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○ 本  SF 霊感

<作家姓あいうえお順>
オッド・トーマスの霊感、 ライトニング(ディーン・クーンツ)

オッド・トーマスの霊感 ODD THOMAS
ディーン・クーンツ著(2003年)
中原裕子訳 ハヤカワ文庫
★ねたばれあり!!
南カリフォルニア南部の砂漠の町ピコ・ムンド。この町で生まれ育った青年オッド・トーマスは、成仏しないで彷徨う死者の霊が見えるという特異な能力を持っていた。
20歳のオッドの一人称語りにより、冒頭から彼と彼の家族や知人や町に関する情報が提供され、その量の多さについていけなくてちょっと戸惑う。
が、やがてある朝の話になり、オッドは玄関先で12歳の少女ペニー・カリストを見かける。彼女は無言でオッドを導き、オッドは街角で高校の同級生だった青年ランダースンを待ち伏せることになる。徐々に、少女は死者であり、ランダースンが彼女を殺した犯人であることが明かされる。オッドは、逃走するランダースンを追跡し、警察がやってきてランダースンを逮捕する。警察署長のワイアット・ポーターは、オッドと懇意であること、彼はオッドの霊感のことを知っていて、これまでも彼の能力によって解決された事件があり、そのたびにオッドの能力が知られないように取りはからってきたことなどがわかる。オッドの現状を一気に説明する、見事なつかみである。
オッドは、町のレストランでコックをして慎ましく暮らしていた。ポーターの他に、恋人のストーミーと雇い主のテリ、巨漢の作家リトル・オジーが彼の能力を知っている。
ある日仕事場のレストランにやってきた客の男の周囲に大勢の“ボダッハ”がまとわりついているのを見たオッドは、町で大惨劇が起こりつつあることを“知る”。“ボダッハ”は、オッドにしか見えない黒い不定形の影のようなもので、「死」を好み、厄介ごとに遭いそうな人間の周囲に集まってくるのだ。
オッドは、その男(ボブ・ロバートソン)を追い、家に侵入して彼が預金をたくさん持っていること、連続殺人犯の犯罪記録を収拾していること、さらに翌日に何かを決行しようとしていることなどを知る。オッドがロバートソンの家で足を踏み入れてしまったボダッハの通り道である異次元空間への出入口は本筋とは直接関係ないが、クーンツらしいSF的な無間地獄空間で興味深かった。
刻々と近づいてくる惨劇の時。しかし、ここは引っ張り過ぎていささかイライラする。
何かにつけオッドの周囲に姿を見せるロバートソンがすでに死んでいるのではないかということは予想がついたが、最後はだまされた。あれだけヒントがあるにも関わらず、希望的観測に取り込まれてしまった。私もまだまだ甘いと思った。
オッドは、ひどい少年時代を送ったにも関わらず、自分の異能を受入れ、正義を通して前向きに生きている。恋人のストーミーを始め、彼を取り巻く人々の目も温かい。それだけに、心痛む結末だった。
エルヴィス・プレスリーの幽霊が出現し、しかも他の死者は死んだときの身なりでしか現れないのに、彼の幽霊だけは衣装を変えるというのがおかしかった。(2013.3)

関連作品:「オッド・トーマスの受難」「オッド・トーマスの救済」「オッド・トーマスの予知夢」

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