みちのわくわくページ

○ 本  SF 日本

<作家姓あいうえお順>
星界の紋章TUV(山岡浩之)
マルドゥック・スクランブル 圧縮 燃焼 排気(冲方丁)
日本SF精神史(長山靖生)

星界の紋章T 帝国の王女 
星界の紋章U ささやかな戦い
星界の紋章V 異郷への帰還

森岡浩之著(1996年) ハヤカワ文庫
星間帝国の王女ラフィールと、不本意ながら帝国の貴族となった地上人の少年ジントが活躍する宇宙冒険活劇。
帝国を統治するのはアーブと呼ばれる種族。青い髪をした姿の美しい種族で長命で年をとらない。遺伝子改造によって宇宙空間に適応した人類の子孫である。空識覚と呼ばれる独特の知覚で自分の前後左右の空間を察知できるが、船上では機体と連携して宇宙船の感知機器の情報をそのまま前頭葉の航法野という、これもアーヴ独自の領野に送り込むことができる。これにより宇宙空間での戦闘において優れた能力を発揮する。殿上人のイメージである。
アーヴの貴族が領土として個々の星系を統治するが、実際に星系を司るのは領民代表となった地上人である。地上人が直接帝国に仕えるには、国民となって故郷の星との関係を絶たなくてはならない。
ジントの故郷である惑星マーティンのあるハイド星系は、帝国に征服される際、政府主席であったジントの父ロック・リンが領主になることを申し出て帝国がそれを受け入れたため、ロック・リンとジントは、希少な地上人の貴族となった。が、帝国側に寝返ったということで、二人は、マーティンの住人たちの反感を買い、嫌悪の対象となっている。
ジントは、ハイド伯爵公子として、帝都ラクファカールの学校で主計科翔士となる勉強をするため、巡察艦ゴースロスに乗船する。そこで、翔士修技生のラフィールというアーヴの少女と出会うが、彼女は帝国の皇帝ラマージュの孫娘だった。
1巻の半分くらいまでは、以上のようなジントとラフィールの身の上紹介と、星間帝国の統治システムや身分制度や文化や歴史の説明が主で、それが過ぎた辺りからやっと話が動き出す。
人類統合体がアーヴ帝国に戦争を挑み、巡察艦ゴースロスを襲撃する。艦長のレクシュ百翔長は、ラフィールとジントを小型連絡艇で脱出させる。
二人が、給油のためにフェブダーシュ男爵領に立ち寄ったが、そこで思わぬ待遇を受けるところで1巻は終わる。
2巻は、フェブダーシュ男爵領で一騒動あった後、スファグノーフ侯国の惑星クラスビュールに不時着し、反帝国クラスビュール戦線と称する奇妙な5人組に人質とされるまで。
そして3巻は、その5人組の力を借りて人類統合体軍の追っ手を交わしてクラスビュール脱出を図る2人の逃走劇となる。
というふうに、全3巻であるが、1巻ごとに区切りがあるわけではなく、話はずっと続いているので、3巻まとめて読まないと欲求不満に陥る。

美しく尊大で戦いにめっぽう強く、時として素直な面を見せるラフィール姫と、地上人としてごくまっとうで軽口の絶えない気さくな少年ジントが、危険な逃避行の中、愉快な掛け合いをしながら、少しずつうち解けて仲良くなっていく様子が楽しい。
宇宙空間での宇宙船による戦闘は、この物語の見せ場のひとつなのだろうが、平面宇宙とか「門」とか、込み入っていて、だいぶ流して読んでしまった。個人的には、惑星クラスビュールに降りたってからの地上でのジントとラフィールの逃走劇にわくわくした。
宇宙では、ラフィールが主導権を握っていたが、地上ではジントがラフィールを守る立場になる。
途中で絡んでくる反帝国クラスビュール戦線の五人組(陽気なリーダーのマルカ、クールな志士ミン、愉快な葬儀屋、飛ばし屋のビル、無口な大男ダスワニ)や、ルーヌ・ビーガ市警の気骨のある警部エントリュアなど、ユニークな面々が出てくるのもおもしろい。
逃走劇のクライマックスは、戯画化された機械動物たちがうろうろする遊園地(幻想園)で迎える。機械動物たちのとぼけた対応が愉快であり、馬が疲れ切った二人を乗せてく走ってくれるのもいい。宇宙への脱出には葬儀場が使われる。この動物園と葬儀場という舞台設定が秀逸だ。
余談だが、愉快な五人組の一人である葬儀屋が、危機的状況に陥ったときに何度となく口にする「茨の茂みに飛びこんだ男」の話は、映画「荒野の七人」でスティーヴ・マックィーンが口にした「服を脱いでサボテンの上に飛び降りた男」の話がもとになっていると思われる。(2012.1)

参考:「服を脱いでサボテンの上に飛び降りた男に何故そんなことをしたのか聞いたことがある。・・・そのときはそれでいいと思ったんだとよ。」(「荒野の七人」のヴィン(スティーブ・マックィーンのセリフより)

マルドゥック・スクランブル 
冲方丁(うぶかたとう)著(2003年)
ハヤカワ文庫
登場人物:ルーン・バロット(少女娼婦)、ウフコック=ペンティーノ(事件屋)、ドクター・イースター(事件屋)、シェル=セプティノス(賭博師)、ディムズデイル=ボイルド(事件屋)、ミンチ、フレッシュ、レア、ミディアム、ウェルダン(畜産業者のグループ)
15歳の少女娼婦ルーン・バロットと、変幻自在のネズミ型万能兵器ウフコック・ペンティーノが、事件屋コンビとなって連続殺人犯を追うSFハード・アクション。
人名を初め、ものにはたまごに関係する名がつけられている。

以下あらすじ紹介。ネタばれもあり。
バロットは、シェルという名の賭博師により炎上する車の中に閉じこめられ殺されかける。
事件屋のドクに救助された彼女は、金属繊維による人工皮膚を全身に移植することによって蘇生し、高度な電子干渉能力(スナーク)を得る。つまり、見ていなくてもものの動きを察知し、手で触れることなく機械を作動させることができるようになったのである。
彼女を助けたドクは科学者、彼の相棒のウフコックは、人間ではなく、ネズミの形をした変幻自在の万能兵器だった。好きなように姿形を変え、銃器を作りだすことができる。例えば彼はスーツとなってバロットの全身を覆い、必要な時は、バロットの手元に銃を形成するのである。
一方、シェルの事件担当官ボイルドは、かつてのウフコックの相棒。ウフコックが生き物の形をし、心を持った兵器であるのと対照的に、ボイルドは、兵器化した人間、けがの治療を受ける際に科学者によって様々な手を加えられた結果、眠りを必要とせず重力を自在に操るという特異な肉体を持つ冷酷な人間兵器となっていた。
バロットは、ドクとウフコックとともに自らの事件を解決することを決意する。
彼らは、シェルが殺人を繰り返す要因は彼が自ら消し去った過去の記憶の中にあると推測。シェルが捨てた記憶のデータが、シェルの雇い主である大企業オクトーバー社が経営するカジノの百万ドルのチップに埋め込まれていることを突き止める。
バロット、ウフコック、ドクの3人は、客となってカジノに乗り込み、目的のチップを手に入れるためのギャンブルに挑む。ブラックジャックの長い勝負を経て大勝したバロットたちはついにシェルの記憶データを得る。シェルには、陰惨な過去があった。
シェルにマネーロンダリングをさせていたオクトーバー社の重役は、バロットたちに刺客を差し向けるが、彼女らにたやすく撃退されると、ボイルドを雇い、シェルの殺害を命じる。バロットとウフコックは、シェルの身柄を確保するため、ボイルドと対決する。
変幻自在の万能兵器と金属の皮膚に包まれ機械を自在にあやつる少女が銃撃する戦闘アクション小説かと思ったのだが、もっとも印象が強く、量的にも多くのページを占めるのは、カジノでのゲームの場面である。ルーレットの勝負ではベル・ウィングという老女のスピナー、ブラック・ジャックの勝負ではアシュレイ・ハーヴェストというディーラーが登場して、いずれも渋いベテランぶりを見せる。延々と続くディーラーとバロットたちとのゲームの駆け引きの様子は、戦闘シーンを読んでいるような、緊張と興奮を誘うのだった。
「圧縮」「燃焼」「排気」の3巻からなる。

圧縮:シェルの手によって殺されかけたバロットは、蘇生し、ドクとウフコックという味方を得る。バロットは、ウフコックを用いてボイルドが差し向けた刺客をいとも簡単に撃退するが、暴走しウフコックを濫用したことで彼に大きなダメージを与えてしまう。
燃焼:科学者たちの「楽園」で、バロットは、言葉をしゃべるイルカのトゥイードルディムや痛みを知らない完全個体の少年トゥイードルディと出会う。バロットを追ってきたボイルドは暴虐の限りを尽くすが、楽園はすぐさま楽園に戻るのだった。バロットたち3人はカジノに乗り込む。
排気:ブラックジャックの勝負の末、バロットたちは、ついにシェルの記憶データを手に入れる。バロットとウフコックは、ボイルドとの最後の戦いに臨む。
※「マルドゥック・スクランブル」は、マルドゥック市における裁判所命令の一種で、人命保護を目的とした緊急法令の総称である。バロットたちが行使するマルドウック・スクランブル−09は、緊急法令の一つで、非常事態においては、法的に禁止された科学技術の使用が許されることをいう。これによって、ウフコックは自らの有用性を証明しようとしているのである。(2011.1)

日本SF精神史 幕末・明治から戦後まで
長山靖生著(2009年)
河出ブックス
最近は、「SF」というと売れず、「ファンタジー」とすれば売れると聞く。わたしは全く理系の頭を持ち合わせていないにも関わらず、どちらかというとファンタジーは苦手で、SFという方が好きである。冒険科学小説がいつからSFと呼ばれるようになったのか、日本のSF小説の歴史を幕末からたどるという、希少な内容の一冊である。
幕末から明治にかけての、理想世界を描いた架空小説をSF小説とみなし、尾崎行雄ら民権派の志士による民権・国権政治小説を紹介、森鴎外の冒険小説への言及や、幸田露伴が科学小説、冒険小説を書いていたことなどもわかっておもしろい。明治三十年代に「食道楽」(村井弦斎著)という「美味しんぼ」のような小説が大ヒットし、社会改良の小説として筆者はこれもSFに入れる。(この小説については、夏目漱石も「琴のそら音」の中で触れているという。)
明治時代の「冒険世界」を始めとする三大冒険雑誌、大正に入っての「新青年」の創刊、昭和になると江戸川乱歩、海野十三という名が出てきて、探偵小説が百花繚乱となるが、太平洋戦争とともに廃れ、軍事冒険小説が隆盛となる。手塚治虫が戦前と戦後の橋渡しをし、やがて昭和29年「星雲」創刊となる。「星雲賞」の星雲と思われるが、意外なことにこの雑誌は創刊号しか出なかったという。やがて星新一や広瀬正の小説の解説に必ず出てくる「宇宙塵」、今も出版されている「SFマガジン」(昭和34年12月創刊)へと続く。SF雑誌の変遷がそのまま日本SF史となっていて興味深い。(2010.5)

本インデックスへもどる
トップページへもどる