなんだけど、アナログ世代のはかない希望としては、多少しょぼくても特殊メイクを施した中村獅童に直に演じてほしかった気も。
月がデスノートを拾う前に釈放された極悪人を間の当たりにして怒りを覚えるのは説得力があるし、恋人詩織の存在や美術館でのクライマックスなど、原作にはない展開が新鮮だった。このまま後編もLとの対決をメインに映画独自の展開で盛り上がってほしい。(2006.8)

関連作品:映画「L change the WorLd」、小説「ロサンゼルスBB連続殺人事件」(西尾維新)

フラガール
2006年 シネカノン 120分 
監督・脚本:李相日(リ・サンイル)
出演:平山まどか(松雪泰子)、谷川紀美子(蒼井優)、木村早苗(徳永えり)、佐々木初子(池津祥子)、熊野小百合(山崎静代)、吉本(岸部一徳)、谷川 洋二朗(豊川悦司)、谷川千代(富司純子)、木村清二(高橋克美)、熊野吾郎(志賀勝)、猪狩光夫(三宅弘城)、石田(寺島進)
私事だが、私が生まれ育った茨城県日立市から、福島県いわき市までは日帰りでいける距離だ。
小学生のころ、月曜日に教室で同級生が「おれ、昨日、ハワイに行ったんだぜえ。」と自慢したら、それは間違いなく「常磐ハワイアンセンター」のことを指していた。 「ハワイアンセンター」は、周囲の人たちが老若男女を問わず、個人なり団体なりでみんな一度は行ったことがある娯楽施設であり、私にとってもかなり身近なものだった。
が、あそこで踊っているダンサーが、地元の女の子たちだったなんて、考えたこともなかった。
閉山間近の炭坑町で、なんとか地元住人の雇用を創出し、地域活性化をはかるため、レジャー施設開設を計画する企業側と、長年炭坑で働いて来て山を離れたくない炭坑夫たちとの対立。
施設の目玉となるフラダンス・ショーのダンサーたちを指導するため東京から 呼ばれたのは、落ちぶれた元一流ダンサーの平山まどかだった。ダンスに夢を託し、必死でがんばる地元の女の子たちと接するうちに、彼女は生気を取り戻して いく。
親の反対、失業、落盤、友との別れを乗り越え、華やかなフラダンス・ショーへ。まさに笑いと涙の2時間である。
主演の松雪と蒼井はもちろんいいが、ダンサー育成担当の会社員岸部一徳が、 会社と炭坑夫たちとの間でも、のんだくれのまどか先生とど素人の女の子たちとの間でも板挟みになり、方言まくしたててあたふたしてでもどこかのんびりしていてと、いい味を出している。
炭坑に生きる強い母千代を見て、きりっとしたきれいなおばあさんだなあ、「日本侠客伝・花と竜」(1969年、監督:マキノ雅弘)のおまん(星由里子)が年とったらこんな感じかなあと思って見ていたら、なんと富司純子だった。
豊悦は地味な炭坑夫を好演。まどかを追ってきた借金とりの寺島進とにらみあうという、ファンにとっては楽しいシーンもついている。(2006.10)


ゲド戦記 Tales from Earthsea
2006年 スタジオジブリほか 115分
監督:宮崎吾朗
原作:アーシュラ・K・ル=グウィン「ゲド戦記」シリーズ
原案:宮崎駿「シュナの旅」
声の出演:ハイタカ/ゲド(菅原文太)、アレン(岡田准一)、テルー(手嶌葵)、テナー(風吹ジュン)、クモ(田中裕子)、ウサギ(香川照之)、国王(小 林薫)
多島海世界アースシーでは、様々な異変が起こり、世界の均衡がくずれつつあった。
国王である父を刺して母国エンラッドを出た王子アレンは、旅の途中で魔法使いハイタカに出会い、道連れとなる。二人はホート・タウンを訪れ、町の外れで暮らすハイタカの昔なじみテナーの家に落ち着く。アレンはここで少女テルーに会う。
影におびえるアレンと、親に捨てられ人を避けて生きながらも強い心を持つ テルーの二人の若者が対照的。ハイタカは実は大賢人ゲドで、大物らしい風格を見せてよいのだが、魔女クモと対決するクライマックスでは若い二人が大活躍 で、ゲドはただの傍観者になってしまう。
赤と緑のトーンが強い風景はいくぶん安っぽく、人物たちはあまり洗練され ていなくて、どこかなつかしいものを感じさせる。予告編を見たときには「もののけ姫」のような話かと思った。アレンとテルーは、アシタカとサンで、なんか闇のものを引きずった少年が、変わりもんで近寄りがたくて自然とともに生きているような少女に出会う話(観て知ったことだが、敵が田中裕子の声を持つおばさんだという点も同じだ)。しかし、思い出したのは「太陽の王子 ホルスの冒険」だった。考えてみればどちらも話の基本は同じ。「ホルス」はだいぶ前に観たのであまり覚えていないのだが、ぶっきらぼうで、不親切だというイメージがあってそれが重なったのかも知れない。で、否定的な形容詞ばかり並べてきたのだが、実はこれはみんな好感を抱いた点である。作品全体に流れる、もっさりとした感じが私はかなり好きだ。話がストレートに進むし、アクションも見応えが ある。
説明不足で、本を読んでいない人にはわからないのでは、という原作ファンの声を聞く。たしかに、ゲドとテナーとの間には何があったの?とか、本当の名前ってなに?とか、テルーと龍の関係は?とか、いろいろ知りたくなる。これを機に原作を読みたいと思う人がいればそれでいいし、かくいう私もその一人だ。いろいろ想像させてくれるので、親切すぎるよりいいと思う。
宮崎駿作品に登場してきた男の子たちは、脇役ながら大概勇気があって立派 だ。「もののけ姫」のアシタカもそうだった。彼がたたりを受けながらも常に心正しくゆるがない若者であったのに対し、アレンはかなり弱々しい。この弱さを愛しく思うか、情けなく思うかで評価が分かれる気がする。アレンが、いつ剣を抜けるようになるのか待ち遠しい思いで画面を追い、またテルーの歌声を聞いて涙を流す彼を見て泣けてくれば、「乗った」と思っていいのではないだろうか。(2006.8)

ちょっとだけ関連:「イシ 北米最後の野生インディアン

花よりもなほ
2006年 「花よりもなほ」フィルムパートナーズ 127分
監督:是枝裕和
出演:青木宗左衛門(岡田准一)、貞四郎(古田新太)、おさえ(宮沢りえ)、進 之助、平野次郎左衛門(香川照之)、おのぶ(田畑智子)、そで吉(加瀬亮)、孫三郎(木村祐一)、乙吉(上島竜兵)、留吉(千原靖史)、善蔵(平泉成)、 お勝(絵沢萠子)、伊勢勘(国村隼)、小野寺十内(原田芳雄)、重八(中村嘉葎雄)、青木庄三郎(石橋蓮司)、宗左衛門の弟(勝地涼)、寺坂吉右衛門(寺 島進)、おりょう(夏川結衣)、金沢十兵衛(浅野忠信)
仇討ちをテーマにした時代劇。元禄15年(赤穂浪士の討ち入りの年)という設定なので当然忠臣蔵の話も絡んでくる。しかも仇役は「座頭市」で市と対決するかっこいい武士を演じた浅野忠信。が、それにもかかわらず、立ち回りらしい立ち回りはいっさいない。ひたすら長屋の人々のたくましい生き様と、戦わない男の内面の戦いを地味に明るく描く。
道場主だった父親の仇討ちをするため、信州の実家を出た青木宗左右衛門(宗左)は、江戸の長屋に流れ着いて半年、寺子屋などを開いて、なかなか仇討ちをしようとしない。
遊び人の貞四郎、冴えない浪人の次郎左右衛門、美しい後家のおさえや、お笑 い芸人の人たちが演じる長屋の面々が、それぞれ個性を発揮して愉快。厠番(?)の孫三郎役の木村佑一は、アホながら時として作品のテーマに通じる大事なことをいう、ちょっとなつかしいような役回り。原田芳雄や中村嘉葎雄などそうそうたるメンバーも配置。最近ガラの悪い刑事役のイメージが固定しつつある寺島進が、こぎれいな赤穂侍役で顔を見せるのもうれしかったりする。
長屋という設定もあってか、途中何度となく山中貞夫の作品を思い出す(と思うとはぐらかされたりするのだが)。長屋の壁や床や戸や衣装が、程よくどころか相当気合いを入れて汚してあるのがよかった。セリフやしぐさは現代的。私と しては、予告編から想像した「笑いと涙のちょっといい話」をかなり上回るよい作品で、楽しかった。おさえの幼い息子進之介が、母に内緒で宗佐にある絵を見せるシーンなど、宗佐といっ しょになってあの子を抱きしめたくなった。ファンは、間違いなく岡田君の笑顔にズキュンと来ることでしょう。(2006.6)

※タイトルは、浅野内匠頭の辞世の句「風さそふ花よりもなほわれはまた春の名残をいかにとやせん」から取ったものだそう。
このひと言(No.22):「ここで逢うたは盲亀の浮木、憂曇華の花待ち得たる今日の対面、いざ、尋常に勝負、勝負!」

THE有頂天ホテル
2006年 フジテレビ、東宝 136分
監督・脚本:三谷幸喜
出演:新堂[副支配人](役所広司)、矢部[アシスタントマネージャー](戸田恵子)、総支配人(伊東四朗)、瀬尾[副支配人](生瀬勝久)、憲二[ベル ボーイ](香取慎吾)、ハナ[客室係](松たか子)、睦子[客室係](堀内敬子)、丹下[ウェイター](川平慈英)、右近[筆耕係](オダギリジョー)、 蔵人[ホテル探偵](石井正則)、ヨーコ(篠原涼子)、武藤田[国会議員](佐藤浩市)、神保[秘書](浅野和之)、堀田衛(角野卓造)、堀田由美(原田 美枝子)、なおみ[フライトアテンダント](麻生久美子)、赤丸社長(唐沢寿明)、桜チェリー[歌手](YOU)、マジシャン(寺島進)、アシスタント (奈良崎まどか)、腹話術師(榎木兵衛)、ダブダブ[あひる]、大富豪(津川雅彦)、その息子(近藤芳正)、徳川膳武[演歌歌手](西田敏行)、付き人 (梶原善)
大晦日の夜のシティ・ホテル。通常の業務に加えて、カウントダウンパーティの準備があるため、スタッフは大忙し。
元妻と再会し見栄を張ろうとするホテルの副支配人、コールガールに振り回されるその世界では名の知れた先生、汚職疑惑の渦中にあってホテ ルに潜伏中の国会議員、部屋を散らかしまくる大富豪の愛人、歌手の夢をあきらめ田舎へ帰る決意をしたベルボーイ、彼を励ます謎のフライトアテンダント、女手一つで息子を育てている客室係、けんかして仲直りしたいけどうまくいかない恋人同士のウエイターと客室係、パーティの余興に呼ばれた芸能プロの面々(マジシャン、腹話術師、歌手)、年明けのショー出演のためやってきたベテラン演歌歌手、地味な筆耕係、役に立っていなさそうでけっこう立っているのかも知れないホテル付き探偵など、ホテルのスタッフ及び宿泊客のもろもろの事情が入り乱れて、軽快に愉快に年が暮れていく。
誰がよかったとか特に言う気がしなくなるほど出演者はみんなよかったのだが、それでも敢えて好みで言わせてもらうと佐藤浩市の国会議員がつぼにはまった。香取慎吾のベルボーイ姿もかなりよく、二人が抱き合うシーンがあって、なんてありがたいと思ってしまった。(2006.1)

この一言(No.18):「帰りはおそくなる。」

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