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本 本  ミステリ(日本) あ行

<あ行作家姓あいうえお順>
陽気なギャングが地球を回す(伊坂幸太郎)、 屍人荘の殺人(今村昌弘)、 葉桜の季節に君を想うということ(歌野晶午)、 
探偵小説の「謎」、  乱歩の選んだベスト・ホラー (江戸川乱歩)、
カディスの赤い星
(逢坂剛)、 象と耳鳴り(恩田陸)

陽気なギャングが地球を回す
伊坂幸太郎著(2003年)
詳伝社ノン・ノベル 
銀行強盗を企む4人の男女。頭が切れ、他人の嘘を見破ることのできる公務員成瀬。おしゃべりでうんちく好き な喫茶店のマスター響野。動物好きでひょうひょうとしていて掏摸の腕前は一流の若者久遠。正確な体内時計を持ち、見事なハンドルさばきで車を駆るバツイチのシングルマザー雪子。
喫茶店で犯行の打ち合わせをして、計画通りに銀行強盗を決行。万事首尾良くいったはずが、別の強盗団にせっかくのあがりを盗られてしまう。犯人の一人から 久遠がすった携帯電話を手がかりに、彼らは一味の捜索を始めるが……。
おしゃれで軽快。知的で臆面もなくおっさんぽくて、伏線が気持ちよくびしびし決まる。(2004.10)


屍人荘の殺人 
今村昌弘著(2017) 東京創元社
山奥や孤島の館に人が集まって、嵐や大雪などで交通が遮断され、孤立した状態の中、連続殺人事件が起こる。その場に居合わせた探偵が、トリックを見破り、犯人を言い当てる。といった、本格推理小説によく出てくる孤立した状態のことをクローズドサークルというらしい。
本作は、嵐でもなく大雪でもなく、バイオテロによるゾンビの大群の襲撃という、SFホラー的怪事件によってクローズドサークルが形成されるという点がひどく斬新である。
湖の近くの山荘「紫湛荘(しじんそう)」に集まったのは、神紅大学映研の部員(男子2名女子3名)とそのOBら(男子3名)、演劇部員(女子2名)、そして呼ばれたわけではないのに無理やり加わった同大学ミステリ愛好会の男子2名、彼らと行動を共にする探偵少女1名の計13名の若者と、館の管理人(男1名)である。
金持ちのドラ息子で映研OBの七宮は、一族が所有する山荘を貸し切って友人と後輩の学生たちを招待していた。OBたちは、映研部長の進藤に(レベルの高い)女子部員を連れてくるよう強要していた。一応撮影を名目としたこのような催しは1年前にも行われ、その後、参加した女子部員の一人が自殺し、一人が大学を辞めるという事態が起こっていた。
下心丸出しのOBたちの態度に、招待された美女たちの多くは嫌悪感を抱く。
やがて、近くで行われていたロックフェス会場で大掛かりなテロが発生、5万人の観衆にウィルスがばらまかれ、感染した者がゾンビとなって人々を襲い始める。ゾンビにかまれた者はゾンビになってしまうので、感染は急激に広がっていく。
その夜、嫌がる女子たちにお構いなく男女ペアでの肝試しを決行していた神紅大学の面々は、山を越えてくるゾンビの群れに遭遇、命からがら山荘内に逃れるが、仲間の何人かは襲撃に遭ってゾンビと化す。ゾンビたちは館の周辺を取り囲み中へ侵入しようとするも、知性がなく身体能力も極度に低い彼らは階段を上ることも満足にできないため、山荘内に閉じこもっていれば、当面は安全なのだった。
が、その夜、館内で、殺人事件が発生。映研部長の進藤が自室で惨殺死体となって発見される。そして部屋のドアの下には「ごちそうさま」と書かれたメモが。ゾンビは部屋には入ってこられないはずであり、メモを書くような知恵もないはずだが、死体はどう見てもゾンビに食い殺されたとしか思えない状態だった。
話は、ミステリ愛好会の葉村の目を通して語られる。ミステリ愛好会といっても部員は2人きりで、彼が師と仰ぐその名も明智恭介という先輩は、なんと事件発生直後にゾンビにやられて、あっけなく退場してしまう。明智を失った悲しみにくれる間もなく連続殺人事件が起こり、彼は、数々の事件を解決したことのある少女探偵剣崎比留子とともに、事件の謎を追うのであった。
どんくさい動きとはいえゾンビたちは、じわじわと迫ってきて、葉山たちの安全ゾーンは、徐々に狭まっていく。外部からの脅威を受けつつ、内部では連続殺人発生というダブルの危機にさらされる中、比留子は冷静に犯人を探り当てていく。
「フーダニット(誰が)」「ハウダニット(どのように)」にこだわる葉山に対し、比留子は「ホワイダニット(なぜ)」に強い興味を持つと言うが、この事件での「なぜ」と次に誰が殺されるかというのはすぐ明らかになり、比留子たちの謎解きは主に「どのように」に対して行われる。比留子の謎解きは、気持ちよく筋道が通っている。ヒントも前もってちりばめられ、ゾンビさえ受け入れられれば、きっちりした推理小説として楽しめると思った。
しかし、人間ドラマとしてはいまひとつで、犯人が殺人に至るいきさつも動機も通り一遍で、OBの立浪が語る自分の不幸な生い立ちや、葉山が突然見せる火事場泥棒への嫌悪も、取ってつけたようで深みが感じられなかった。ライトノベルっぽいノリがあって、わたしなんかが読むと少々気恥ずかしい部分もあり、特に比留子が髪をいじるしぐざの念入りな描写などは個人的な感覚でいうとキモいと思ってしまった。(2018.8)

葉桜の季節に君を想うということ
歌野晶午著(2003年)
文藝春秋
東京都目黒区白金に住む成瀬将虎は、警備員やパソコンインストラクターなどのバイトをし、フィットネスクラ ブに通って身体をきたえ、テレクラや出会い系サイトで知り合った女性とつかの間の情交を重ねる、という気ままなフリーター暮らしを楽しんでいた。
ある日、 自殺をはかろうとした女性麻宮さくらと知り合い、彼女のことが気になっていく。
一方、元探偵事務所調査員という経歴を持つことから、成瀬は、フィットネス クラブで知り合った良家の女性愛子から、不振な死を遂げた家族の調査を依頼される。久高隆一郎というその老人の死には、あくどい霊感商法を行っている謎の 組織「蓬莱倶楽部」が関わっているらしい。
軽妙な語り口で、あっちこっちと向きを変えながら話は進んでいく。
成瀬とさくらの出会いのシーンでのっけから受けた奇妙な違和感とあいまいさは、読み進む間ずうっと頭からぬぐえずむしろ暗雲のように広がっていって、唐突な話題転換とともにやけに落ち着かない気にさせられる。
え?なんでふぐなんて食べてるの? え?なんでこう言わないの? と思っていると、ラストの大暴露で胸のうちのもやもやは一気に晴らされる。
これまで頭の中に描いていた世界は崩れて、印象 は全く違うものになる。蓬莱倶楽部の商法にひっかかった被害者さながらにだまされたことを知って脱力する。
作者は決して嘘はついていない。それどころかそ こかしこにヒントを示してくれている。その周到さに脱帽する。(2005.1)


探偵小説の「謎」
江戸川乱歩著(1956年) 社会思想社(現代教養文庫)
古本屋でみつけた。定価240円のものを400円で売っていたが、「希少本」というシールが貼ってあったので、つい買ってしまった。
江戸川乱歩による探偵小説の解説本。一人二役の犯人や人間以外の犯人など意外な犯人や、氷を始めとする意外な凶器、推理小説の王道である密室殺人など、様々なトリックを紹介している。
谷崎潤一郎の「途上」(「プロパビリティの殺人」の項。「谷崎潤一郎犯罪小説集」所収)が読んだことがあるなと思っていると、ヘロドトスの「歴史」(「顔のない死体」の例)まで出てきたり、コンタクトレンズという名称もまだないころ(本書の初版が出たのが昭和31年)に犯人の偽装(変装)の手段として“メガネ代わりに目の中に入れるガラス”について言及していたりなど、古今東西に渡り縦横無尽に触角を伸ばしているのが、すごい。
後半に進むにつれて内容はさらに濃厚になっていく。
「犯罪心理」の項では、犯罪者の心理や性格を描いたものとして、「男の首」(シムノン)、「僧正殺人事件」(ヴァン・ダイン)、「赤毛のレドメイン家」(イーデン・フィルポッツ)を例に出している。犯人は、ニヒリストで道徳蔑視者で超絶的性格の持ち主であるとする。
暗号の章では、暗号のしくみと種類、解読法について説明。戦争のおかげで暗号記法が非常な発達を遂げ、自動計算機械で複雑な組合せを作るようになり、暗号解読の妙味がなくなって小説の材料には適さなくなったというのは、わかる気がする。(暗号については「暗号解読」(サイモン・シン)参照。)
指紋の章では、最初に指紋による犯人判別が行われたのはいつごろで、それが推理小説に登場したのはいつかといった話。1880年、日本に住むイギリス人のフィールズ博士が、指紋を個人鑑別に利用してはどうかという論文を発表したそうだが、彼が、日本の石器時代の土器についた指紋や、日本に古くからあった爪印、拇印、手形などを研究してヒントを得たというのは、非常に興味深いことである。ちなみに、乱歩によれば、もっとも初期の指紋探偵小説は、マーク・トウェインの「ミシシッピ川の生活」(1883年)「抜けウィルソン」(1894年)、そして日本における帰化英人の講談師兼落語家快楽亭ブラックによる口述速記「幻燈」(1892年)だそうだ。

そして、「スリル」についての言及。推理小説のだいご味は、ただ、理屈を追って謎を解くだけでなく、そこに潜む「スリル」を堪能することにあるという。いまならサスペンスという言葉が適切なのだろうが、これこそあらゆるエンターティンメントの真髄ともいうべきもので、わが意を得たりといったところである。
「スリル」については、ドフトエフスキーの二つの主要作品から例を示している。1つは「罪と罰」のラスコーリニコフと書記官ザミヨートフとのくだり、もう1つは「カラマーゾフの兄弟」の長老ゾシマと殺人犯である紳士とのくだりである。つい、その部分だけでも読み返してみたくなるのだった。(2011.4)

象と耳鳴り
恩田陸(1999年)
詳伝社文庫
引退した元検事関根多佳雄が遭遇する12の事件を描く短編集。
静かで知的、じっくりと言葉を選んだ丹念な文章。断言せずに曖昧なまま、余韻を残す。
収録作品は、「曜変天目の夜」「新・D坂の殺人事件」「給水塔」「象と耳鳴り」「海にいるのは人魚ではない」「ニューメキシコの月」「誰かに聞いた話」 「廃園」「待合室の冒険」「机上の論理」「往復書簡」「魔術師」。(2003.6)


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