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○ 本 ミステリ(海外) さたな行

<作家姓あいうえお順>
犯罪(フェルディナント・フォン・シーラッハ)、 明日なき報酬(ブラッド・スミス)、 僧正殺人事件(S・S・ヴァン・ダイン)、アウトロー(リー・チャイルド)、 最終楽章(トム・トーパー)、 深夜のベル・ボーイ(ジム・トンプソン)

犯罪  VERBRECHEN
フェルディナント・フォン・シーラッハ著(2009年)
酒寄進一訳 創元推理文庫(2015年)

弁護士である「私」が手掛けた事件の顛末を語るという形をとった、犯罪短編小説集。著者はドイツの弁護士である。事件の真相を追うミステリというよりは、人はどのような状況で犯罪を犯すか、人を裁くしくみとはどういうものか、といった視点から犯罪を描いている。不可解な事件の裏に、見た目とはかけ離れた人の本質があったり、また切ない思いがあったりと、なかなか刺激的である。(2017.3)
★フェーナー氏
・長年、妻の仕打ちに耐えてきた男は、離婚するよりも妻との誓いを優先した結果、思わぬ手段を取ったのだった。
★タナタ氏の茶わん(※原本は、「怨+皿」の漢字)
・資産家の家に盗みに入った若者らが、現金とともに金庫にあった茶碗も盗ってしまったことから、町のボスを巻き込んだ大惨事へと発展する。
★チェロ
・資産家の父親の元で育った姉妹の悲惨な運命と切ない姉弟愛。姉の弾くチェロの音が弁護士の「私」の心に沁み入る。
★ハリネズミ
・カリムは、レバノン人の犯罪一家の9人兄弟の末弟である。彼は、その比類ない頭のよさと自ら身に着けた教養をひたすら押し隠し、法廷で証人となり、有罪の兄を無罪になるよう策を巡らせる。
★幸運
・イリーナの「客」である男が死んでしまい、恋人のカレは、イリーナを庇うために死体を遺棄する。男は病死であり、カレは死体遺棄の罪に問われるが、その動機はイリーナへの愛ゆえであったため、二人は釈放される。
★サマータイム
・借金を負った麻薬売人の恋人のために身を売る女。彼女が惨殺死体で発見される。彼女の「客」が容疑者として浮上するが、監視カメラの映像の時刻を見た弁護士の「私」は、サマータイムによる時間のずれから、依頼人の無実を証明する。が。
★正当防衛
・駅のホームで絡んできたチンピラ二人を瞬時に殺した男。身元を証明する手立ては何一つなく、男は沈黙を守り続けた。過剰防衛というわけにもいかず、男は釈放される。事件後の警察の対応も含め、たまたま絡んだ相手がプロの殺し屋だったらどうなるか、という話か。
★緑
・人や動物が数字に見えるという若者が、羊を何頭も殺す。彼の知り合いの女性が行方不明となり、関係者は騒然となるが。
★棘
・長い年月に渡って、「棘を抜く少年」の像のあるホールのみで警備の仕事を配された美術館の警備員は、精神に異常を来たし始める。清潔で明るいホールにおいて、長い長い年月を経た上で行われる破壊行為が痛々しく、強烈だった。
★愛情
・殺意ではなく、愛する者を食べたいという衝動から、恋人を刺した男の話。
★エチオピアの男
・強盗をして国外に逃亡した男は、逃亡先のエチオピヤの村で人々のために尽くし、家族を得て、村の功労者となる。過去の罪で逮捕された彼はそれまでのことを語るたびに一笑に付されるが、弁護士の「私」は彼の話を信じた。


明日なき報酬 One-Eyed Jacks
ブラッド・スミス(カナダ 2000年)
石田善彦訳 講談社文庫
1950年代の終わり。故郷へ戻った元ヘビー級ボクサーのトミー・コクランは、祖父の農場を買い取る金を手に入れるため、再びトロントの街を訪れる。八百長疑惑を 受けた試合を最後に引退したトミーの出現を機に、試合のプロモーター、売り出し中の新人ボクサー、小悪党のポルノ映画監督、ギャンブラー、街のチンピラ、 などさまざまな人間の思惑が入り乱れる。
善玉と悪玉が実にはっきりしている。博打の元締めやプロモーターなど、中立を保ちビジネスに徹する人々に対しても作者の大いなる好感が感じられる。特にクールなプロモーター、ブラディの存在感は大きい。
トニーの相棒Tボーンと、粋でおしゃれなギャンブラー、ハーム・ベルとの友情が泣かせる。
元恋人同士のトミーとクラブ歌手リーがなかなか再会しないのもいい。
ラストは、期待していた試合が行われず、ちょっと珍しい展開。(2003.7)


僧正殺人事件 THE BISHOP MURDER CASE
S・S・ヴァン・ダイン著(1929年)  日暮雅通訳 創元推理文庫
本格推理の古典。江戸川乱歩の「探偵小説の「謎」」に触発されて読む。
−だあれが殺したコック・ロビン?  「それは私」とスズメが言った。
有名なマザー・グースの詩の内容に沿って行われる連続殺人を扱った、有名すぎる作品。
読んでみると、チェスやイプセンの戯曲や数学者たちの数式や量子論をめぐる論議が絡んでくるなど、多彩な内容が盛り込まれている。容疑者となる学者たち(数理物理学教授ディラード、数学准教授アーネッソン、物理学者ドラッカー、数学者パーディ)も、捜査側の面々(探偵役のファイロ・ヴァンス、マーカス検事、ヒース部長刑事ら)も、地味ながらそれぞれ個性的に描かれていて退屈しない。
見立て殺人の異様さとともに、後半畳みかけるように容疑者が二転三転していく展開が秀逸。(2012.7)
<引用されるマザー・グースの歌と被害者(被害者は白字で記しているのでドラッグすると読める)>
・「だあれが殺したコック・ロビン?」(駒鳥の死と埋葬を悼む唄)(
アーチェリー選手:ジョーゼフ・コクレーン・ロビン
・「小さな男が昔いた」(大学生:ジョン・E・スプリッグ
・「ハンプティ・ダンプティ」(数理物理学者:アドルフ・ドラッカー
・「ジャックの建てた家」(数学者でチェスの名手:ジョン・パーディー
・「かわいいマフェットちゃん」(少女:マデラン・モファット

アウトロー ONE SHOT
リー・チャイルド著(2005年)
小林宏明訳 講談社文庫 上・下
元陸軍警察官のジャック・リーチャーを主人公とするシリーズ9作目。
トム・クルーズ主演の映画「アウトロー」の原作である。
地方都市で起こった無差別狙撃殺人事件。
容疑者のジェームズ・バーは、かつて軍内部でリーチャーが解決した狙撃事件の犯人だった。
リーチャーはバーの犯行を確信するが、捜査を進めるうちに、矛盾点が次々に現れてくる。
原作のリーチャーは、捜査官としての腕は高く、戦闘能力にも優れているが、トム・クルーズより年配で地味な感じ。社会とのつながりを断ち、町から町へと渡り歩いて質素に生きている。身を隠す術に長け、相手の動きを読むのがうまい。
敵のザックと殺し屋チャーリー他の一味や、サンディやキャッシュなど好感度のある脇役は、映画にも出ていたが、兄の無実を信じるジェームズ・バーの妹ローズマリー、リーチャーに好意を持って捜査に協力する地元テレビ局の人気キャスター、アン・ヤンニ、ベテラン調査員のフランクリンなどは映画には出てこない。彼らはそれぞれの立場からリーチャーの捜査に協力し、最後の敵の本拠への襲撃では、リーチャーとヘレンとかれら3人がチームのように力を合わせて活躍する。
ミステリー&活劇として楽しめた。(2013.5)


最終楽章 Coda
トム・トーパー作(アメリカ 1984年)
石田善彦訳 サンケイ文庫
ニューヨークの私立探偵ケヴィン・フィッツジェラルドは、恋人のジャーナリスト、フィオナからユダヤ人の老女リリ・ウェイルを紹介される。 リリは、彼に有名ピアニストの夫マックスの捜索を依頼する。マックスは、大戦中アウシュビッツで処刑されたはずだったが、リリはその夫の姿を何度となく街で見かけたというの だ。老婦人の切なる願いに端を発した捜査は、やがて国務省やCIAが絡む国家機密へとつながっていく。
過去の辛い経験から人をよせつけず、孤独に生きるフィッツジェラルドは、戦争の傷を負いつつもひたむきに夫を想い続けるリリの生き方に次第に心を動かされていく。二人の間に交わされる静かでやさしい交流の記憶が、苦いラストにわずかな救いを与える。
リリを始め、その夫マックス、フィオナ、豪快な音楽エージェントのエイゼンバーグ、マックスのかつての教え子ロンニ・ギブスン、東ドイツの外交官ヒルシュ、国務省職員のクラインマンなど多彩な登場人物がそれぞれに個性を発揮。例えば本筋とはまったく関係なく、いきなりフィッツジェラルドの前で展開される家出娘ロンニとその厳格な母親との対決などなかなか楽しい。何とか二人を和解させようと無理矢理ジョークを言い出す探偵の姿がおかしい。
フィッツジェラルドの交友関係や過去の出来事が親切すぎず、適度に説明不足気味なのもよい。(2003.6)


深夜のベル・ボーイ A Swell-looking Babe
ジム・トンプスン(アメリカ 1954年)
三川基好訳 扶桑社
ダスティは、ホテルの夜詰めのベルボーイとして働いている。教職を失い廃人同様となった父親の世話をするため、彼は大学に戻って医者になるという夢を半ばあきらめかけていた。
ある日、ホテルに一人の美女が現れたことで、彼の運命は変わっていく。ダスティは、ホテルの常連であるギャングのボスと関わらざるを得なくなりやがて犯罪 に巻き込まれていく。
容姿端麗で知的な青年ダスティは、その生い立ちも含め、相当複雑な人間として描かれる。ダークな部分とうぶな部分を併せ持つ彼の、これまでの言動についての真相が少しずつ少しずつ明かされていく過程は、かなりスリリングである。
読み終えたときの後味の悪さはなかなかのものだった。(2003.8)

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