みちのわくわくページ

本 本 社会・経済など(新書)

<著者姓あいうえお順>
沈黙の春(レイチェル・カーソン)、
アメリカの原理主義(河野博子)、 「世界遺産」20年の旅(高城千昭)、 
「ニート」って言うな!(本田由紀、内藤朝雄、後藤和智)
食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字<上>(山田真哉)

沈黙の春 Silent Spring
レイチェル・カーソン著(1962年)
青樹青簗一訳
新潮文庫(1974)キンドル版
三体」にも出てきたので、この機会に有名な古典を遅ればせながら読む。
タイトルが、化学薬品によって動物がいなくなってしまった森の様子を表わすものであったことに今更ながら気づく。
「死の霊薬」としての農薬の怖さ、単に農薬がまかれた農地だけでなく、地下水、海水、土壌などに広がるその影響や、癌についての話など、脅威はどこまでも広がっていく。
人口着色料・保存料など、私がこどものころは、食べ物にがんがん使われていたものだ。
アマゾンの書評を読むと、古いとか、事例の羅列が退屈だとか書いてあるが、小説ではないので、できるだけ多くの事例を示すのはまっとうなやり方だと思う。農薬や化学物質の名前などを羅列されても覚えられるものではないが、それだけたくさんのものが量産され、それだけ多くの被害があったということが筆者は言いたいのだ。そして古いのは当たり前で、そのころ(1960年代初頭)に比べるとだいぶ意識が高まってきて、今では当たり前のように扱われている環境問題が論じられ、対策が講じられるきっかけとなった本であることを思うと、感慨深いものがある。2019.12


アメリカの原理主義
河野博子著(2006年)
集英社新書
読売新聞の特派員である著者が、アメリカ滞在中に感じたという、「9.11以降、アメリカの社会の座標軸がズズッと右にずれたような変化」についての報告。「宗教右派」の存在を中心に、現代アメリカに見られる対極的なものの考え方、共和党支持と民主党支持(レッド・ステーツとブルー・ステーツ、アメリカ中西部・南部と東海岸・西海岸大都市部、深い信仰心と知性)、アメリカの統一と多様性の尊重、西洋文明やキリスト教の重視とマルチカルチュラリズム(多文化主義)、さらには中絶に関するプロ・ライフ(中絶反対)とプロ・チョイス(判断は女性が行う)、同性結婚反対と賛成など、それぞれの価値基準や考え方の広がりそれに基づく活動などについて、様々な立場の人へのインタビューを交えて説明している。
映画「アメリカン・スナイパー」で、主人公の狙撃手が子どもの頃、父から叩きこまれた教え「世の中には、3種類の人間がいる。羊と狼と番犬だ。おまえは番犬になれ。」という言葉が、まさに、著書のいう、中西部の、信心深い人たちの、「アメリカは特別な国であり、神の使命を担っている」という考え方を率直に表していると思った。(2015.10)
●メモ

「世界遺産」20年の旅
高城千昭著 
河出書房新社(2016)

帯にあるように、放映20周年のTBS系のテレビ番組「世界遺産」(毎週日曜6:00〜6:30)のディレクター及びプロデューサーを長きに渡って務めてきた著者による世界遺産談義。
世界遺産の登録は、地元からの推薦申請が必須、世界遺産となるための条件(評価基準)を満たしたうえで、地元の行政、企業、住民などが将来にわたって遺産を維持管理し保全していく体勢が整っていることが承認されなければならない。ということは、仕事でちょっとそういった業務に携わったので知っていたが、登録にあたっての評価基準とは具体的にどういうものなのか、その基準でどのようなところが選ばれているか、といったことはほとんど知らなかった。
本書は、世界中にある世界遺産についてカタログ的に紹介するものではないので、個々の世界遺産についての詳しいデータやカラー写真によるビジュアルな情報を求める人にはそぐわない。「世界遺産」というしくみそのものについての解説本である。世界遺産とは、いつごろどのようにして始まったか、世界遺産はどのような基準で登録されるのかといったことが丁寧に説明されている。世界遺産を何か所か見に行ったことがあったり、メディアを通して映像を見て知っていたりするけど、そもそも世界遺産ってどういうものなんだろうということに興味がある、そういった人におすすめの一冊である。
世界遺産とは、まず不動産であることが大前提、そして自然遺産と文化遺産とがあり、それぞれに満たさなければならない10の評価基準がある(文化遺産:1傑作、2交流、3文明の証し、4時代性、5文化的な景観、6無形、自然遺産:7絶景、8地球温暖化、9生態系、10絶滅危惧種)。このうちの1つを満たせばいいのだが、1件で複数をみたしているものもある。
(「和食」や「祭り」は不動産じゃないのに、と思ったのだが、検索して調べたところ、あれは同じユネスコでも「世界遺産」ではなく、「無形文化遺産」というものなのだった。)
著者は、これら10の評価基準に付いてひとつひとつ順を追って説明している。長年に渡って世界各地に取材した経験を駆使して、それぞれの基準で選ばれた遺産の代表的なもの、あるいは自ら感銘を受けたものを紹介してくれる。いろいろ出てきたが、「古都アユタヤ」(タイ)の菩提樹の根に絡まれて浮き出たブッダ像の顔や、「リオ・ピントゥラスの手の洞窟」(アルゼンチン)の大峡谷の岩陰に大量に遺されている遥か昔の人々の手形など、白黒写真で見てもすごいと思った。
また、世界遺産は、石の建造物が多いヨーロッパに偏りがちだったため、アジアやアフリカにも増やせるよう、評価基準に新しい傾向がでてきたということも興味深かったし、富士山がなぜ自然遺産でなく、文化遺産なのかという説明もわかりやすかった。(2017.2)

ニートって言うな!
本田由紀、内藤朝雄、後藤和智著 2006年 光文社新書
「ニート」は、働かず、就学せず、求職行動もしていない若者を指す言 葉。もともとはイギリスの、16〜18歳のもろもろの事情から就職できないでいる子ども達(失業者を含む)を指す語らしいが、日本では、15〜34歳とい う幅広い年齢層の、仕事も何もしないで家でぶらぶらしている怠け者の若者というイメージが広がっていて、ニートをなんとかしなきゃという風潮が高まってい る。これに対する三者の反論をまとめたもの。
第1部 「現実」−「ニート」論という奇妙な幻影(本田由紀)
「ニート」という言葉のもともとの意味や、その後日本で勝手に独り歩きして語意が変わってきた経緯を説明している。就職・雇用問題については、主に大学卒業時のみにしか就職の機会が得られないことや、大学で何一つ職業訓練的なことをやっていないでいきなり職場に入る新人社員など、私も自分の経験からつくづく感じていた就職システムの不備というか、かなり合理的でないなあと思っていた部分を、ずばっと論じてくれていてすっきりする。
第2部 「構造」−社会の憎悪のメカニズム(内藤朝雄)
「近頃の若者は」という若者批判はいつの時代にもあるものらしいのだが、それがエスカレートしている昨今の状況を批判的に論じたもの。
最近、朝日新聞のTVコマーシャルで「言葉は○○だ」というフレーズを繰り返すものが放映されている。「言葉は時に無力だ」といった内容の一節を聞くたびに「無力」じゃなくて「無責任」だろっ!とつっこみたくなる。マスコミのせいで、言葉の価値がインフレを起こしてやたら安っぽくなってしまうことはあると思う。この2部の、若者をス ケープゴートにしたがる世間の悪意を煽るマスコミ、という批判は、個人的にはけっこう痛快だった。

第3部 「言説」−「ニート」論を検証する(後藤和智)
過去に出た「ニート」に関する文献ほかを徹底検証。大変な作業だと思う。できれば、もう少し著者の主張を書いて欲しかったと思う。(2006.5)

食い逃げされてもバイトは雇うな 禁じられた数字<上>
山田真哉著 2007年 光文社新書
ベストセラー「さおだけ屋はなぜ潰れないか」に続く、経理についてのわかり やすい説明本。 今回は、前半部分を費やして「数字」の機能について説明。著者が見出した数 字の4つのルール「順序がある、単位で意味を固定する、価値を表現できる、変化しない」や、「決めつけ」「常識破り」「ざっくり」といった数字に他の意味 をもたせる方法を紹介し、広告に使われる数字が、嘘ではないが、企業にとって聞こえがよく人の関心をひくように工夫されていることを説く。 表題は、「さおだけ屋」でも触れていた、経理の原則に関わる内容。店長一人 でやっているラーメン屋は店長がいない隙によく食い逃げをされる。バイトを雇えばいいのにと思われるが、それは本当に合理的なのかという風に展開してい く。 筆者自ら1時間で読めると謳っているように、あっという間に読める。しか も、数字に関してちょっと賢くなった気になれる。(2007.5)

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