みちのわくわくページ
時間旅行

○タイムトラベルの本(日本) 2000年〜

<初出版年順>
タイムスリップ森鴎外(鯨統一郎) タイムトラベル・ロマンス−時空をかける恋・物語への招待− クロノス・ジョウンターの伝説(梶尾真治)  ぼくたちの戦争(荻原浩) ブルータワー(石田衣良) 時砂の王(小川一水) 

タイムスリップ森鴎外
鯨統一郎(2002年) 講談社
文豪森鴎外が1922年(大正11年)から現在にタイムスリップ。
ミニスカートに茶髪の女子高生達と、芥川龍之介や太宰治ら昭和初期に亡くなった14人の作家の死の謎を探る。
読み始めには、久々に鴎外の「舞姫」でも読もうかという気にせっかくなったのに、あまりのノリの軽さに読み終えた頃にはそのような気は全く失せていたのであっ た。
ユニクロファッションに身をつつみ、ラップを披露する鴎外はけっこういけてるかも。 (2003.2)


クロノス・ジョウンターの伝説
梶尾真治著
2003年 朝日ソノラマ
クロノスは、時間を司る神の名称。ジョウンターは、SF小説などでよく使われる空間移動を意味する「ジョウ ント」という言葉から来ている。
クロノス・ジョウンターは、物質過去射出機と呼ばれる一種のタイムマシン。大手重機械工業会社の開 発担当部門を引き受ける子会社P・フレックス(株)が開発したのだが、この大発明には大きな難点があった。時間の流れに無理に逆らうことから相当な負荷 が働いて、人や物が過去のある時点に到達しても、数分間で未来に引き戻されてしまい、しかも出発した時点には戻れずより先の未来へ飛ばされてしまうのであ る。遡 る時間が長いほど反動は大きくなり飛ばされた対象が最後にいきつく未来はとんでもなく遠い時代になってしまう。やがて過去滞在時間は補助装置の発明によっ て引き延ばすことが可能になるが、それもせいぜ い2、3日である。とにかく使い勝手が悪すぎて、クロノス・ジョウンターは実用化を見ずお蔵入りとなった。
その機械にまつわるラブ・ストーリーの連作短編 集。クロノス・ジョウンターの使いにくさが恋人たちに試練を与え、彼らの恋心はますます激しく燃えあがる。

★吹原和彦の軌跡
 P・フレックスの研究員である和彦は、花屋の店員来美子に恋をしている。やがて起きるある出来事のせいで 彼女が危機に陥ることを知った和彦は、彼女を救いたい一心で、途方もない時間の旅に出ることに。
★布川輝良の軌跡
 今はもうどこにも残されていない天才建築家の作品を一目見ようと、過去に飛ぶ会社の実験に志願したP・フ レックスの社員、布川輝良。5年の時を遡った彼に許された滞在時間はわずか4日間。取り壊し間際の建築物を探す彼は、一人の女性と運命的な出会いをす る……。
★<外伝>朋恵の夢想時間
 クロノス・ジョウンターが開発された頃、クロノス・コンディショナーという機械も開発されていた。ジョウ ンターが肉体ごと人を過去に運ぶのに対し、コンディショナーは、人の心だけを過去に運ぶ。派遣社員の朋恵は、この機械で、中学時代の自分に戻る。彼女は、 長いこと 心の傷となって残っている出来事を変えようとするが、時間は強固に彼女の意志を阻もうとする。
★鈴谷樹里の軌跡
 少女時代、愛する人を難病で亡くしたことがきっかけで医者となった鈴谷樹里は、新薬が開発され、複雑な思 いに陥る。この薬があればあの人は死なずにすんだのに。樹里の思いは、クロノス・ジョウンターの存在を知ることで強い決意に変わった。(2005.5)
映画化:「この胸いっぱいの愛を」(2005年10月公開予定 監督:塩田明彦)
このひと言(No.16):「今、思い出した。あの子の名字も鈴谷という んだ。」

タイムトラベル・ロマンス −時空をかける恋・物語への招待−
梶尾真治(2003年) 平凡社
「黄泉がえり」の作者によるSFについての エッセイ集。
1章「タイム・トラベル・ロマンス」では、タイムトラベルものを中心に紹介、2章の「プチ入門『センス・オブ・ワンダー』」では、タイムマシン、タイム・ パラドックス、宇宙人、地球侵略、ロボット、パラレルワールド、超能力などについて語り、3章では「黄泉がえり」の映画化について述べている。
甘いロマンスを書きたくてたまらなくなる時がある、という作者の衝動を説明した件りがおかしい。
1章で取り上げられているタイムトラベルものは次の通り。
「るんは風の中」(手塚治虫)、「去りにし日々の光」(ボブ・ショウ)、
「愛の手紙」(ジャック・フィニィ)、「ある日どこかで」(リチャード・マシスン)、
「ジェニーの肖像」(ロバート・ネイサン)、「トムは真夜中の庭で」(フィリバ・ピアス)、
タイムマシン」(H・G・ウェルズ)、「雷のような音」(レイ・ブラッドベリ)、
夏への扉」(ロバート・ハインライン)、「たんぽぽ娘」(ロバート・F・ヤング)、
時尼に関する覚え書」「クロノス・ジョウンターの伝説」「時の果ての色彩」「思い出エマノン」「さすらいエマノン」「かりそめエマノン」「まろうどエマ ノン」(梶尾真治)など。(2004)


ブルータワー
石田衣良著(2004年)
徳間書店
登場人物:瀬野周司、セノ・シュウ(三十委員会メンバー)、ソーク(セノのボディガード、戦士)、セキヤ(セノの秘書官)、リーナ(下層の少女)、シズミ(テロリスト、リーナの弟)、ココ(セ ノの腕時計型万能機械ライブリアンのキャラ)、ミコシバ(地の民解放同盟リーダーの老婆)、オギワラ(三十人委員会委員長)、カネマツ(吟遊詩人)
新宿の高層マンションに住む43才の末期癌患者瀬野周司は、強烈な頭痛とともに突然、200年後の未来にタイムスリップする。
未来の地球は、荒廃していた。世界規模の生物兵器戦争の結果、黄魔と呼ばれる伝染病が破壊の限りをつくしていたのだ。生き残ったわずかな人間は、「タ ワー」と呼ばれる超高層構築物にひしめきあっていた。そこは、高度が人の価値を決める階級社会。周司の意識が入り込んだ先は、支配階級からなる組織三十人 委員会のメンバーであるセノ・シュウの身体だった。
現代と200年後の新宿を行き来する周司が持っていけるものは自分の意識だけ。インフルエンザを遺伝子改変してつくられた究極の生物兵器黄魔を撃退する手 がかりを追う彼は、戦闘の耐えない未来社会で、世界を救おうと奮闘する。
未来の世界はシンプルでわかりやすく、時間ものということでついつい期待してしまう悠久の時間を超えた目から鱗の伏線の消化といったものはほとんどない。 が、軽快な会話と繰り広げられるアクションの数々、登場人物の老若男女がみせる侠気、周司が乗り移ったセノ・シュウがとる行動の小気味よさなど、見せ場は たくさんあって楽しめる。9・11の映像から受けた衝撃が忘れられず、絶対倒れない高さ2キロのビルの話をつくろうと思ったという 作者の思いは、殺し合いより黄魔の撃滅を第一とする周司の強い意志となって伝わってくる。(女性の体を用いて膨大な量の情報を得るという軟弱な手段をとっ たことにはこの際目をつぶります。)
ラストシーンは、エドモンド・ハミルトンの「スター・キング」だそう。(2005.6)


僕たちの戦争
荻原浩著(2004年)
双葉社
ブルータワーと同様、時間旅行の妙というよりは、戦争について語るためにタイムスリップを使ったと思われる 作品。
2002年9月12日、同時多発テロによってニューヨークの国際貿易センタービルが襲撃された日の翌日、19歳の尾島健太は、茨城の海でサーフィン中、突 然空間のうねりに襲われた。一方、1944年同日、霞ヶ浦上空を訓練飛行していた19歳の予科練甲飛十三期生石庭吾一飛行兵長も、鹿島灘沖合に稲妻を見た 直後、練習機ごと空間の歪みに突っ込んだ。
二人は、58年の時を超えて入れ替わることに。顔も体つきも非常によく似ていたため、彼らは周囲に難なく 受け入れられてしまう。いきなり放り込まれた異世界に驚き戸惑いながらも、二人はそれぞれ、なんとかして自分の置かれた時代を生き抜こうとする。
 健太は、高校卒業後進学も就学もせず、漠然とゲームデザイナーになりたいと思っている「根拠なしポジティブ」男。バイトもやめ、恋人のミナミ ともケンカがち、短い髪を銀色に染めてサーフィンをする。そんな彼が、いきなり理不尽で暴力的な軍隊生活を強いられる。思いのほか強い適応力を見せた彼 は、ついには特攻の指令を受けることにな る。ばりばりの軍人である吾一は、平和で軟弱でカラフルで騒々しい2002年の様子に度肝を抜かれ、健太の参考書を見て日本が敗戦したことを知り大きな ショックを受けるが、ミナミのやさしさに救いを見出す。
 二人は、それぞれの時代で十一ヶ月を過ごし、やがて敗戦の日1945年8月15日を迎える。終戦を知りながらも、人間魚雷「回天」に乗るはめになった健 太、ミナミに心惹かれながらも健太がいるはずの沖縄の海に向かい、悲壮な決意で自分の時代に戻ろうとする吾一……。
 いくら似ているとはいえ全くの他人がすんなり入れ替わってしまうことなどを始めツッコミどころはいくらでもあるのだが、そこはあっさり受け入れてハラハ ラドキドキの展開を楽しめばいいと思う。軽快なノリですいすい読み進みながらも、いろいろ考えさせられる。
本の装丁は格調が高すぎて、中身を率直に表しているとは思えなかった。(2004.11)


時砂の王
小川一水著(2007年) ハヤカワ文庫(書き下ろし)
26世紀、人類は、ETと呼ばれる自己増殖する戦闘機械群の襲撃を受け、壊滅の危機に瀕していた。(ETは、最初は地球外生物を意味するExtra Terrestrial の略称だったが、その後 地球の敵the Enemy of Terra となり、ついには単に悪いもの Evil Thingsを意味するようになったとある。)
ETは、時間遡行術によって地球の歴史を遡り、過去から人類を滅ぼす戦術に出る。
人類は、「メッセンジャー」と呼ばれる人型人工知性体を育成し、ETたちの襲撃を阻止するため、彼らを過去に送り出す作戦を開始した。
彼らは作戦の中枢である知性体カッティ・サークの指示のもと、ETが出現する少し前の時代に飛び、その時代に生きる人々に地球の未来の危機を伝え、やがて襲撃してくる敵に立ち向かうための準備をさせる。その時代にはまだなかった知識や技術を伝え、戦いを支援する。そのため、歴史は次々と改変され、新しい時間枝が生まれる。ETが遡る時間はどんどん先になり、世界は絶え間なく枝分かれをしていく。
オリジナル・メッセンジャーのオーヴィルも、恋人サヤカに別れを告げ、時を超えた永い戦いの旅に出る。
人工知性体とはいえ、メッセンジャーたちは心を持っている。サヤカのいた時間軸での地球は滅びる運命にあることを感知し、オーヴィルは彼女と二度と会えないことを知る。気の遠くなるような時空の旅の中で、彼は、自分が持つ彼女の記憶さえも薄れていくことを悲しく思う。
物語は、オーヴィルが、日本の古代、西暦248年の邪馬台国で巫王卑弥呼に遭遇するところから始まる。
以後、オーヴィルの時間遡行歴におけるいくつかの場面と、邪馬台国での戦闘の様子が、章ごとに交互に描かれていく。2598年、2119年、1943年、紀元前98,579年、2010年におけるオーヴィルの活動とその後を描く5つの章は、彼の戦いの軌跡のほんの断片にすぎないのだろうが、このコンパクトさが潔く、読む側の想像力をかきたてる。時を遡った先々で、方々に分かれた時間枝で、様々なの時代の人々と出会い、ともに戦い、無数の死を目にしてきたオーヴィルの最後の戦いの場が邪馬台国であったのだ。
オーヴィルは、卑弥呼の協力を得て、人々に未来からのメッセージを伝える。圧倒的な戦闘能力を持って戦いの先陣に立つオーヴィルは「使いの王」として邪馬台国の人々の心をつかんでいき、卑弥呼は女王としての自身の存在に目覚めていく。
壮絶な戦いの中で、2人は愛し合うようになる。ラブ・ストーリーやノスタルジーを主眼とし、それを盛り上げるための道具として時間ネタを用いるタイムトラベルものは少なくないのだが、その姿勢は正直私はあまり好きではない。やはり時間ネタは時間ネタがメインであってほしいからだ。本作は、時を超えた二人の「王」の恋愛だけが主眼ではないが、その壮大さと切なさにおいて、そのへんのタイムトラベルものラブ・ストーリーを凌駕する。
映画「ターミネーター」を思わせる設定はすでに斬新なものではなく、枝分かれする時間軸という概念も突き詰めていくとあいまいな部分があるような感じがする。話が男前すぎてユーモアに欠け、オーヴィルがあれほど思い続けるサヤカの魅力が私にはどうにも分からなかった。が、そうした点は些末なことであり、本作の魅力は、なんといってもそのスケールの大きさと、苦悩する戦士オーヴィルの痛々しいまでに真摯な生き方にある。
ラストに登場する新型知性体パスファインダーのオメガがオーヴィルの記憶を引き継ぐというのも救いがあっていい。(2011.7)

「タイムトラベル」のトップページへもどる
本インデックスへもどる
トップページに戻る