みちのわくわくページ

○ 本 冒険 スティーヴン・ハンター

極大射程 ダーティホワイトボーイズ ブラックライト 狩りのとき 
悪徳の都 最も危険な場所
四十七人目の男 黄昏の狙撃手 蘇えるスナイパー 
デッド・ゼロ
 ソフト・ターゲット 
第三の銃弾 スナイパーの誇り Gマン 宿命の銃弾


●スワガー・シリーズ作品一覧

★注意! 最近物忘れが激しいので、よかった場面を忘れないように自分の備忘録として、けっこう詳しく内容に触れています。未読の方で、ねたばれや細かい部分を知りたくない方は、あとから読んだ方がいいかも知れません。(2012.6)

極大射程  Point of Impact (1993)
スティーヴン・ハンター著(1993年) 
佐藤和彦訳 新潮文庫(1999年)
孤高の長距離狙撃手ボブ・リー・スワガ―のシリーズ第1作。
だいぶ前に一度読んで、2007年に「ザ・シューター」というタイトルで映画化されたときには、だいぶ内容を忘れてしまっていて、やっと再読の機会を得たのだが、すでに映画の方の内容も細かい部分は忘れかけているのだった。
ということで、ほぼ初めて読むのと同じくらい、わくわくどきどきしながら読んだ。
(★以下ねたばれあり)
ベトナム戦争で活躍した狙撃手ボブ・リー・スワガーは、友人の観測手ドニーが射殺され、自身も負傷した後、軍を退き、故郷の山中で狩りをしながら隠遁生活を送っていた。
が、稀代の狙撃手ゆえに、周到な暗殺計画のスケープゴートに仕立てられ、アメリカ合衆国大統領の狙撃犯として追われる身となる。彼は、大統領を撃つつもりが近くにいたエクアドルの大司教を誤射したとされるが、暗殺を企てたシュレック大佐ら犯人グループの狙いは、最初から大司教にあった。
犯行現場から逃走するボブ・リーに遭遇したFBI捜査官ニック・メンフィスは、彼が自分を射殺しなかったことと、大統領を撃とうとして誤って大司教を撃ったという見方に疑念を抱いたことから、ボブ・リーの無実を信じるようになる。自身も狙撃手であるニックは、大統領と大司教の射程の誤差が垂直ではなく、水平だったことから、ボブ・リーほどの腕の持ち主にはあり得ない誤射だと判断したのだ。
前半は、シュレック大佐らの見せかけの計画に乗せられ、銃の試射や、検分のため大統領の訪問予定先を巡るボブ・リーの様子と、まじめで人がよくて損な役回りをさせられているニックのFBIでの日常が交互に描かれる。
やがて事件が発生し、後半は、身を潜めながら敵との対決の準備をするボブ・リーと、独自に事件の捜査を進めたことから犯人グループに命を狙われることになったニックの様子がやはり交互に描かれるが、ついに両者が出会い、手を組んで反撃を開始するに至って、俄然盛り上がっていく。ボブ・リーに抜かりはなく、狙撃の腕もぴかいちで、あまりにも強すぎる感じがするが、向かうところ敵なしの戦いぶりは実に痛快である。なかなか発砲しないニックが、ついに長距離狙撃を行い、それも敵側で最も腕の立つ狙撃手を倒すのもまた痛快である。
「悪徳の都」を読んだ後に読んだので、かつてアール・スワガーが、ホット・スプリングスのボス、オウニーと対決したハードバーゲン渓谷、その同じ場所で、息子のボブ・リーが戦いを繰り広げることに、感慨を覚えた。(2011.11)

映画化:「ザ・シューター」(2007年)

ダーティホワイトボーイズ Dirty White Boys
スティーヴン・ハンター著(1994年) 
公手成幸訳 扶桑社海外文庫(1997年)
オクラホマ州立マカレスター重犯罪刑務所から脱獄した、極悪犯ラマー・パイの一味と、彼に相棒を殺され、自らも大けがを負った州警察ハイウェイパトロール巡査部長バド・ピューティとの戦いを描く。
ラマーは、自分を襲った黒人の囚人を返り討ちにして殺してしまったため、相棒で従弟のオーデルと、美大出のひ弱なリチャードを伴って脱獄を図る。オーデルは、知的障害を持つ巨漢で、ラマーはずっと彼のめんどうをみていたのだった。3人は、銃を確保するため、猟をする老人ステップフォードの農場を襲うが、たまたまそこを訪れたバドとその相棒テッドは、激しい銃撃を受ける。
ラマーらは、その後リチャードに奇妙なファンレターのようなものをよこした女ルータ−ベイス・タルの農場で暮らすことになり、4人はチームとなる。
一方、バドは、殉職したテッドの妻ホリィとかねてから不倫の関係にあった。二人の息子と妻と暮らしながらも、彼は若くて美しいホリィにぞっこんだった。テッドの死によって彼は自分を責めるが、ホリイとの濃厚な関係を断ち切ることができない。
OSBI(オクラホマ州捜査局)のベテラン警部補、老C・D・ヘンダスンの指揮によって、捜査本部はトラックのタイヤの後からラマー一味を追う。バドは、ルータ−ベイスの農場を訪れるが、あっさり見過ごしてしまう。
やがて、ラマー一味はファミレス襲撃を計画、警官4名と一般市民2名を射殺して逃走する。バドは、リチャードが現場に書き残したライオンの絵から、ラマーが刺青をしようとしていると推測し、腕の良い彫り師を調べ、ジミー・キーというアジア系の老彫り師を訪ねる。ここで、胸に刺青を入れている真っ最中のラマーらと遭遇、死闘が繰り広げられる。ラマーからすれば、こんなところでだけは襲撃されたくないと思われる最悪のタイミングでの銃撃戦となり、無邪気な殺戮者オーデルは壮絶な最後をとげる。
最後は、ルータ−ベイスの農場での対決となり、合計3回の血みどろの銃撃戦が展開する。
バドは、ジョン・ウェインのような気骨のあるベテラン警官ということになっているが、不倫相手の美女と家族の間でつねにうじうじ悩んでいるので、あまり感情移入ができない。ホリィがしかける2人のじゃれあいはどうにもうざい。
これに対し、豪快で暴力的でストレートなラマーは、ダークな魅力に満ち溢れている。常に彼のそばでこれまたうじうじしているいわゆる青びょうたんのリチャードもいらいらする存在だが、ラマーの格好の引き立て役となっている。
ステップフォード老人や、のんだくれのベテラン捜査員C・D、刺青師のジミー・キーなど、脇役の老人がいい。ラスト、C・Dが何度となく口にしていた願いを聞いて、バドが、二人の息子を連れてC・Dの墓前で酒盛りをするシーンは泣ける。
ラマーの父親、ジミー・パイとその弟がアール・スワガーに殺され、アールもまたそのときのけががもとで死亡したという記事をラマーが持っていたとあり、次作への伏線となっている。(2012.1)


ブラックライト Black Light
スティーヴン・ハンター著(1996年) 
公手成幸訳 扶桑社海外文庫(1998年)
ボブ・リー・スワガーのシリーズ第二作。
1作目から数年後。アリゾナの牧場で、妻のジュリーと4歳になる娘のニッキーと暮らしていたボブ・リーが40年前に死んだ父親アールの死の真相を追う。アーカンソー州警察の巡査部長だったアールは、強盗を働いた若者らと撃ち合いの末に亡くなっていた。
「ダーティホワイトボーイズ」に登場したバド・ピューティの長男ラスが話のきっかけとなる。
彼は、ハイウェイパトロールであるバドが、犯罪者ラマー・パイとの死闘の後、結局家族を捨てて若い恋人の元に去ったことで心に大きな傷を負っていた。ジャーナリストを目指す彼は、ラマー・パイの父親ジミー・パイと撃ち合いをして死んだ警察官アールのことを調べ、本にしようとしていた。
ラスは、取材のためボブを訪ねてアリゾナにやってくるのだが、実は、アールの死にはある謀略が仕組まれていた。
★以下、ネタばれがあるので、未読の方はご注意を!!★
アールの死の真相を知るため、ボブは、ラスと共に、故郷であるアーカンソー州フォートスミスを訪れるが、彼らの動きを阻止すべく、町の大物実業家にして暗黒街のボスであるレッド・バーマは、大がかりな襲撃を企てる。
物語前半は、40年前の死の当日のアールの様子と、現在のラスとボブの様子が交互に描かれる。
40年前、アールは、殺された黒人少女シレル・パーカーの死体を発見し捜査を始めるが、そこへ亡き戦友の息子ジミー・パイと従弟のバブが強盗殺人を犯したというニュースが入ってくる。
一方、現代では、ラスがアリゾナでやっとのことでボブ・リー・スワガーを見つけ、やっとのことで彼と話をし、やっとのことで彼の同意を得て行動を共にするや、危険な目に合うことになる。
シレルの死体の状況をアールが手帳に記す。40年後に、その同じ手帳をボブが見る。ボブは、ついにはアールの死体を墓から掘り起こして死因を究明する。アールの遺体にジミー・パイの持つコルト38スーパーではなく、30口径のライフルから発射されたと思われる弾痕が見つかる。死を迎える父と、その死の痕跡を追う息子の姿が、交錯した時間軸で描かれ、まるでタイムスリップ小説のような興奮を味わわせてくれる。
後半は、大きなアクションシーンが二つある。
1つは、タリブルー・トレイルと呼ばれる山間道路での待ち伏せ。バーマが手配したプロの殺人集団が車4台でボブとラスの乗ったピックアップトラックを挟み撃ちにして襲撃する。バーマが頭上を行く小型飛行機から指揮を執る。多勢に無勢の不意打ち、勝てるはずのない状況にボブ・リーがどう対応するか。
もう1つは、夜の山中での、スナイパーとの対決。タイトルともなっているブラックライト(不可視光線)を使った暗視装置を装備した銃(HELH4Aモデルのサイオニック消音装置がとりつけられ、アメリカ軍配備の暗視射撃装置AN/PAS−4がスペシャルマウントされたM−16とある。銃器に詳しくないのでなんのこっちゃわからないが、とりあえず記しておく)を持つプロのスナイパー、プリース元陸軍中尉が、森に潜んでボブとラスを狙い撃つ。かつて銃傷を負い救援を待つアールの間近に現れたガラガラ蛇が、ここでも登場する。熱を感知するヘビが、見えない光線ブラックライトの熱を感知してやってくるというアイデアが秀逸である。狙撃手であるボブが狙撃される立場に置かれ、必死の逃亡を試み、ついにミニ−14を手にして反撃に出る。両雄の対決の後は、バーマの使い走りをしていた保安官助手のドゥエインがラスを人質にとって無謀にもボブに戦いを挑む。ボブは、コルト45コマンダーの抜き撃ちを見せる。
どちらも読み応え十分の銃撃シーンである。
最後のレッドとの対決は、あっさり収まる感じ。亡き父親を慕うレッドが男を見せる。というか、レッドに対しては、一貫して著者の好意が感じられる。胸のすくような結末ではある。
そして、さらに最後の最後で明かされるラマー・パイの意外な秘密。アール、お前もかと思いつつ、ページをめくり返してそう思って読むとちゃんとそのように書いてあるのだった。
ラスがダニーに似ているとジュリーがボブに言うところがある。ボブは、襲撃を警戒しているときに、ラスを「ダニー」と呼ぶ。次の作品につながるような細部に著者の配慮を感じる。(ダニーは、新潮文庫の「極大射程」では「ドニー」と訳されていたので、一瞬、わからなかったが。)
とにかくたくさんのことが盛り込まれている。一作目に法廷でボブを救った老弁護士サムが老いと戦いながらシレル殺しの真相を追及する姿に泣ける。また、アールとボブ・リー、バドとラスの他にも、物語には何組もの親子が関わる。地元出身の下院議員ハリー・エサリッジとその息子ホリス・エサリッジ。ホリスは、父の名を付けた道路を地元に建設し、大統領候補として選挙に出馬し、各地を演説して回っている時の人である。田舎の貧民から一代で町の顔役にのし上がったレイ・バーマと一人息子のレッド・バーマ、シレル殺害の罪で死刑に処された息子レジーの無罪を信じ、公民権運動指導者となった黒人の葬儀屋デヴィッドスン・フラー。多重に重なる親子の物語であり、少女殺人事件とアール・スワガ―殺人事件に絡む謀略を解き明かすミステリであり、銃器がふんだんに出てくる銃器小説であり、ボブ・リーのかっこよさにほれぼれするヒーロー活劇である。緻密で中身の濃い物語だった。 (2012.1)


狩りのとき Time to Hunt
スティーヴン・ハンター著(1998年) 
公手成幸訳 扶桑社海外文庫(1999年)
ボブ・リー・スワガーとその相棒のスポッター、ダニー・フェンの南ベトナムでの戦いの様子が、満を持して描かれる。これまで単なる名前でしかなかったダニーが、姿が良く好感度の高い若き海兵隊員として登場し、第1作、2作を読んできた者にとっては、期待に胸躍りつつも、その行く末を知っているだけに切なさを抑えきれないという、まさに著者の思惑にずっぽりはまってしまう巻である。
しかも、それだけではない。冷戦時に仕組まれた謀略が四半世紀を経て蘇り、ボブはロシアのスナイパー、ソララトフと再び対決する。

★以下、ネタばれしまくりなので、未読の方はご注意を!!★
本書は、プロローグと4部からなるが、メインは、2部の1972年の南ベトナムの戦場におけるボブとダニーの活躍と、3部の現代におけるアイダホの山中を舞台にしたボブとソララトフとの戦いを描いた部分である。
1部では、22歳の海兵隊伍長のダニー・フェンが、ワシントンDCにある海兵隊駐屯地で任務についている様子が描かれる。
南ベトナムから帰還したダニーは、そこでそのまま除隊を迎えるはずだったが、海軍情報部の少佐ボンスンから、同僚のクローの監視を命じられたことで、運命が変わっていく。
若者たちによる反戦運動が激化しつつあり、クローは彼らに軍の情報を流しているという疑惑を抱かれていた。ダニーは、クローを通して、反戦運動グループの旗手トリッグ・カーターと知り合う。富豪の出であり、鳥類画家であるトリッグ・カーターは、重要なカギとなる人物であり、また、後にダニーがそのイメージをボブと重ねるくらい魅力的な人物として描かれている。
やがて、ボンスンは、ダニーに、クローの有罪を証言するよう強要し、拒否すれば再びベトナムに送ると脅迫する。が、ダニーは、護身のために虚偽の証言をすることができず、命令を拒む。後にボブの妻となるフェイがダニーの恋人として登場する。この一件のせいで、ダニーは再び戦場に送られ、ボブと出会うことになるのだが、同時にこの章全体が新たな物語の大きな発端にもなっているのだった。
2部は、二等軍曹のボブ・リー・スワガーと兵長に降格されたダニーが、雨の降る南ベトナムのジャングルを行くところから始まる。
基地に引き上げようとしていた二人は、カム・ドゥクという地にあるアメリカ軍の前線作戦基地“アリゾナ”が、北ベトナム軍の大軍に包囲されつつあることを無線で知る。悪天候のため、航空機による味方の救援を望めず、充分な武器も食糧もないまま、アリゾナはやがて敵の襲撃を受け全滅する運命にあった。
味方で最も近くにいたボブとダニーは、二人でジャングルと川と山を越えていく。ダニーに無線による連絡を託し、ボブは単身、基地に向かって進軍する敵兵たちを一人又一人とレミントンM40で狙撃し始める。次から次へと士官を狙撃された北ベトナム軍部隊の上級大佐フー・コは、進軍を中断し、狙撃者の抹殺を試みる。窮地に立ったボブは一時ダニーに救われるが、しかし、二人はついに敵に囲まれる。が、すんでのところで夜が明け、自軍の戦闘機が救援にやってくるのだった。
二人は、カムドゥクの戦功で名を知られるようになる。ボブは、ロシアからやってきた狙撃手(ソララトフ)が二人の様子をうかがっていることを察知しする。(狙撃場所まで延々と匍匐していったり、銃を固定するための砂嚢を運んだりと、ソララトフのプロフェッショナルぶりにもすさまじいものがある。)ボブは、DEROS(帰還予定日)を間近に控えたダニーを後方任務に就かせようと画策するが、ダニーは、それを許さない。隊をあげて、派手なソララトフ撃退作戦が展開されるが、ソララトフは戦闘機からの爆撃という絶体絶命の危機を奇跡的に逃れ、再びボブとダニーを狙うのだった。
ボブとダニーのティーム、シエラ・ブラボー・フォーのカム・ドゥクでの奮闘が圧巻である。ボブと出会い、共に戦うダニーは実に張り合いのある日々を過ごしていたと思わざるを得ない。ダニーは、これまでボブと行動を共にしてきた若者の中でももっともボブに近いまっすぐな若者で、ボブの窮地を救った際には、ボブ・ザ・ネイラーをして、“M14を持った黒と緑のだんだら顔の天使”と思わせるほどの、頼りになる相棒なのだった。2部を読むと、ダニーを失ったボブのダメージがどれほど大きいかが、より切実に伝わってくるような気がする。
3部は、それから二十数年後の話。
第2作「ブラックライト」のときには、あんなに幸せそうだったスワガー一家には、一転して暗雲が立ち込めている。マスコミの悪評のせいで一家はアリゾナの牧場を逃れ、アイダホの牧場でひっそりと暮らしていた。仕事もなく、妻の親の土地に厄介になっていることに苛立ちを覚え、戦場での心の傷もあって、ボブは危機的な精神状態にあった。
そんなある日、フェイが、何者かに狙撃され、負傷する。
彼女は、朝日を見るために景色のいい崖の上に馬でやってきたところを襲われた。渓谷を隔て、200〜300メートル離れた山の斜面に狙撃犯の痕跡がみつかるが、ボブはそれが偽装であることを見破る。犯人はもっとはるか遠い場所から、長距離狙撃を行ったこと、さらにわずかなブーツの痕跡から相手がロシア人であることを突き止める。ボブは、犯人はかつてベトナムでダニーと自分を狙撃したソララトフであると確信する。
ボブは、腰に入ったままだった古い銃弾を知りあいの獣医に摘出してもらい、その弾丸(168グレイン弾。アメリカ製。)から、相手がベトナムで使用した銃を推測する。
ソララトフは、当初使用していたソ連製の狙撃銃ドラグノフをCIAに回収されたため、その後はアメリカ製の銃を使ってボブとダニーを狙撃したらしい。が、レミントンM700のような長距離射撃向きのライフルではなく、それより使い勝手がよくないセミオートのMI−Dを使ったという結論に達する。なぜ、彼がその銃を使ったのか、ボブは狙撃手の立場から大きな疑問を抱くが、やがて、「2発」続けて撃つ必要があったのではないかということに気づく。それには精度は高いが1発撃つごとにボルトを引いて操作しなければならないボルト・アクション・ライフルではなく、引き金を引けば撃てるセミオートの銃が必要だったのだ。そしてそのことから、ベトナムでの狙撃において真のターゲットが誰であったかという、意外な事実にたどり着く。銃器から真実を探っていくボブの推理は、今回も冴えているのだった。
クライマックスは、雪に閉ざされた山小屋にいるフェイと娘のニッキーと二人の世話をしていたサリー(第1作で登場したニックの妻)を狙うソララトフとボブの対決。
ボブは、今やCIAの次官となっているボンスンと手を組み、当局の協力をとりつける。雪のためアクセス不能となった山小屋に向かうため、ボブは自らがパラシュートで降下する作戦を提案する。降下訓練も受けたし、25回降下した経験があると豪語したボブだったが、実は、降下は初めてて、機上で若い技術下士官にパラシュートの装着が逆さであることを指摘されたりする。この無名の下士官との降下の際のやりとりは、地味だが、なかなか良い感じだった。
雪山でのボブとソララトフの対決は、単純な撃ち合いではもはやなく、相手の出方を読んで裏をかく腹の探り合いとなる。銃の機能を知り尽くしたプロ同士の手に汗握る頭脳戦と言える。不利な位置にあったボブは、赤外線暗視ゴーグルを用いて敵のレーダー式距測器から発せられるレーダーの出どころをたどって相手の位置を知る。
ボブに銃撃されたソララトフは、瀕死の重傷を負いながらターゲットであるフェイを撃つためグロック拳銃を手に彼女らがいる小屋に向かう。ボブは、ソララトフが放棄したライフル(レミントンM7ミリマグナム弾使用とあるが、銃はレミントンのライフルとしか書かれていない。ファンのサイトなど見ると、レミントンM700ということらしいが)を手に、彼を追うのだった。
4部では、すべての謀略の謎が解けたと思われた後に、ボブは、さらに残されていた謎に迫り、黒幕と対決する。狙撃手とのプロ同士の対決のあと、黒幕に会うという構図は、前作でも見られたものだ。
そこここに仕組まれた偽装がボブによって暴かれていくのだが、それにしても、“最近はなんでもかんでも謀略だ”と前作で弁護士のサムが嘆いていたのが、作者自身による大いなるアイロニーにも思えてくる。他でもボブが「作家は嫌いだ」と断言するところがあって、可笑しい。
巻末に、著者ハンターによる、幾分言い訳じみた作話についてのいきさつが語られている。あまりよく調べずに、第一作でボブとダニーが撃たれた年を72年としたために、つじつま合わせに苦労したという(1972年の時点ではアメリカ兵はほぼベトナムから撤退していたらしい)。それ以外にも、二人のいた場所や状況などについては先の記述と矛盾が生じないようできる限りの手はつくしたが、それでも不整合なところがあって、そこは大目に見てねと言うことなのだが、なかなか興味深い打明け話だった。(2012.2)


悪徳の都 Hot Springs
スティーヴン・ハンター著(2000年)
公手成幸訳 扶桑社海外文庫(上・下)(2001年)
稀代の狙撃手ボブ・リー・スワガ―を主人公とするシリーズ三部作に続いて書かれた、ボブの父アールを主人公とするシリーズの第1作。
アメリカ合衆国海兵隊先任曹長として太平洋戦争を戦ったアール・スワガ―は、除隊して製材所に勤め、妻と暮らしていたが、戦争の記憶で心は荒み酒浸りの日々を送っていた。
1946年、硫黄島の戦功により名誉勲章を授与された後で、アールは2人の男に出会う。アーカンソー州ガーランド郡の新進検察官フレッド・ベッカーと、ギャングの摘発で勇名を馳せた元FBIエージェント、D・A・パーカーである。
彼らは、賭博と売春がはびこる町ホットスプリングスの浄化を目指し、戦闘能力に優れた摘発部隊の編成を計画していた。2人は、教官として隊員を育成する仕事をアールに依頼する。妻のジュニイは、身ごもったことを告げ、辞退するよう夫に頼むが、アールは仕事を引き受け、新たな戦いの中に身を投じていく。
<★以下あらすじの説明とともにねたばれあります!>
ホットスプリングスは、温泉の出る行楽地だが、ニューヨーク出のギャング、オウニー・マドックスに牛耳られ、違法である賭博と売春が公然と行われていた。1940年にホットスプリングスの操車場で列車強盗殺人事件が発生し、そのとき盗まれた40万ドルが、オウニーの資金源であるという噂が流れていたが、真相は究明されていない。
アールはD・Aとともに、若い隊員たちを訓練し強力な部隊をつくり上げていく。教官として仕事を引き受けたアールだが、オウニーの店の摘発に乗り込む段になると、自身も襲撃に加わるのだった。
話の前半は、摘発部隊育成や隊員の若者たちの様子とともに、オウニーや、彼と交わりつつ互いに警戒しあうハリウッドのギャング、バクジーことベン・シーゲル、その愛人である超セクシーな美女バージニア・ヒル、ほか町を訪れる映画界のスターたちといった実在の人物を交えてホットスプリングスの街の様子が描かれ、やがて、摘発部隊とオウニー配下の武装集団グレムリー一家とのすさまじい銃撃戦が開始される。
暴力的で直線的なここいらあたりまでの展開は、むしろ若干退屈でなくもなかったが、このあと物語は意外な方向へ転換していく。
摘発部隊は、先走りがちな隊員フレンチ―のミスで襲撃中に一般人を死なせてしまい、一時活動休止となる。
摘発部隊の隊員が休暇を与えられている間に、D・Aは、隊員の一人である刑事のカーロ・ヘンダスンにアールの調査を極秘依頼する。D・Aは、死への願望を持つように見えるアールの挙動に不安を抱いていたのだった。
ここからは、捜査官としてのカーロが、アールの過去をさぐる刑事ものミステリの様相を呈してくる。アールの父チャールズは、ポーク郡の保安官で地元の英雄だった。が、彼には隠された裏の顔があった。アールより12歳年下の弟ボブ・リーは、1940年に15歳で首つり自殺を遂げていた。カーロは、アールと父との間の暗く複雑な関係を知る。チャールズは、1942年に殺されたが、犯人は不明のままだった。
このあと、ホットスプリングスにおける闇賭博の情報の結集点、センターブックの場所が突き止められるが、ここの摘発は、遂になされない。
オウニーは、摘発部隊に対抗するためアイルランド出身の無法者ジョニー・スパニッシュと彼が率いる強力な武装強盗団を雇う。また、フレンチーは、功を焦るあまり違法行為を犯してしまいチームを解雇されるが、逆恨みをしてオウニーに情報を売る(彼は、みかけの幼さとは裏腹にかなり危険な若者であるが、アールの力量を認め尊敬もしていて、なかなか複雑な人物である)。オウニーとジョニーは、センターブックの襲撃を避けるため、1940年の列車強盗の再現という罠をしかける。摘発部隊は、この術中にはまってしまい、D・A始め、隊員の多くが命を落とす。アールとカーロの2人だけが生き残り、部隊は解散の憂き目に遭う。
以後アールの復讐劇になるのかと思いきや、状況はものすごい勢いで二転三転していく。
摘発部隊の壊滅は行きすぎた行為による自滅として処理され、ベッカーは窮地に立つ。が、オウニーを陥れようとするシーゲルの情報提供により、一気に事態は逆転、ベッカーはオウニーを逮捕し、郡の英雄となる。ところが、オウニーは、ジョニー・スパニッシュらの手引きによって、脱獄を果たし、国外逃亡を図る。(このとき、逃走中のオウニーがある武器を見せることによって、過去のある事件への関与が明かされる、その手際がまた見事である。)
一方、カーロと分かれ、家路についていたアールは、オウニーの逮捕と脱獄のことを知る。彼は、カーロがチャールズ・スワガーの捜査をしている際に気になっていたという日付の問題から推理を巡らす。1940年に起こった列車強盗殺人事件と弟の自殺、父チャールズが遺した謎の言葉、あちこちにちりばめられた伏線が一気に収束していく。
そして、「ハードバーゲン谷の決闘」となるのだが、これが実に圧巻である。(後述)
一方、夫が大変な戦いのさなかにあるときに、アールの妻は逆子の出産という、こっちもこっちで大変な状況に陥っている。だが、ものすごい銃撃戦のあとで、アールは妻の出産に駆けつけ、そこで起こっている悶着も収める。親になることに戸惑い、身重の妻をほったらかしにしていた彼だが、最後の最後は、女性読者(あまりいないと思うが)の好感度アップまちがいなしの立派な夫ぶりをみせるのである。
で、話は戻って谷の対決。
アールとジョニー・スパニッシュ一味との1対5の対決。谷間に広がる草原を舞台としたこの銃撃戦は相当いい。アールの射撃の腕を評価しつつも、トンプソン・サブマシンガンの扱いに掛けては誰にも負けないと自負する凶悪な強盗殺人犯ジョニーの人物像は強烈だ。彼を倒したアールが遂にオウニーと対決する場面が、これまたほんとにいい。
オウニーは、仲間のジョニーたちがやられてしまったことをなんとなく察知している。彼は、藪に逃げ込んだりすることなく、草原に停めた黒いフォードのステーションワゴンのフェンダーにもたれ、葉巻を吹かし、ただじっとアールを待つ。周囲の草原には、アールが放ったトレイサー(曳光弾)によって野火が広がっているが、次第に下火になりつつある。煙がたなびく中、トンプソンM1A1を手にしたアールが現れる。ぞくぞくするような男と男の対決シーンであった。(2011.7)


最も危険な場所 Pale Horse Coming
スティーヴン・ハンター(2001年)
公手成幸訳 扶桑社ミステリー(2002年)

稀代の名狙撃手ボブ・リー・スワガーの父親で元海兵隊の不屈の兵士アールの活躍を描く第2作。
1951年、州警察巡査部長のアールは、親友の元地方検事サム・ヴィンセントを救出するため、ミシシッピ州ミシシッピ川の上流にある閉ざされた町に向かう。ティーブスと呼ばれるその町には、有色人種用の刑務農場があり、刑務所所長や看守長を始めとする刑務所の職員、及び保安官とその助手らの白人たちが幅を利かせていた。黒人の囚人たちは劣悪な環境のなかで重労働を強いられ、逆らうと看守たちから手ひどい暴行を受けていた。仕事の依頼を受けて町を訪れたサムは、よそ者ということで保安官の不審を買い、不当逮捕の後拘留されていた。アールはサムを脱出させるが、代わりに自分が囚われの身となり、壮絶な拷問を受け、囚人として黒人たちの房に収監される。敵意むき出しだった黒人囚人らは、しかし、アールのあまりの頑強さに次第に軟化し、やがてアールは老人の囚人フィッシュから脱獄話を持ち掛けられる。
脱獄させてやる代わりに2つ約束をしてほしいとフィッシュは言う。1つ目は、自分の代わりに町で中国人娼婦2人と楽しむこと、2つ目はそのあとティーブスのことはきれいさっぱり忘れるということだった。アールは、どちらも果たせないと、あっさり断る。自分には妻がいるから不貞は働けないし、ティーブスの惨状をこのまま見過ごすわけにはいかないから、必ず戻ってきてティーブスを牛耳る白人たちをやっつけ、黒人たちを自由にすると宣言する。フィッシュは、感激して「青白い馬に乗った騎士がくる」とつぶやく。原題にある”Pale Horse”である。(ちなみに聖書のこの句は、クリント・イーストウッドの西部劇「ペイル・ライダー」のタイトルにも関わる。)
命がけの脱出を果たして家に帰ったアールは、サムと再会しサムの依頼人で弁護士のトゥルーグッドに会った後、銃の名手らを集めたチームを編成し、ティーブスに殴り込みをかける。このとき集めた6人の男たちにはいろいろモデルとなる実在の人物がいるようなのだが、往年の西部劇スターであるオーディー・マーフィーが加わっているのには驚いた。彼は、第二次世界大戦時に出征して武勲を挙げたことでも知られるが、小柄で童顔、でも銃さばきは素晴らしく、ここでも大活躍するのだった。
ティーブスでは軍による極秘の研究が行われていることや、洒落もののインテリだと思っていたトゥルーグッドの意外な過去が明かされるが、アールはそんなことはあまりお構いなしに、悪い奴らをやっつけまくるのだった。(2016.12)


四十七人目の男  47th Samurai
スティーヴン・ハンター著(2007年)
公手成幸訳 扶桑社海外文庫(上・下)(2008年)
ボブ・リー・スワガー・シリーズ再開第一弾は、なんと、日本を舞台とした敵討ちチャンバラ活劇となっている。その荒唐無稽さがタランティーノの映画「キル・ビル」を思い出させる。
★以下、ネタばれがあるので、未読の方はご注意を!!★
ボブ・リー・スワガーの父アール・スワガーは、第二次大戦時に硫黄島で一人の日本人将校と対決していた。
ある日、その日本人将校の息子フィリップ矢野が、ボブのもとを訪れ、父の刀を探して欲しいと依頼する。ボブはアールの足跡をたどり、矢野の父が所持していた日本刀が、アールのかつての指揮官のもとにあることを突き止める。刀を見つけ出したボブは、矢野に直接手渡すため、日本を訪れる。
戦時中に軍刀として改造されたその刀は、実はとてつもないいわれを持つ名刀、なんと元禄15年(1702年)の赤穂浪士討入りの際に大石内蔵助が吉良を討ったその刀である可能性が大なのだった。このお宝をねらう何者かによって、矢野家は襲撃を受け、幼い末娘のミコを遺した家族4人が惨殺される。ボブは、にわか仕込みの剣術を頼りに、近藤勇と名乗る剣士をリーダーとするサムライ集団「新撰組」と対決する。退役自衛官である矢野には、彼を慕う部下の自衛官たちがいた。彼らと、ボブに協力するCIAのキャリア職員スーザン・オカダと彼女を護衛する韓国の狙撃手らを交え、締めて四十七人となった一隊が、ミコを人質に取った敵の本拠地に殴り込みをかける。最後のボブと近藤の対決の場は、清澄庭園、しかも雪まで降っているという凝りようで、忠臣蔵かぶれまくりの設定となっている。
太平洋戦争時の硫黄島の日本兵や現在の右翼団体の団員ほか、日本男子がやたら「サムライ!」「サムライ!」と口にするのは、耳障りで神経を逆撫でされる思いがする。が、しかし、日本刀の魅力(というか魔力か)に取り憑かれたアメリカの冒険小説家が、自作の人気シリーズを利用し、よりによってその再会第一作で、主人公である稀代の名狙撃手に一切銃を持たせることなく、文字通り付け焼き刃の剣術でもって斬った張ったの限りを尽くさせる、捨て身とも思えるこの姿勢には、どうも好感を抱いてしまうのだった。
「狩りのとき」ですでに著者のハンターは、このシリーズにおける辻褄の合わなさについて謝罪しているが、今回も巻末の謝辞で同じようなことを述べている。アールと日本人将校が硫黄島で出会っていたというエピソードがあり、そのことをアールが親友の弁護士サムに語っていたのを幼いボブが耳にしていたという、とってつけたような話になっているが、後付けの設定もこれだけ堂々とやられると清々しいというものだ。 (2012.4)

黄昏の狙撃手
Night of Thunder
スティーヴン・ハンター著(2008年)
公手成幸訳 扶桑社海外文庫(上・下)(2009年)
アメリカ最大のモータースポーツ、NASCAR(ナスカー)スプリントカップ・カーレースを間近にひかえ、沸き立つテネシー州の町ブリストルを舞台に、60歳を過ぎたボブ・リー・スワガ―が、愛娘ニッキの命を狙う悪の一味と対決する。
ブリストルの新聞社で若手女性記者となったニッキは、地元に蔓延する薬物メタンフェタミン密造に関する取材を終えて山道を車で帰宅中に、車を使った殺人を技とする殺し屋ブラザー・リチャードに襲われる。ニッキは冷静な判断力と卓越した運転技術で攻撃を交わし相手を手こずらせるが、車は茂みに突っ込んで木に激突し、彼女は意識不明の状態に陥る。
知らせを訊いたボブは、ブリストルを訪れ、捜査を担当するテネシー州ジョンソン郡保安局のセルマ・フィールディング刑事に会う。セルマは、ベテランで頼りになりそうな颯爽とした女刑事だが、町を挙げての大イベントであるカーレースを目前に控え、ニッキの捜査が優先されるとは思えない状況にあるとボブは判断した。彼は、平凡な老いた父親を装いつつ、独自の調査を開始する。
相手は、ナスカー会場で大規模の強奪を企むグラムリー一家と彼らに運転手として雇われたブラザー・リチャード。バプティスト派協会の牧師オールトン・グラムリーが率いる犯罪集団一族は、かつてアール・スワガーがホット・スプリングスで対決したグラムリー一家の末裔である。
カーレースという派手な舞台を背景に、ボブが娘を殺そうとした敵を追うというシンプルな構成はわかりやすい。ニッキが書き残した番号の謎追いや、メタンフェタミン密造に関わる意外な犯人、さわやかなエース・ドライバー、マットとブラザー・リチャードの意外な関係など、ミステリとしての味も適度に効いている。コンビニで働くうらぶれた若者テリーを励ました後で便宜上ヒーローに成り代わってもらったり、警官の前で普通のおじいさんを装いつつもすぐにただ者でないことを見抜かれたりといった場面もあって、楽しい。
今回ボブが手にするのは、6.8ミリ口径のDPMSライフルとM1911キンバー。グラムリー一家が現金輸送車強奪のために用意したのは、対装甲車仕様のバレットM107五○口径ライフル。
テリーがクリント・イーストウッドの名を口にしたり、ブラザー・リチャードが映画「ワイルドバンチ」の有名なやりとり(”Let’s go.””why not?” ただし翻訳の「行けばいいじゃないか?」は、映画のシチュエーションを全く踏まえておらず、どうにもいただけない)を引用したりと、著者の映画好きな一面が窺える。(2012.5)


蘇えるスナイパー I, Sniper (2009)
スティーヴン・ハンター著(2009年)
公手成幸訳 扶桑社海外文庫(上・下)(2010年)
ベトナム戦争時代に反戦運動家として知られた4人の男女が、狙撃されて殺されるという事件が起こる。犯人として浮上したのは、元海兵隊の狙撃兵カール・ヒッチコック。彼は、モーテルの一室で自殺死体となって発見される。自殺に用いたライフルは犯行に使われたものであり、彼の自宅に多数残されていた犯行につながる証拠や、家族に先立たれアルコールに溺れていたという境遇などから、犯人は彼であると断定されつつあった。が、FBI捜査官のニック・メンフィスは、旧知の元海兵隊狙撃手ボブ・リー・スワガーを呼び、プロの目からの検証を依頼する。スワガーは、狙撃がかなり高い精度で行われていて、カールが持っていたライフルとスコープでは不可能であるという結論に達する。狙撃は、最新の電子技術を駆使したスコープでなければ不可能なものだった。
被害者の一人である女優ジョーン・フランダースの夫で大企業主のトム・コンスタブルは、妻の死が世間で取り沙汰されるのを嫌い、早期の事件解決を求め、FBIに圧力をかけてくる。が、スワガ―の助言を重視したニックは、再調査に乗り出す。
スワガ―は、ニックの手配により、超小型コンピュータ内臓のハイテク・スコープ <iSniper911>の実地講習会に参加する。
コンスタブルの配下にあるロビイスト、ビル・フェダーズは、新聞記者を使って、ニック叩きを始める。
スワガ―は、2人目と3人目の被害者である元ヴェトナム反戦活動家のジャック・ストロングとミツィ・ラリー夫妻殺害事件があったシカゴに赴き、元海兵隊員の刑事デニス・ワシントンに接触して、独自の捜査を開始する。
スワガ―は、60歳を過ぎたせいか、けっこうぼやくようになったが、そうした彼をいかにして、戦いの場に立たせるか、今回も悪役の方がずっと大変と思わせる邪魔者排除の陰謀が企てられ、ニックが窮地に立たされ、スワガ―は銃を手にとらざるを得なくなるという、本シリーズならではの骨組みがてきぱきと組まれ、ヒーロー活躍の舞台が整えられていく。
実地講習会でベテランの狙撃の腕前を披露し、シカゴでは敵の急襲に対して即座に反撃し、囚われて拷問を受けるがそこから脱出し、最新狙撃システムiSniper911を装備したアイリッシュの狙撃チームと草原で対決し、最後に黒幕とカウボーイ・アクション・シュートと呼ばれる早撃ち大会会場で、西部劇さながらの決闘をする。スワガ―の見せ場はたっぷりである。
アイリッシュ・チームのリーダー、アントとの対決は、風が凪ぐ地点を利用するのがいい。「狙撃手は風を読む」という幾分詩的なフレーズが頭に浮かんできたりする。
スワガーの銃は、デニスが所持していたシグ229とコルト380ポケットオートマティック1908と、レミントン700センデロで装備品は“レティクルにビルドインされた旧式なミルドット測距システムのリューッポルドマークWの4〜15倍スコープ”(装備品に関してはよくわからないが、とりあえずそのまま書いておく)。最後の早撃ち大会での対決では、敵もスワガーもコルトSAAでの決闘となる。スワガーは、抜き撃ちで敵の手を砕いて拳銃を撥ね飛ばしてみせるのだった。(コルトSAAは、西部劇でおなじみのリボルバー。この銃について「サム・コルトの驚異の設計になるその銃は、それを形成するすべてのラインがむらなく、なめらかで、調和がとれており、その流麗さと堅固さは比類がない。」と賞賛している。)
ニックがどんどん追い詰められ、苦境に立ったと思わせておいてのどんでん返しも痛快である。写真が合成か否かという科学的検証よりも、レミントンVTR700とFNのPSRの判別をできた方が勝ち、という、銃器マニアにはさぞかし胸のすく展開だったろうと思われる。(2012.10)

BRASS:狙撃手の“マントラ”として文中に出てくる。 Breath(呼吸)、Relax(弛緩)、Aim(照準)、Slack(脱力)、Squeeze(引き金を絞る)。

デッド・ゼロ 一撃必殺 DEAD ZERO
スティーヴン・ハンター著(2010年)、 公手成幸訳、 扶桑社文庫
「斬首屋」の異名を持つアフガニスタンの大物黒幕ザルジを暗殺せよという密命を受けた海兵隊の狙撃手レイ・クルーズはスポッターのビリー・スケルトンとコードネーム「ウィスキー2-2」というチームを組み、地元民の山羊追いを装って砂漠を徒歩で行き、アフガンの町カラートに潜入、邸を出るザルジを狙撃する計画の実行に入る。が、砂漠で正体不明の傭兵部隊に攻撃を受け、スケルトンは殺され、クルーズ一人が逃れる。単独でカラートに入り、狙撃地点となるホテルに到着したクルーズだったが、謎の大爆撃が起こり、行方不明となる。
その後、ザルジは転向し、アメリカのよき協力者となる。アメリカ政府はザルジを国賓としてワシントンに招待する。が、死んだと思われていたクルーズからザルジ暗殺の任務を遂行するという通信が海兵隊に入る。FBIとCIAは、クルーズを阻止するため、合同チームを結成、FBIからは副長官となっいてるニック・メンフィスが、CIAからはスーザン・オカダがチームに加わり、彼らはボブ・リー・スワガーに協力を要請する。
任務を果たすため、孤独な戦いを続けるクルーズ。
政府側に立ちながらも、狙撃手ならではの観点から独自にクルーズの行方を探るボブ。
謎の大物マクガイヴァーの指令により、クルーズを追うミック・ボギアーとその仲間の傭兵たち。
そして、メキシコから国境を越えてアメリカに侵入する、中東の奇妙な3人組、ヤバそうな運転手のビラルと、喧嘩ばかりしている二人のインテリ老人ハリド教授とファイサル博士の道中がところどころにさしはさまれる。
今回は、ボブは年の功にものを言わせ、クルーズの居所を推し量ったり、オカダと出かけた空軍基地でのやりとりから隠された真実を探ったり、傷ついた若き元兵士をなぐさめたりと、ソフト面での活躍が中心で、狙撃はしない。
アクションはクルーズが一手に引き受ける。砂漠の襲撃。カラートへの侵入。SSでのミックらの急襲に対する見事な迎撃。ザルジ狙撃予想地点では、清掃車を乗っ取り(これはボブに気づかれ未遂となる)、大学での狙撃では自分の役を演じておとりとなり、ザルジの真の狙い発覚後には狙撃手となるなどなど(最後のミックとの対決は、ミックの散り方がかっこよすぎて、ちょっとかすんでしまったが)。
クルーズの銃は、USSRドラグノフSVD(中国製コピー品)、H-Sプレシジョン308口径ライフル(レミントン700の作動機構をベースにH-Sのカスタムショップで改造されたもの)、ベレッタM92、グロック19。
ミックが持つのは、バレット50口径M107(M82の発展型)50口径セミオートライフル、サコーTRG-42、H&KMP5、ベレッタM92、シグザウエルP226。
(例によってよくわからないけど、とりあえずそのまま書いておく。)
だが、今回は、銃器だけでなはく、軍のハイテク兵器が紹介される。空対地レーザー誘導ミサイル「ヘルファイア」、航空機搭載型の精密誘導爆弾「ペイブウェイU」。また、ミックは、中東の人工衛星スラーヤを使った「スラーヤ衛星電話」により、マクガイヴァーから指令を受ける。
軍基地の一室で、若いオペレーターたちがコンソールの前に座り、テレビ画面を見てジョイスティックとレバーを操作をしながら、敵を監視し攻撃するシステムの説明部分を読んで、最近の戦争はこんなふうに行われるのかと思った。カラートにペイブウェイUを撃ち込んだのは、ドンブロフスキーという女性オペレーターだった。彼女は、緊急の場合は手続きを経ずに攻撃を発令できる権限を持つ上層部の「誰か」の指令により爆撃をしたのだが、手違いによって31名の命を奪ったことで心に傷を負い、その直後に軍を退いてひっそりと暮らしていた。ボブはそんな彼女を気遣う。
追うボブと追われるクルーズ、対立状態での二人の何回かに渡る接触はどきどきする。明かされる意外な真実は、びっくりというよりは唖然という感じ。が、やはり、このシリーズにおけるヒーローのバトンタッチは、親から倅へと受け継がれなければならないのだろう。そのためには多少の無理はいとわない。後付け職人ハンターにますます好感を抱いてしまうのだった。
訳について。誰かの提案などを否定するときに「ネガティブ」と答えるのは何かおかしかったが、ミックの陣営の状況説明でいやな展開に対しいちいち差し挟まれる言葉は英語ではなんと書かれているのだろう、「うざかった」という訳語はあまりよくないと思った。(2013.2)


ソフト・ターゲット Soft Target
スティーヴン・ハンター著(2011年)
公手成幸訳 扶桑社海外文庫(上・下)(2012年)
ミネソタ州郊外にある巨大なショッピングモール「アメリカ・ザ・モール(AtM)」。
その日、クリスマスを間近に控え、買い物客でごった返すモールには、海兵隊退役一等軍曹レイ・クルーズが、フィアンセのモリーと買い物に訪れていた。
モールは、突如、武装した男たちの襲撃を受ける。中央の吹き抜けの遊園地広場で、サンタクロースに扮した男が最初の銃弾に倒れる。続いて、大殺戮が始まり、場内はパニックに陥る。やがて、犯人らは、場内の客たちを追いたて、中央広場に集める。その中には、モリーの母親と妹がいた。
一千人に登る人々を人質にした12人の男たちは、シュマーグ(アラブ風スカーフ)を首にまき、カラシニコフを手にしたソマリア人だった。
FBIミネソタ支局の特別捜査官ケンプは、イスラム教徒過激派のテロ行為と判断し、指揮を取ろうとするが、地元ミネソタ州警察本部長のオボボは、テロと断定するのは尚早ということを理由に指揮権を渡すことを拒む。マスコミの寵児であるオボボは、武力を嫌い、交渉による平和的解決を主張する。
襲撃直後、モールのセキュリティ・システムは乗っ取られ、モールの外との連絡手段は携帯電話だけとなった。
モリーにつきあって上階の下着売り場にいたレイは、居合わせた女たちを落ち着かせ、独りで様子を見に出る。レイは、保育施設を襲った一味の仲間の男を倒して銃を奪うが、広場の様子を窺った際に犯人と間違われ、屋上に降下し待機しているFBIのスナイパー、マケルロイの攻撃を受ける。レイはFBT本部にいるニック・メンフィスに携帯電話(iphoneだ)で連絡をとり、ニックの仲介でマケルロイの誤解を解く。二人は連携して、単独で行動している敵の人員を狙撃し始める。
FBI本部では、ギーク(鑑識課心理分析ユニット)が犯人の割り出しを急ぐ一方、コンピュータ技術者の捜査官ジェフリー・ニールが、犯人に乗っ取られたモールのセキュリティ・システムに侵入しようと必死の試みを続ける。
オボボは、民間人顧問のレンフロとともに平和的解決を試み、ケンプや、部下であるSWAT指揮官のジェファーソン警視のいざというときの武力行使による作戦計画案を退ける。
モール上空では、テレビ局のレポーターとなったボブ・リー・スワガーの娘ニッキがベテラン操縦士の駆るヘリコプターから状況を見守っている。
犯人たちは、午後5時に5人の人質を処刑し、その後オボボに電話で要求をしてくる。銀行強盗の罪で収監されている3人のソマリア人の釈放が、人質解放の条件だった。
兵士たちのリーダーはイスラム教指導者のソマリア人ネディファ・アバだが、彼に犯行を持ちかけた真の首謀者は、20代の白人の若者アンドルー・ニックスだった。彼は、上階にあるゲームショップ店舗の一室で全ての状況を監視していた。
それぞれのパートにつく人々が、それぞれの仕事をこなす様子が、かわるがわる描かれていく。
途中で場面が切り替わるのは、サスペンスを盛り上げる手段なんだろうが、例えばオボボのこれまでの経歴や彼の考え方などの説明や、時間を戻して銃器点で着々と準備を進めるアンドルーの様子などが描かれ、それらがけっこういろいろあっていちいちそれなりに長くて、じれったく感じないでもない。
天才的な頭脳を持つハッカーでゲームマニアのアンドルーとレイとの最後の対決は読みごたえがあるが、ばらばらに描かれていた人々が最後に大結集という感じにはならなかった。ストレートでわかりやすい話だが、細部はあまり練られていないように思った。もうちょっと時間をかけて、びしばしはまっていくものがあったら、もっと盛り上がったのではと思う。
レイが使った銃は、ソマリア人から奪ったAK74ベイビー・カラシニコフとヘッケラー&コッホ(H&K)P7。(2013.4)



第三の銃弾  The Third Bullet
スティーブン・ハンター著(2013年)
公手成幸訳 扶桑社ミステリー 文庫上・下(2013年)
 
★ネタばれあり!!!★
1963年11月22日、テキサス州ダラスにおいてパレード中のアメリカ大統領ジョン・F・ケネディが暗殺された。狙撃犯として逮捕されたリー・ハーヴェイ・オズワルドは、その2日後、護送中にナイトクラブ経営者ジャック・ルビーによって射殺される。
ボブ・リー・スワガーが、FBI臨時潜入捜査官となって、50年前の大統領暗殺事件の謎を追う。

とっかかりは、あるエレベーター作業員のオーヴァーコートについての古い記憶である。
オズワルドは、大統領らを乗せたオープンカーが、ヒューストン・ストリートから鋭角のカーブを曲がってエルム・ストリートに入った直後、その角にあるテキサス教科書倉庫ビル6階の窓から銃弾を3発撃ったとされている。
コートは、1970年代の半ば、ヒューストン通りをはさんで向かいにあるダル・テックス・ビルのエレベーターのエンジン・ルームで作業員によって発見された。棚の奥に押しやられていたコートには、異臭を放つ銃器専用の科学洗浄剤のシミがついていた。作業員の古い記憶は巡り巡って、40年後の今になって銃器にくわしい冒険小説家アプタプトンに伝わり、それがきっかけとなってJFK暗殺の謎に迫った彼はひき逃げ事故で命を落とし、彼の死に疑問を抱いた妻ジーンがスワガーにアドバイスを求めた、という次第である。
スワガーは、コートに自転車の車輪に轢かれたような跡がついていたそうだというジーンの言葉に反応し、調査に乗り出す。
(ちなみに、アプタプトンは酔って「銃による殺しを控えるべきだと考えて、大馬力の自動車を武器に選ぶことにしたのだ。けれども、それを大歓迎した読者はひとりもいなかった。別の本では刀を登場させたが、それもまた、おおいに悔やまれる結果になっただけだった。自分の専門は銃であり、銃にこだわったときに最善の本が書けるのだ。」とぼやいているが、これはハンター自作のスワガーシリーズ「黄昏の狙撃手」と「四十七人目の男」のことを言っていて、楽屋落ちが可笑しかった。しかし、車を使った暗殺者は気に入っているようで、本作にも登場するのだ。)

スワガーは、ダラスに飛び、現在は名所となっている教科書倉庫ビル6階の「オズワルドの窓」から現場検証を行い、オズワルドの狙撃に疑問を抱く。
狙撃には絶好の機会であった車がカーブを曲がる瞬間に狙撃せず、曲がり切った直後に発した1発目は外れ、2発目は大統領の首の下に当たって身体を貫通し、前に座っていたコナリー州知事の上半身を貫通して大腿部で停止する(「魔法の銃弾」と呼ばれているらしい)。大統領の頭部に命中したのは3発目。狙撃の難易度は回を追うごとに増していくのに、精度は上がっていったことになり、スワガーは大きな違和感を覚える。
さらにオズワルドが用いたライフルは、スワガーによれば「兎を撃つのが関の山」という小口径のイタリア製ライフル、マンリヒャー−カルカノM38で、しかも安っぽいスコープがぞんざいにつけられていたことにも納得がいかない。
狙撃手の立場から銃撃に疑問を抱くという、いつものスワガーの推理は今回も冴えている。

が、後半に入るとスワガーが謎を追う展開は一転、暗殺を企てた当事者ヒュー・ミーチャムの手記が介入し、スワガーの動きと犯人の独白が交互に描かれる構成となる。
ミーチャムも車いすの狙撃手ロン・スコットも「極大射程」に出てきたキャラクターで、ロンのことはさすがに覚えていたが、黒幕ヒュー・ミーチャムのことは全く記憶になかった。
ミーチャムの手記は、裏工作を仕事としてきた男によって大統領暗殺の経緯が語られるという興味深い内容で、狙撃の前後の様子や、くだんのオーヴァーコートにロンの車いすの車輪の跡がつくいきさつは読んでいてどきどきする。ロンは、一流のハンターでありフットボールチームのヒーローであり身体能力にすぐれた有望な若者だったが、暴発事故によって車いすの身の上となり、それでもベンチレスト射撃競技の射撃手として生きてきた。その彼が影の大統領狙撃犯となっていく様には胸が痛む。が、それにしてもこの手記は、微に入りすぎていて長すぎると感じた。
スワガーは、ヒントを得ようとして、ミーチャムの知り合いだった元CIA職員ガードナー(故人)の家を訪ねる。ガードナーの息子との会話でナボコフの「ロリータ」の話題が出てきたのにはびっくりしたが、ナボコフも有していたという「共感覚」(ある数字や文字を目にすると色が見えるという特殊感覚)に絡む暗号解読は、引っ張る割にはあまりすっきりしない。

車を武器とするロシア人の殺し屋ドライバーへの反撃や、モスクワに出向いたスワガーとロシア人スナイパー、ストロンスキーが出くわす現地マフィアの襲撃者たちとの銃撃戦など、みどころは要所要所にさしはさまれるし、最後のクライマックスの銃撃戦も派手で豪快だが、しかし、スワガー一人にここまでやらなきゃならない悪役は本当にたいへんだと、今回も思った。

JFK暗殺の謎は、後付けの名人(褒め言葉です)ハンターにとって格好の題材と言える。
銃撃についての謎とともに、オズワルドの犯行後の行為の不自然な部分、狙撃後、彼が「巣」と呼ばれる狙撃場所から離れたところに再度装填した銃を置いていったのはなぜか、犯行後わざわざ自宅へ戻ったのはなぜか、彼を呼び止めたJ・D・ティピット巡査を撃った際、すぐ逃走せずにわざわざとどめを撃ったのはなぜか、と言った疑問にも、スワガーは答えを出していく。
そして、パレードのルートは3日前まで知らされなかったのにいかにして対応したかという最大の疑問に対しては、他の暗殺計画が進められていて、直前になって標的を変えたという経緯が示される。
アメリカ歴史上の大事件ともなると、著者の気合いの入れ方が違うようで、読みごたえがあるが、事件の資料などを元にしたスワガーの解析はかなり細かく、なかなかすらすらとは読み進めないのだった。

やがて明かされていく「真相」に「リバティ・バランスを射った男」じゃないか!と思っていたら、ロン自身が映画のタイトルを口にしたので、それはちょっとうれしいとともに、でもわかる人だけわかるようにしておいてほしかったような思いがしないでもなかった。

今回、スワガーが用いる銃は、38スーパー、GSh−18、クリンク(以上は拳銃)、トンプソンM1A1(ボブの父アールも使用)。対戦相手のブルーチームが持つのはMK48、LWRCのM6ICライフル、ウィルソンCQB45口径ACP拳銃。ストロンスキーは、GSh−18(拳銃)、ロシアでミーチャムを狙ったのはKSVKライフル。ロンがJFK暗殺に使ったのはウィンチェスターM70(オズワルドの発砲ではないことがばれないように、弾丸に工夫をしてある)。(2014.6)
関連映画:「リバティ・バランスを射った男」。1962年のアメリカ映画。ジョン・フォード監督、ジョン・ウェイン、ジェームズ・スチュワート出演の西部劇。


スナイパーの誇り Sniper’s Honor
スティーヴン・ハンター著(2014)
公手成幸訳 扶桑社ミステリー文庫(上・下)(2015)

★ネタバレあり!


第二次世界大戦中、ソ連赤軍に「白い魔女」と呼ばれる女狙撃手がいた。リュドミラ(ミリ)・ペトロワというその名は、しかし、1944年7月以降、ふっつりと記録から消えてなくなる。モスクワ滞在のジャーナリスト、キャシーから相談を受けたボブ・リー・スワガーは、モスクワに飛び、70年前に謎の失踪を遂げた美貌の女狙撃手の消息を追う。
二人は古い記録を辿り、ミリが、ソ連共産党の高官、スターリンの右腕と言われたクルロフの指令により、1944年7月、ウクライナにいたナチス親衛隊上級指導者グレドゥルの暗殺という特殊任務についていたことを突き止める。
現代と過去のできごとが同時進行する作劇法は、著者お得意のものであるが、今回は、ボブとキャシーが登場する現代部分はだいぶ薄く、おもにウクライナでのソ連赤軍の進軍とそれによるドイツ軍撤退を巡る戦闘が中心となっている。それぞれの時代において複数の立場から場面が描かれるので、込み入っている。
1944年のウクライナでは、クルロフからグレドゥル暗殺の指令を受けたミリが、パルチザンのメンバーと行動を共にし、ドイツ軍の襲撃を受けて山中に身を隠しつつも任務を果たそうとする様子と、ドイツ軍側ではグレドゥルと警察大隊の隊長であるムスリムの大尉サリドと、さらに別働隊のドイツ軍降下猟兵師団を率いるフォン・ドゥレールのそれぞれの戦場での役割と戦いぶりが示され、やがてソ連軍内に独軍のスパイがいることが判明し、ミリに魔の手が伸びる。
現代では、ミリの消息を追うボブとキャシーが正体不明の敵に襲われる話に、イスラエルの諜報機関モサド職員のガーション・ゴールドがある企業の不可思議な動きを追うエピソードがさしはさまれ、さらに途中からキャシーの依頼により別行動でデータを探す夫のウィルの話も加わってくる。
前半は、絶世の美女の狙撃手にボブもソ連軍もドイツ軍もいろめきたつ設定にいまいち乗れず、グレドゥルやサリドの説明部分やどうつながるかわからないゴールド部分の挿入もあって、読み進むのに手こずった。後半になると、ミリの狙撃場面まで、一気に盛り上がっていく。
1944年の戦場では、敵味方、ユニークな人物が入り乱れる。グレドゥルとサリドが憎むべき敵軍であるのに対し、ドゥレールの師団は最初からプロの仕事をする好漢揃いに描かれていて、ドイツ人というよりアメリカ人ぽい。ミリと行動をともにする「先生(教師)」と呼ばれるパルチザンのメンバーがまた謎めいていて、最後に意外な正体を明かす。
ボブの捜査においては70年前に発砲された弾丸の薬莢が川底で見つかったり、ミリの狙撃場面を描いた絵皿があったり、また武器をなくしたミリがイギリス軍が隠し置いた銃エンフィールドNo.4(T)をみつけるなど、都合のよすぎる展開が多々みられるし、ドゥレールとミリの行く末もちょっと何だかなという感じがしないでもないが、そこはつじつま合わせの名人の腕の見せどころと思うことにする。
射程距離500メートルのモシン・ナガン91というライフルを所持していたはずのミリがなぜ1000メートル先の標的を撃てたのか。ボブは、ここでも狙撃手としての経験を生かし、ライフルの射程距離から真相を突き止めていく。
ミリが、1947年7月に実際にあったクルスクの戦いを思い出すシーンがある。すさまじい戦車戦の描写は、かなり強烈だった。(2015.6)

Gマン 宿命の銃弾 G−Man
スティーヴン・ハンター著(2017)
公手成幸訳 
扶桑社ミステリー文庫(上・下)(2017)

1934年における、ボブ・リー・スワガーの祖父チャールズ・スワガーの知られざる行動と、現代においてその真相を追うボブの姿を描く。
1934年と言えば、ジョン・デリンジャー、ベビー・フェイス・ネルソンことレス(レスター)・ギリス、ホーマー・ヴァン・ミーター、プリティ・ボーイことチャーリー(チャールズ)・フロイドといった、ギャングが跋扈した時代。彼らは、パブリック・エネミーと呼ばれ、銀行襲撃などの一連の事件を起こした犯人一味として畏れられながらも、義賊として人々の人気も得ていた。特に、ジョン・デリンジャーは、本作でも終始好漢として描かれている。
彼らを捕まえようと躍起になっていたのが、FBIの前身である司法省捜査局。
物語は、ボブの所有する土地から造成工事の際に古い司法局のバッジと拳銃(コルト45)、千ドル紙幣、謎の地図が発見されたことから始まる。ボブは、ポーク郡の保安官だった祖父チャールズが、一時捜査局に協力してデリンジャー一味を追う任務についていたのではないかと考え、ニックの協力を得て、古い記録をたどり始める。
チャールズは、ガンマンとして卓越した腕を買われ、捜査局に呼ばれ、デリンジャー一味を一掃するべく動き出したチームに加わっていた。
話は、現代のボブ、1934年のチャールズ、1934年のギャングたち(特にレス)に焦点を当て、3者の様子を交互に語っていく。
過去と現代が交錯する語り口は、これまでのハンターの作品にも多く見られたものであり、なかなか興味深い手法だが、今回はいささか新鮮味が薄れてしまった。
また、著者はよほど気に入っているのか、「第三の銃弾」で用いた、「リバティ・バランスを射った男」ネタを、“ベビー・フェイスを射った男”にも適用している。伝説となったのは、死んだ捜査官、真の射手はチャールズである。
しかし、チャールズの人となりについては、ボブの父アールを主役に据えた「悪徳の都」での記憶があるため、印象があまりよくない。本作では、ガンの使い手として優れた技量を持ち、度胸がありストイックな性格の持ち主として持ち上げられているが、どうにも彼に感情移入することができなかった。
また、銃の説明がやたら多く、銃器に興味のある人にはたいへんありがたいのだろうが、そこまでではないので、いささか退屈だった。
無法者たちの描写はなかなかおもしろい。デリンジャーとホーマーは、人好きのするできた男、どうにも使えないプリティボーイ、そして暴力的で感情の起伏の激しい危ない男ベビーフェイスことレス。自分とウマが合わず、口を開けば殺してやるというほど嫌っていた仲間のホーマーについて、彼の死後、彼に命を救われたことを実は認めていて、彼の死を惜しむ言葉を口にするあたりは、やはりぐっときてしまう。
現代においてボブを襲う二人組もまた老英雄にたいする敬意を表するなど、彼らなりの男気があってよかった。(2017.8)


スワガー・シリーズ作品一覧
 ※邦題の後の年代は日本訳出版年
<ボブ・リー・スワガー・シリーズ 最初の三部作+番外編>
☆極大射程(1998)  Point of Impact (1993)
・ボブ・リー・スワガー三部作の第1作
☆ダーティホワイトボーイズ(1997) Dirty White Boys (1994)
・シリーズの番外編的な作品
☆ブラックライト(1998) Black Light (1996)
・ボブ・リー・スワガー三部作の第2作
☆狩りのとき(1999) Time to Hunt (1998)
・ボブ・リー・スワガー三部作の完結編
<アール・スワガー・シリーズ>
☆悪徳の都(2001)  Hot Springs (2000)
・アール・スワガー・シリーズの第1作
☆最も危険な場所(2002)  Pale Horse Coming (2001)
・アール・スワガー・シリーズの第2作
☆ハバナの男たち(2004)  Havana (2003)
・アール・スワガー・シリーズの第3作
<ボブ・リー・スワガー・シリーズ 再開>
☆四十七人目の男(2008)  47th Samurai (2007)
☆黄昏の狙撃手(2009)  Night of Thunder (2008)
☆蘇えるスナイパー(2010)  I, Sniper (2009)
☆デッド・ゼロ(2011) Dead Zero(2010)
☆第三の銃弾(2013) The Third Bullet(2013)
☆Gマン 宿命の銃弾(2017) G−Man
<レイ・クルーズ>
☆ソフト・ターゲット(2012) Soft Target(2011)

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