みちのわくわくページ

○ 映画(2011年)

<見た順(降順)>
八日目の蝉、 宇宙人ポール、 ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル、 リアル・スティール、 マネーボール、 三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船、 カウボーイ&エイリアン、 ランゴ、 猿の惑星創世記(ジェネシス)、 探偵はBARにいる、 あぜみちジャンピンッ!、 SUPER8 スーパーエイト、 パイレーツ・オブ・カリビアン 生命(いのち)の泉、 岳−ガク−、 アンノウン、 トゥルー・グリット、 アンストッパブル、 キック・アス

八日目の蝉
2011年 日本(公開:松竹) 147分
監督:成島出
原作:角田光代「八日目の蝉」
主題歌:中島美嘉「Dear」
出演:秋山恵理菜/薫(井上真央、幼少時:渡邉このみ)、野々宮希和子(永作博美)、安藤千草(小池栄子)、秋山恵津子(森口瑤子)、秋山丈博(田中哲司)、仁川康枝(吉本菜穂子)、沢田久美(市川実和子)、エンゼル(余貴美子)、沢田雄三(平田満)、沢田昌江(風吹ジュン)、岸田孝史(劇団ひとり)、滝(小豆島の写真館主。田中泯)

希和子は、不倫相手の秋山の子を身ごもるが秋山の頼みで中絶する。秋山は離婚して希和子と結婚すると言いながら、離婚する気はなく、妻の恵津子は娘の恵理菜を出産する。希和子は、生まれたばかりの恵理菜を誘拐し、逃亡する。エンゼルと呼ばれる教祖が運営する女だけの怪しげな宗教集団施設エンジェルホームに逃げ込み、自給自足の集団生活の中で恵理菜を育てる。が、やがてホームを抜け出し、友人の久美の故郷である小豆島を訪れる。二人は、そこで母娘として、穏やかで幸せな日々を過ごす。
恵理菜が4歳になったとき、二人の所在が公に知られることとなり、希和子は逮捕され、恵理菜は実の両親の許に帰される。が、幼い恵理菜にとって、両親は知らないおじさんとおばさんでしかなかった。何かにつけ、希和子を思う言動をする恵理菜に母親の恵津子は苛立ちをつのらせ、彼らの家庭は崩壊していく。21歳になり、家を出てバイトをしながら学校に通う恵理菜は、不倫相手の岸田の子どもを身ごもる。恵里菜は、雑誌記者の千草(実は幼年時代をともにエンジェルホームで過ごした仲間)とともに、かつて希和子と暮らした場所を辿る旅に出る。
というのが、だいたいの話。あらすじを聞いても、普段なら見にいく類の映画ではないのだが、小豆島へ行く機会があり、小豆島町のHPで「八日目の蝉」ロケ地をアピールしていたので、DVDを借りて見た。
景勝地の寒霞渓、今も島の岬に残されている映画「二十四の瞳」が撮影された分教場、棚田百選に選ばれている中山千枚田、伝統芸能の農村歌舞伎、伝統技術の素麺づくりなど、島の名所や伝統文化がふんだんに出てくる。中でも、この映画の撮影を機に復活したという中山千枚田で行われる「虫送り」という松明行列の行事はとても美しい。(この伝統行事を写した写真が新聞コンクールで入賞したばかりに、二人の所在が警察に知られてしまうのだ。)
女優の泣き笑い演技というのが、私はどうも苦手なのだが、希和子の不幸そうな感じは悪くなく、話は思っていたよりずっとおもしろかった。けっこうはらはらしたし、じんときたし、疑似母娘が逃亡の最後に行きつく小豆島、恵理菜が自分の原点を求めてたどり着く小豆島は、美しかった。
恵理菜が、最後まで希和子と再会しなかったのは、中途半端だという感想もあるようだが、私は会わないで終わるのがいいと思った。
小池栄子が、大柄で精神的に覚束ないところのある幼馴染を演じていてよかった。気を使うのに気の使い方がずれていて結果的に無神経で気が利かないことになってしまう、そういう人の感じがすごくよく出ていた。(2014.10)

宇宙人ポール Paul
2011年 イギリス/アメリカ 104分
監督:グレッグ・モットーラ
脚本:サイモン・ペッグ、ニック・フロスト
出演:グレアム・ウィリー(サイモン・ペッグ)、クライヴ・ゴリングス(ニック・フロスト)、ポール(声:セス・ローゲン)、ルース・バグス(クリステン・ウィグ)、ゾイル捜査官(ジェイソン・ベイトマン)、ハガード捜査官(ビル・ヘイダー)、タラ・ウォルトン(部ライス・ダナー)、オライリー捜査官(ジョー・ロー・トルグリオ)、モーゼ・バグス(ジョン・キャロル・リンチ)、ビッグ・ガイ(シガニ―・ウィーバー)、声の出演:スティーヴン・スピルバーグ(本人)

DVDで見た。
イギリスのSFオタク青年2人組グレアムとクライヴは、アメリカで開催されるイベント、コミコン参加と中西部のUFOスポット巡りにアメリカを訪れ、キャンピングカーでの旅を楽しんでいた。
2人は、エリア51(アメリカ空軍によって管理されているネバダ州南部の区域。「墜落したUFOが運び込まれているのではないか」とか、「1947年のロズウェルUFO事件と関係しているのではないか」と言われているらしい。ウィキペディアより)付近で、ポールと名乗る宇宙人に遭遇。2人は、故郷の星に帰るため脱走してきたポールに力を貸し、追手を交わして逃避行をするはめに。
「E.T.」「未知との遭遇」のパロディをふんだんに取り込んだ、異生物交流ロード・ムービー・コメディである。ポールが英語をしゃべる態度のでかい奴なのが愉快。(2013.11)

ミッション:インポッシブル ゴースト・プロトコル MISSION: IMPOSSIBLE - GHOST PROTOCOL
2011年 アメリカ 132分
監督:ブラッド・バード
出演:イーサン・ハント(トム・クルーズ)、ウィリアム・ブラント(ジェレミー・レナー)、ベンジー・ダン(サイモン・ベッグ)、ジェーン・カーター(ポーラ・ハットン)、ヘンドリクス[コバルト](核物理学者。ミカエル・ニクヴィスト)、シディロフ(ウラジミール・マシコフ)、サビーヌ・モロー(殺し屋。レア・セドゥ)、ボグダン(イーサンの囚人仲間。ミラジ・グルビッチ)、ハナウェイ(IMF調査員。ジョシュ・ホロウェイ)、ナス(インドの実業家。アニル・カプール)、IMF長官(トム・ウィルキンソン)、ウィストロム(サムリー・エーデルマン)、ルーサー(ヴィング・レイムス)
★多少ねたばれあります★
アメリカCIAの特殊チームIMF(Impossible Mission Force)のエージエント、イーサン・ハントの活躍を描くシリーズ第4作。
予告編で高層ビルの壁をよじのぼるトム・クルーズを見て、ああまたやるのかぐらいにしか思わなかったのだが、これがかなりおもしろかった。
そして、あの高層建築物は、アラブ首長国連邦のドバイある「ブルジュ・ハリファ」という世界一高い塔(828m)だということを、映画を見た後で検索して初めて知った。この塔自体が実にきれいで、画面に映ったとたんに見惚れてしまった。下層から段違いで少しずつ細くなっていくあたりの造形がとてもいい。
そしてここで展開するアクションが、敵側の取引を阻むために、部屋を二つ借りてそれぞれの相手になりすまして取引を乗っ取るという、往年のテレビシリーズ「スパイ大作戦」でやっていたような、だましの戦略。ホテルの上と下の階で同時に、スリリングなしかけが展開されるのだった。
3作目を見ていないので、冒頭いきなりイーサンがロシアの刑務所に収監されているのでちょっと戸惑うが、わけがわからないほどではない。IMFの仲間によって脱獄を果たしたイーサンは、核ミサイル発射のための暗号コードを手にいれようとしている「コバルト」というテロリストの手がかりを追ってクレムリンへ侵入する。が、同時に侵入していたコバルト本人が爆破テロを決行、イーサンらは犯人のぬれぎぬを着せられる。アメリカ大統領から「当局は関与せず」というゴースト・プロトコルが発動され、孤立無援となったイーサンたちのチームは、独力で犯人を追い、核ミサイルの発射を阻止しなればならない状況に陥る。ブルジュ・ハリファでコバルトを逃したイーサンらは、インドの衛星を使って核ミサイルを発射させようという彼の計画を阻止するため、ムンバイに向かう。
国際的で派手なアクションが次から次へと続くのだが、そのひとつひとつが丹念に作られていて、飽きない。作戦の発想は、「スパイ大作戦」の流れを組むようなアナログで地道なものでありながら、ハイテクを駆使して実行するという、そのマッチングが見事である
刑務所では解き放たれた囚人たちが廊下にあふれてなかなか進めない、装備が備えてある貨車に飛び乗ろうとすると線路沿いに立つ鉄柱がじゃまになってなかなか乗り込めない、忙しいときにロシアの刑事が追ってきてじゃまをする、砂漠では人やラクダの群れが道路にうじゃうじゃいてじゃまをする、ブルジュ・ハリファの壁面を上っている最中にビルに張り付くための手袋の片方が故障する、犯人を追っていると砂嵐がやってくるなど、行く手を阻むものことごとく気が利いていて、気持ちよくじらされ、はらはらさせられるのだった。(2012.1)

関連作品:TVシリーズ「スパイ大作戦」(1966〜1973年。出演:ピーター・グレイヴス)、
映画「ミッション・インポッシブル」(1996年。監督:ブライアン・デ・パルマ)、「M:I−2」(2000年。監督:ジョン・ウー)、「M:i:V」(2006年。監督:J・J・エイブラムス)、「ミッション・インポッシブル ローグネーション」(2015年)、「ミッション・インポッシブル フォールアウト」(2018年)
、「ミッション:インポッシブル デッド・レコニング PART ONE」(2023年)

リアル・スティール REAL STEEL
2011年 アメリカ 128分
監督:ショーン・レヴィ
原作:リチャード・マシスン「リアル・スティール」(ハヤカワ文庫「運命のボタン」所収「四角い墓場」改題)
出演:チャーリー・ケントン(ヒュー・ジャックマン)、マックス・ケントン(ダコタ・ゴヨ)、ベイリー(エヴァンジェリン・リリー)、フィン(アンソニー・マッキー)、リッキー(ケヴィン・デュランド)、タク・マシド(カール・ユーン)、ファラ・レンコヴァ(オルガ・フォンダ)、デブラ(ホープ・デイヴィス)、マーヴィン(ジェームズ・レブホーン)
★以下、感想文の中であらすじを紹介してます。ミステリではないので、ねたばれというほどではありませんが、展開を知りたくない方は読まない方がよいです。
近未来のアメリカ。格闘技のリングから人間の選手は姿を消し、代わりに遠隔操作による格闘用ロボットが、人々の熱狂を集めていた。
人間同士の試合が行われなくなり職を失くした元ボクサーのチャーリーは、中古ロボットのオペレーターとして地方巡業をしてなんとか糊口をしのいでいた。
ある日、別れた妻が亡くなり、一人息子のマックスが遺される。親権はチャーリーにあったが、母の妹である叔母デボラがマックスを引き取りたがっていた。デボラ夫妻が裕福であると見たチャーリーは、デボラの夫マーヴィンに親権と引き換えに10万ドルを支払うよう取引を持ちかける。取引は成立し、デボラ夫妻が旅行に行って帰ってくる夏の間、チャーリーとマックスはいっしょに暮らすことになる。
チャーリーは、あちこちに借金をつくっては踏み倒し、飲んだくれてその日暮らしを続けるだめ男になり下がっていて、息子に再会しても何も感じない。一方、11歳のマックスは、父が自分を叔母に売ったことをすぐさま見抜き、儲けの半分をよこすよう要求するようなしっかり者の少年で、ロボット格闘技の大ファンだった。
チャーリーは、マーヴィンから受け取った前金で中古ロボット、ノイジー・ボーイを買うが、最初の試合で破損する。修理のため侵入したスクラップ置き場で、マックスは廃棄されたロボットを見つけ、持ち帰る。それは、アトムという名のスパーリング用ロボットで、人の動きをまねするシャドーという独特の機能がついていた。マックスは、アトムにノイジー・ボーイの音声機能をセットし、さまざまな動きをプログラムして、試合に出ようとする。
落ちぶれたボクサー、父親に捨てられた少年(といっても結局いっしょに過ごしているのだが)、廃棄されていたロボットが、手を組み、再起する。
ひと夏の巡業を通して、チャーリーとマックスは心を通わせていく。
ロボットは、アメリカ映画のヒーローが愛着を抱いてきた相棒、馬や車や銃器のように扱われる。人まねをするアトムは、たいへん愛嬌があってかわいく見え、しかも打たれ強い。名前はアトムだが、造形はロボット刑事などを思わせ石森章太郎風である。
王者ゼウスとの最後の試合は、否が応にも盛り上がる。音声機能が壊れたアトムを、チャーリーがシャドー機能を使って操作する。ベテランボクサーの動きとリング上のロボットの動きがシンクロする。このうえなく、痛快な映像が目の前に展開する。
すかっとさわやかな幕切れ。宣伝文句は「親子のきずな」に泣けと言わんばかりだが、ここは快哉を叫びたい。(2011.12)


三銃士/王妃の首飾りとダ・ヴィンチの飛行船  THE THREE MUSKETEERS
2011年 フランス/アメリカ/イギリス/ドイツ 111分
監督:ポール・W・S・アンダーソン
原作:アレクサンドル・デュマ
出演:ダルタニアン(ローガン・ラーマン)、アトス(マシュー・マクファディン)、ポルトス(レイ・スティーヴンソン)、アラミス(ルーク・エヴァンス)、ミレディ(ミラ・ジョヴォヴィッチ)、
コンスタンス(ガブリエラ・ワイルド コンスタンス)、ブランシェ(ジェームズ・コーデン)、アンヌ王妃(ジュノー・テンプル)、ルイ13世(フレディ・フォックス)、バッキンガム公爵(オーランド・ブルーム)、リシュリュー枢機卿(クリストフ・ヴァルツ)、
、ロシュフォール隊長(マッツ・ミケルセン)
テレビ録画で見る。
三銃士の物語に、飛行船を絡めたカラフルで豪快な中世娯楽アクション。
ミラ・ジョボヴィッチが中世の峰不二子のような役回りで活躍。(2012.9)



マネーボール MONEYBALL
2011年 アメリカ 133分
監督:ベネット・ミラー
出演:ビリー・ビーン(ブラッド・ピット)、ピーター・ブランド(ジョナ・ヒル)、アート・ハウ監督(フィリップ・シーモア・ホフマン)、スコット・ハッテバーグ(クリス・プラット)、デヴィッド・ジャスティス(スティーヴン・ビショップ)、ジェレミー・ジアンビ(ニック・ポラッツォ)、ブラッドフォード(ケイシー・ボンド)、テハダ(ロイス・クレイトン)、ケイシー(ケリス・ドーシー)、シャロン(ロビン・ライト)、
2002年、アメリカ、メジャーリーグ。弱小球団の若きGMビリー・ビーンが、新しい理論の導入によってチームの再編を図ろうと奮闘する様子を事実に基づいて描く。
(★以下、あらすじ紹介によるねたばれあり
オークランド・アスレチックスは、リーグ決勝戦進出まであと一勝というところで敗退し、しかも主力選手3人を上位球団に引き抜かれてしまう。
貧乏球団が金持ち球団に対抗するにはどうすればいいか。悩むビリーは、選手の確保に訪れたインディアンズで、幹部にアドバイスをしている青年ピーターに目を留める。エール大学経済学部を出たばかりの彼は、独自のデータ分析によって選手を評価していた。ビリーは、ピーターを引き抜き、彼のデータ分析を元に選手の補充を始める。
出塁率の高い選手を取るという方針から、肘を痛めているものの選球眼がありフォアボールでの出塁率の高い元捕手のハッテバークを一塁手として引き抜く。さらに、投げ方が変なために評価されない投手ブラッドフォード、引き抜かれたスター選手ジアンビの弟で素行不良のジェレミー・ジアンビなどを補充。最盛期を過ぎたが人気があるために、球団が当初から獲得を決めていたジャスティスには、チームのリーダー役になるようアドバイスをする。
ビリーの補充に納得がいかないハウ監督は、いくら言ってもハッテバーグを一塁手に起用しようとしない。ビリーは、一塁手をトレードに出すという強硬手段に出る。連敗続きのチームはようやく勝ち始め、その後どんどん連勝し、遂に20連勝の記録を達成する。
ビリーは、高校時代に注目を集めた選手でドラフト1位でプロ入りしたものの、プロになってからはいっこうに芽が出ず、自ら引退してGMになったという過去を持つ。チームが連敗するとGMの補充が悪いとマスコミにたたかれ、連勝が続くと、マスコミは監督の采配を称賛する。が、ビリーはそんなことには無頓着にひたすら黒子に徹し、非情なトレードや解雇を行い、チームの優勝を目指す。チームは、20連勝の記録は達成したが、優勝は果たせずじまいにシーズンを終えるのだった。
ブラッド・ピットが、孤高のGMビリーを好演。久々に男の背中の演技にしびれさせてもらった。
インテリで太めで物静かな若き相棒ピーターが、脇で良い味を出している。
両親が離婚したため、別れて暮らす父親のビリーを心配するローティーンの娘のケイシーもけなげでかわいい。
20連勝の記録がかかった大事な試合、11点先取しながら、11点差を追いつかれる。が、これまで終始自信なさげだったハッテバーグが、最後にさよならホームランを決める。野球って実際にこういうことがあり得るスポーツで、だからおもしろいんだよねと改めて思うのだった。(2011.11)


カウボーイ&エイリアン Cowboys & Aliens
アメリカ 118分
監督:ジョン・ファブロー
原作:スコット・ミッチェル・ローゼンバーグ「カウボーイ&エイリアン」(コミック)
出演:ジェイク・ロネガン(ダニエル・クレイグ)、ウッドロー・ダラーハイド大佐(ハリソン・フォード)、エラ(オリヴィア・ワイルド)、ドク(サム・ロックウェル)、ナット・コロラド(アダム・ビーチ)、エメット(ノア・リンガー)、ミーチャム(クランシー・ブラウン)、タガート保安官(キース・キャラダイン)
周囲での評判はあまりよくないが、なかなか楽しい変り種西部劇だった。
アメリカ西部。正体不明の飛行物体に家族を連れ去られた町の男たちが、追跡隊を編成して、敵を追う。一行を率いるのは町を牛耳るボスのダラーハイド大佐で、彼の部下と、記憶喪失に陥ったお尋ね者ジェイク・ロネガン、妻をさらわれた医者兼商店主のドク、保安官の祖父をさらわれた少年エメット、牧師のミーチャム、謎の女エラなどが加わる。
道中、ジェイクの元駅馬車強盗仲間やアパッチ族が絡み、やがて一行は敵の本拠にたどりつくが、それは宇宙から飛来した塔のような宇宙船だった。
ニューメキシコでロケをしたとのことで、西部の雄大な風景が堪能できる。荒野を行く追跡隊の々は、それぞれ個性が出ていてよい。ハリソン・フォードが頑固なボス役を好演している(ラストの宇宙船内でのエイリアンとの対決では、インディ・ジョーンズのようにも見えるが)。旅を通してたくましくなっていくのは少年エメットだけではなく、慣れない銃を手にするドクもしかりである。牧師のミーチャムが死んで埋葬されるとき、他に誰もいないため、ドクが苦手そうに追悼の辞を述べるシーンがいい。難点は、主演のクレイグが、陰気であまりカウボーイっぽくないことだ。強いし、敵の飛行物に飛び移るアクションも見せてくれるが、荒野を行く西部男は、やはりもうちょっとからっとしていてほしい。
タイトルで西部劇ファンとSFファンの双方を引き込もうとして、どちらからも引かれてしまったか。敵がエイリアンという時点でアウトという西部劇のオールドファンもいるようだ。かつては、無法者と保安官、あるいは元北軍兵士と南軍兵士など、対立する白人の男たちが共通の敵であるインディアンの襲撃を受け、手を組んで立ち向かったものだが、今回は、白人とインディアンが手を組んで共通の敵エイリアンをやっつける。もはやインディアンを敵にできなくなってしまったため、醜悪なエイリアンを敵に仕立ててやっつけ放題という塩梅である。要はやっつけられる悪い敵がいれば誰でもいいのであって、こうしたシフトがさらに進めば、エイリアンとカウボーイが手を組んで、実は一番悪かった白人一味をやっつけるといったことなども起こるかもしれない。この事態を、志が低いと批判的に見るか、まあ活劇ってそんなもんだからと受け入れるかは、見る人によって違ってくると思われる。
が、それにしてもSFと思ってみると、あまり楽しくないと思われる。エイリアンの造形にも、他の異星人が地球人に成りすまして救援に来るという設定(「ヒドゥン」やスターシャを思い出させる)にも目新しさはなく、彼らがなんで金(きん)をほしがるのかとか、あれだけ人をさらう理由も一応人間の弱みを知るためといってはいるが、いまひとつよくわからない。あえて言えば、ワイヤーのようなもので一人ずつさらっていくという方法は、アナログすぎて逆におもしろかった。しかし、「スーパー8」(本ページ後出)といい、本作といい、エイリアンの設定が安易すぎる、もっときちんと詰めてほしいと思った。(2011.11)


ランゴ Rango
アメリカ 2011年 107分
監督:ゴア・ヴァービンスキー
エンディングの歌「ランゴ」のテーマソング:byロス・ロボス
出演(声):ランゴ(カメレオン。ジョニー・デップ)、マメータ[ビーンズ](イグアナ。アイラ・フィッシャー)、ジェイク(ガラガラ蛇の殺し屋。ビル・ナイ)、町長(かめ。ネッド・ビーティ)、プリシラ(子ねずみ。アビゲイル・ブレスリン)、バルサザー(ねずみ。ハリー・ディーン・スタントン)、バッド・ビル(とかげ。レイ・ウィンストン)、アンブローズ(ふくろう。イアン・アバークロンビー)、傷ついた鳥(ギル・バーミンガム)、メリマック(? スティーヴン・ルート)、アンジェリーク(狐。クローディア・ブラック)、ロードキル(アルマジロ。アルフレッド・モリナ)、西部の精霊(ティモシー・オリファント)、マリアッチふくろう4人組
ひ弱なペットのカメレオンが、西部の町の英雄になるまでを描くアニメ。
砂漠に置き去りにされた1匹のカメレオンが、動物たちの住む西部の町「ダート」(土の町)にやってくる。そこで彼は架空の武勇伝をでっち上げ、ランゴと名乗る。町の天敵のタカをたまたま一発の銃弾で倒したことから、彼は英雄として町のみんなから信頼され、保安官となる。
町は極度の水不足にあえいでいた。が、その裏には町の黒幕の陰謀が潜んでいた。ランゴは偽の英雄であることがばれないかとびくびくしつつも、陰謀を暴き、町を救おうとする。
爬虫類や両生類やねずみやモグラと言った、気持ち悪がられそうな動物たちばかりたくさん出てくるが、その造形は洗練されていてなんともおしゃれ。埃っぽい西部の町の雰囲気や登場人物たちのコスチュームも気が効いている。身体に弾薬帯を何重にも巻きつけ、尻尾がガトリング銃になっているガラガラ蛇の殺し屋ジェイクなど、実にナイスである。
ランゴが人生に悩んでいて、複数の者から何度となく「お前は誰だ?」といかにも意味ありげに聞かれ、自分探しやらアイデンティティの確立やらといった哲学的な要素が絡むのは、私にはどうにも生ぬるく感じられた。10代のころだったら興味深く見られたかもしれない。
「ジャンゴ」なみに「ランゴ〜♪」と主役の名前を連発するテーマソングやマカロニ時代のイーストウッドそのもののいでたちで登場する西部の精霊など、マカロニ・ウェスタンの要素を随所にちりばめてはいるが、冒頭から登場してランゴの伝説を歌うマリアッチふくろう4羽組は、「キャットバルー」だし、風景はモニュメントバレーだしで、アメリカとイタリアの西部劇に、現代的な心の悩みなど、いろいろ混じった不思議なテイストのファンタジー西部劇であった。(2011.11)

猿の惑星 創世記(ジェネシス) RISE OF THE PLANET OF THE APES
2011年 アメリカ 106分
監督:ルパート・ワイアット
出演:シーザー(アンディ・サーキス)、ウィル・ロッドマン(ジェームズ・フランコ)、キャロライン(フリーダ・ピント)、チャールズ・ロッドマン(ジョン・リスゴー)、スティーヴン・ジェイコブス(デヴィッド・オイェロウォ)、フランクリン(タイラー・ラビーン)、ランドン(ブライアン・コックス)、ドッジ(トム・フェルトン)、ロドニー(ジェイミー・ハリス)、ハンシッカー(ウィルの隣人。パイロット。デヴィッド・ヒューレット)
SF映画史に残る衝撃的なラストシーンで有名な「猿の惑星」(1968年)を前提に、「猿の惑星」の起源を描く。
現代のサンフランシスコ。老父のため、アルツハイマー病の治療薬の研究をする科学者ウィルは、生体実験によって異常に脳が発達したチンパンジーの子シーザーを自宅に引き取って育てる。隣人とのトラブルから動物保護施設に収容されたシーザーは、そこで虐待を受け、やがて仲間を従えて脱走し、人類を襲撃する。
CGだかVFXだかの技術を駆使した猿たちの動きはスピーディで力強い。ラストの金門橋での戦闘は、大迫力で見応えがある。猿たちがバスを横倒しにしてずずずっと人間に迫っていくところなど、自分が人間であることを忘れて猿たちに喝采を送りたくなる。
パフォーマンス・キャプチャー技術というらしいが、アンディ・サーキス演じるシーザーの「目」がすべてを語る。
ウィルは、病に犯されていく老父の様子を悲しげに見守り、シーザーを子どものようにかわいがっているが、やがて、成長したシーザーはウィルが年老いた父を見たのと同様の眼差しでウィルを見つめるようになる。保護する者と保護される者の逆転が暗示されるのである。緑色の虹彩を持ったシーザーの眼差しはなんとも切ない。
宇宙船のニュースや自由の女神の模型など、1作目を思わせる細部がちりばめられていて、思わずにやりとしてしまうのだった。(2011.10)

関連作品:「猿の惑星」(1968年)、「続・猿の惑星」(1970年)、「新・猿の惑星」(1971年)、「猿の惑星・征服」(1972年)、「最後の猿の惑星」(1973年)、「PLANET OF THE APES 猿の惑星」(2001年)

探偵はBARにいる
2011年 日本 東映 125分
監督:橋本一
原作:東直己「バーにかかってきた電話」
脚本:古沢良太 、須藤泰司
出演:探偵<俺>(大泉洋)、高田(松田龍平)、沙織(小雪)、霧島敏夫(西田敏行)、松尾記者(田口トモロヲ)、南弁護士(中村育二)、花岡組殺し屋(高嶋政伸)、近藤百合子(竹下景子)、近藤京子(街田しおん)、近藤恵(吉高由里子)、田口幸平(有薗芳記)、田口康子(阿知波悟美)、田口晃(武井椋)、佐山(波岡一喜)、則天道場塾生(野村周平)、岩淵恭輔(石橋蓮司)、岩淵貢(本宮泰風)、相田(松重豊。桐原組幹部)、桐原組組長(片桐竜次)、源ちゃん(マギー)、峰子(安藤玉恵。ウエイトレス)、スナック元従業員(新谷真弓。京子の元同僚)、スポーツバーのマスター(榊英雄)、ケラーオオハタのマスター(桝田徳寿)、マキ(カルメン・マキ)、電話のコンドウキョウコ(?)
北海道札幌市の繁華街ススキノを舞台に、私立探偵の「俺」とバイトの運転手高田のコンビが、事件を追う。
原作は、同シリーズの他の作品「バーにかかってきた電話」の方の話らしい。
携帯電話も事務所も持たない、しがない探偵の「俺」は、いきつけのバー「ケラーオオハタ」の黒電話を連絡手段としている。(が、「BARにいる」というタイトルから連想されるほどバーにいりびたっているという感じでもない。)
ある日、コンドウキョウコと名乗る謎の女から電話で奇妙な仕事の依頼が入る。それは、大手企業の顧問弁護士である南に、昨年のある夜「加藤」がどこにいたか訊いてほしいというものだった。
展開も犯人も依頼人の正体もさほど目新しくはないが、とにかく軽快で愉快、時にハードなアクションシーンを織り交ぜつつ、バーに黒電話、繁華街、ヤクザ、美しい未亡人、ほろ苦い結末とハードボイルドの要素をふんだんに盛り込んでいて、見せる。
ハメットやチャンドラーというよりは、どちらかというと「ルパン三世」(それも初期の)を思わせるが、この雰囲気がなんとも心地よい。程よいおとぼけ、程よいかっこうつけ、程よい現実離れと、きっちりとバランスのとれている映画だと思った。
大泉洋と松田龍平のコンビがよく、掛け合いも絶妙。相棒映画の傑作と言えよう。二人が動物園(旭山か)に行ってライオンを見るシーンがあることに泣けてしまった。
他にも、峰不二子よりは「さらば愛しき女よ」のシャーロット・ランプリングを思い出させる小雪、凶暴な殺し屋役を怪演する高島政伸、あまり活躍しないが味のある地元ヤクザの松重など、脇役も充実している。冒頭、カルメン・マキが歌うのを聴けるのも楽しい。
ご時勢とは言え、煙草のけむりとマッチがないのはさびしい気がしたが、このような作品がヒットして、ハードボイルドという空気が若い人たちの中に吹き込まれてほしいと思うのだった。(2011.10)


あぜみちジャンピンッ!
2009年 日本 85分
監督:西川文恵
出演:高野優紀(大場はるか)、鈴木麗奈(普天間みさき)、美希(梅本静香)、野梨子(上杉まゆみ)、ジュリ(池田光咲)、高野志摩子(渡辺真起子)、明日香(山中智恵)、ろう学校の先生(遠藤雅)、ろう学校の先生(天川紗織)、麗奈の母(小林寧子)
ろうあの中学生の少女が、ダンスチームに入って仲間と共に大会に出るまでの物語。
耳が不自由でろう学校に通っている優紀は、「RIP☆GIRLS」というダンサーのユニットに憧れ、家で密かにDVDを見てダンスの練習をしていた。
ある日、優紀は少女ばかりのダンスチーム「Jumping girls」が練習しているところをみかける。優紀に気づいたリーダーの麗奈は、手話で優紀に話しかけ、彼女をダンスに誘う。優紀は、音の振動と、他のメンバーの合図や動きを頼りにダンスを始めるのだった。

話の本筋ではないのだが、気になったのは、優紀と母の危うい親子関係である。
優紀は、母親の志摩子と二人で暮らしている。志摩子は、仕事に忙しく、娘との生活を支えるのに精一杯で、かなり無理をしている感じがする。娘と話す時間はほとんどないが、でも、自分は娘のことをわかっているし、まあこれでいいと思っているように見受けられる。優紀は、この状態をしかたないと思っていて、ダンスをやっていることを母に言えずにいる。母娘は、互いの寝顔を愛おしそうに見やりはするが、二人が会話をするシーンはひとつもない。いくら相手を思いやっていても、話さなきゃだめだ、二人とも相手をたたき起こして早く話をしてくれ!と歯がゆく思って見ていると、もうひとりの母親が登場する。
優紀が麗奈の家を訪れたときに出てくる麗奈の母親である。そこはかとないやさしさを漂わせている彼女は、その唯一の登場シーンで、手話で優紀と会話を交わす。これは志摩子が一度も画面上でなしえなかったことである。
志摩子がダンス大会の会場に駆けつけ、優紀のダンスを見ることで、状況は変わっていくかのような暗示がなされるのだが、これも表現としてはだいぶ控え目に思えた。

渡辺真起子の好演ゆえにそうした志摩子の必死の生き方に息苦しささえ感じてしまうのだが、もろもろの事情を抱えた大人とは対照的に、子どもたちは自由でストレートである。
二人の娘を育てた経験から思うに、中学生女子というのは、人間関係で最もごたごたする連中である。優紀は、ダンスに夢中になるに連れて、麗奈と仲良くなり、ろう学校の友達と疎遠になっていく。しかし、麗奈が足を負傷してしまい、新人の優紀が麗奈の代わりにセンターになると、メンバーから不満の声が出始める。麗奈不在のチームでは、美希という強気の子を筆頭に優紀に対する風当たりが強くなり、いじめに発展していくかのような怪しい雲行きになってしまう。
だが、田んぼがそうしたごたごたを解消していく。
2008年の夏に新潟で撮影されたというこの映画では、随所に美しい田園風景が広がっている。青々とした田んぼが少女たちのみずみずしさを引き立てる。彼女らはどこまでも続くあぜ道を延々と走る。ひと昔前の青春ドラマなら、男子が田んぼで泥だらけになって殴り合って男の友情が芽生えるといったところなんだろうが、ここでは女子中学生が、田んぼにはまって泥だらけになってきゃあきゃあはしゃぎながら友情を育んでいくのであった。
(2011.8)

SUPER8 スーパーエイト Super 8
2011年 アメリカ 111分
監督:J・J・エイブラムス
製作:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ジョー・ラム(ジョエル・コートニー)、アリス・デイナード(エル・ファニング)、ジャクソン・ラム(カイル・チャンドラー)、チャールズ・カズニック(ライリー・グリフィス)、ケイリー(ライアン・リー)、マーティン(ガブリエル・バッソ)、プレストン(ザック・ミルズ)、ルイス・デイナード(ロン・エルダード)、ネレク大佐(ノア・エメリッヒ)、ウッドワード先生(グリン・ターマン)、ドニー(デヴィッド・ギャラガー)
1979年のアメリカ、オハイオ州の田舎町。中学生の8ミリ映画製作グループが、ある夜、人気のない郊外の駅のホームで撮影をしているときに、とてつもなく激しい列車の脱線事故に遭遇する。
実はその列車は空軍の機密である「あるもの」を輸送中だった。脱線事故は、1台のトラックが列車に衝突したために起こったのだが、そのトラックを運転していたのは、中学校の生物の教師、ウッドワード先生だった。
事故以降、町では、人や犬が失踪したり、車のエンジンや家電が盗まれるなど、不可解な事件が続けざまに発生する。
やがて、空軍が町に乗り込んできて、町の中は騒然となる。
その騒ぎの中、中学生たちは、一貫して映画を撮り続ける。映画のクオリティを高めることに余念のない監督のチャールズは、脱線した貨車が多数横たわったままの事故現場の惨状を眼下に見下ろせる高台や、家宅捜査のため空軍兵士がさかんに行き交っているウッドワード先生の自宅の前で、ぬけぬけと撮影をする。
町の保安官補らは、軍が隠す事実を探ろうとするが、軍は山の火災を理由に住民達を強制的に避難させる。パニックに陥っていく町と、その中で「ゾンビ」映画の撮影を続ける中学生たちという対照が、なんとも愉快である。
映画製作グループのひとりジョーは、母を亡くしたことで傷つき、保安官補である父親ジャクソンとの関係がぎくしゃくしている。気になる女の子アリスが撮影に加わったことで映画製作に俄然やる気を出すのだった。
映画の冒頭、鉄工所の「事故者なし記録○○○日」という看板の3桁の数字が外され「0」に変えられたところから始まり、ジョーの母親の葬式へと移っていく、一連の導入が見事。
アリス役で、ダコダ・ファニングの妹、エル・ファニングが芸達者なところを見せている。
チャールズにセクシーなお姉さんを始め、やたらと兄弟が多いのも楽しい。
ラストは、少々詰めが甘いように感じた。ジョーたちが例のキューブを解放し、それであれが再現されることを期待したのだが、そうではなかったのがちょっと残念だった。
タイトルの「スーパー8」は、コダック社の8ミリフィルムの名称。1980年代、私がいた大学のシネ研でも、よくあれを使って自主映画を撮影した。黄色い四角のパッケージや、現像に中2日、3日かかるとか、なつかしい。(フジが出している8ミリフィルムはシングル8といって、形状がちょっと違ってカセットテープに近いものだった。)
最後にクレジットタイトルの横で彼らがつくった8ミリのゾンビ映画が「上映」される。これもかなり楽しいのだが、そつがなさすぎるように感じた。事故で吹っ飛ぶ貨車がいきなり模型になったり、拳銃が落ちるカットや引き金を引くアップがとってつけたように挿入されたりするのはなかなか愉快なのだが、あまりフィルムぽくないというか、照明不足で画面が暗くなったり、露出がばらばらだったり、同時録音の際に雑音が入ったりなどいったことがなく、きれいだった。当時のアメリカの中学生はこれくらいの技術は持っていたと考えればいいのかしら。 (2011.7)

このひと言(No.50):「プロダクション・ヴァリューのことはもう言うな。空軍に殺されるぞ。」

岳 −ガク−
2010年日本(公開東宝) 126分
監督:片山修
脚本:吉田智子
原作:石塚真一「岳」
音楽:佐藤直紀、主題歌「あの太陽が、この世界を照らし続けるように。」コブクロ
出演:島崎三歩(小栗旬)、椎名久美(長澤まさみ)、野田正人(隊長。佐々木蔵之介)、阿久津敏夫(隊員。石田卓也)、座間洋平(副隊長。矢柴俊博)、安藤俊一(隊員。やべきょうすけ)、関勇(隊員。浜田学)、守屋鉄志(隊員。鈴之助)、牧英紀(エアレスキューヘリ操縦士。渡部篤郎)、青木誠(ヘリのナビ。森廉)、谷村文子(山荘のおばちゃん。市毛良枝)、遭難する青年(尾上寛之)、横井修治(宇梶剛士)、横井ナオタ(小林海人)、遭難者の父(ベンガル)、三歩の親友(波岡一喜)、梶一郎(光石研)、梶陽子(中越典子)、椎名恭三(石黒賢)
北アルプスの山々を舞台に、死と隣り合わせの遭難救助を行う人々の活躍を描く。
山好きと小栗旬好きにはうれしい一作で、わたしはその両方なので楽しかった。だが、そんなでもなくても、日本アルプスの山々の雄大な景色は美しく、救助隊の面々や山荘のおばちゃんや遭難者の青年や父子や、やたらとしぶいヘリ操縦士など、魅力的な人物が配されていて、楽しめると思う。
(以下ちょっとねたばれあり!!)
長野県警北部警察署山岳遭難救助隊に新米隊員の椎名久美が配属されてくる。久美は、救助隊とは別に山岳救助ボランティアとして救助を行う島崎三歩という男を知る。彼女は、三歩を優秀な救助ボランティアとして評価し、彼に指導を仰ぎつつも、あっけらかんと遭難者の死について語る彼に抵抗を覚えるのだった。様々な遭難者と出会い、仕事の厳しさに打ちのめされながら、救助隊員として成長していく久美の目を通して、山岳遭難救助の過酷さと、人並み外れた度量を持つ山男三歩の魅力が描かれる。
久美の死んだ父親がかつて優秀な救助隊員で遭難時の声を録音したテープを遺していたり、三歩が大事な人を山で亡くしていたり、大事な父を山で亡くした少年と三歩が心を通わせたり、娘の花嫁衣装を見たかったという願いを口にする父親が出てきたりと、話の要素としてはごくオーソドックスなものが多い。そして、泣かせどころも満載である。
が、最近はドラマでも映画でもとにかく泣かせようってものばかりで、正直なところ涙にはちょっと辟易気味である。
だから、三歩の笑顔が気持ちよかった。小栗旬は、山男を演じるため体重を9キロ増やしたそうで、がっしりとした体つきになっていた。(2011.5)

このひと言(No.49):「ひさびさに流されちゃったな」

アンノウン Unknown
2011年 アメリカ/ドイツ 113分
監督:ジャウマ・コレット=セラ
出演:マーティン・ハリス博士(リーアム・ニーソン)、ジーナ(ダイアン・クルーガー)、エリザベス・ハリス(ジャニュアリー・ジョーンズ)、もう一人のマーティン・ハリス(エイダン・クイン)、ユルゲン(ブルーノ・ガンツ)、ロドニー・コール(フランク・ランジェラ)、ブレスラー教授(セバスチャン・コッホ)、スミス(オリヴィエ・シュニーデル)、ジョーンズ(スタイプ・エルツェグ)、ストラウス(ライナー・ボック)、シェダ王子(ミド・ハマダ)、ビコ(クリント・ディアー)、医師(カール・マルコヴィクス)、看護婦(エヴァ・ローバ)
アメリカの植物学者マーティン・ハリスは、学会で発表するため、妻のエリザベスを伴ってベルリンを訪れる。
ホテルアドロンにチェックインする寸前で、空港にスーツケースを忘れたことに気づいた彼は、タクシーで空港に戻ろうとする途中で事故に遭ってしまう。
彼は、タクシードライバーの女性によって救出され一命をとりとめるが、4日間の昏睡状態を経て病院で目覚めると、周囲の状況が一変していた。
ホテルに戻ると、妻のエリザベスは彼を知らない男だと言って退け、自分と同じ名前の見知らぬ男を夫として扱っていた。
男は、マーティンがエリザベスと撮った思い出の写真と全く同じ場所で同じようなポーズで撮った写真を持っているのだった。
パスポートをなくし、自らの身分を証明できないマーティンは、混乱し、着の身着のままで異国の町をさまようことに。
やがて何者かに命を狙われ始めた彼は、命の恩人であるタクシー運転手ジーナを見つけ出し、彼女と老探偵ユルゲンの協力を得て、自分を陥れた謎の陰謀に立ち向かっていく。
水中のタクシーからの救出場面や、病院でのハサミのシーンや、二人のマーティン・ハリスが自分が本物であることを示す事柄を片っ端から連発して大学教授のブレスラーに迫るシーンや、2人の刺客によるジーナのアパート襲撃シーンや、老探偵ユルゲンとのやりとりや、壮絶なカーチェイスなど、アクションやサスペンスにいちいち見応えがあって楽しめる。マーティンの危機の切り抜け方も、機転とアクションと運が適度に織り交ぜられていておもしろい。
ブルーノ・ガンツが、元秘密警察の老探偵ユルゲンという渋い役どころで出演。
他にも教授や医者やホテル支配人など、おじさんの役者がいい顔をしている。
こうしたサスペンスの場合、大概は本人の心の問題か、あるいは実際に周到な陰謀が仕組まれているかなのだが、特に後者の場合、いまいち釈然としない結末となることが少なくない。が、本作は、裏技というか、膝を叩くというのとはちょっと違うが、「そう来るか」という展開だった。
(以下ねたばれが白字で入ってます)
マーティン・ハリスが、もともと存在しない男だったという種明かしは、斬新だった。
リーアム・ニーソン主演ならではの真相という感じもする。(2011.5)


ヒアアフター Hereafter
2010年 アメリカ 129分
監督・音楽:クリント・イーストウッド、製作総指揮:スティーヴン・スピルバーグ
出演:ジョージ・ロネガン(マット・デイモン)、ビリー(ジョージの兄。ジェイ・モーア)、メラニー(ブライス・ダラス・ハワード)、イタリア料理教室の講師カルロ(スティーヴン・R・シリッパ)、マリー・ルレ(セシル・ドゥ・フランス)、ディディエ(ティエリー・ヌーヴィック)、ルソー博士(マルト・ケラー)、マーカス/ジェイソン(フランキー・マクラレン、ジョージ・マクラレン)、ジャッキー(マーカスとジェイソンの母親。リンゼー・マーシャル)、デレク・ジャコビ(老優。本人) 
イーストウッドがスピルバーグと組んで、霊界ものに挑戦。
ということで、霊媒師だの死後の世界だのを扱ってはいるが、監督の興味は、専ら現世の人間に向いているようだ。描かれているのは、「死」と深く関わったことで、傷つき悩みながら生きる3人の男女の姿である。映画は、住む場所も年齢も境遇もまるで違う彼らの様子を入れ替わり立ち替わり、たんたんと追っていく。

★以下ねたばれを含みます!!
パリのジャーナリスト、マリーは、リゾート地の海岸で津波に襲われ、九死に一生を得る。彼女は、津波で流されたときに観た「あの世」の光景らしいビジョンのことが忘れられない。花形キャスターの座を追われ、恋人と別れ、来世についての本を執筆する。
ロンドンに住む貧しい少年マーカスは、生まれたときからずっといっしょだった双子の兄を突然の事故で亡くしてしまう。陽気でおしゃべりだった兄のジェイスと違い、遺されたマーカスは、無口でおとなしい少年。薬物中毒の母は施設に入ってしまい、里親と暮らすことになった彼は、死んだジェイスに会うため、死後の世界について調べ、様々な霊媒師を訪ねて回るが、みんないんちきくさかった。
サンフランシスコに住むジョージは、幼いころの臨死体験がきっかけで死者と交信する能力を持つ。霊媒師として仕事をしていたが、自分の能力を「呪い」と呼んで忌み、転職して工場で働いている。彼は、イタリア料理教室でメラニーという女性と出会い、互いに引かれ合うが、メラニーが彼の能力を知って交信をせがんだために、苦い結末を迎えることに。追い打ちをかけるように工場を解雇されたジョージは、兄のビリーが勧める霊媒師への復帰を断り、旅に出る。
まったく接点のない3人が、どのようにして出会うのか。映画の後半は、それが静かなサスペンスを生み、じわじわともりあがっていく。
ジョージは、ディケンズの小説が好きで、家で毎晩イギリスの俳優ジャコビが朗読するCDを聴いていた。彼はディケンズ縁の土地であるロンドンを訪ね、やがてジャコビの朗読会を視聴するためブックフェア会場に向かう。同じ頃、マリーは自著本のサイン会のため、マーカスは、里親たちに連れられて、同じ会場を訪れていた。かくして3人は、ひとつの場所で遭遇することとなるのだ。
マット・デイモンが、影のある、物静かで思いやりのある男を好演している。依頼者の手を握るだけの彼の交信のしかたはいたって地味である。そして、交信を行った後は、近しい人を亡くした人の心の痛みを自身も背負い込むこととなる。ジョージが、マーカスの手を握り、ジェイスのことを静かに正確に言い当てたとき、マーカスはやっと本物の霊媒師に出会えたと安堵する。それぞれの思いを抱えた彼らのやりとりにきゅんとなる、泣ける場面である。
ジョージとマリーが会う最後のシーンは、特にキスシーンが意味不明という声があるが、いずれああなるということの先走りでまあいいのではないかと。ジョージがマリーに宛てて書いた長い手紙の内容が明かされないのもいい。
冒頭の津波と津波が起こるまでのホテルと海岸のシーン、ジェイスとマーカスが写真を撮る写真屋のシーン、ジョージとメラニーの料理教室での官能的な効き味のシーン、気のない参加者の中でジョージが一人密かに通ぶりを見せるディケンズの生家を訪ねるツアーのシーンなど、細部がいちいち行き届いていて、気持ちがいい。
“hereafter”は「来世」のことだが、「今後、将来」という意味もある。(2011.3)


アンストッパブル Unstoppable
2010年 アメリカ 99分
監督:トニー・スコット
出演:フランク・バーンズ(デンゼル・ワシントン)、ウィル・コルソン(クリス・パイン)、コニー・フーバー操作場長(ロザリオ・ドーソン)、ネッド(リュー・テンプル)、ガルヴィン運行部長(ケヴィン・ダン)、デューイ(イーサン・サプリー)、ギリース(T・J・ミラー)、バニー(ケヴィン・チャップマン)、ウェーマー監察官(ケヴィン・コリガン)、ダーシー(ジェシー・シュラム)、ニコル(エリザベス・マシス)、マヤ(ミーガン・タンディ)
暴走する無人貨物列車を止めようとするベテラン機関士と新米車掌の奮闘を描く。久しぶりに、100分以内のカジュアルで明快で痛快なアメリカのアクション映画を見た。
ペンシルバニア州の鉄道操作場。運転士の操作ミスから最新式の貨物列車777が暴走。39両の貨車は全長800メートルに及びしかも流出すれば爆発するかも知れない危険物質を積み、その行く手にある町スタントンの入口には徐行をしなければ脱線する恐れのある急カーブがあり、急カーブの高架下には燃料タンクが並んでいる。つまり転覆すれば町全体に渡る大惨事となるのだ。
現場責任者コニーの提案を無視した運行部長による無謀な試みは悲惨な結果に終わり、脱線機を用いて故意に脱線させる作戦も暴走列車の勢いの前に敢えなく失敗する。
一方、同じ路線で貨物車を率いる旧式の機関車1206号には、勤続28年のベテラン機関士フランクと、車掌になってまだ4ヶ月のウィルが初めてチームを組んで乗り込んでいた。が、フランクは人件費削減のためベテランを辞めさせて新人を雇う会社のやり方を面白く思っていないし、ウィルは、不本意ながら親戚のコネで採用されたうえ家庭内のトラブルでいらだっていて、二人の間はぎくしゃくしていた。
彼らはコニーの指令で緊急退避線に避難するが、フランクは、暴走列車が通過すると、率いていた貨車を引き離し機関車のみを後進させて暴走列車に接近していく。後ろから貨物車に連結し、機関車のブレーキで暴走を食い止めようというのだ。ウィルは、初めはこの作戦に反対するが、妻子の住む町が災禍に見舞われるのを防ぐため、危険な試みに加わる決意をするのだった。
FBIも特殊部隊も出てこない。二人の普段着の民間人が、命がけで暴走列車を止めようとする。その過程で険悪だった二人の間に一体感が生まれていく。貨物車と機関車を手動で連結しようとして連結部から落ちそうになったり、暴走する列車の屋根の上を走ったり、車から列車に飛び移ったりするのを見て、手に汗を握った。いつもは幾分目障りに思えるスコット監督独特のザッシュ!というカット割りも今回は控え目。デンゼル・ワシントンも、「サブウェイ123 激突」の時ほど重厚な感じがなく、軽快でいい。暴走する列車の迫力と、はらはらどきどきのアクションをストレートに楽しんだ。
司令室で状況を把握し即座に判断を下してきぱきと指示を出すコニーの仕事ぶりが小気味よく、鉄道局から派遣されてきた監察官ウェーマーが思いの他有能でフランクに適切なアドバイスを与えるなど、脇役も好感が持てる。 (2011.1)


キック・アス KICK-ASS
2010年 イギリス/アメリカ 117分
監督:マシュー・ヴォーン
原作:マーク・ミラー[コミック] 、ジョン・S・ロミタ・Jr
出演:デイヴ・リゼウスキ/キック・アス(アーロン・ジョンソン)、ミンディ/ヒット・ガール(クロエ・グレース・モレッツ)、デーモン/ビッグ・ダディ(ニコラス・ケイジ)、
クリス・ダミコ/レッド・ミスト(クリストファー・ミンツ=プラッセ)、フランク・ダミコ(マーク・ストロング)、ビッグ・ジョー(マイケル・リスボリ)
ケイティ(リンジー・フォンセカ)、マーティ(クラーク・デューク)、トッド(エヴァン・ピーターズ)、エリカ(ソフィー・ウー)、リゼウスキ氏/デイヴの父(ギャレット・M・ブラウン)、マーカス(オマリ・ハードウィック)
ひ弱な男子が扮するヒーロー、キック・アスと無敵の少女ヒット・ガールが活躍するカラフルなアメコミ・ヒーロー・パロディ・アクション。
いけてない男子高校生デイヴは、アメコミに出てくるようなヒーローになりたいという思いを抱き、通販で取り寄せた緑色のマスクとタイツのコスチュームを身にまとい、ヒーローとして街に出る。最初に出会った暴漢に腹部を刺され、倒れたところを車に轢かれて大けがをするが、手術によって体内のあちこちに補強の金属片を埋め込まれ、痛みをあまり感じない身体となる。が、他には何の能力もない。ある夜、三人の若者に襲われる1人の若者をかばって戦う(殴られる)様子が、野次馬によって撮られ、You tubeに流されたことで、ヒーロー、キック・アスとして一躍有名人となる。
やがて、デイヴは、クラスメイトのクリスの父フランク・ダミコが率いる犯罪組織と、彼を敵とねらう、めちゃくちゃ強い謎のヒーロー父娘の戦いに巻き込まれていく。父親ヒーローのビッグ・ダディことデビルは、かつて敏腕刑事だったが、ブラコによって無実の罪をきせられて投獄された上、妻を自殺に追いやられたことで復讐の鬼と化している。ニコラス・ケイジが、親ばかぶりをみせながらも11歳の愛娘を強力な殺人マシンに育てあげる、狂気の父親を怪演。
「夕陽のガンマン」のテーマとともに、ギャングの根城のビルに一人殴り込みをかける女子小学生。マカロニ・ウエスタンの音楽、制服を着た女学生の刺客、情け容赦のないバイオレンス、劇画による過去の回想などが、「キル・ビル」を思わせる。
少女が汚い言葉を連発し、悪漢ども相手に大殺戮を繰り広げることが、物議を醸し出しているそうだ。が、痛快だ。(2011.1)

ひと言(No.47):「くそ野郎が3人、1人の男をぼこぼこにしている。他の連中は黙って見てるだけ。なのに、あんたは、僕がどうかしちまったのかって訊いてくる。死んだっていいんだ、かかってこい!」

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