みちのわくわくページ

本 本 スポーツ(野球)

<著者あいうえお順>
江川流マウンドの心理学(江川卓)、 男道(清原和博)、 
誰も知らないプロ野球「審判」というお仕事(篠宮愼一)、
「弱くても勝てます」:開成高校野球部のセオリー(高橋秀実)
野村ノート(野村克也)

江川流マウンドの心理学
江川卓著(2001年) 廣済堂文庫
2009年3月15日、WBC第2ラウンド、最初の日本対キューバ戦でのこと。
松坂と城島のバッテ リーは、キューバ側ベンチが行っているある行為に気づく。打席に立った打者に対し、城島がミットを外に構えると、ベンチから「外、外。」という声が、内側に構えると「内、内。」という声が飛ぶ。
つまり、捕手の動きが見えない打者に対して、ピッチャーが投球する直前の捕手の構えを見て次に来る球筋を打者に伝えていたのだ。国内試合では通常暗黙の内にルール違反とされている行為だが、国際試合では通用しないらしい。情報を得た打者たちはばこんばこん打ちまく る。
そこで、バッテリーはこれを逆手に取る。城島はミットを外に構える。キューバ側ベンチから「外!」という声が飛ぶ。
しかし、松坂の投球はインコースに 抜ける。アウトコースを待っていた打者はのけぞり、アナウンサーは「逆球」を報じる。が、実はこれは敵をあざむくバッテリーの作戦。松坂は、最初からイン コースを狙って投げていたのだ。そうしたことが続いた後、キューバ側ベンチからは声が上がらなくなった。
ということを、先日テレビのニュース番組におけるインタビューで松坂投手が話しているのを聞いた。これなどはかなりわかりやすい例だが、野球の試合では、 こうしたせめぎ合いが、常に行われているのに違いない。
本書は、元巨人軍エースにして野球解説の第一人者である筆者が、投手の立場から、配球による打者とバッテリーの駆け引きについて、詳しく説明しているものである。
三振を恐れる打者の心理を利用した配球法や、スライダーはどんな球か、シュートとカーブはどう違うのか、フォークボールはどのようにして使うと効果的なのかといった変化球の説明や、ピッチャーに打たれることを極度に嫌うピッチャーの心理など、興味深く、試合観戦の際の参考になる。
野球の見方はいろいろあると思うのだが、この本を読んで、ピッチャーが投げる球を一球一球見ていくだけでも試合は楽しいのだなと思った。(2009.4)


男道
清原和博著(2009年) 幻冬舎
清原和博が半生を語った自伝。
清原は、1967年、大阪府岸和田市生まれ。高校時代は、PL学園で1年生のときから4番を任され、5季連続で甲子園出場。史上最多となる13本の本塁打を打つ。同期のチームメイトには桑田真澄投手がいる。
1985年にドラフト1位で西武ライオンズに入団、最初の年に高卒新人新記録となる31本塁打を記録し、最優秀新人賞を獲得。
1996年、FAで読売ジャイアンツに移籍、1998年にプロ入り以来13年連続20本塁打以上の日本記録を樹立。
2006年、故仰木監督からの熱烈な誘いを受け、オリックス・バッファローズに入団。2008年に現役引退。
生涯通算成績は、2338試合出場、打率0.272、 525本塁打、1530打点。その他、サヨナラ本塁打12本、最多死球196、最多三振1955などの記録を持つ、という。(著者プロフィールから)

桑田の話が何度も出てくる。
1985年のドラフトで、巨人は進学を希望していた桑田を指名し、桑田は進学を止め、巨人に入団する。巨人に恋いこがれていた清原はショックを受け、このことが桑田との関係にその後もずっと影を落とす。
このときのドラフトについて直に話をしたことがなかったと言い、ついに本書には、これについて二人で話したという記述は出てこない。本に書いているくらいだから、もう話はしているとは思うのだが、老婆心ながら気になる。彼ほどストレートな男が言わずにいるというのはよほどのことだと思うが、でもこういうことはやっぱりちゃんと話した方がいいと思う。
1986年、プロ入り初の年の日本シリーズ、西武対広島カープ戦の話。清原は、4番打者として、広島の津田恒美・達川光男バッテリーと対決。その際、捕手達川が、「おう、清原。全部、真っ直ぐじゃけえのお。」と宣言し、津田は全部ストレートで勝負したという。広島弁もあって、「仁義なき戦い」っぽいエピ ソードである。(西武は第4戦目から4連勝で勝利した。)
岸和田、富田林、所沢、東京、大阪と見出しがついているが、実家のある岸和田以外は、すべて、PL学園、西武、巨人、オリックスと、野球と直結している場所であるところが、彼の野球人生を物語っている。
西武時代までは、絶好調だった人生が、巨人入団と怪我のせいで、滞ってくる。引退前の手術とリハビリがどれほど壮絶なものであったかは、この本を読むとよくわかる。
清原が長渕剛の「とんぼ」が好きだというのは有名な話だが、歌詞をちゃんと見たことはなかった。「とんぼ」は東京にあこがれて上京してきた若者が、大都会で冷たい仕打ちを受け、愛憎入り交 じった複雑な思いで、東京の街を歌っている内容であることを初めて知った。清原の巨人への思いと重なる。(2009.9)


誰も知らないプロ野球「審判」というお仕事
篠宮愼一著(2009年) 祥伝社
1982年から1997年までの16年間、セントラルリーグで審判を務めた著者が、プロ野球審判の仕事と球場で接した選手たちについて語る。審判の目を通してみるプロ野球という目線が実に新鮮だった。 前半は、審判の仕事について。 審判は、球審と3人の塁審の4人で試合を捌く。選手はイニングの交代でベンチに入って休む時間があるが、審判は試合中ずっと球場に出ずっぱりで、トイレにも行けない。注目はされないが、ずうっと人目にさらされているので、服装や立ち姿にも気を使う。長打が出ると、塁審は、野手をよけながら、打球を追って全力疾走する。正確な判定が要求され、微妙な判定にはヤジが飛び、大事になると記者会見が開かれる。誤審やチーム名の言い間違いには処分が下される。考えてみれば当然のことなのだが、改めて聞くとつくづく大変な仕事だと思った。 審判にはプロ野球の選手にはなれなかったけど、それでも野球と関わりたい野球好きな人がなる。 審判は、シーズンが近づくと、体のトレーニングはもちろん、カラオケボックスなどで発声の練習もする。 審判は単年契約。試合がどれだけ長引いても手当は変わらないので、早い試合展開を望む。また、雨でノーゲームになるとただ働きになる。 審判は選手との個人的な付き合いを避けるが、ヤクルト時代の高津投手は審判全員に年賀状を出していた。 セリーグ審判VSパリーグ審判で年に一度軟式野球の試合をする。 といった知られざる話が読める。 ところで、審判の判定に対する抗議についてだが、アメリカは自由の国なので、抗議など日常茶飯事なんだろうと勝手に思っていたら、どうやらそうではないらしい。アメリカでは審判が大きな権限を持っていて、組合もあるそうだ。抗議しても無駄なので、アメリカの監督や選手はあまり抗議をしないらしい。 日本でも、抗議はしていけないことになっているらしいが、実際はそうではない。審判に対してもっとリスぺクトを、と著者は一貫して訴えている。 後半は、いろいろな選手のことが書 かれていてまた興味深い。 古田捕手の独特の捕球方法や、審判 泣かせの広島の達川捕手、阪神の木戸捕手など、百戦錬磨のプロの捕手とのやりとりがおもしろい。 (広島の達川捕手は、清原和博著 「男道」にも出てきた。私が野球を見るようになったのは、ここ最近なので、ちょっと前の選手でもほとんど知らないのだが、達川という人は、どうやら広島弁 でべらべら喋って打者や審判を攪乱する、かなり癖のある捕手だったらしいことが窺える。) 落合が抗議するでもなくぼそりと言った「篠、ボール半分低いぞ。」というひと言がぐさりと来たとか、イチローが、審判の判定に合わせてストライクゾーンを変えてしまうとか、大物打者とのエピソードも読み応えがあった。
ちょうどこの本を読んでいる最中に、日本シリーズ、日本ハム対巨人の第2戦があった。 テレビ朝日の放映で解説をしたのは、清原和博と新庄剛志両元選手。二人のやりとりは、前日の野村克也氏の濃厚な解説とは対照的で、どちらかというとバラエティ番組のトークのようだったが、これはこれで楽しかった。 試合では、日ハムのダルビッシュが本調子でなないながらもエースの風格を見せて好投。日ハムが、3回裏に巨人先発の内海から4点を奪って先制する。4回表には、亀井が2ランで2点を返す。 4−2で迎えた6回表。再び亀井が ヒットを放って出塁。が、1塁から2塁への走塁の際、充分間に合ったにもかかわらず、ベースから足が離れてしまう。塁審はこれを見逃さず、アウトを宣告。 これを見て、清原と新庄が、「審判、誰だ。」「真鍋さんじゃないですか。」「そうだ、真鍋さんだ。」「さすがですね。」「よく見てるなあ。」といった会話を交わしていた。 おお、あれが真鍋審判かと思った。 この本でも名前が出てくる審判である。(チーム名を間違えて処分を受けたというちょっとかわいそうなエピソードなのだが。) それと、やはり、このときの亀井の ヒットについて。インコースの球をすかさず肘を引いて打っていたのを見て清原が、「あれはなかなか打てる球じゃないです。肘を畳んでね。高等技術ですよ。」と褒めていたのだが、この本の中で、著者が清原選手について、アウトコースは得意だけど、インコースの球を腕を畳んで打つのが苦手だったようだ、と書いていたのを思い出した。両者の言うことが合致していることを発見して、ちょっとうれしかった。 (試合は、4−3で日ハムが勝つ。 1対1で東京ドームでの3連戦を迎えることに。)<敬称略>(2009.11)


「弱くても勝てます」:開成高校野球部のセオリー
高橋秀実著(2012年) 新潮社 
参加校148校の高校野球東東京大会で、平成17年にベスト16、平成24年にベスト32入りした、開成高校野球部のルポである。
専用のグランドもなく、練習日は週1回、それも天気が悪かったら中止、テスト2週間前とテスト期間中も中止になる。そうした状況で、弱いチームがいかにして強くなったか。という話ではない。
タイトルに「 」が付いているのがミソで、この本を読めば弱くても勝てるようになるのではなく、「弱くても勝てる」と言う開成高校野球部の青木監督のユニークなセオリーの紹介という意味合いが込められているようだ。
冒頭いきなり打順で相手チームにプレッシャーをかける作戦が示される。打順を線ではなく、サークルとみて、下位に1番、2番級の選手を配し、4番打者を2番にする。下位に打たれたことでショックを受けている間に4番がすかさず打ち込むという理屈である。
基本的に、こんな感じ。どさくさにまぎれて大量点を取って、コールドで勝つというのが、青木監督の基本方針。投手の条件は、ストライクを投げられること。フォアボールの連続では、相手チームに失礼、マナー違反だからだという。守備より打撃、サインプレーなし、送りバントもしない。サインを出しても見ないし、見たとしてもサイン通りのプレイができないし、バントもできないから。だから選手はすべて自分で判断する。監督は、ひたすらバットを大振りしろと指示を出す。
やがて週1回の練習時間は「練習」ではなく、「実験と研究」の場と称されるようになる。
彼なりの理屈はあるもののどうにもむちゃくちゃな監督の戦法と、練習試合も含めた試合の様子が報告されるが、間に挟まれる部員である開成高生たちへのインタビューがなかなか興味深い。
生徒のほとんどが東大を受験する超進学校の開成高校。相手校の選手には野球のことより「どれくらい頭いいんですか?」と訊かれ、KAISEIと印字された野球バッグをもっていると電車の中でも知らない人に「頭いい?」と声をかけられるという。
何かにつけて頭で考えて行動する彼らのそれぞれの受け答えは、こんな感じだ。
野球の魅力は、「やっぱり『読み合い』ですかね。言い換えるなら『予測』というんでしょうか。相手がどう出てくるのか、頭を使って考えるのが楽しいんです。・・・野球には『間』があるじゃないですか。プレイとプレイの間にひと息ついて思考する時間がある。他の競技にはない魅力です。」物理と倫理・社会、政治・経済が得意なエース・ピッチャー、4番でキャプテンの瀧口くん3年生。
「バットを短くもってみたんです。それで『短く持てば打てる』とわかったんですが、その後またぜんぜん打てなくなりました。正直よくわからないんですけど、短く持ったから打てたんじゃなくて、短く持ったことで何かをしていたことがよかったんですね。」古川君2年生、アメリカからの帰国子女。集中力が1時間しか持たないので、塾に行かないで、帰宅して1時間勉強して素振り・夕食、1時間勉強して素振り・入浴、1時間勉強して素振り・弁当箱を洗って、寝る、という日課を組み立てて実行している。国語が苦手だ。
「球が『来た』と思っちゃ行けないんです。『来た』という時点で気持ちが出遅れてしまいますからね。・・・『来た』ではなく『来い』。・・・『来い、来い』と言っても、もうひとりの自分がいて、それが『本当はきてほしくないんだろう』というんです。それで球がくると、やっぱり『来た』とか思っちゃう。・・・でも僕は『来い』と言いたい。」算数の「補助線」が好きで、補助線を閃いた時のうれしさにのめり込んで開成中学に合格したという、サード志望の1年生の多田くん。
「野球はピッチャーとバッターの勝負しか注目されませんが、盗塁はランナーとバッテリーの勝負。成功すれば『勝った』と思えるんです。」「僕にとってフォアボールはツーベースと同じ。」開成の盗塁王、2年生の池田くん。古文が得意科目。「なんかこう、風情があるじゃないですか。」
「野球やるために東大に行くんです。他の六大学だと選手も100人以上いて、野球推薦で入ってくる人もいるじゃないですか。やっぱり俺が活躍するには東大です。東大からメジャーリーガーになる。」2番打者の長江君3年生、試合でも豪快に打つ。本当は早稲田実業に行きたかったのにたまたま開成に合格しちゃった、東大理T志望。

これで、甲子園出場を果たしていれば感動的なんだろうけど、そうはならず地味にルポに留まっているところがいい。(2013.8)


野村ノート
野村克也著(2005年) 小学館
知将と呼ばれるパ・リーグ東北楽天現監督による野球本。
「意識改革で組織は変わる」「指揮官の最初の仕事は戦力分析にある」といった見出しを見ると、野球の話を一般化した管理職向けのビジネス書のように思われるが、内容は、ごく具体的な野球解説書。
「貧乏人のやりくりは大変だ。金持ちになりたいわい。」とぼやきつつ、巧みな継投で時として「金持ち」球団相手に勝利を収める東北楽天の監督だけあって、 野球は4:6、3:7の戦力差があっても充分勝負になる競技だという。ただし、「考えて戦いさえすれば」。
打者には4つのタイプがあり、同じ打者でも状況によってタイプが変わる、それを見極めて配球を考える。いかにして打者の壁をくずすか(内角を意識させて身体を開かせるか)が大事。逆に打者からすればヤマをはって勝負にでることも必要という話。
配球は投手が球種をふやすとやりやすくなる、球種は緩急、内外などペアで考える、原点能力(外角低めに投げられるコントロールのよさ)が基本という、投手についての話。
さらに配球を指示する捕手がいかに重要な役割を担っているかという話。同じ捕手でも巨人の阿部とヤクルトの古田や阪神の矢野はどう違うかという件りも面白 い。「ストライクゾーンにさえ投げてくれれば俺が何とかしてやる」という捕手時代の「私」の言葉は自信に満ちていて頼もしい(古田も同じことを言ったのだ そう)。
といった話が印象深かったが、他に、左打者と右打者の違い、一番打者の適性(粘って投手のデータを提供する、後につなげる)、日本シリーズなど短期戦の戦 い方(エースをどこで使うか)、4番とエースについて、チームの鑑となる人物の必要性、阪神を退いた時の裏話、古田が年賀状を送ってこないことへの不満など、興味深い話題がもりだ くさん。
昔の選手だけでなく現在活躍している選手についても例をあげて説明しているので、わかりやすい。野球が好きな人、特に好きだけどあんまり理屈がわかってな くて試合中に解説者の説明や予想などを聞いても「なんで?」「どうゆうこと?」と頭をひねってしまう人には、大変面白く、よいガイドになると思います。 (2006.7)

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