みちのわくわくページ

本 映画関連本

<著者姓あいうえお順>
回想の「風立ちぬ」(伊集院通)
どこかで誰かが見ていてくれる−日本一の斬られ役福本清三−(小田豊二)
映画はやくざなり(笠原和夫)
人生を豊かにする50の言葉(田中雄二)
★西部劇映画関連★
 わが「遙かなる西部劇」(佐野靖) 
 イタリア人の拳銃ごっこ マカロニ・ウェスタン物語(二階堂卓也)
 モニュメント・ヴァレーの消灯ラッパ、 アリゾナ ユタ 西部劇の大地を往く(原川順男)

回想の「風立ちぬ」
伊集院通著 (1991年)
マガジンハウス
「土佐のクロサワ」と呼ばれた伝説のブルーフィルム監督による自叙伝。
(※ブルーフィルムとは、8ミリフィルムで男女の性交を撮影した違法の映画のことらしい。裏市場でしか手に入らない、かなり高価なものだったという。裏ビデオ の登場とともに次第に過去の遺物となり、著者によれば1980(昭和55)年以降は一本も作られていないらしい。)
1930年生まれの著者は20代前半にその世界に足を踏み入れた。15分程度のサイレント作品を、一度の撮影で3本分くらい同時に撮るのが普通だったよう だ。
多くのブルーフィルムが暗い四畳半の部屋で撮影された粗悪なものだったのに対し、彼の作品は野外ロケを敢行し、ストーリーやカットつなぎにもこだわりを示 した芸術性の高いものだったという。
個人的には、ブルーフィルムというもの自体には関心がないのだが、以前8ミリ映画の制作に関わったことがあるので、8ミリについての説明は興味深くよくわ かった。
しかし、なんといってもこの本の魅力は、そのハードボイルドぶりにある。
自分の歩いてきた裏の世界をたんたんと述べるクールな語り口。決してかっこつけなわけではなく、途中で話題がずれて女体についてのうんちくを語ったり、自 作の作品がどれだけよかったかという自慢話になったりもする。
8ミリフィルムは、ネガポジという焼き増し不可なものなので、一つの作品につきプリントが一つしかできない。このことが、さらに事態を非情なものとする。 つまりコピーがなくこの世にオリジナル一本切りしかないので、できた映画は 、一度金持ちの買い手のものになってしまったらそれっきり、その性格上、買い手によって家のどこかにしまい込まれ、いずれは処分されるという運命にしかあ りえない。
タイトルの「風立ちぬ」は、著者の作品のタイトルであり、「回想の」とあるのは、精力を傾けてつくった作品が、自分の手元にはひとつも残らず、ただ記憶の 中にあるのみ、ということを表しているのだと思う。(2003.4)


どこかで誰かが見ていてくれる 日本一の斬られ役福本清三
小田豊二[聞き書き](2001年)
創美社、集英社文庫
朝日新聞投書欄で話題となり、NHKでドキュメント番組が放映され、さらにハリウッドの大作「ラストサムライ」出演で一躍時の人となった大部屋俳優福本清三が語る役者人生。
全盛期の東映で時代劇の斬られ役を演じていた頃の語りでは、大河内伝次郎、市川右太衛門、片岡千恵蔵、大友柳太郎、月形龍之介、東千代之介、中村錦之助、 大川橋蔵、鶴田浩二、近衛十四郎、といったビッグネームが次から次へと飛び出してきて、爽快この上ない。
身体を張った数々の仕事の話はもちろん、大部屋でいっしょだったという川谷拓三のこと、ポルノの撮影現場での石井輝男監督の演出の様子、「仁義なき戦い」 での深作欽二監督の言葉など、ファンにとってはかなり興味深い内容が詰め込まれている。(2004.2)

この一言(No.9):「音で言えば、パタパタ、カ キーン、チャリンチャリン、ドーン、ウーッ、ドタン、パッパッ、チャリンチャリン、スパッ、ドスッて感じですわ。」

映画はやくざなり
笠原和夫著(2003年) 新潮社
映画「仁義なき戦い」シリーズで知られる脚本家笠原和夫氏(平成14年没)の遺作集。
わが「やくざ映画」人生、秘伝シナリオ骨法十箇条、未映画化シナリオ「沖縄進撃作戦」の三部からなる。
映画は好きだが、映画関係の本を読むのはあまり好きでなく、未映画化シナリオ「沖縄進撃作戦」がおもしろいからと言われてそこだけ読むつもりで家人に借りて読んだのだが、かつて映画「仁義なき戦い」シリーズ(1973〜年)や「県警対組織暴力」(1975年)等に痺れた身にとっては、その前の二部もあまりにもおもしろく、結局一気に全部読んでしまった。
最初の「わが『やくざ映画』人生」では、美空ひばり主演映画の脚本を書いていた著者が東映任侠映画の脚本を書くことになり(「日本侠客伝」シリーズ(1964〜71年)、「博徒七人」(1966年)、「博奕打ち・総長賭博」(1967年)、「女渡世人 おたの申します」(1971年)、「関東緋桜一家」(1972年)ほか)、それから実録路線となって「仁義なき戦い」を手がけることになったいきさつなどが自身の立場からてきぱきと熱く語られている。著者が書いた「仁義なき戦い」シリーズ作品は「仁義なき戦い」「仁義なき戦い・広島死闘編」「仁義なき戦い・代理戦争」「仁義なき戦い・頂上作戦」の4作(「仁義なき戦い・完結編」は高田宏治氏による)。「代理戦争」が脚本を書くにあたって最も苦労したという。広島事件を二つに分けて三部と四部にすることになったのだが、「第三部(「代理戦争」)を抗争に至る内紛劇、第四部(「頂上作戦」)を抗争の顛末に宛てざるをえないが、この内紛というのがとても絵になるシロモノではない。」そうで、「書いても書いても纏まりきらず、シリーズ中、完成にもっとも時間を要したホンとなった」とある。たしかにあの回は、男たちが雁首揃えて、ミーティングにつくミーティングをしているばかりの映画で、でも、それがほんとによくて、私はこのシリーズはどれも好きだが、中でも「代理戦争」はタイトルを口にするだけで血湧き肉躍り狂おしくなってくるくらい、大好きな映画である。
「秘伝シナリオ骨法十箇条」は、著者がシナリオの基本的な書き方をまとめたもの。7項目の準備段階を経てようやくシナリオ執筆の運びとなるのだが、その際、直ぐには書かない。酒を飲んで寝てぶらぶらうだうだしてほどよく狂ったところでまずペラ70枚書く。そのあとまた2日間休んで、書いた70枚を読み返して破り捨てて、そして「鬼」になって冒頭から一気に書き上げるという。「酔うたような脚本家抱えて往生しとりますわい」とプロデューサーが言ったかどうかは定かではないが、自身が「ドラマ熱」と呼ぶ熱にうかされていた執筆中の著者は、おそらく尋常ではない状態にあったのだろうことが想像できる。
骨法十箇条の十とは「コロガリ」「カセ」「オタカラ」「カタキ」「サンボウ」「ヤブレ」「オリン」「ヤマ」「オチ」「オダイモク」。(意味が気になる人はぜひ読んでください。)
この「オダイモク」のところに出てくる一節。「・・・一言で言えば、『志』がなければならない。映画は、どんな娯楽作品であろうとも、志をもって創るものだ。わたしはそういう世界で今日まで生きてきた。」この「志」ということばに、泣けてしまった。誠に僭越ながら、映画であれ、小説であれ、漫画であれ、わたしは常々見終わって自分が不快だと思うものにある種共通するものを感じていて、それは下品だとか拙いとかいうことではなく、一体なんなんだろうかといろいろ考え巡らしたのだが、その結果、最も適切と思える言いようは「志が低い」ということではないのかと思い至っていたのだ。
「沖縄進撃作戦」は、昭和50年に書かれたシナリオで、映画化実現寸前にポシャってしまった作品。終戦後(1945年)から1971年ごろまでの沖縄を舞台に、遊人(あしばー)と呼ばれる沖縄のヤクザの抗争が、破天荒な兄貴分を持って苦悩するナンバー2の目を通して描かれる。暴力的で骨太、敵味方入り乱れて男たちが激しい死闘を繰り広げるのは、「仁義なき戦い」を彷彿とさせるが、終戦直後の沖縄という状況がドラマをさらに激化させているように思える。「仁義なき戦い」であれば、例のあまりに有名な音楽とともにスチール写真に重ねて入るナレーションによる状況説明となるところが、こちらでは、ナレーションだけでなく内容にあった沖縄民謡や沖縄歌劇の歌詞を流すシーンがいくつかあり、激しく情緒的である。
読みながら、俳優の顔を想像したいと思ったのだが、主演の二人を演じる俳優がどうにも思いつかないのだった。(2011.8)


人生を豊かにするための50の言葉
田中雄二著(2010年) 近代映画社
古今の洋画から、心に残る台詞を50選出し、解説を加えたもの。
著者は、毎日新聞社の「淀川長治の証言」シリーズや、共同通信社の映画雑誌MOVIE(廃刊)や「外国映画女優名鑑」「外国映画男優名鑑」などを手がけた生粋の映画好き。
「風と共に去りぬ」「ある愛の詩」に出てくる有名な台詞を始め、新しいところでは「グラン・トリノ」でイーストウッドが語る工具についての一節なども取り上げられている。
言葉とは、前後の文脈の中で理解されるものであって、一部だけを取り出してそのよさを説明するのはなかなか難しいと思うのだが、それでもたった1行、多くても4行の言葉で「いいね」と思わせるのは、それが作り手たちが練りに練って生み出した努力の結晶であり、また、選ぶ側も相当苦労して絞り込んだものであるからと思われる。
「この世に完全な人間はいないさ」と言った台詞が、シリアスな場面でなく、コメディの中でさらっと出てくるあたりが、ハリウッド映画のよさだと改めて思わせてくれる。
装丁など若い女性向けにということらしいが、字が大きくて読みやすいので、オールド・ファンの方々に手にとってもらえば、往年の名画を懐かしむとともに、新しい映画にも興味を抱くきっかけになるのではと思う。(2010.4)

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