みちのわくわくページ

○ 本 冒険 クィネル 

燃える男、 パーフェクト・キル、 ブルー・リング、 ブラック・ホーン、 地獄からのメッセージ

燃える男 MAN ON FIRE
A・J・クィネル著(1980)
大熊榮訳 集英社文庫
 
孤独な元傭兵クリーシィが、愛した少女を殺され、その復讐を果たす物語。
ストレートでわかりやすい四部構成からなっている。
一部は、少女とクリーシィの出会いと別れ。
戦場から退き、酒におぼれる日々を送っていた元外人部隊の兵士クリーシィは、戦友のグィドー・アレッリオの斡旋でミラノに住む富豪の家族のボディガードを引き受ける。護衛の対象者である11歳の少女ピンタは、好奇心からクリーシィへの接触を試みる。最初はピンタを拒みまくっていたクリーシィだが、やがて二人は心を通わせるようになる。そんな折り、学校帰りのピンタが襲われる。クリーシィは襲撃者を迎え討つが、酒で体がなまっていた彼は被弾し重傷を負う。ピンタは車で連れ去られ、やがて死体となって発見される。
一切の愛情を拒否する固い岩のようなクリーシィが、次第に愛らしい少女ピンタに心を開いていく様子がなんとも微笑ましい。そして急転直下の悲劇に、読んでいる側も心が痛む。
二部は、ピンタの復讐を果たすための準備期間。
クリーシィは、戦闘に備えて体力を回復するため、グィドーの亡くなった妻ジュリアの故郷であるマルタ諸島のゴゾ島を訪れる。ここで彼が交流する島の人々がまたいちいちいい。クリーシィが身を寄せるジュリアの実家であるシェンブリ家の面々は、農夫のポール、妻のラウラ、長男のジョーイ、そしてジュリアの妹ナディア、彼女とクリーシィはやがて恋に落ちる。他にも釣り好きのサルヴュじいさん、乱暴者のベニー、警察の特務班を率いる警部ジョージなど、素朴な島の人々がクリーシィに友情を示す。酒場のバーテンダーのニックネームが「ホワイノット」というのもよかった。(客に酒をすすめられると一旦断り間をおいてから「ホワイノット?」と言って飲みだすということからついたニックネームだが、これを聞いて映画「ワイルドバンチ」を思い出す冒険小説ファンは少なくないだろう。)
そして、第三部からいよいよクリーシィは反撃を開始し、第四部はマフィアのボスが住むシチリア島パレルモへの殴り込みとなる。
クリーシィは、ミラノ、ローマ、ナポリ、パレルモと移動し、下っ端の実行犯から徐々に組織の上層部へと迫って、復讐を果たしていく。クリーシィの戦いぶりは実に痛快だが、あまりに強すぎて、マフィアたちがマヌケに見えてしまう。
クリーシィの選んだ武器は、コルト1911とウェブリ32(拳銃)、イングラムモデル10(サブマシンガン)、M14(狙撃用ライフル)、RPG7ストロークD(バズーカ砲)、英国製フラグメンテイション36とフォスフォラス87(手榴弾)、二挺身ショットガンなど。
ミラノの伊達男警察官のサッタとその部下ベルーのコンビもなかなかよく、彼らはやがてグイドーと合流する。サッタは警官としてあくまでもクリーシィを追うのかと思いきや、自分を悩まし続けたマフィアをやっつけてくれるということで、あっけらかんと彼に同情的なのが珍しくていい。
クリーシィが移動中に知り合ったバンに乗ったウォーリーとパディのカップルや、パレルモ上陸の際に乗ったセスナ機のパイロットチェザーレなど、通りがかりの一般人が率先してクリーシィに協力するのも痛快だった。パディが食事のときの肉の切り方でクリーシィをアメリカ人と見抜いたり、クリーシィのパラシュート降下の際にチェザーレが下降気流についてアドバイスしたりするのも気が利いている。
読み応えたっぷりのヒーロー活劇だ。(2013.10)

パーフェクト・キル THE PERFECT KILL
A・J・クィネル著(1992年)
大隈栄訳 新潮文庫(1994年)

1988年、スコットランドのロッカビー村上空で実際に起こったパンナム103便爆破事件を発端に、クリーシィが新たな復讐に燃える。
パンナム103便には、クリーシィの妻ナディアと4歳になる娘のジュリアが乗り合わせていて、2人は爆破事件の犠牲となった。クリーシィは、同事件で最愛の妻を失ったアメリカの上院議員グレインジャーと手を組み、復讐を企てる。
彼は犯人特定のための情報を集める一方、後継者育成のため、孤児のマイケルを養子とすることに決める。養子縁組の里親として不可欠な夫婦ものであるという条件を満たすため、ロンドンに住む売れない女優のレオーニと半年の期間限定で結婚の契約を交わす。
便宜上家族となった、クリーシィとレオーニとマイケル。クリーシィは、マイケルを優秀な兵士として訓練し、レオーニには終始冷淡な態度をとる。が、子どもを失くした過去を持つレオーニと母を知らないマイケルの間には、親子のような親愛の情が芽生え始める。ナディアの母ライラの気遣いやクリーシィの狙撃の師ランバハドゥル・ライ大尉の粋な計らいなどもあって、クリーシィもレオーニに対する態度を改め、3人はやがて本当の家族のように心を通わせていく。
が、クリーシィが犯人を特定し、着々と復讐の計画を進めていくなか、レオーニの乗った車が爆発するという悲劇が起こる。
クリーシィとマイケルは、犯人であるPFLP-GCパレスチナ解放人民戦線総司令部議長アマメド・ジブラルを狙撃すべく、彼が出席する式典の会場へ向かうのだった。
クリーシィは、グレンジャーの身辺警護のため、3人の元傭兵仲間を用心棒として雇う。オーストラリア人のフランク・ミラー、ローデシア人のマキシー・マクドナルド、ベルギー人のルネ・カラールと、国籍も別々のこの3人がいい。フランクとグレンジャーの会話はたいへん気が効いている。グレンジャーは、頭の回転が速く、非常事態にも動じず冷静に対応し、人を見る目とユーモアを持ち合せていて、上院議員にしては珍しい、かなりの好人物である。
クリーシィの古なじみらしいブロンディが切り盛りするブリュッセルの娼館の娼婦であるニコルが、クリーシィの計画に協力し、そうするうち、マキシーと恋仲になって、二人して引退するのもいい。
例によって、クリーシィの計画には隙がなく、戦闘能力も衰えていないが、マイケルの狙撃の腕を評価し、犯人狙撃を彼に託す。
最初の方に出てきたロッカビー村の羊飼いのじいさんが最後にまた出てきて終わるのも心憎い。(2013.10)

ブルー・リング THE BLUE RING
A・J・クィネル著(1993年)
大隈栄訳 新潮文庫(1995年)

「燃える男」「パーフェクト・キル」に続くクリーシィとその仲間たちのシリーズ第3弾。
クリーシィの養子となったマイケルは、死の床にある実母に会い、彼女が国際的な売春組織の被害者であったことを知る。彼女は組織に取り込まれて売春を強要され、生後間もないマイケルをゴッツォ島の孤児院の前に捨てたのだった。マイケルは組織への復讐を決意する。一方、北欧では地中海を訪れた若い女性が失踪する事件が頻発していた。デンマーク、コペンハーゲン市警の刑事イェンス・イェンセンは、少女失踪事件を追っていた。
マイケルは、クリーシィの昔なじみで、ブリュッセルで娼館を営むブロンディから、イェンス・イェンセンに会うようアドバイスを受ける。
二人は、「ブルー・リング」と呼ばれる国際的な大規模売春組織の正体を突き止めるため、マルセイユに飛ぶが、敵に気づかれ、拉致される。マイケルの復讐に最初は乗り気でなかったクリーシィは、二人の救出に向かう。組織のアジトのひとつで、彼らは、誘拐され麻薬中毒にされた少女を2人保護する。クリーシィはそのうちのひとりである13歳の家出少女ジュリエットを引き取る。彼女は、地獄のような禁断症状を切り抜けて麻薬中毒から立ち直る。可憐な少女は、クリーシィの隣人であるゴッツォ島の人々やチームのメンバーたちを魅了することとなる。
クリーシィのチームのメンバーは、息子のマイケル、旧友のグィドー、グィドーの店の店員ピエトロ、傭兵仲間のフランク・ミラー(オーストラリア人)、ルネ・カラール(ベルギー人)、マキシー・マクドナルド(ローデシア人)、ミラノ憲兵隊(カラビニエリ)のマリオ・サッタ大佐とその部下マッシモ・ベルー、さらに、今回からイエンセンと <フクロウ>が加わる。フクロウは、クリーシィが、フランス人の武器商人ルクレール(今回、彼がクリーシィに売る武器はコルト1911とサブマシンガンFN-P90)に、「タフなだけでだけでなく情けの深い男」を要請し、紹介してもらった男だ。ベテラン刑事で普通に家庭人のイエンセンと、傭兵経験はないが、腕利きの用心棒でクラシック音楽好きのフクロウが仲よくなるのがおもしろい。
やがて彼らは、悪魔教団というべき組織の幹部であるアラブ人のガーメル・フリードリスに行きつく。
クリーシィは久しぶりにイタリアに足を踏み入れるのだが、すぐさま恨みを買うマフィアに気付かれ、拉致される。彼の救出のため、若造のマイケルがベテランぞろいのチームで采配をふるうのは、なんとも胸がすく展開。一方、クリーシィは囚われの身で、イタリア北部のマフィアのボス、グラッツィーニと渡り合い、交渉を成立させるという、これもまたしてやったりの展開。親子ともども凄腕ぶりを発揮してみせるのだった。
計画実行に当たって、適材適所のメンバーの配置と段取りを決めていく様子にわくわくするし、ジュリエットが浅はかな行動に出たときの臨機応変な対応もお見事。向うところ敵なしのチームである。ただ一人犠牲となったサッタの部下ベルーが気の毒だった。
秘密結社の暗躍と言うネタは、80年代のイタリアを騒がせたスキャンダルがもとになっているらしい。(2013.11)

ブラック・ホーン BLACK HORN
A・J・クィネル著(1994年) 
大熊栄訳 新潮文庫
クリーシィ・シリーズ第4作。

アフリカ、ジンバブエのジャングルで恋人とキャンプ中に狙撃され殺された娘キャロルの復讐のため、アメリカの富豪の未亡人グローリアは、上院議員グレインジャーを通して、クリーシィに仕事を依頼する。
クリーシィは、元セルー斥候隊兵士のマキシーとジンバブエに飛び、息子のマイケルも加わる。
一方、香港では、香港マフィア三合会(サムハツホイ)の中で最も勢力のある組織14Kが黒犀の角を研究していた医師一家を皆殺しにする。留守にしていたため生き残った長女ルーシー・クウォク・リン・フォンは、亡き父がジンバブエにいるアメリカ人の動物学者クリフ・コッペンと仕事上のやりとりをしていた文書から、14Kの首領トミー・モーが牛耳る黒犀密猟が、一家殺しに関わっていることをつきとめ、さらにコッペンもジンバブエで殺されたことを知る。
ジンバブエで、クリーシィらは、コッペンとキャロルを狙撃した犯人である密漁者一味を倒すが、マイケルは背中に銃弾を受け、下半身が麻痺してしまう。車いすの人生を受け入れられない彼は、自ら死を選んでしまう。葬儀に集まった、元傭兵仲間の面々とともに、クリーシィは14K壊滅のため、香港に乗り込む。
クリーシィ(アメリカ人)、マキシー・マクドナルド(ローデシア人)、グィドー・アレッリオ(イタリア人)、ルネ・カラール(ベルギー人)、フランク・ミラー(オーストラリア人)、イェンス・イエンセン(デンマーク人)、フクロウ(フランス人)、武器調達人コークスクリュー・ツー(フランス人)と前回まででもかなり国際色豊かな顔ぶれに加え、トム・ソーヤー(本名ホレイショ、アメリカ人)、ドゥ・ファン(ヴェトナムと広東のハーフ)、エリック・ラパルト(フランス人)という新しい面々が呼ばれ、さらにトニー・コープ(元イギリス海軍将校、特別船艇部隊所属)、デイモン・ブロード(元イギリス海軍)という海軍経験者が、キャンピングクルーザー、MVテンペスト号で海から彼らを援護する。
マイケルの死は唐突で、戸惑った。
あと大事な作戦決行中に、クリーシィがルーシーと恋仲になるのもいかがなものかと思うが、あれだけ厳重に警戒していたにも関わらず、情事の直後にルーシーを一人で歩かせる瞬間をつくってしまいそこで敵に拉致されるのは、迂闊だと思った。
が、ジンバブエでの一戦から、マイケルの死、グローリアとの契約更新、人集め、そして周到に計画を立てての香港決戦と、話はめまぐるしく展開し、飽きない。
香港警察のラウ警部が、オフィスに勝手に作戦本部を設置し、クリーシィたちが作戦を決行する様子を、彼らの携帯電話でのやりとりを盗聴することによって中継するのは、いい。
コークスクリュー・ツーがクリーシィのために用意した銃器類は、RPG7二挺、ウズィ・サブマシンガン4挺、FNP90 プラスチック製軽量サブマシンガン6挺、コルト1911、ベレッタ等。(2014.8)

地獄からのメッセージ  Message from Hell
A・J・クィネル著(1996年)
大隈栄訳 新潮文庫(1997年)

クリーシィ・シリーズ最終話。ついに読んでしまう。
26年前にベトナムで戦死したはずの若き米軍兵士ジェイク・ベンツェンの認識票が、突然両親のもとに届けられる。認識票には、クリーシィの名を記したメモが添えられていた。
という出だしから始まる、クリーシィの新たな戦い。ジェイクは、かつてクリーシィが好感を抱いた若者で、彼の目の前でジェイクは銃撃されたのだった。クリーシィは、罠かもしれないと思いつつ、ジェイクの行方を追ってベトナムへ飛んで、おなじみのメンツ(グィドー、イェンセン、フクロウ、ルネ、マキシー)でチームを組む。対するは、クメール・ルージュの黒幕、巨悪の女ボス、コニー・ロン・クラムで、父の仇であるクリーシィに復讐をするため、周到な計画を立てている。
アメリカ合衆国陸軍戦闘中行方不明兵士担当部員のスザンナ・ムーアがチームに加わり、やっぱりちょっといい感じになったりしつつも最後は別れるという展開。頼りない彼氏との間に子どもができてしまったスザンナがためらった末にクリーシィに妊娠の悩みを打ち明ける。クリーシィに妊娠の相談、そのミスマッチがよい。セクハラについて「この言葉はウーマンリブ運動が思いついた最大の発明だ」とクリーシィが言及するのも興味深かった。
地雷に囲まれた寺院での対決は、たいへん盛り上がるシチュエーションだった。ヘリで降下すると信じる敵の裏をかいて地上から行くという駆け引きの妙にもわくわくした。
コニーに雇われて裏切られる地雷専門家の「オランダ人」ことピエト・デヴィットが地雷のない小道を案内するのもよかった。(2016.9)

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