みちのわくわくページ

○ 本 ミステリ(海外) か行

<作家姓あいうえお順>
ビロードの悪魔(ジョン・ディクスン・カー)、 ノンストップ!(サイモン・カーニック)、
魔術師が多すぎる、 魔術師を探せ!(ランドル・ギャレット)、
エアフレーム−機体− タイムライン(マイケル・クライトン)、
血の咆哮(ウィリアム・K・クルーガー)
湖は飢えて煙る(ブライアン・グルーリー)、 容疑者(ロバート・クレイス)
九マイルは遠すぎる(ハリイ・ケメルマン)

ノンストップ! Relentless
サイモン・カーニック著(2006年)
佐藤耕士訳  文春文庫(2010年)
<ねたばれ多少あり>
トム・メロンは、30代のソフトウェア企業のセールスマンで、2人の幼い子どもたちと大学講師の妻と平和に暮らしていた。ある日、旧友の弁護士ジャックからかかってきた1本の電話を発端に、とてつもないトラブルに巻き込まれていく。ジャックは電話の向こうで助けを求めながら何者かに殺害され、妻のキャシーは失踪し、トムは殺人事件の犯人の容疑をかけられ、さらに謎の男達に襲われる。
次々に襲ってくる危機から必死で逃げまくるトムの様子と、ベテラン刑事ボルトが自殺した首席判事の真の死因を捜査する様子が交互に語られ、やがてそこに残虐な殺し屋レンチの視点が混じって、はらはらどきどきのサスペンスが盛り上がっていく。
ジャックが押さえた何か重要な証拠品をめぐってのトラブルだとわかってくるが、犯罪者たちばかりでなく、被害者側の方も嘘をついたり隠し事をしたりしているので、あんまり感情移入できなくて猜疑心を抱いてしまう。敵は敵で一枚岩ではなく、レンチの仲間であるはずのダニエルズがトムを助けたりする。トムの妻のキャシーはうち明けてもうち明けても常に何か秘密を抱えている感じだし、トムも途中からあまりいい奴じゃないのかもと思えてくる。昔なつかしい巻き込まれものを楽しむ気でいると、ちょっと違う。終わりを迎えても釈然としないものが残る。
ボルトとその相棒モーのコンビに好感を持てるので、そのへんが救いとなる。(2011.4)


魔術師が多すぎる Too Many Magicians
ランドル・ギャレット著(1966年)
皆藤幸蔵訳 ハヤカワ文庫
登場人物:ダーシー卿(ノルマンディ公主任捜査官)、ロンドン侯爵(ダーシー卿の従姉妹)、ボントリオンフィ卿(ロンドン侯主任捜査官)、スモレット(海軍諜報部の大佐)、アシュレー卿(海軍諜報部の中佐)、バルブール(海軍諜報部が雇った二重スパイ)、ショーン・ロクレーン(ダノルマンディ公主任法廷魔 術師)、イーウェン・マカリスター(魔術師)、ジェームズ・ツウィング(ロンドン市の主任法廷魔術師)、サー・ライオン・グレー(グランド・マスター・魔術師、魔術師ギルド会長)、ジョン・ケツァル(ジャーネーマン[新人]魔術師、メシコー公の四男)、ティア・アインチッヒ(魔術師の研修生、アンジュバン 帝国出身)、メアリー(カンバーランド公爵夫人)、サー・トーマス・ルソー(魔術学博士)、ポール・ニコルス(ホテルの支配人)、アル・ナシール(ムーア人のクラブ経営者)
科学の代わりに魔術が発達した世界を舞台に、英仏帝国ノルマンディ公主任捜査官ダーシー卿の活躍を描くシリーズ唯一の長編作品。
ヨーロッパでは、英仏帝国とポーランド王国がニ大勢力となっていた。シェルブールで英仏帝国の二重スパイ、バルブールが殺された直後、ロンドンのホテルで主任法廷魔術師のマスター・ジェームズが自室で刺殺される事件が起きた。同ホテルでは魔術師の大会が開催されており、たくさんの魔術師が集まっていた。殺人現場の部屋のドアは内側から鍵がかけられた上、被害者によって本人にしか開けることのできない呪文がかけられていた。黒魔術による殺害が疑われるが、捜査の結果、黒魔術が行使された痕跡は発見できなかった。
話の中心は、魔術大会の最中に発生した密室殺人事件の捜査である。が、魔術を使った“仕掛け”に関する軍事的な情報を巡ってのスパイ同士の駆け引きや、敵国であるポーランド圏から逃亡してきた魔術師研修生の少女ティアの物語などが絡んでくる。
魔術師としての「タレント」は持たないが、捜査官としての腕は一流で国王の信頼も厚いダーシー卿と、彼の片腕として魔術の腕を存分に発揮してみせる法廷魔術師ショーンのコンビが捜査を進めていく。
魔術師同士の対決など、アクションシーンも楽しめる。
現代でありながら、19世紀さな がらに馬車が行き交う異世界の街の様子も興味深い。
特殊な設定にあって、謎解き自体は合理的でルール違反がなく、推理の過程を楽しめるが、国家の諜報合戦が絡むため、単に上流階級の推理ゲームにとどまらず、状況は込み入っている。(2007.5)


魔術師を探せ! The Eyes Have It And Other Stories
ランドル・ギャレット著(1964年)
風見潤訳 ハヤカワ文庫
科学ではなく、魔術が発達した世界を舞台に、英仏帝国ノルマンディー公直属の捜査官ダーシー卿が活躍するシ リーズの中編3作を収録。(2007.7)
☆その眼は見た The Eyes Have It
プレイボーイとして浮き名を流していたデヴルー伯爵が、城の寝室で射殺死体で発見される。
犯行当夜、城内には、秘書官サー・ピエル以下伯爵に仕える者のほか、伯爵の相続人である妹のアリス、客として招待されていたダンカン夫妻がいた。 が、城には秘密の抜け道があり、伯爵はそれを使って多数の女性と情交を重ねていた。
ダーシー卿は、部下の魔術師マスター・ショーンによる<接触感応の法則>を用いた魔術によって弾丸が発せられた拳銃と、犯人が着ていたと思われる女性用のローブを特定するが、さらにショーンに「映像テスト」を命じる(被害者が最後に見た映像を魔術によって再現するというものだが、これは法廷では証拠としてはとりあげられないことになっている)。その結果、伯爵は、その最後の瞬間に絶世の美女と会っていたことが判明する。が、周囲の者は誰一人として彼女が何者か知らなかった。好色で知られる伯爵が思いを抱いていた相手とは?
作品のトーンは彼の嗜好に否定的だが、今読むとちょっとほろりとする幕引き。

☆シェルブールの呪い A Case of Identity
シェルブールの港から新世界(アフリカ大陸)に向かう船が相次いで沈没し、「シェルブールの呪い」として水夫たちは航海を恐れるようになっていた。そんな中、シェルブール公が行方不明となり、やがて死体で発見される。捜査を命じられたダーシー卿は、その死に疑問を抱く。
消えた城主の行方を追うダーシー卿の推理に加え、敵国ポーランドとのスパイ合戦が絡み、卿は他人の部屋に侵入したり、倉庫で敵と対戦したりと、武闘派の面も披露する。
本作に登場する魔術はなかなかユニークだ。まずは、マスター・ショーンが、死体の身元を確かめるために行った<ジャコビィ移転法>と呼ばれる血液検査。魔術によって、死体とシェルブール公の兄である司教の血液を比べるもので、血液間の相似指数の大きさで兄弟であるか否かが判明できるというもの。DNA鑑定を思わせて興味深い。
<似姿法(シムラクラム)>による精神誘導は、わら人形の呪いのようなもので、本人とそっくりの蝋人形などを用いて、人の精神を遠隔操作する黒魔術である。本人と似ていれば似ているほど、支配力が強くなる。
そして、<ギース理論>による意志の抑制。ブロンドの司書官シーガー卿の正体が明らかにされる場面は切ない。

☆藍色の死体 The Muddle of The Woad
ケント公爵が亡くなった直後、城の作業室に置かれた公の柩から真っ青に塗られた死体が発見された。死体は、ケント公爵未亡人の主任捜査官カンバートン卿の ものであった。死体が藍で染められていたことや、被害者が秘密結社アルビオン教会の会員であったという噂があったことから、同協会の犯行への関与が疑われ る。
国王の勅命を受けたダーシー卿は、ケント公の死が早まったことや未亡人の知られざる過去や、マスター・ショーンが魔術によって復元した証拠品(何者かによって焼却されたと思われる布の切れ端から、燃やされる前の布の姿を復元する)などから、犯人の正体や、なぜ死体が青く塗られ柩に入れられていたかのかという謎を解明していく。
知られざる過去を持つケント公爵未亡人マーガレット、情報提供をするダーシー卿のファンである令嬢レディ・アン、スパイとしてアルビオン教会に潜入している理論魔術師のサー・トーマスなど、関わる人物が多彩で、細かい伏線が効いた謎解きも楽しい。


血の咆哮 Thnder Bay
ウィリアム・K・クルーガー著(2007年 アメリカ)
野口百合子訳 講談社文庫(2014年)

★あらすじの説明あります★
ミネソタ州を主な舞台とした、コーク・オコナー元保安官が主人公のシリーズ。コークは、アイルランドとオジブワ族とのハーフである。最新作らしいのだが、このシリーズを読むのは初めて。
コークは、知り合いである超高齢のオジブワ族のまじない師メルーから息子探しを依頼される。メルーが一度も会ったことのない息子で、手掛かりになるのは、73年前に生まれたということと、母親の名前がマリア・リーマということと、彼女の写真が入った懐中時計のみ。到底見つからないだろうと思っていたコークだが、しかし、息子は有名な富豪実業家だったため、インターネットで検索したらあっさり見つかったのだった。
その息子ヘンリー・ウェリントンは、引退し、孤島で隠居生活を送っていた。コークは、島に彼を訪ねるが、ウェリントンはコークの話を信じようとしない。その後、メルーは家にいるところを襲撃され、反撃する。メルーが撃ち殺した犯人は、ウェリントンのボディガードだった。
メルーはコークに73年前のできごとを語る。カナダで、金鉱を探す白人2人組のガイドをしたとき、白人の一人であるリーマについてきた娘のマリアとメルーは恋に落ちた。いろいろなことが起きて二人は離ればなれになり二度と会うことはなかったが、メルーは彼女に子どもができたことを幻視で「知って」いて、その子がいま危ない状況にあることも「知った」のだという。
メルーの壮大な昔語りが本作のまんなか1/3を占める。野で育ったメルーと文明人だが自由な心を持つ少女マリアとの、大自然の中での出会いと恋愛が初々しい。
コークは、大学入学間際に妊娠を知って悩む長女の行く末を案じていて、二組の親子の話がシンクロするのだった。
メルーは、70余年の歳月を経て、最愛の女との間に生まれた息子と、初めて会う。富豪の息子も、幼少のころ、母から、オジブワ族の若くたくましいハンターの話を聞かされていたのだった。感慨深い。(2015.12)


湖は飢えて煙る
ブライアン・グルーリー著(2009年) 青木千鶴訳
ハヤカワ・ミステリ
アメリカ、ミシガン州北部の田舎町を舞台に、10年前に事故死したとされる町の伝説的なアイスホッケー・コーチの死の真相が明かされていく。
ある冬の夜、ウォールアイ湖のほとりに古いスノーモビルが打ち上げられる。それは、かつて町の少年ホッケーチームを率いた名コーチ、ジャック・ブラックバーンのものであることが判明する。が、彼は10年前に町にある別の湖スタヴェイション湖でスノーモビルごと氷の裂け目に落ちて死んだものとされていたのだった。
地元の新聞社「パイロット」の編集長ガス・カーペンターは、部下の記者ジョーリーとともに、ブラックバーンの死の謎に挑む。ガスは、かつてブラックバーンのチームでゴールキーパーをしていたが、チームが州大会の決勝まで勝ち進みながら、試合終了直前に敵にゴールを許したことで優勝を逃したという、苦い過去を持っていた。ガスは、町を出てデトロイトの新聞社で敏腕記者として活躍するが、欠陥商品を出した自動車メーカーとトラブルを引き起こし、新聞社を追われ、故郷の町に戻ってきていたのだった。二重のトラウマを抱えて生きるガスが、不屈のジャーナリスト精神で、それまで知らなかったブラックバーン及び町の人々の影の部分を追及していく。
ホッケー選手として優れた能力を持つガスの親友スーピー、ボスであるガスに反発しつつも次第に彼を認めていく跳ねっ返りの記者ジョーリー、10年前の事故の捜査に疑問を抱き今度こそ真相を突き止めたいと望む保安官のディンガス、豪快な性格のディンガスの元妻バーバラ、ガスのかつての恋人で捜査の大詰めにおいてガスの力となる保安官助手のダーリーンなど、ガスを取り巻く人物たちはなかなか魅力的である。
ガスは、ホッケーによって心の傷を負いながら、なおも町のホッケーチームでキーパーをしている。そのため、ホッケーの試合の様子がところどころで差し挟まれるのだが、スピーディな試合の描写が物語のほどよいインターミッションの役割を果たしていて、いい感じだった。(2011.8)


容疑者 SUSPECT
ロバート・クレイス著(2013)
高橋恭美子訳 創元推理文庫(2014)
ロサンジェルス市警の警官スコット・ジェイムズは、相棒のステファニー・アンダースとパトロール中に、激しい銃撃事件に遭遇する。犯人一味は、ベントレーに乗った二人の男を襲撃し、居合わせたスコットらにも銃口を向ける。ステファニーは殺され、スコットは重傷を負う。
一方、軍用犬のマギーは、アフガニスタン・イスラム共和国で、海兵隊の爆発物探知チームの一員として、指導手(ハンドラー)のピート・ギブス伍長と任務にあたっていたときに爆撃に遭う。ピートは爆死し、マギーは狙撃手に後ろ足を撃たれる。
相棒を喪った警官と軍用犬が出会い、警察犬隊チームとなっていく様を描く。
スコットは、銃撃事件の捜査チームから情報を得ながら、独自に自分とステファニーを撃った犯人一味を追う。最初は、人と話さないですむからということで警察犬隊に入ったスコットだったが、やがて、一人と一匹は心を通い合わせ、互いに大切な存在になっていく。
なんといっても心身共に傷ついた30代の若い警官と、ジャーマン・シェパードの牝犬との絆がだんだん深まっていく様子が泣かせどころの読みどころなのだが、犯人に辿り着くまでの経緯もミステリーとして読み応えがある。腕時計のバンドの切れ端から事件の目撃者を見つけたり、紛失した防犯ビデオの映像が決め手になったり、陰謀によってスコットが殺人犯の容疑者として追われたり。しかめ面で口は悪いが、実は人情家の警察犬隊主任指導官リーランドやベテラン・ハンドラーのバドレス、スコットに協力的な強盗殺人課刑事のジョイスなども感じがよかった。窃盗犯のマーシャル・イシも、弟思いでなかなか憎めない奴である。(2015.3)

九マイルは遠すぎる The Nine Mile Wa
ハリイ・ケメルマン著(1967年)
永井淳・深町眞理子訳 ハヤカワ文庫
ニッキィ・ウェルト教授が、友人の郡検事から情報を得て、事件の真相を暴く 推理小説短編集。
もと学者である検事の「わたし」が語り手となって、「ワトソン君」を彷彿とさせる、昔なつかしい名探偵ものを思わせる。(2007.3)

☆九マイルは遠すぎる
「九マイルもの道を歩くのは容易じゃない、ましてや雨の中となるとなおさらだ。」
「わたし」が、レストランを出るとき、他の客とすれ違いざまにふと耳にした言葉。この言葉が発せられるまでの状況を推理していくというゲームを楽しんでいたニッキーと「わたし」は、それと知らずに殺人事件の謎を究明していたのだった。「九マイル」をヒントに、理屈を重ねていく推理の過程が興味深い。

☆わらの男
ニッキーが、指紋だらけの脅迫状から、誘拐事件の犯人を推理する。
☆10時の学者
博士論文審査試験を受ける学生が試験直前に殺害された。容疑者が一転二転する中、ニッキーは、理論的に凶器と犯人の動機を割り出していく。
☆エンド・プレイ
自宅で友人とチェスをしていた教授が、射殺された。落第を言い渡された学生が容疑者として浮上するが、ニッキーは、チェス盤に置かれた駒の様子から真犯人を推理する。
☆時計を二つ持つ男
海辺の小さな町の資産家が自宅で転落死した。超常現象による死だという説がささやかれる中、ニッキーは、死者が日頃から時計を二つ持っていたことに注目する。
☆おしゃべり湯沸かし
コーヒー好きで普段はパーコレー ターを使う男が、ある日お湯を沸かしていた。いつもと違う人の行動を追うことで、ニッキーは、ある盗難事件を防ぐことに。
☆ありふれた事件
大雪が降った日、道路脇に積もった雪の中から男の死体が発見された。一見ありふれた殺人事件に見えたが、ニッキーは、犯人はなぜ雪が溶ければすぐ発見されてしまうところに死体を置いたのか、という疑問をつきつめて真犯人を割り出していく。
☆梯子の上の男
梯子をかけて屋根にアンテナを取り付けていた男が転倒して死亡した。遠くからその様子を見ていたニッキーたちが事故の目撃者となったが、彼はその事故に疑問を抱く。事件の影には、チェスの名手たちの駆け引きがあった。

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