西部劇 みちのわくわくページ

○ 本(評論、資料など)

<著者等姓あいうえお順>
わが『遙かなる西部劇』(佐野靖)
イタリア人の拳銃ごっこ マカロニ・ウェスタン物語(二階堂卓也)
アリゾナ、ユタ 西部劇の大地を往く、 モニュメント・ヴァレーの消灯ラッパ(原川順男)

佐野著わが『遥かなる西部劇』
佐野靖編・著(2009年)
元古書店経営者が、10年かけて収集したアメリカ西部劇映画のポスター、1956枚を掲載した自費出 版のポスター集。厚さ6センチ、ハードカバー、A4版の大冊が2巻。
1巻目が「アメリカ西部劇編」、2巻目が「アメリカ現代西部劇、ユーロ・ウエスタン、アジア等諸国及び日本製西部劇編」で、「シェーン」関連コレクショ ン、西部劇批評、コレクション始末記、逢坂剛氏の跋文も掲載されている。
何度も公開されているものなどいくつものバージョンがあるものは、同一作品でも違ったデザインのポスターが並んでいて壮観である。
著者が愛して止まない名作「シェーン」関連のコレクションは特にすごい。ポスターは、日本国内版のバージョンだけでもかなりの数なのに、アメリカ、イギリ ス、スペイン、ドイツ、ポーランド、メキシコなどの海外版もある。さらにパンフレット、チラシ、新聞の広告や雑誌掲載記事、関連図書などの貴重な資料のほ か、カレンダー、切手、カルタ、トランプ、めんこ、ビデオ、DVD、レコード、ソノシート、CD、楽譜、オルゴール、スティール写真、ロケ写真、拳銃・ガ ンベルト・シェーンの鹿革服のレプリカ、アラン・ラッドのフィギュアなど、ありとあらゆる関連グッズの写真が掲載されている。
市販はしていないが、東京国立近代美術館フィルムセンター(東京都中央区)で閲覧できる。(2009.5)


イタリア人の拳銃ごっこ マカロニ・ウエスタン物語
二階堂卓也著(2008年)
フィルムアート社
先日、知人に誘われてマカロニ・ウエスタンのイベント「マカロニよ、永遠に… マカロニ・ウェスタン大忘年会!」に行った。
本書の出版記念イベントということで、会場ではマカロニ・ウエスタンの絵はがきと「怒りの荒野」のチラシがつ いて更に割引価格で売っていた。
マカロニ・ウエスタンは、中学時代(1970年代)、男子の間でだいぶ盛り上がっていた。
テレビでもたくさん放映されて、私も彼等の影響を受けてず いぶん見た。イーストウッドは偉そうなとこが当時はあまり好感が持てなくて、どちらかというとジュリアーノ・ジェンマの方が好きだったのだが、フランコ・ ネロの「続・荒野の 用心棒」を見たときには冒頭の徒歩棺桶引きずり登場シーンに大きな衝撃を受けてジャンゴに夢中になってしまった。
それを見かねたかどうかは知らないが、父親に 「こっち を見ろ」といわれて「シェーン」や「リ オ・ブラボー」を見せられ、徐々に好みはアメリカ映画の方に向いていった。
が、ジャンゴはやっぱり大好きだし、マカ ロニの音楽は今でもひどく心になじむ。
という程度のファンで参加したのだが、かなり濃いイベントだった。
のっけから、見たどころか聞いたこともない作品群の予告編上映とそのDVD販売の可能性 について(蔵臼金助氏)とか、スペインのアルメリア地方(マカロニ・ウエスタンの聖地らしい)の映画ロケ地探訪の詳細なレポート(Garringo氏)と か、ガンプレイショーとか(どの作品で誰が演った撃ち方という説明つきで披露、プレイヤーはトルネード吉田氏と特別出演でデューク廣井氏)、ガ ン講座(時間が遅くなってしまいお暇したので残念ながら聞かずじまい)とか、とにかくすごい内容で、話し手側聞き手側双方のマカロニに対する深い思いが感 じられた。

本書を担当したフィルムアート社のスタッフの方が、原稿を読んでとにかく愛が感じられたと仰っていた。細かい文字がびっしり詰まっていて、それでもまだまだ書き足りない感じが見受けられ、写真も豊富だ。
荒野の用心棒」の公開がイタリア本国と世界にどれほど大きなセンセーションを巻き起こしたか というところから始まり、「用心棒」の盗作疑惑で日本ともめた経緯が述べられる第1章で、マカロニ・ウエスタンの記憶があざやかに蘇り、興味を掻きたてられた。
イタリア映画界においては、作り手は大きく二つに分けられるという。一つはチネアスタ呼ばれるいわゆる一流の作家たち(当時だとロッセリーニ、ヴィスコン ティ、フェリーニ、デ・シーカなど)で、もう一方が、古代ギリシャやローマを舞台とする史劇やヘラクレスなどが出てくる怪力英雄譚(ペプルム)、あるいは コメディなど大衆娯楽作品を専門とするチネマトグラファーロと呼ばれる人たちである。「荒野の用心棒」はチネマトグラファーロによる作品が、チネアスタらの作品を押さえて戦後の興収成績トップに躍り出るという快挙を成し遂げたという。
「荒野の用心棒」「夕陽のガンマン」「続・荒野の用心棒」などのヒットのあと、二匹目のドジョ ウどころか、何十匹(何百匹?)ものドジョウを狙ってイタリ アで山のように西部劇がつくられたこと、後にはコメディやメキシコ革命絡みの作品も出てきたこと、監督のレオーネとコルブッチ、二人のセルジオがそれぞれ 違った道に進んだこと、フランコ・ネロのその後の動向など、マカロニ・ウエスタンに関して知らなかったことがいっぱい載っている。
未公開作品についてていねいに紹介されていて、読めば見たくもなるのだが、娯楽映画というもの自体見る端から忘れていくように、読む端からタイトルも内容も忘れていってしまう (映画と違って本だからいつでもまたページを戻って確認できるという強みはあるが)。
著者の辛口な批判に対しては割と賛否両論らしい。レオーネのその後についてとか、たとえば「夕陽のギャングたち」など記憶がおぼろげながら面白かった印象があるので、たしかに手厳しいと思うところもあったが、私としては、それはそれで楽しく読んだ。

著者のペンネームは、小林旭主演の日活アクション映画「銀座旋風児」(ぎんざマイトガイ)シリーズの主人公 の名前であり、本の帯にあったコピー「撃てば監獄、撃たれりゃ地獄」は、どう見ても石井輝男監督のギャング映画「暗黒街の顔役・十一人のギャング」 で高倉健が言った名台詞が元になっているとしか思えない。 (会場でニ階堂氏にお会いしサインを頂く際に厚かましくも確認させて頂いたところ、コピーは出版側によるものらしいが、出所はやはり「十一人のギャング」らしい。)ということで、マカロニ・ウエスタンだけでなく、日本映画やアメリカ映画についてもぜひお伺いしたいものだと思った。和製ウエスタンについては、本書にも項が設けられているが、本場アメリカの西部劇の内容についてのまとまった記述はあまり見られ ない。
マカロニ限定ではない西部劇ファンとしては、マカロニについての膨大な記述もさることながら、フランコ・ネロが、ジョン・ウェインに会ったときのことについて語った言葉も印象に残った。
『駅馬車』『捜索者』の偉大なるデューク≠ヘ西部劇のコツを二つ伝授してくれた。一つは帽子を被っている 時と脱いだ 時の二つの顔を持てということ。もう一つはバカでかい馬に絶対乗るなということだった。」(本書の引用からさらに一部を引用)(2008.12)


アリゾナ、ユタ 西部劇の大地を往く
原川順男著(2010年) 
B5判・118ページ、全編カラー、写真豊富
★当初は私家版として出されたが、市田印刷出版からの発行が決まり、2011年4月24日より全国有名書店で販売中!!★
著者の原川氏とは、西部劇ファン仲間である。
「ウエスタン・ユニオン」というサークルの例会で、毎回映画について語り、お酒を飲む。
彼は、古い西部劇が好きだというだけでなく、今でも劇場に通い、新しい映画を年に何十本も見ている。そうして、よいのもあるが、ひどいものも多いとぼやく、が、ちょっと気になる新しい映画が来るとまた劇場に足を運び、またぼやく。これこそ映画ファンの正しい姿勢、まことの映画ファンである。
そんな著者は、ジョン・フォード監督作品をはじめとする映画の足跡を追って、アメリカ西部のロケ地を何度となく訪れている。この本は、その旅行の記録と豊富な映画資料と深い知識を駆使して生み出された、比類稀なる西部劇探訪記だ。
各作品やロケ地についての解説、ジョン・フォード縁の人々の紹介が、はぎれの良い文章で綴られ、そして何より、現地で著者が撮ってきた写真と映画のシーンを並べて解説をしている幾つもの「ロケ地探訪」がすごい。ファンならではの徹底した探究ぶりに、ただただ脱帽するばかりである。巻末の「ジョン・フォードの足跡をたどる」も、あまり知られていない情報の数々が載せられていれ興味深い。
ファンにとっては、写真を見て楽しい、読んで楽しい、手応えたっぷりの一冊である。(2010.12)


モニュメント・ヴァレーの消灯ラッパ
原川順男著(2004年)(株)かんぽう
ジョン・フォード監督の映画をこよなく愛する著者による、ファンにとっては濃厚な一冊。
アリゾナ州とユタ州の境にあるモニュメント・ヴァレー。
青い空をバックに巨大な赤茶色の岩山が立ち並ぶ。 壮観なこの一帯は、いまや多くの人が映画で見て知っているだろうが、著者は何度もこの地を訪れていて、かなり詳しい。
ジョン・フォードが初めてロケ地として用いたいきさつが紹介されている冒頭から、フォードの西部劇世界に引きずり込まれる。 作品の紹介については、このモニュメント・ヴァレーはもちろん、モアブなど他のロケ地の説明を交えて解説してくれていて、たいへん興味深い。
アイルランドを舞台にした「静かなる男」についても、著者が実際に足を運んだ当地の様子が詳細に記されていて楽しい。
2001年のハリー・ケリーJR訪問記、モニュメント・ヴァレーとモアブでロケが行われた作品一覧、ジョン・フォード一家メンバー作品歴、ジョン・フォード作品の挿入曲など、おまけも充実している。(2006.8)

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