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○ 本 怪 

<作家姓あいうえお順>
死ねばいいのに  嗤う伊右衛門(京極夏彦)
谷崎潤一郎犯罪小説集(谷崎潤一郎)
みんな行ってしまう(マイケル・マーシャル・スミス)
乱歩の選んだベスト・ホラー(アンソロジー)

嗤う伊右衛門
京極夏彦著 (1997年)
中央公論社
鶴屋南北の「東海道四谷怪談」よりも前の「四谷雑談集」が元になっているらしい。
「東海道四谷怪談」ですっかり悪人のイメージがある民谷伊右衛門だが、本作の伊右衛門は、惚れた女に翻弄される実直な男。フランスの作家メリメの傑作「カ ルメン」に登場するドン・ホセを彷彿とさせる役回り。
一方、貞淑なカルメン(というと矛盾しているようだが)ともいうべきお岩は、その気性の激しさで他を圧倒する。
腕の立つ侍でありながら、無言でじっとお岩の仕打ちに耐える伊右衛門。その思いが吹き出すようなクライマックス。伊右衛門の鬼気迫る様子にどきどきさせられる。
「東海道四谷怪談」にも出てくる直助は、ここではけちな小悪党ではなく、凄惨な生き様をみせる町人として描かれる。
「怪」シリーズなどで有名な小股潜りの又市が、ひょうひょうとした通りすがりの儲け役で登場。お岩との出会いの場面はいくらなんでもかっこよすぎ。 (2003.7)


乱歩の選んだベスト・ホラー
森英俊、野村宏平編
ちくま文庫(2000年)
江戸川乱歩のエッセイ「怪談入門」で紹介されている海外作品の中から、ミステリ研究家が12編の短篇を選出したアンソロジー。(2003.6)
☆怪談入門
江戸川乱歩 「幻影城」(1951年)に収録。
乱歩が、自ら読んだものから欧米の「怪談」を紹介。中国や日本の古典にも言及している。
独自のジャンル分けもしているので、以下にその例を記す。(太字は本書収録作品)
1.透明怪談
「オルラ」(モーパッサン)、「光と影」(ジャック・ロンドン)(※「火を熾す」所収の「閃光と影」と同作品と思われる)、「透明人間」(H・G・ウェルズ)、「廃屋の霊魂」(M・オリファン ト)、「ねじの回転」(ヘンリー・ジェームズ)、「ザント婦人と幽霊」(W・コリンズ)、「魅入られたギルディー教授」(R・S・ヒチェン ズ)等
2.動物怪談
「人狼」(マリヤット)、「緑茶」(レ・ファニュー)、「古き魔術」(ブラックウッド)、「スフィンクス」(ポー)、「樽工場の怪」(ドイ ル)、「蜘蛛」(エーヴェルス)、「歩く疫病」(E・F・ベンソン)、「海鰻荘奇談」(香山滋)等
3.植物怪談
「ラプチニの娘」(ホーソーン)、「毒の園」(ヒョードル・ソログーブ)等
4.絵画、彫刻(人形)の怪談
「ドリアン・グレイの肖像」(オスカー・ワイルド)、「楕円形の肖像」(ポー)、「専売特許大統領」(W・L・アルデン)、「砂男」(アマ デュース・ホフマン)、「マクソンズ・マスター」(アンブローズ・ビアス)、「押し絵と旅する男」(乱歩)等
5.音又は音楽の怪談
「柳」(ブラックウッド)、「ダンウィッチの怪」(ラブクラフト)等
6.鏡と影の怪談
「プラーグの大学生」(エーヴェルス)、「魔法の鏡」(ジョージ・マクドナルド)、「アウトサイダー」(ラブクラフト)、「鏡地獄」(乱 歩)等。
7.別世界怪談(四次元的怪談)
「柳」(ブラックウッド)、「ダンウィッチの怪」(ラブクラフト)、「盲人国」「タイムマシン」(H・G・ウェルズ)等
8.疾病、死、死体の怪談(医学的怪談を含む)
「人面疸」(谷崎潤一郎)、「赤き死の仮面」(ポー)、「笑う人」(ユーゴー)、「ラウンド・ザ・レッド・ランプ」(ドイルの医学短編集)、「早すぎた埋 葬」「モノスとユナの対話」(ポー)、「ふさがれた窓」(アンブローズ・ビアス)、「エミリーにばらを」(ウィリアム・フォークナー)等
9.二重人格、分身の怪談
「ジキル博士をハイド氏」(スティーブンソン)、「ウィリアム・ウィルソン」(ポー)、「プラーグの大学生」(エーヴェルス)

<収録作品>
☆猿の手 The Monkey’s Paw
W・W・ジェイコブズ(イギリス) 倉坂鬼一郎訳
三つの願いをかなえてくれるという「猿の手」をめぐる、怪奇短篇の古典的名作。
☆ 猫の復讐 The Squaw
ブラム・ストーカー(アイルランド) 仁賀克雄訳
猫の怨念と、「鉄の処女」と呼ばれる拷問器具、二つのものがもたらす二重の恐怖。
☆歩く疫病(ネゴティウス・ペランブランス) Negotium Perambulans
E・F・ベンスン(イギリス) 西崎憲訳
ひなびた村に現れるという謎の生物。教会の古い鏡板に描かれた不気味なナメクジの絵が恐怖を誘う。
☆樽工場の怪 The Fiend of the Cooperage
コナン・ドイル(イギリス) 白須清美訳
アフリカのある島の樽工場で起こる異変。不気味な前触れの後ついに姿を現す怪物は、豪快でストレート。
☆ふさがれた窓 The Boarded Window
アンブローズ・ビアス(アメリカ、「生のさなかにも」に収録) 村上知久訳
大森林の中の小屋に一人で暮らす開拓民の男。閉ざされた窓には、彼の妻の死の秘密がこめられていた。最後の 一行が強烈。
☆廃屋の霊魂 The Open Door
マーガレット・オリファント(イギリス) 羽田詩津子訳
かつての大邸宅は崩れ落ち、入口だけが残る廃墟。どこにも通じることのないドアのそばで、「かあさん、入れ ておくれよ!」と訴える子どもの声。大人達には聞こえないその悲痛な叫びを少年だけが聞いていた。
☆ザント婦人と幽霊 Mrs.Zant and the Ghost
ウィルキー・コリンズ(イギリス) 村上知久訳
死んだ夫が、目に見えぬ存在となって妻の周囲に現れ悪人から彼女を守ろうとする。見えなくても感触はあり、 妻は物も言わず目にも見えない夫とくちづけし抱擁を交わす。ロマンティックな幽霊譚。
☆魔法の鏡 The Lady in the Mirror
ジョージ・マクドナルド(イギリス) 白須清美訳
鏡の中だけに現れる美女に恋する学生の悲劇。「怪談入門」では「鏡中影」として紹介。乱歩は、エーヴェルス の「プラーグの大学生」との類似性を指摘している。
☆ 災いを交換する店 The Bureau d’Echange de Maux(The Shop That Exchanged Evil)
ロード・ダンセイニ(アイルランド) 吉田誠一訳
「二瓶のソース」の作者による、ブラックな一遍。
☆専売特許大統領 
W・L・アルデン(イギリス) 横溝正史訳
南アメリカのとある小国の大統領の正体は? 奇想天外、愉快なSF短篇を横溝正史が翻訳。
☆蜘蛛 Die Slinne
H・H・エーヴェルス(ドイツ) 植田敏郎訳
あ るホテルの一室で、泊まり客が三人続けて首吊り自殺を遂げた。それもみな金曜日の夕方と決まっていた。謎の解明に挑もうと問題の部屋で暮らし始めた医学生 は、通りの向かい側の部屋に住む女性の存在を知る。言葉を交わすこともなく、窓越しに見つめあううち、学生は彼女の不思議な魅力の虜になっていく。
☆目羅博士
江戸川乱歩(昭和6年「文芸倶楽部」に発表)
エーヴェルスの「蜘蛛」の着想を借りて、乱歩が独自の世界を展開。
月光を浴びた都会のビルの谷間。漂う怪しい雰囲気は、なんとも不気味でしかも心地よい。

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