みちのわくわくページ

○ 映画(2020年)

<見た順(降順)>
ミークス・カットオフ、 ノマドランド、 すばらしき世界、 この茫漠たる砂漠で、 無頼、 テネット、 デッド・ドント・ダイ、

ノマドランド NOMADLAND
2020年 アメリカ 108分
監督:クロエ・ジャオ
原作:ジェシカ・ブルーダー「ノマド:漂流する高齢労働者たち」
出演:ファーン(フランシス・マクドーマンド)、デイブ(デイヴィッド・ストラーザン)、リンダ・メイ、ボブ・ウェルズ、シャーリーン・スワンキー、アンジェラ、カール、ダグ、
緊急事態宣言で都内の映画館が軒並み休館になってしまい、埼玉県内の映画館でやっと見る。
ノマドとは、アメリカ国内を車で移動しながら季節労働の現場を渡り歩く生活をしている人たちのことを言うそうだ。
ファーンは、ネバダ州のエンパイアという企業城下町で夫と暮らしていた。夫に先立たれたあとも町にとどまっていたが、経済不況で企業が撤退、工場は閉鎖され、町そのものもなくなってしまった。ファーンは、キャンピングカーを住居用に改造し、ノマドの生活を始める。
登場するノマドたちは、ファーンとデイブ以外は、すべて実在の人たちで、最後のクレジットには、役名と出演者名が同じ人たちが名を連ねる。
歳を取って定職につけなくなったのか、ノマドには高齢者が多い。わたしとあまり変わらない年代の人が多く、身につまされる部分も多い。彼らにはそれぞれの事情があり、不安定な状況の中で一生懸命生活を続けている。
ファーンが移動するのはアメリカ中西部で、広大な大自然の風景が見られるのがよかった。清掃の仕事などをして国立公園のようなところをいくつも回るので、奇岩が連なる岩山や、巨大な恐竜のオブジェのある公園など、珍しい眺めが出てきて見ごたえがある。アメリカの自然公園についてよく知っているとより楽しめたかもしれない。
ただ、常に天気が良くない。いつも空はどんよりとしている。往年の西部劇で見るような、からっと晴れ渡った真っ青な空に赤茶けた岩山というような明るさはない。逆にファーンが季節ごとに勤めるアマゾンの倉庫は、建物も看板もくっきりと色鮮やかできれいである。その対象がなんとも苦い。
大体の内容を聞いていて想像した通りの映画だった。意外だったのは、ファーンがけっこうスカートをはいていたことくらいだ。スカートといってもシンプルな部屋着のようなものだが、「ファーゴ」でも「スリー・ビルボード」でもマクド―マンドにスカートの印象はなかった。こういうアウトドアな生活をしていると、逆に休日は気分を変えてスカートをはきたくなるのかもしれないなどと思った。
ファーンは、久しぶりに訪ねた妹にいっしょに住もうと言われてもあまりそりが合わないので断り、ちょっといい感じになったノマド仲間のデイブが息子の家に行って孫に会ってすっかりそこになじんでしまい、一緒に住もうと言われても、やはりそこからもひっそりと逃れ去ってしまう。不安定でも自由な生活を望む。ホームレスじゃなくてハウスレスだとファーンは言うが、そのホームは独り暮らしのせまくうす暗いキャンピングカーだ。肉体労働をいつまで続けられるのか、これからのことを考えても切なくなる。そういう映画だった。(2021.5)

すばらしき世界
2020年 日本 126分
監督・脚本:西川美和
原案:佐木隆三「身分帳」
出演:三上正夫(役所広司)、津乃田龍太郎(仲野太賀)、庄司敦子(梶芽衣子)、庄司勉(橋爪功)、松本良介(六角精児)、井口久俊(北村有起哉)、下稲葉明雅(白竜)、下稲葉マス子(キムラ緑子)、吉澤遥(長澤まさみ)、西尾久美子(安田成美)、リリー(桜木梨奈)
★あらすじとネタバレあります!★

殺人を犯し、服役していた三上は、13年の刑期を終えて出所する。
佐世保のヤクザだった彼は、裏社会と縁を切り、東京で堅気として暮らす決意をしている。
身元引受人である弁護士の庄司とその妻敦子が三上を応援する。
三上は彼を施設に預けて行方不明になっている母を見つけ出そうと、テレビ局に母の捜索を依頼し、その際に「身分帳」の写しを送る。(「身分帳」とは刑務所での収容者の経歴や入所時の態度などを記録した書類で、少年のころから入所を繰り返してきた三上は自分の身分帳の写しを作っていたのだ。)テレビ局のやり手プロデューサー吉澤は、ADを辞めて小説家として身を立てようとしている若者津乃田に三上の取材を命じる。
三上は、アパートの部屋を借りて一人ぐらしを始めるが、身体を患っていることや元ヤクザの経歴などから仕事はなかなか見つからない。
役所で生活保護の申請をするが、担当の井口の最初の反応は渋い。
近所のスーパーでは店長の松本に万引きと間違えられるが、疑いが晴れると松本の態度は軟化する。
三上は、佐世保に飛んでかつての兄弟分下稲葉を訪ねる。下稲葉は三上を歓待するが、暴対法の元での彼らの苦しい事情を目の当たりにした三上は東京に戻る。
三上は、幼少時代を過ごした児童養護施設を訪れるが、彼の母の消息は完全に途絶えているのだった。
三上は、介護施設で仕事を得て、働き始める。

庄司夫妻や津乃田や松本や井口らの三上との接し方はどこか馴染みがあると思った。状況も時代も国もジャンルもちがうが、西部劇の名作「シェーン」(1953年)と共通する感じがあるのではと気づいた。西部劇愛好者の仲間の中には「シェーン」の熱烈なファンが少なからずいるので、こんなことを書いたら、えーっと言われるかもしれないが、もし、今の日本で、アクション優先とか勧善懲悪主義とかなしに心持として「シェーン」的なものを撮ったらこんな感じになるかもなあと思ったのだ。
斬った張ったの世界(西部劇では銃の世界)の男が、堅気の人たちの中に入って生活をともにし、その中で堅気の人たちがそれぞれの立場からそれぞれの好感と距離感を持って、彼と接していく。その適度に緊張感をもった関係が、映画の魅力になっている点が同じだと思った。シェーン(アラン・ラッド)は、得意の早撃ちで悪党どもをやっつけ、ヒーローとなって去っていく。一方、三上の刺青と武力は、当世の東京では災いしか呼ばない。彼の正義感も空回りする。しかし、それでも彼は、周囲の人々にとってヒーローたりえていたと思う。彼らは、三上が持つ、自分にはないものに魅かれていたと思う。
「シェーン」では、彼に淡い想いを抱く人妻マリアン(ジーン・アーサー)や彼に憧れる少年ジョーイ(ブランドン・デ・ワイルド)や、彼を男として評価し友情を抱きつつも妻の件で複雑な思いを抱く開拓民スターレット(ヴァン・ヘフリン)ほかがいたが、三上を取り巻く人々は主に老人とおじさんと青年で、若い女性や子どもはいない。(若い女性は吉澤がいるが、彼女は番組のネタとしてしか三上をみていないので、恋愛対象からは外れる。)しかし、三上に恋愛感情を持つ女性や彼に憧れる少年が絡んだら、おそらくかなりあざとくなりそうなので、これらを出さなかったのはかしこい判断かもしれない。しかし、それでも、井口以外のみんなが三上を通じて知り合ってしまって、彼を応援する会みたいになっていくのは、ちょっといかがなものかと思った。ここは、それぞれに三上と接していた人々が、彼の死によって、初めて顔を合わせて、三上さんを思う人は自分以外にもこんなにいたんだと、ちょっとくやしいようなうれしいような気持になったほうがよかったんじゃないかな、と勝手に思った。タイトルも令和向きなんだろうが、なんだかなと思った。わたしとしては、「三上」でいいかな。(2021.4)

無頼
2020年 日本 公開チッチオフィルム 146分
監督:井筒和幸
主題歌:「春夏秋冬〜無頼バージョン」泉谷しげる
出演:井藤正治(松本利夫)、佳奈(柳ゆり菜)、井藤孝(中村達也)、橘(ラサール石井)、川野(小木茂光)、谷山(升毅)、中野(木下ほうか)
川越スカラ座で見る。
川越スカラ座は、小江戸川越(埼玉県川越市)のレトロな街並みの中に立つ有名な「時の鐘」の塔のある通りから小さい路地に入り、さらに小さい路地を曲がったところにある小さな映画館で、かねてより行ってみたかったところだ。なぜ二番館のここで今公開中の「無頼」をやっているのかというと、おそらくここでロケをしたからだ。映画の中に出てくる昭和の映画館前でのシーン、「スカラ座」の文字にタイル張りの壁もせまい通りも入館前に見た景色そのままなのだった。
というわけで、期せずしてこの映画を見るには最適の映画館で見ることができたのだった。
昭和31年から始まる映画は、冒頭モノクロで昭和の風景を映し出す。ああまたノスタルジーかとうんざりしかけたのだが、出てくる貧乏な少年井藤正治は早口でギラギラしていてそれっぽく、以後彼がヤクザになって親分になって還暦を迎えて引退するまで、たんたんとその人生の断片が描かれる。昭和史というが、昭和への郷愁はほぼ感じられず、ただ、こういうことがあった、ああいうこともあったと、社会的事情を背景に極道を突き進む彼とその周辺の男たちの生き様を語っていく。語り口は平成を迎えても変わることはなく、おれはまだまだ現役だぜという監督の気構えが伝わってくるような思いがした。
早口の関西弁は何言ってるかよくわからないこともしばしば、次々に登場する男たちの顔は把握できず、どっちがどっち側で抗争の展開もよくわからなくなってきて、いいからとりあえず今目にしているシーンを楽しもうと腹を括ったあたりで、「ガキ帝国」を見たときの感じを思い出した。断片の連続なので、見る端から忘れて行って、スカラ座が出てきたことも、2日くらい経ってからそういえばあの映画館、川越スカラ座っぽかったと思ったことを思い出して検索して確認したのだった。
主演の松本利夫さんはエグザイルだそうだが(エグザイルには詳しくないが、ヤクザ役のイメージはない)、茫洋としつつ危ない感じがよかった。佳奈役の柳さんは、だんだん組の姐さんになっていく様子がよかった。
ドライで暴力的だが、他の同ジャンルものと比べると監督の目は基本やさしいんじゃないかと思う。ただし、ぬるさも甘さもおしつけがましい涙もなく、そこが好きなところだ。(2021.1)


TENET テネット    TENET
2020年 アメリカ 150分
監督:クリストファー・ノーラン
出演:名もなき男(CIAエージェント。ジョン・デヴィッド・ワシントン)、ニール(謎の相棒。ロバート・パティンソン)、クロスビー(M16の連絡員。マイケル・ケイン)、バーバラ(研究者。クレマンス・ポエジー)、マヒア(工作員。ヒメーシュ・パテル)、アイヴス(実働部隊隊長。アーロン・テイラー=ジョンソン)、
サンジェイ・シン(ムンバイの武器商人。デンジル・スミス)、プリヤ(シンの妻。ディンプル・カパディア)、
セイター(ロシアの武器商人。ケネス・ブラナー)、キャサリン(セイターの妻。エリザベス・デビッキ)、ヴォルコフ(セイターの部下。ユーリ・コロコリニコフ)
★ちょっとねたばれあり★
時間が逆行する映画で、一度見ただけではわからないと言われている話題作。
心して見始めたが、すぐわけがわからなくなった。
冒頭のオペラハウスのテロ事件での人質救出場面で、この場面が後から何度も繰り返されるかもしれないと一生懸命見たのだが、救出部隊はマスクをつけていて顔がわからないし、動きとセリフが速すぎてだれがなにをしようとしているのかよくわからなかった。結局このシーンはプロローグ的なものだった。「黄昏に生きる」「宵に友なし」というやりとりも大事な合言葉かと思って覚えたが、そんなでもなかった。
時間ネタが分かりづらいとかではなく、さらっとした説明のあとにいろいろ実行するのだが、歳のせいか、それが早くて追い付いていけない。飛行機を倉庫に衝突させるのも、カーチェイスも、最後の戦いも、アクションシーンは迫力があって見ごたえがあるのだが、この人たちなんのためにこれをやっているんだっけと途中で思ってしまう。
未来から送られてきた「逆行する弾丸」、未来で起こる第三次世界大戦を防ぐために9つのアイテムからなる「アルゴリズム」というものを奪還せよという指令、謎の相棒と力を合わせてミッションに挑むエージェントという、「ターミネーター」と「007」がごたまぜになったような話だが、「ターミネーター」や「007」シリーズみたいに状況がすんなり頭に入ってこない。つっこみどころはあるけどとりあえずこうするのねと思ってそのシーンを楽しむ、という気になりづらい。
通路で殴り合いをしたマスクの男が実は時間を逆行してきた自分だったという場面は、わかりやすい時間ネタ的なシチュエーションで面白かった。動きのひとつひとつをきっとていねいに逆行して撮ってるんだろうと思いつつ、そんなのDVDにでもならなきゃ確認できないし、本気で検証しようと思ったらDVDでも根気のいる作業になりそうだ。
プロローグのオペラハウスのシーンから逆行する弾丸が地味に映っていたのには気づいたが、ガラスで仕切られた部屋の回転ドアを抜けると時間が逆に流れているとか、時間を逆行するときは酸素マスクをつけるとかいう設定はよくわからなかった。時間の挟み撃ちというのはおもしろいと思ったが、それで普通の挟み撃ちとはちがう、どんな効果が得られるのか、よくわからなかった。
もう一度見ていろいろ確認したい気もするが、実際にすぐまた映画館へ行きたくなるほどではなかった。
主役(なぜ名前がないのかもわからない)のワシントンも悪くなかったが、ニール役のパティンソンが男前でかっこよく、セイター役のブラナーは貫禄があってよかった。(2020.10)


デッド・ドント・ダイ THE DEAD DON'T DIE
2020年 アメリカ 104分
監督:ジム・ジャームッシュ
出演:クリフ・ロバートソン(警察署長。ビル・マーレイ)、ロニー・ピーターソン(巡査。アダム・ドライバー)、ミンディ・モリソン(巡査。クロエ・セヴィニー)、ゼルダ・ウィンストン(葬儀屋。ティルダ・スウィントン)、フランク(農夫。スティーヴ・ブシェミ)、ボビー(雑貨屋。ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ)、ハンク(ダニー・グローヴァー)、RZA(ディーン)、フェーン(エスター・バリント)、ステラ(少年更生施設院生。マヤ・デルモント)、オリヴィア(少年更生施設院生。タリヤ・ウィティカー)、ジェロニモ(少年更生施設院生。ジャヒ・ディアロ・ウィンストン)、ゾーイ(都会の若者。セレーナ・ゴメス)、ジャック(都会の若者。オースティン・バトラー)、ザック(都会の若者。ルカ・サバト)、世捨て人ボブ(トム・ウェイツ)
コーヒー・ゾンビ男(イギー・ポップ)、コーヒー・ゾンビ女(サラ・ドライバー)、マロリー/シャルドネゾンビ(キャロル・ケイン)
唄:「デッド・ドント・ダイ」スタージル・シンプソン


★ネタバレしてます!
 

コロナ感染拡大防止の非常事態宣言が解除され、やっと映画館で映画を見られるようになって見た最初の作品は、ジャームッシュ監督によるゾンビ映画。
極地での大掛かりな工事によって、地球の地軸がずれ、各地で異常現象が発生しているというニュースが流れる。警官が3人しかいないアメリカの田舎町センタービルでも、鳥や猫がいなくなり、アリが巣に向かわず右往左往し、スマホや時計が壊れ、夜になっても日が暮れず、昼になっても日が射さないといった不穏な現象が続く中、ついに墓の中から死体たちが続々と蘇り、ゾンビ集団となって住人たちを襲う。
ちょっとくたびれ気味の初老の警察署長クリフ、マッチョで合理的で異常事態にもあまり動じることなく淡々と対処する青年警官ロニー、メガネが似合い細身でまっとうに感情を表す女性警官ミンディの3人の警官を初め、森で暮らす世捨て人ボブ、嫌われ者の農夫フランク、雑貨屋の店員でオタクのロニー、何屋か忘れたけどダイナーの常連のハンク、なぜか日本刀を手に立ち回る謎の女葬儀屋ゼルダ、ダイナーの経営者とそれを手伝う女性二人、少年更生施設の3人のティーンエイジャーたち(この3人はたぶん最後の希望である)、都会からやってきた旅行者の3人の若者たちなど、登場する人たちがユニークに味わい深く紹介される。
ある夜、ついにゾンビが墓の中から出てきてダイナーに侵入し、店の女性二人を襲う。翌朝、ハンクが2人の死体を発見、知らせをうけた警官3人は、クリフ、ロニー、ミンディの順に、それぞれの車で猛スピードでやってきて、ダイナーの駐車場に乗り付け、入口で「死体がある」と言われて、死体を観に行き、そのたびには女性二人のはらわたをえぐられた凄惨な死体がいちいち一人ずつ映しだされ、それを見た警官は入口に戻ってからそれぞれの反応をしてみせる。私としては、この映画の独特の味わいとテンポはここが一番楽しめたように思う。
そのあとゾンビの大群が襲来し、旅の若者や町の人たちが次々に襲われていき、警官3人もパトカーの中から出られなくなり、ついには墓場での対決となるも多勢に無勢の圧倒的に不利な状態に陥るのだった。
こうゆうのをオフビートな展開というのだろうか。ゼルダは可笑しいが、ちょっとマンガ的すぎた。映画ネタがちょこちょこ出てきて、「スター・ウォーズ」最新シリーズのカイロ・レンのアダム・ドライヴァーのロニーに向かって、ゼルダが「『スター・ウォーズ』はいい映画ね」とほめるなど狙いはあざといがでもやっぱり可笑しいし、彼が何度も何度も「まずい結末になる」とつぶやくのは、「いやな予感がする」という「スター・ウォーズ」で必ず誰かが言うことになっているセリフを思わせる。ロニーが冷静に容赦なくゾンビ化した知り合いの首をぶった切っていくのは、壮快である。
が、ゾンビは、凶暴な野生の熊とか脱走した凶悪犯一味なみに、すでに普通に在るものとして扱われ、ゾンビたちの造形や動きやコミカルな面も既存のイメージに頼るところ大で特に目新しさが感じられず、ゾンビたちが出てきてからは出てくる前ほど見ていてわくわくしなかったというのが正直なところである。(2020.6)

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