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<日本侠客伝シリーズ> 日本侠客伝 斬り込み、
<昭和残侠客伝知りーズ> 昭和残侠伝、昭和残侠伝 唐獅子牡丹、昭和残侠伝 死んで貰います、昭和残侠伝 破れ傘、
<網走番外地シリーズ> 網走番外地
<シリーズ外> 人生劇場 青春・愛欲・残侠篇(1972)、 明治侠客伝・三代目襲名(1965)、 渡世人列伝(1969)
女賭博師尼寺開帳(1967)、 懲役太郎 まむしの兄弟(1971)

<日本侠客伝シリーズ> 作品一覧(★は感想文記載)
第1作「日本侠客伝」(1964)監督:マキノ雅弘、脚本:笠原和夫、村尾昭、野上竜雄
第2作「日本侠客伝 浪花篇」(1965)監督:マキノ雅弘、脚本:笠原和夫、村尾昭、野上竜雄
第3作「日本侠客伝 関東篇」(1965)監督:マキノ雅弘、脚本:笠原和夫、村尾昭、野上竜雄
第4作「日本侠客伝 血斗神田祭り」(1966)監督:マキノ雅弘、脚本:笠原和夫
第5作「日本侠客伝 雷門の決斗」(1966)監督:マキノ雅弘、脚本:笠原和夫、野上竜雄
第6作「日本侠客伝 白刃の盃」(1967)監督:マキノ雅弘、脚本:中島貞夫、鈴木則文
第7作「日本侠客伝 斬り込み」(1967)監督:マキノ雅弘、脚本:笠原和夫
第8作「日本侠客伝 絶縁状」(1968)監督:マキノ雅弘、脚本:棚田悟郎
第9作「日本侠客伝 花と龍」(1969)監督:マキノ雅弘、脚本:棚田悟郎
第10作「日本侠客伝 昇り龍」(1970)監督:山下耕作、脚本:笠原和夫
第11作「日本侠客伝 刃」(1971)監督:小沢茂弘、脚本:笠原和夫


日本侠客伝 斬り込み
1967年 日本 東映 92分
監督:マキノ雅弘
脚本:笠原和夫
出演:中村真三(高倉健)、お京(藤純子)、秀男(斉藤信也)、傘屋源蔵(石山健三郎)、若松(関東花若会組長。大木実)、浅川仙太郎(新宿街商同盟リーダー。那須伸太朗)、弁天福(金子信雄)、エンマの辰(長門裕之)、ドッコイ安(潮健児)、風天虎(畑中怜一)、相州屋の親分(渡辺文雄)、勝俣三吉(天津敏)、喧嘩鉄(阿波地大輔)、コットン松(川谷拓三)、春美(南田洋子)

新文芸坐の「高倉健一周忌 健さんFOREVERあなたを忘れない」という特集プログラムで見た。
博徒の健さんが、稼業違いのテキヤの仲間となって、悪い奴らをやっつける。
脚本は、「仁義なき戦い」以前の笠原和夫氏。(「広島死闘編」にも博打うち(任侠道)と的屋(神農道)の稼業違いの話は出てきた。)

子連れの博徒中村真三は、旅先で病気になった幼い息子秀男の治療費を稼ぐため、地元で草鞋(わらじ)を脱ごうとするが、辺りに博徒の一家はなく、いたしかたなくテキヤの帳元傘屋源蔵を訪ねる。稼業違いの真三親子に親切にしてくれた源蔵に恩を返すため、真三は東京でテキヤの元締めになるという源蔵の夢を代わりに果たす約束をする。
真三は、「場の安定した浅草や深川」ではなく、新興地区の新宿で、露天商たちによる街商同盟に加わる。が、新宿を乗っ取ろうとする板橋の相州一家が露天商たちにいやがらせをし、争いをしかけてくる。関東花若一家の総長若松が仲裁に入り、真三は中村一家を起こす。が、やがて若松も相州一家の襲撃を受ける。真三は、源蔵から結婚祝いに譲り受けた刀の封印を切り、白装束で殴り込みをかける。 
最初の仁義に始まり、幹部会や花会での、健さんの丁寧な極道の挨拶に見ごたえがある。
藤純子が源蔵の娘で真三にぞっこんの若妻お京を演じて艶やかである。真三が自分を見る「目」を見てこの人は私のことが好きなんだわとうぬぼれて私も好きになったのよ、とお京が告白した直後、はや二人の婚儀のシーンになっているのは、よかった。
息子の秀男はただ子どもだというだけで、特に個性はなかった。
大概は悪者役の金子信雄が、いいもん側の愉快な気のいい露天商役で登場。気のいい大阪馬賊(「馬賊」は夜店ゴロの隠語)の長門裕之との掛け合いが楽しく、いつもの長門裕之の役が二人いるような感じだった。
殴り込みのあと、真三は警官に引っ立てられず、お京と二人で楽しげに縁日を歩くシーンで映画は終わる。このシリーズに、こんなラストがあるのかと大変珍しく思った。
子連れ、テキヤ、いい奴役の金子信雄、ハッピーエンドと、健さん主演の任侠ものには稀有な要素がいろいろと盛り込まれた一本であった。 (2015.11)
参考:映画の中で何度となく「神農道」ということばが出てくる。
神農(しんのう)は古代中国の伝承に登場する三皇五帝の一人。諸人に医療と農耕の術を教えたという。中国では“神農大帝”と尊称されていて、医薬と農業を司る神とされている。神農はまた的屋の守護神として崇敬されており、儀式では祭壇中央に掛け軸が祀られるほか、博徒の「任侠道」に相当するモラルを「神農道」と称する。(ウィキペディアより)


<昭和残侠伝シリーズ> 作品一覧(★は感想文記載)
★第1作「昭和残侠伝」(1965)監督:佐伯清、脚本:村尾昭、山本英明、松本功
★第2作「昭和残侠伝 唐獅子牡丹」(1966)監督:佐伯清、脚本:山本英明、松本功
第3作「昭和残侠伝 一匹狼」(1966)監督:佐伯清、脚本:松本功、山本英明
第4作「昭和残侠伝 血染めの唐獅子」(1967)監督:マキノ雅弘、脚本:鈴木則文、鳥居元宏
第5作「昭和残侠伝 唐獅子仁義」(1969)監督:マキノ雅弘、脚本:山本英明、松本功
第6作「昭和残侠伝 人斬り唐獅子」(1969)監督:山下耕作、脚本:神波史男、長田紀生
★第7作「昭和残侠伝 死んで貰います」(1970)監督:マキノ雅弘、脚本:大和久守正
第8作「昭和残侠伝 吼えろ唐獅子」(1971)監督:佐伯清、脚本:村尾昭
★第9作「昭和残侠伝 破れ傘」(1972)監督:佐伯清、脚本:村尾昭

昭和残侠伝
1965年東映 90分
監督:佐伯清
出演:寺島清次(高倉健)、川田源之助(伊井友三郎)、江藤小吉(菅原謙二)、川田輝男(中田博久)、政(松方弘樹)、ゼロ戦五郎(梅宮辰夫)、西村恭太 (江原真二郎)、西村綾(三田佳子)、風間重吉(池部良)、風間美代(水上竜子)、羽賀明(山本鱗一)、岩佐徹造(水島道太郎)
終戦直後の浅草を舞台に、テキ屋同士の対立を描く。
浅草の露天商をしきる老舗の神津組は、汚いやり方で勢力を広げている新興ヤクザの新誠会と対立していた。四代目の親分源之助が銃殺され、復員してきた寺島清次が五代目を継ぐことになる。源之助の遺言通り、新誠会のいやがらせにじっと耐えてきた清次だったが、身内を次々と倒され、建設中のマーケットを焼かれるに及んで、ついに堪忍袋の緒が切れる。
梅宮辰夫、松方弘樹らが、いきのいい若者を好演。
江原真二郎は、清次が妻の綾と恋仲にあったこと知りつつも清次に敬意を払うが、新興勢力に押されて苦悩する物静かな男石岡組組長を演じている。
道行きで主題歌が流れ、間奏で旅人の風間重吉が助っ人に加わる、というパターンは本作からすでに始まっている。
風間重吉が神津組に草鞋を脱ぐところで、江藤との間で交わされる「軒下の仁義」が最初から最後まで丁寧に撮られている。(2003.12)


昭和残侠伝 唐獅子牡丹
1966年 日本(東映) 90分
監督:佐伯清 
主演:花田秀次郎(高倉健)、三上圭吾(池部良)、秋山八重(三田佳子)、秋山和夫(穂積ペペ)、秋山幸太郎(菅原謙二)、直治(花沢徳衛)、武(松方弘樹)、留吉(田中春男)、清川周平(津川雅彦)、清川くみ(清水まゆみ)、田代(芦田伸介),左右田寅松(水島道太郎)、左右田弥一(山本麟一)
昭和残侠伝第2作。浅草名画座で見た。
花田秀次郎は、宇都宮で石切業を営む左右田組に草鞋をぬいでいたが、弟分の周平の駆け落ちを認めてもらった義理から、左右田のライバル榊組の組長秋山殺しを依頼される。侠気を見せる秋山と果たし合いの末、秀次郎は秋山を刺殺する。
3年後出所した秀次郎は、堅気になった周平が営む料理屋に身を寄せるが、秋山の墓前で未亡人の八重と幼い息子の和夫に出会う。秋山の死後、左右田は勢力をのばし、榊組は窮地に陥っていた。
秀次郎は、左右田組の連中がしかけてくる嫌がらせから榊組を助けてやる。夫を殺した男とは知らず感謝する八重や父のように慕ってくる和夫。秀次郎は、なかなか真相を告白できない。やがて、かつて秋山の片腕であった三上が榊組に戻ってくる。
水島道太郎がごま塩頭の悪役組長、その馬鹿息子を山本麟一が演じている。
ごつごつと岩が切り立つ石切り場での作業の様子や、ダイナマイトによる襲撃や闘いのシーンがダイナミックで新鮮である。
池部良は、風間重吉ではなく、三上圭吾という名の満州帰りの榊組幹部。健さんは、かつては左右田組の客分であったが、現在はどちらの組にも属さない、心意気から榊組を助けているというところが、一風変わっている。
雪の夜、二人は行き会い、言葉を交わし、みつめあう。池部は、健さんに傘を差しかけ、肩にかかった雪をはらってやりさえする。唄が流れ、二人が相合い傘で殴り込みに向かう道行きのシーンはやはりいい。
冒頭の高架下での果たし合いで、相手を倒したときに後ろを電車が通ってその灯りが健さんを逆光で映しだすとか、左右田組事務所への殴り込みでは障子越しに影が映って斬り合いが始まると障子が倒れるとか、照明を活用して様式美をねらった演出が見受けられる。(2011.7)


昭和残侠伝・死んで貰います
1970年 東映 92分
監督:マキノ雅弘
出演:花田秀次郎(高倉健)、風間重吉(池部良)、幾江/幾太郎(藤純子)、お秀(秀次郎の継母。関東大震災で失明。荒木道子)、武史(喜楽の若旦那(婿養子)。秀次郎の義弟。松原光二)、寺田友之助(寺田組親分。お弓の小父。中村竹弥)、駒井甚造(駒井組親分。諸角啓二郎)、観音熊(山本鱗一)、松(長門裕之)、花田清吉(秀次郎の父。喜楽の先代。加藤嘉)、お弓(秀次郎の義妹。永原和子)、康男(秀次郎の甥。下沢広之)
高倉健の訃報を聞き追悼の意を込めて、知人にいただいたDVDで鑑賞する。
人間関係が割と複雑である。
主人公の秀次郎は、東京深川の老舗の料亭「喜楽」の子だが、父清吉が再婚したときに家を出て、やくざな稼業に身を落とす。清吉が病死し、後妻のお秀の連れ子であるお弓は、結婚して武史を婿養子に迎える。秀次郎が賭場で刃傷沙汰を起こして服役している間に、関東大震災が発生、お弓は被災して亡くなり、お秀は失明する。武史が二代目となって店を継ぐが、いまいち頼りにならず、相場に手を出しては失敗して借金を増やしている。そんな中、秀次郎は出所するが、武史が二代目となっている今、名乗り出ることが憚られ、板前の重吉の協力を得て、名を偽って板前として喜楽に住みこむ。重吉は元やくざだった自分を拾ってくれた先代に恩義を感じ、喜楽を支えているのだった。また、お弓の小父で寺田組親分の友之助も秀次郎のことを何かと気にかけてくれていた。
秀次郎が、菊次と名乗り、盲目の継母お秀と言葉を交わすシーン。父と義妹の仏壇に火を入れ、拝むところもいいが、お秀の肩を揉んでやっているときに、お秀が秀次郎のことを語るところも、泣ける。お秀は、秀次郎が作っただし巻き卵を口にした時点で、菊次の正体に気付いていたのだなと、後になってわかるのである。
道行きは、ドスの封印を解いて殴りこみに向かう重吉を、秀次郎が途上で待ち受けるという、いつもとは逆のパターン。
余談だが、冒頭の銀杏の木の下での秀次郎と幾江の出会いのシーンは、助監督の澤井信一郎氏が撮った、という話を本人からお聞きしたことがある。大学時代、所属していたシネ研では毎年学祭のイベントで映画監督を呼んで映画について語っていただくシンポジウムを開催していたのだが、「Wの悲劇」が公開された年、売り出し中の澤井監督とその師であるマキノ監督をお招きしたことがある。マキノ監督は、アクションつなぎについて、アクションシーンではコマを抜くが、女性の動作のときはコマをよけいに入れる、そうするとしぐさが優雅に見える、とおっしゃっていた。売れっ子芸者となった幾江の動きを見ながら、そんなことも思い出した。 (2014.12)

昭和残侠伝 破れ傘
1972年 東映 93分
監督:佐伯清 
主題歌:『昭和残侠伝』作詞・作曲:水城一狼、唄:高倉健
主演:花田秀次郎(高倉健)、風間重吉(元天神浜組代貸。池部良)、お栄・小菊(二役。星由里子)、東京銀二郎(流れ者博徒。北島三郎)、寺津力松(寺津組組長。秀次郎と兄弟分。安藤昇)、おしま(鮎川いずみ)、時雨弥三郎(時雨組組長。鶴田浩二)、羽黒政太郎(天神浜組組長。水島道太郎)、羽黒勇三(天神浜組先代組長。中田博久)、鬼首鉄五郎(鬼首組組長。山本麟一)、 お雪(檀ふみ)、
成増仙吉(待田京介)、ひょっとこの福(山城新伍)、河野刑事(沼田曜一)、諸岡角造(八名信夫)、松田正勝(小林稔侍)、三次(今井健二)、岩寅(たこ八郎)
シリーズ最終話。浅草名画座で閉館前日に見る。
敵味方の筋が入り乱れて、割とややこしい話である。
流れ者の博徒秀次郎が、寺津組と天神浜組との抗争にまきこまれる。寺津は四年前の花会で天神浜組に恥をかかされ、兄弟分の秀次郎を伴って殴りこみをかけたという経緯がある。寺津は、勢力を増す鬼首組と手を組んであくどい稼業にも手を染めていた。
もと天神浜組代貸でいまは堅気の酒屋となっている重吉は、秀次郎のかつての恋人お栄を妻としていた。寺津組と鬼首組により窮地に立った天神浜組のため、重吉は再びドスを手にする。重吉を手強い相手と見る寺津は、客分の秀次郎に重吉殺しを依頼し、二人は一騎打ちの勝負をする。が、二人を止めようとしたお栄が重吉の太刀を受け、決闘は中断する。
鬼首は、また中立の立場をとる時雨組の存在を目障りに思い、気のいい流れ者博徒の銀二郎を、刺客として時雨に差し向けるが、時雨や秀次郎に恩がある銀二郎は、空手で時雨を襲撃し、反撃を受けて死ぬ。
時雨は天神浜と寺津の抗争の仲裁を買ってでる。寺津はこれを拒むが、兄弟分の秀次郎の説得により、仲裁を受け入れる決意をする。が、それが気に入らない鬼首は、時雨を襲撃し、寺津とその妻となった自分の妹おしのを斬殺する。寺津の無念をはらすため、鬼首組殴りこみに向かう秀次郎に、重吉が同行する。
高倉、池部に加えて、安藤、北島、そして鶴田の顔が見られてうれしい。山本鱗太郎が悪役を一手に引き受けて、彼らしい。(2012.10)

<網走番外地シリーズ> 作品一覧(★は感想文記載)
★「網走番外地」(1965)監督:石井輝男
「続 網走番外地」 (1965)監督:石井輝男
「網走番外地 望郷篇」 (1965)監督:石井輝男
「網走番外地 北海篇」 (1965)監督:石井輝男
「網走番外地 荒野の対決」 (1966)監督:石井輝男
「網走番外地 南国の対決」 (1966)監督:石井輝男
「網走番外地 大雪原の対決」 (1966)監督:石井輝男
「網走番外地 決斗零下30度」 (1967)監督:石井輝男
「網走番外地 悪への挑戦」 (1967) 監督:石井輝男
「網走番外地 吹雪の斗争」 (1967)監督:石井輝男
「新網走番外地」 (1968) 監督:マキノ雅弘
「新網走番外地 流人岬の血斗」 (1969)監督:降旗康男
「新網走番外地 さいはての流れ者」 (1969)監督:佐伯清
「新網走番外地 大森林の決斗」(1970) 監督:降旗康男
「新網走番外地 吹雪のはぐれ狼」(1970) 監督:降旗康男
「新網走番外地 嵐を呼ぶ知床岬」(1971) 監督:降旗康男
「新網走番外地 吹雪の大脱走」(1971) 監督:降旗康男
「新網走番外地 嵐呼ぶダンプ仁義」(1972) 監督:降旗康男


網走番外地
1965年 日本 東映 白黒 92分
監督:石井輝男
出演:橘真一(高倉健)、権田権三(南原宏治)、妻木(丹波哲郎)、依田(安倍徹)、阿久田[鬼虎](嵐寛寿郎)、大槻(田中邦衛)
丸の内TOEIで行われた「高倉健追悼上映」で見る。
シリーズ第1作。酷寒の地網走を舞台に、前半は囚人たちの刑務所での生活を、後半は手錠でつながれたまま脱走を図る二人の男橘と権田の逃走劇を描く。雪の北海道の野外ロケに白黒の画面が映える。
龍神会の橘真一は、敵の組に殴りこみ相手の親分を斬った罪で、網走刑務所に収監されてくる。同じ房の一癖も二癖もある個性豊かな囚人たちともに、刑務所での生活が始まる。雪の積もる野外で伐採作業をさせられ、なにか騒ぎを起こしては懲罰房に入れられる。合間合間に、これまでの橘の過去が挿入される。橘と妹を養うため、母は不本意な再婚をする。暴力的な養父に反抗して彼は家を出たのだった。
橘が出所を半年後に控えた冬、房内で脱獄計画が持ち上がる。脱走計画の中心となった依田らが作業の合間に計画を仲間に伝えていく様子は、往年の外国映画を見ているようである。母が病気になったという妹からの手紙を受け取り、橘は半年後の出所を待つか、脱獄に乗るか、心を乱す。そんな彼を押し留めるために阿久田老人はついに正体を明かす。八人殺しの極悪人として知られる鬼虎を嵐寛が凄み充分に演じている。
雪原での、手錠につながれた橘と権田と、保護司妻木との逃走・追跡劇も見応えがある。
細部では、高倉健が田中邦衛のものまねをしたのが可笑しかった。まじめな回想シーンなのに、養父の家にいた若い橘が麦わら帽子にポンチョみたいなメキシカンスタイルでいるのが、どうにも不思議で可笑しかった。房内での緊急事態を看守に知らせるためにアナログな手書きの札が使われているのが、興味深かった。
何度も流れる健さんの歌う主題歌が、耳に残る。(2014.12)


網走番外地 北海篇
1965年 日本 東映 90分
監督・脚本:石井輝男
助監督:内藤誠
出演:橘真一(高倉健)、大槻(田中邦衛)、鬼寅/四十二番(嵐寛寿郎)、葉山/十三番(千葉真一)、十一番(由利徹)、一〇八番(砂塚秀夫)、十九番(炊事班長。山本鱗一)、七番(吉野芳雄)、
安川(安部徹)、金田(藤木孝)、弓子(大原麗子)、浦上(杉浦直樹)、エミ(小林千恵)、雪江(宝みつ子)、孝子(加茂良子)、
志村社長(沢影謙)、田舎の親分大沢(小沢栄太郎)、山上(井上昭文)、水島(小林稔侍)、谷崎(水城一狼)、夏目(石橋蓮司)
網走番外地シリーズ第4作。
冒頭は、お決まりの網走刑務所のシーン。仮出所を間近に控えた橘真一は、病を患う十三番の葉山のために特別料理を注文し、料理番の十九番といさかいになる。十九番の味方の看守は、怒って橘の仮出所を取り消すぞと脅してくるが、鬼寅の気迫に満ちた仲裁で事なきを得る。千葉真一が葉山の役で登場する(出番はここだけだ)。
仮出所した橘は、葉山の頼みで賃金を受け取って葉山の母に送金するため、トラック運送会社を訪れるが、志村社長は払う金を持ち合わせず、大雪で鉄道が通れない雪山の難所を行く運送の仕事を引き受ければ金が入るというので、橘は運転手を引き受ける。
積荷の依頼人は、怪しげな男安川とその子分らしいチンピラの金田で二人もトラックに乗り込む。橘の仕事ぶりを見届けようとしてか、志村の娘弓子も密かに荷台に忍び込む。
トラックは、釧路からペンケセップという町に向かう。
大雪の積もる山間の道を行くトラックには、脱走犯(浦上)、ケガをした少女(エミ)とその母(雪江)、心中に失敗した失意の美女(孝子)などの男女が次々に乗り合わせてくる。
ペンケサップの町で雪絵や孝子らを下ろし、橘は大沢組の親分を訪ねて、葉山の代わりにけじめをつけさせる。その後、橘と弓子は、安川と金田の命令でトラックで山に向かう。安川が運んでいたのは覚せい剤の材料で、彼らは山の中腹の雪原に野外精製所を急造し、橘と弓子にも手伝わせて覚せい剤を作る。できあがった覚せい剤はヘリで運ぶ段取りが立てられていた。覚せい剤ができあがると、安川は橘と弓子を殺そうとするが、出所してマタギとなっていた鬼寅が猟銃を持って登場、二人を救うのだった。
後半の雪原の戦いもなかなか面白いが、前半のトラックの旅のシーンがたいへん興味深い。
老若男女というよりは、善悪男女が一台のトラックに乗り合わせる。脱走犯の浦上は、なにかと雪江を気遣い、金田は孝子にやさしくする。安川は弓子を襲おうとして反撃を食らうなど、道中、様々な人間模様が繰り広げられる。ジョン・フォードの「駅馬車」みたいだと思っていたら、石井輝雄監督は「駅馬車」を意識してこの映画を撮ったという話もあるらしい。浦上の由紀子への紳士的な態度は「駅馬車」の元南部貴族の賭博師ハットフィールド(ジョン・キャラダイン)の将校夫人ルーシーに対する態度を思い出させるし、孝子のことが気になる様子の金田は、ダラス(クレア・トレヴァ)に惹かれるリンゴ・キッド(ジョン・ウェイン)のようでもある。「駅馬車」では、ルーシーが上流の婦人で、ダラスは酒場女であったが、こちらでは、逆に雪江が元娼婦で、孝子が上流のお嬢さんとなっているのもおもしろい。
ところで、タランティーノの「ヘイトフル・エイト」を見たとき、タランティーノが「駅馬車」を撮るとこんな感じになるのかなと思い、これはタランティーノ版「駅馬車」ではないかと思ったのだが、豪雪の中を行く馬車という設定を思うと、ひょっとして、この「網走番外地 北海編」のタランティーノ版だったのかもしれないなどとも思えてきたりして、楽しい。(2021.10)

<シリーズ外>

人生劇場 青春・愛欲・残侠篇
1972年 日本 松竹 167分
監督:加藤泰
脚本:野村芳太郎、三村晴彦、加藤泰
主題歌:「人生劇場」(作詞:佐藤惣之助、作曲:古賀政男、唄:美空ひばり)
出演:青成瓢吉(竹脇無我)、吉良常(田宮二郎)、飛車角(高橋英樹)、おとよ(賠償美津子)、宮川(渡哲也)、お袖(香山美子)、照代(任田順好)、奈良平(汐路章)、黒馬先生(笠智衆)、石上乱月(瓢吉の文学仲間。萩本欣一)、巡査(坂上二郎)、青成瓢太郎(森繁久彌)

某所での渡哲也追悼特集最後の上映作品。
40年近く前、学生時代に見て以来の鑑賞。田宮二郎の吉良常しか覚えていなかったが、やはり彼が秀逸である。
吉良常と飛車角の出会い。原作通りのようだが、自分を裏切った兄弟分の男奈良平を斬ってきた飛車角が追われ、青成瓢吉の部屋の玄関に逃げ込む。瓢吉の留守に訪れていた吉良常が彼を見るなり、同業者と知り、そのただならぬ様子からひと言。「おめいさん、殺ってきなすったね。」 これぞ男と男の出会い。虚構のなせる素晴らしい一場面だと思った。男性陣には、病床で浪花節を唸って息絶える最期が印象深いようだが、わたしは以前みたときもこの出会いのシーンがかなり好きだったことを思い出した。
賠償美津子のおとよは生身の女くささがぷんぷんとする。アップとローアングルで濡れ場がさらにつやっぽくセクシーだ。
義理より「情」がどーんと画面に映し出される。力にあふれた映画だった。(2020.9)


明治侠客伝・三代目襲名
1965年 日本 95分
監督:加藤泰
出演:菊池浅次郎(鶴田浩二)、初栄(藤純子)、江本福一・木屋辰二代目(嵐寛十郎)、江本春男(津川雅彦)、江本ひさ(毛利菊枝)、仙吉(藤山寛美)、
野村組社長(丹波哲郎)、秀奴(水上竜子)、星野建材社長(大木実)、唐沢(安陪徹)、刺客(汐路章)、
立石三郎(山城新吾)、矢島保(曽根晴美)、中井徳松(山本隣一)、小栗清(品川隆二)、天竜熊吉(遠藤辰雄)、佐川(原健策)
浅草名画座で見る。久しぶりの任侠映画、久しぶりの加藤泰監督のローアングル・カットの連発を体験した。
明治時代の大阪を舞台に、老舗の木屋辰一家と新興建設資材会社の争いを描く。
冒頭は、いきなりの祭りの太鼓の大俯瞰から、一転、人混みの中をいく刺客の足下を追って、親分襲撃の様子を終始低いアングルから描いて、力強い。
木屋辰一家の菊池浅次郎は、刺客に襲われ重傷を負った親分と甘ったれの実子春男を抱え、嫌がらせをしかけてくる星野建材とその配下の唐沢組を相手に回して奮闘する。
親分が亡くなり、誰が跡目を継ぐかという話になったとき、菊池はわがままな春男を殴打叱責して筋を通す。彼に肩入れしている野村組の社長は、「菊池君。えらい。」と彼を賞賛し、春男はこれ以後立派な若社長となる。
仇敵唐沢の元に身請けされていく娼妓初栄と浅次郎のシーンはしっとりとして色っぽい。初栄が、浅次郎に渡すため、実家から持ち帰った二つの桃が印象的。
浅次郎は、ひたすら真面目で説教くさいが、関西弁がいい感じ。
彼が、神戸に出張って工事現場を仕切っている様子が、工事現場の映像とオーバーラップして描かれるが、ここは妙に可笑しい。
藤山寛美が演じる拳銃を持った客分の侠客は、愉快で気がきいていて憎めない。
殴り込みの際、星野建材の事務所を取り巻いて警戒する警官隊の目をあざむくため、浅次郎が通過する列車に乗り込んで、列車から相手方の事務所の窓に飛び込んでいくという殴り込みの方法が斬新だった。(2010.7)


渡世人列伝 
1969年 東映 シネスコ 98分
監督:小沢茂弘
出演:稲垣長吉(三社政代貸。鶴田浩二)、佃銀次郎(高倉健)、丸岡勇助/おろち丸(池部良)、きよか(藤純子)、芳江(水野久美)、仙三(三社政若頭。大木実)、十勝(遠藤辰夫)、豪楽寺(郡山の鉱山をしきる片目のボス。天津敏)、丑五郎(汐路章)、高橋源六(若山富三郎)、飛びっちょの三次(小池朝雄)
浅草名画座で見る。
大正末期の浅草。三社一家の親分が、おろちの刺青をした男に襲われ、殺される。出所したての代貸長吉は、犯人を追って郡山に赴き、おろちの刺青の男をみつけるが、それは犯人とおぼしき男勇助と兄弟分の銀次郎だった。長吉は、勇助がいると聞いた鉱山に潜入する。そこは、極悪非道の男、豪楽寺の一味が牛耳っていて、坑夫たちは脱出不可能の炭坑で過酷な労働を強いられていた。長吉は勇助を見つけだすが、彼は重い病に侵されていた。「追ってきたのが、お手前のような気っ風のいいお人でよかった」と、潔く長吉に命を差し出す勇助。一宿一飯の義理により、彼に親分殺しを命じたのは、三社一家の兄弟分十勝組の組長だった。勇助の侠気に感じるものがあった長吉は、勇助とその妻芳江を鉱山から連れ出し、銀次郎の力も借りて豪楽寺らを撃退するが、勇助は病に倒れる。長吉は親分のかたきうちのため浅草に戻るが、正体を現した十勝によって若頭の仙三も命を奪われていた。殴り込みに向かう長吉に、銀次郎が加勢する。
鶴田、高倉、池部の豪華キャストに加え、悪役陣も見応えがある。特に顔の半分がケロイドで片目が濁った天津と中国人のような喋り方をする汐路のスキンヘッドの二人が見た目にも奇異な悪党を怪演。鶴田と健さん、二人揃っての殴り込みも圧巻である。(2011.5)

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