みちのわくわくページ

○ 本 古典・文学 西洋 

<著者姓あいうえお順>
人間の土地(サン=テグジュペリ)
罪と罰(ヒョードル・ミハイロヴィッチ・ドストエフスキー)
火を熾す(ジャック・ロンドン)

罪と罰 Преступление и наказание
ヒョードル・ミハイロヴィッチ・ドストエフスキー著(1866年)
工藤精一郎訳 新潮文庫(1987年)
登場人物:
ロジオン・ロマーノヴィチ・ラスコーリニコフ:元学生
アヴドーチャ(ドーニャ)・ロマーノヴナ・ラスコーリニコワ:ラスコーリニコフの妹
プリヘーリャ・アレクサンドロヴナ・ラスコーリニコワ:ラスコーリニコフの母
ソーフィヤ(ソーニャ)・セミョーノブナ・マルメラードワ:娼婦
セミョーン・ザハールイチ・マルメラードフ:元官吏の飲んだくれ。ソーニャの父
カテリーナ・イワーノヴナ・マルメラードワ:ソーニャの継母
ドミートリィ・プロコーフィチ・ラズミーヒン:ラスコーニコフの学友
ピョートル・ペトローヴィチ・ルージン:弁護士。ドーニャの婚約者
アルカージィ・イワーノヴィチ・スヴィドリガイロフ:ドーニャの元家庭教師先の家の主人
マルファ・ペトローヴィチ:スヴィドリガイロフの妻、資産家
ゾシーモフ:医者。ラズミーヒンの友人
アンドレイ・セミョーノヴィチ・レベジャートニコフ:思想家。ルージンのペテルブルグの同居人
プラスコーヴィヤ・パーヴロヴナ:ラスコーリニコフの大家
ナスターシャ:ラスコーリニコフのアパートの料理女
アリョーナ・イワーノヴナ:金貸しの老婆
リザヴェータ・イワーノヴナ:アリョーナの義妹
ポルフィーリィ・ペトローヴィチ:予審判事
アレクサンドル・グリゴリーウィチ・ザミョートフ:警察署事務官
ニコージム・フォミッチ:警察署署長
イリヤ・ペトローヴィチ:警察署副署長

貧しさの中にあって大学を辞め職も失った極限状態の青年が、金貸しの老婆の殺人を計画・実行する。
物語は、この犯罪を主軸に進むが、他にいくつもの要素が絡む。
妹ドーニャの結婚話と、彼女を慕うかつての雇い主スヴィドリガイロフの来訪。元官吏マルメラードフ一家に起こる悲惨な出来事の数々。ラスコーリニコフは、 熱病を煩い、犯した罪に苦悩し警察の追及に怯えながら、妹の結婚を阻止し、マルメラードフ一家の不幸につきあう。
20歳そこそこで読んだときは、老婆の殺人事件のことばかりが気になって、途中でさしはさまれるもろもろの記述があまりに煩雑に思えておもしろくなかっ た。が、最近、なにかの本で、これぞミステリの原点みたいな紹介のされ方をしていたのを目にした。登場人物のほとんどが年下になった今、半信半疑で手に とってみたのだが、その面白さにびっくりした。読み返してよかった。
しかし、あまりクライムノベルを期待してはいけない。形式的に倒叙法ミステリということになり、ポルフィーリィ判事の追及の仕方が評価されているらしい。 たしかに3度にわたる二人の対決は空前絶後のおもしろさだが、それにしても、ラスコーリニコフは、謎解きものの犯人にしてはわかりやすすぎる。また、これ は若いときに読むべき小説だという意見を少なからず聞く。人類を凡人と非凡人に分け、後者が理想のために前者を殺しても構わないというラスコーリニコフの 思想は、作中でもすでに語られているようにこの時代においてすらことさら目新しいものではなく、傲慢で青臭い若者が考えがちな理想主義者の極論ということ になっている。ということで、年をとってから読むにはちょっとつらいということのようだが、なにも、ラスコーリニコフに同調する必要はないのだから、的を 獲ているとは言い難い。
主流の犯罪の行方を気にしつつ、いちいち差し挟まれるエピソードのひとつひとつ、登場する人物のひとりひとり、そして交わされる会話のひとつひとつを味わ う気持ちで読むと、おもしろさはつきない。そしてこうした登場人物の面白さは、年をとってからの方が理解しやすい。こんな奴がいる、こんな娘がいる、こん なおっさんまでいる、と思って、あっちやこっちへの寄り道覚悟で読むと楽しい。
ラスコーリニコフは癇の強い嫌なやつで、しかもずっと極限状態にあるためさらに変なやつになっているし、ソーニャの家族におこる出来事はあまりに悲惨で読 むのが辛くなる部分があるのも確かだが、それを越えてあまりある面白さがある。ラスコーリニコフとポルフィーリィとの対決はもちろん、そのまえに事務官ザ ミョートフに絡むほとんど自暴自棄なラスコーリニコフや、彼が卑劣な婚約者ルージンをやりこめる痛快さ、無骨な友人ラズミーヒンのラスコーリニコフ母娘へ の献身ぶり、懺悔の後互いに惹かれながらも相手におびえあうラスコーリニコフとソーニャ、マルメラードフ家の葬式での戯曲のような激しい一幕、好色な老紳士スヴィドリガイロフとドーニャの対決など、読み応えのある場面が次から次へと展開していく。(2007.1)

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