みちのわくわくページ

○ 本 ファンタジーなど

<作家姓あいうえお順>
雲の王(川端裕人)、 幽霊人命救助隊 13階段(高野和明)、 ツナグ(辻村深月)、 ルート225(藤野千夜)

雲の王
川端裕人著(2012年) 
集英社文庫(2015年)

気象予報士の仕事ぶりや空や雲など空模様についてのことがたくさん書いてあるのかと思って読んだのだが、違った。気象を感じ取る特殊能力を持つ一族の話で、ファンタジー要素がだいぶ強い。最初からそのつもりで読めばよかったのだが、「竜」とかも(主に言葉でだが)出てきてあまり趣味に合わないので、残念ながら途中で断念してしまった。「観天望気」(天を見て気象を望み見る)という言葉を教えてもらったのはよかった。(2015.10)

幽霊人命救助隊

高野和明著(2004年)
文春文庫
書店でみつけてなんの予備知識もないまま衝動買いした。
タイトルと裏表紙の説明から想像できる通りの展開だったが、どうやって人に自殺を思いとどまらせるかというテーマは興味深く、適度にユーモアが交えてあって読みやすかった。
二度目の東大受験に失敗し自殺を図った浪人生の高岡祐一は、他の3人の自殺者とともに、自殺志願者100人の命を救うよう、神様から指令を受ける。そうすれば、彼ら4人は成仏させてもらえるのだ。
老いたヤクザの八木、気弱なサラリーマンの市川、けだるげな20代の美女美晴らとともに祐一はミッションを遂行していく。
人々に幽霊たちの姿は見えず、声も聞こえないが、神様からもらったゴーグルで自殺しそうな人間を見つけることができ、神様からもらったメガホンで叫ぶと人の心を動かすことができる。幽霊なので人に乗り移って心の中を探ることもできる。
ということで彼らの作戦は、状況把握をした上での誘導となる。
たとえば自殺志願者Aのことを知るためには、A本人だけでなく、彼の知人Bの中に幽霊の一人が進入し、もう一人がメガホンで「A!」と叫べばBがAのことを考えるので、Aの置かれた状況がBの視点からわかるのだ。幽霊たちは直接手は出せないので、本人の気を変えさせるだけでなく、他人を動かして自殺を止めさせる方法も編み出されていく。
という感じで、タイトルの幽霊人命救助隊は、孤独な人々やもろもろの事情で追いつめられている人々を次から次へと自殺から救っていく。
それぞれの自殺志願の面々の事情はヴァラエティにとんでいて、ぎりぎりで自殺を食い止めるいくつかのケースでははらはらどきどきする。
うつ病に関する説明も研究のほどが窺えるし、それぞれの人物についての説明も丁寧である。だが、どうしても自殺に関する資料の事例集という感じがぬぐいきれない。
幽霊であるため、彼らとターゲットとの間で直接的な交渉が交わされないからなのだろうか。
祐一の家族が登場する最後の1件以外は、あまり「物語」を読んでいる感じがしなかった。(2010.1)


ツナグ
辻村深月著(2010年)  新潮文庫(2012年)
映画館で「ツナグ」の予告編をみたとき、「ちがう」と思った。でもまず見てからと思ったのだが、映画を見逃してしまったので原作を読んだ。
一生に一度だけ、死者との再会を叶えてくれるという使者(ツナグ)を探し当て、一晩だけ死者との再会を果たす人々を描いた連作短編集。
都市伝説のような「ツナグ」の噂は、実際のことだった。ツナグの存在を本気で信じ、本気で死者との再会を望む人は、運がよければ、いろいろなルートを経て彼にたどりつくことができる。ツナグは、ブランドもののダッフルコートを着た高校生くらいの男の子で、最初に依頼人とある病院の中庭で打合せをし、そして、満月の夜に品川の高級ホテルで、死者と生者の面会をセッティングする。
1話目は、人付き合いの苦手な冴えないOLが、急死した憧れのアイドルの女性に会う。2話目は、稼業を引き継いだ傲岸不遜な中年の田舎の工務店経営者が、病死した老母に会う。3話目は、女子高校生が事故死した親友に会う。4話目は、何年も前に失踪した恋人を忘れられない会社員が、実は亡くなっていた彼女に会う。そして最後は、「ツナグ」である高校生歩実自身の話となる。それまでの4話の話と時間が交錯しながら、彼が「ツナグ」になったいきさつや、幼い時に無理心中で亡くなったとされる両親の死の真相が明かされていく。
1話目、2話目、4話目は、死者に会ったことで生者がなんらかの救いを得る話となっている。死者との再会という設定を耳にした時点で普通に期待されるなりゆきである。が、3話目の女子高校生の話だけが、ひどく辛辣で手厳しい。互いに親友と思っている二人の女子高校生の危うい関係は、著者がもっとも身近で熟知している世界なのではないかと思われる。彼女たちはどちらもちゃんと相手に向き合わない。そのせいで二人の間に生まれたわだかまりはどんどん大きくなり、どうにもやるせない展開となるのだ。
話はそれぞれしっかりしていると思った。たった一晩の再会ですべてがすっきり解決するわけではなく、そのへんもいろいろ考えられていると思う。ツナグである歩実自身は、死者に会うことなく両親の死の謎を解明することができてよかったし、死者と面会した4人の生者たちのその後の様子も丁寧にフォローされて終わっている。
でも、やっぱり、心残りを残したまま近しい人と死別し、もやもやとした思いを抱えながらも生きている者たちの間でなんとかやっていくのが人間だと思う。ミステリの謎ときや恨みつらみのこもった復讐譚などのエンターティンメントでこうした設定が手段として使われるのはありだと思うのだが、人生の救いを求める(あるいは求めて得られない)人間ドラマにおいてのこうした設定は、個人的にはどうも好みではないなあと思った。(2013.6)

映画化:「ツナグ」(2012年。監督:平川雄一朗、出演:松坂桃季、樹木希林)

ルート225
藤野千夜著(2002年)
新潮文庫
中2のエリ子と中1のダイゴの兄弟は、ある日の夕方公園から帰る途中で、慣れ親しんできた世界とは微妙にずれたパラレルワールドに迷い込んでしまう。
両親の不在、死んだはずのクラスメイトの出現、疎遠になったはずの友人と続いている友情。
とまどいながら二人は自分たちのおかれた状況を少しずつ受け入れていく。
唯一の交信手段である高橋由伸のテレホンカードの度数が残り少なくなっていく中、二人が元の世界の両親を思って行う試みが切ない。(2005.6)

映画化:「ルート225」(2005年 監督:中村義洋、主演:多部未華子、岩田力)
このひと言(No.19):「ていうか、どこにいても、絶対に誰かがいな いような気がするんだけど、世の中って。」

本のインデックスへもどる
トップページへもどる