みちのわくわくページ
時間 タイムトラベルの本(海外) 1990年〜

(初出版年順 1990年〜)
時間泥棒(ホーガン)、 さよならダイノザウルス(ソウヤー)、 タイムシップ(バクスター)、 犬は勘定に入れません(ウィリス)、 タイムライン(クライトン)、
ダイエット地獄(マーシャル・マイケル・スミス 「みんな行ってしまう」所収)、
時をこえる風(フレデリック・フォーサイス 「囮たちの掟」所収)

時間泥棒 Out of Time (1993)
ジェイムズ・P・ホーガン作
小隅黎訳 創元SF文庫
ニューヨークで、ある日突然時間が遅れ始めた。
しかも場所によって遅れ方が違うため、時間に追われて生活している人々は大混乱。
この異常事態の原因は、なんと時間を食べる異次元世界のエイリアンだというのだが。(2003.2)


さよならダイノザウルス End of an Era(1994)
ロバート・J・ソウヤー作
内田昌之訳 ハヤカワ文庫
恐竜、火星人、時間旅行。恐竜絶滅の謎がころころと解かれていくライトなSF。(2003.2)

タイムシップ The Time ships (1995)
スティーヴン・バクスター
中原尚哉訳 ハヤカワ文庫
H・G・ウェルズ作「タイムマシン」の続編として書かれた、ウェルズの遺族公認の大時間旅行アドベンチャー。
時間旅行を行うたびにその影響で歴史が変化し、元の時代に戻っても同じ世界ではなくなっているため、主人公の時間航行家は、次から次へと違った世界に舞い 戻り、世界はどんどん悪夢のように変貌していく。
どこに行って戻って来たらどこで、次にどこに行って……と、理解するためについ図を書きたくなる。
時間旅行による歴史への干渉などなかったオリジナルと、宇宙の多様性に嵌った大作続編の対照が面白い。
ウェルズへのオマージュが至るところに散らばっているらしい。(2003.2)


犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎 To Say Nothing of the Dog
コニー・ウィリス著(1998年) 大森望訳 ハヤカワ文庫 上・下巻
登場人物:<2057年>ネッド・ヘンリー(オックスフォード大学史学部学生)、ヴェリティ/キンドル(同大学史学部学生)、レイディ・シュラプネル(同 大学史学部教授?)、ダンワージー教授(同大学史学部教授)、T・J・ルイス(同大学航行時学部学生)、ウォーダー(同大学航時学部学生衣裳部用員)、カ ラザース(同大学史学部学生)、フィンチ(ダンワージー教授の秘書)
<ヴィクトリア朝>テレンス・セント・トゥルーズ(貴族の青年。ペディック教授の教え子)、トシー・ミアリング(ミアリング大佐の娘)、ミアリング大佐、 ミアリング夫人、ペディック教授、ベイン(ミアリング家の執事)、コーリン/ジェイン(ミアリング家のメイド)、モード(ペディック教授の姪)、シリル (テレンスの飼い犬のブルドッグ)、プリンセス・アージュマンド(トシーの飼い猫)

2057年。時間旅行が可能になった未来。
が、過去に行けてもその時代のものを現代に持ち帰ることはできないという自然の摂理が判明し、新規事業をもくろんでいた企業はことごとくプロジェクトから撤退、時間旅行は主に学術研究者が扱うものとなっていた。
オックスフォード大学のレイディ・シュラプネルは、第二次世界大戦中にロンドン空襲で焼け落ちたコヴェントリー大聖堂復元計画を指揮し、史学部と航時学部の学生らを片っ端から動員し、こきつかっていた。
史学部学生のネッド・ヘンリーは、大聖堂から忽然と姿を消した花瓶「主教の鳥株」(木の切り株に小鳥をあしらったデザインのものなのでこう呼ばれる)のゆくえを追って、無理な降下(時間旅行)を繰り返したため、過労が重なり「タイムラグ」と呼ばれる体調不良に陥っていた。
彼は、ダンワージー教授に救いを求め、休養をとるためヴィクトリア朝に逃れる。そこでの彼の任務はただひとつ。同じ史学部学生のキンドルが、ビクトリア朝から連れてきてしまった猫を飼い主に返すことだった。
猫の飼い主である貴族の娘トシーは、主教の鳥株について日記に記述していたが、日記は古く、現代では内容が判読困難だった。そのため、キンドルは彼女の日記を盗み見るためビクトリア朝に降下していたのだが、あることで飼い猫を現代に連れてきてしまったのだ。別の時代のものを現代に持ち帰ろうとしても、 通常は、時間旅行の出入口である「ネット」が開かないのだが、そのときはなぜかネットが開いてしまった。(このことは、やがて謎の解明の大きな鍵となる。)
ところが、寝不足で意識がもうろうとしていたネッドは、肝心な指示を聞き逃し自分のすべきことが判然としないまま降下。彼は、1888年で青年テレンスと彼の未来の妻である女性モードとの出会いを妨げ、トシーとの恋を進展させる手助けをしてしまうのだった。
会うべき男女の出会いを妨げ、出会うべきでない男女を接近させてしまう。小さな齟齬はやがて大きなズレを呼び、歴史を変え、世界を破壊してしまうかもしれ ない。ヴィクトリア朝の若き紳士に扮したネッドと、ヴァニティと名乗りビクトリア朝の淑女に扮したキンドルは、歴史の流れを元に戻すため、トシーが本来出会うはずの未来の夫を捜し出し、彼女の日記に記された出会いの日までに二人をめぐり会わせようと奮闘する。
脳天気な上流階級の人々を相手にする一方、ネッドは、1888年と2057年(彼らにとっての現代)を往き来し、さらに1940年ロンドン空襲時のコヴェ ントリー大聖堂と2018年のオックスフォード大学タイムトラベル研究室などにも降下。
Cで始まる名を持つトシーの夫は誰なのか、主教の鳥株はどこへ行ったのか、時間の齟齬はなぜ生じたのか。「連続体」は、何を守ろうとしたのか。時間旅行のどたばたの中で絡まり合った謎は、やがて、するすると実に気持ちよくほどけていく。
おしゃれで優雅で知的なヴィクトリア朝タイムトラベル・ミステリ・コメディ。ヴィクトリア朝時代のロンドンの風景やファッションの描写、時間ネタや謎解きのための伏線など、作者の心遣いは細部まで行き届いている。
恋にのぼせ上がる育ちのよい若者テレンス、フリルに身を包んだわがままなお嬢さんトシー、魚釣りに興じるペディック教授、降霊術にはまるミリング夫人、無口で忍耐強く正しい審美眼を持つ執事のべインなど、登場人物はみなユニークで印象深い。
彼らが会話において、いちいち著名な文学を引用するのもそれっぽくてよいのだが、ネッドがテレンスを説得するためにいかにもありそうな大仰な引用をでっちあげるのは愉快だ。
ダンワージー教授の秘書フィンチが、ヴィクトリ ア朝で執事になりすまし、自分の天職ではないかと思うあたりもおかしい。
件の花瓶がやたらごてごてと彫刻を施した美的センスのかけらもない代物であった り、がらくた市での宝探しで当たりの番号についてのごたくがあったりなど、ユーモアもいちいち知的で気が利いている。
ブルドッグのシリル、プリンセス・アージュマンドという名のきまぐれな猫、お嬢様の日記、ガラクタ市、ペン拭き、砂糖漬けのすみれの缶、珍しい金魚といっ た数々のアイテムも含めて、絵はないのに、ベテラン少女漫画家による極めて質の高い作品を読んだような気にさせられた。(2009.6)

関連作品:「ボートの三人男」(ジェローム・K・ジェローム著 1889年)

タイムライン Time Line 
マイケル・クライトン作(1999)
酒井昭伸訳 早川書房
量子テクノロジーを駆使した、中世フランスへの時間旅行を描く。
量子論の”多世界”解釈を取り上げ、実際にこの世界は無数の宇宙に分かれていたという設定のもと、時間を遡るというよりは無限にある宇宙のうちの中には 13世紀の世界も存在し、そこに移動する、という理くつによる”時間旅行”。
実際に自分の祖先を殺す人間などいるわけがないのだから、タイムパラドックスなどない、と言い切っているところがすごい。
行方不明となった歴史学者のジョンストン教授を追って、三人の若者が百年戦争時代のフランスに赴く。中世に憧れ中世のことを研究しつくしている助教授にしてかなりの肉体派マレク、建築 学から歴史学に転向したロック・クライマーのケイト、科学技術史専攻で性格的にも肉体的にも軟弱なクリスは、37時間のうちに教授を見つけ現在に連れ帰ら なければならない。城をめぐる争いのまっただ中に飛びこんだ三人は、次から次へと襲いかかる危機に立ち向かっていく。
前半は、中世フランスの城跡を発掘する学生のグループと、時間旅行を研究する企業の内幕との話が交差して展開していく。後半も、社内で移動装置のトラブル 解決に挑む現在時間の人々の様子と、中世での冒険が交互に描かれるが、重点は三人の学生の活躍にあり、ただひたすらのノンストップ中世アクションが繰り広 げられる。(2003.2)

映画化:「タイムライン
おまけ:量子論について興味を持ったら→「『量子論』をたのしむ本

時をこえる風 Whispering Wind
フレデリック・フォーサイス著 「囮たちの掟 フォーサイス・セレクションU」The Veteran(2001年)所収
篠原慎訳 角川書店
登場人物:ベン・クレイグ(白人スカウト)、ささやく風(シャイアン族の娘)、ブラドック軍曹、アクトン大尉、カスター将軍、リノ少佐、ルイス軍曹、シッティング・ブル(スウ族の族長)、クレージー・ホース(オグララ・スウ族の酋長)、イングルズ教授、リンダ・ピケット(女教師)、ビッグ・ビル(大牧場主)、ポール・ルイス保安官
1876年、アメリカ西部。モンタナ州リトルビッグホーンで起こった第七騎兵隊対インディアン連合軍の戦いを背景に、若い白人スカウト、ベン・クレイグとシャイアン族の娘「ささやく風」の恋が描かれる。(スカウト:西部開拓の最前線で、開拓民や軍隊のために周辺の状況やインディアンの動向を探ることを仕事とする。主に地元出身の白人やインディアンであることが多い。)
モンタナの山で育った24歳のベン・クレイグは、脱走したインディアンを追う第七騎兵隊にスカウトとして同行していたが、途中、隊員のきまぐれで急襲したインディアン・キャンプの生き残りであるシャイアン族の娘「ささやく風」を捕虜として連れ帰る。ベンは、処刑されることになった彼女を逃し、隊で囚人として扱われることになる。やがてカスター将軍率いる第七騎兵隊とインディアン連合軍の戦いが始まる。
前半は、騎兵隊とインディアンとの壮絶な戦いの様子が描かれる。当時インディアンがどのような状況にあったか、カスター将軍がどのような人であったか、部隊が途中でどのように分かれ、どのような作戦がとられたかなど、西部史上にのこる出来事についての細部が詳しく説明される。
後半は、一転、時空をこえた恋人同士の話となる。
歴史ものに、ファンタジーとラブ・ロマンスの要素が混在するという、一見ごった煮のような様相を呈すが、骨太で克明な描写は、決して甘さに走らない。ベンの一途な思いは切なく、紛う方無きラブ・ストーリーとして、硬質の感動を呼ぶ。(2007.4)

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